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Ⅴ 第5の審判
chapter 18 第5の審判 -6
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6 9月16日 Duty
唖然として硬直している陽太たちの背後では、五十嵐アキラと東佐紀が無表情で立っていた。
陽太の頬を一滴の汗が流れた。
「そんな……どうして? ……何故だ! 五十嵐も東さんも死んだはず……!」
霧島は確かに感じている動揺を隠しながらも震えた声で呟いた。
「神谷君。僕たちは……五十嵐アキラと東佐紀が死ぬ瞬間を確かにこの目で見たか?」
「え……?」
「『死ぬ瞬間』を、だ」
陽太と桜は自らの記憶を反芻させ愕然とした。
第1の審判にて。
五十嵐アキラが東佐紀によって裁かれ、教室を抜け出していった。
そして、階段で転落し床に顔を削られるようにして死亡、したはずだった。
陽太と桜、また金城とミキが廊下で静間とすれ違い、誘導されるように五十嵐の死亡した現場へと向かっていった。
そこで、五十嵐の死体を見つけたのだ。
だが、陽太たちは自身で五十嵐の死亡を確認してはいない。
五十嵐の生死を確認したのは静間である。
そうだ。
陽太たちは、五十嵐の死ぬ瞬間を見てはいない。
第2の審判にて。
学校を休んでいた東佐紀が裁かれ死亡したはずだった。
だが、こちらのほうは五十嵐よりももっと簡単である。
陽太たちは電話でしか、東佐紀の死亡を確認してはいないからである。
どんなふうにでも偽装できる。
つまり、五十嵐アキラと東佐紀だけは、確かに陽太たちが死ぬ瞬間を見てはいなかったのだ。
「お前たちは本当に無様だ」
背後から静間の冷たい声が響いた。
「おい……嘘だろ! 五十嵐! 東さん! お前ら、最初から『審判』のこと知ってたのかよ!」
恐怖を振り払うかのように陽太は叫んだ。
「……」
「……」
五十嵐も東佐紀も何も答えなかった。静間が鼻で笑いいった。
「正義のヒーローぶってるやつが聞いてるわよ。答えてあげなさい」
その一言のあと五十嵐がゆっくりと口を開いた。
「ああ、勿論だ」
陽太の背に脂汗が滲んだ。
「我々はお前たちに鮮明なスクールカーストを作り出すために3年1組、いやこの宵崎高校に入学した。そして以前から調べていた平森隆寛に接触した」
「平森君に……?」
桜が呟いた言葉のあと、東佐紀が続けるようにいった。
「平森隆寛は実に優秀な報復心を持つ人間だった。己の優しさと他の醜さのギャップから、自分の身の回りに不満を感じていたからだ」
五十嵐が代わり続けた。
「平森隆寛は弱い人間だ。自尊心と傲慢さが実に素晴らしいバランスで存在している。醜い人間の代表例のようだ」
東佐紀が代わり続けた。
「だから我々は平森隆寛を中心にカーストを築き上げた。彼のプライドを引き裂くようにして。そのお陰で、彼は『審判』によりよく貢献してくれた。サンプルとして実に優秀な実験体だった」
その言葉に陽太は激昂し、殴りに向かったのを霧島が必死に止めた。
「東さん! お前、平森の友達じゃなかったのかよ!」
東佐紀は再びゆっくりと口を開き、一切の感情のこもっていない声で答えた。
「私は今までに『友情』という感情を持ったことは一度もない」
五十嵐が感情のない声で続けた。
「我々が、人間にとって不要であると考えている感情のひとつだ」
曇りに覆われている空はまるで闇そのもののように見えた。
それは陽太たちの心の中を物語っているかのように思えた。
全ては最初から決まっていた。
全てはこの静間・五十嵐・東によって作れられたレールの上で行われていたことだったのだ。
『審判』が全ての始まりではなかった。
全てはこの宵崎高校に入学したときから始まっていたのだ。
いや始まっていたのではないのかもしれない。
最初から終わっていたのだ。
「静間先生、これからの『審判実験』はいかが致しましょうか?」
そう五十嵐が冷徹な声で静間へと尋ねた。
それを聞くと静間が答えた。
「悩んだが、やはり不確定要素を残しておくリスクを取るわけにはいかない。それに神谷陽太・霧島響哉の反抗的な態度は実験体として危険すぎる」
五十嵐と東は静間のもとへと歩きながら、懐から何かを取り出した。
それはサプレッサー(静音装置)付きの拳銃だった。
陽太たちの顔から血の気が引き衝撃が走った。
その衝撃を気にも留めない様子で静間は抑揚のない声で告げた。
「『審判実験』は今まで通り継続。だが不確定要素である神谷陽太、霧島響哉、胡桃沢桜はここで排除しましょう」
五十嵐と東は拳銃を陽太たちへと向けた。
「そ、そんな……やめろ……!」
陽太は桜を庇うようにしつつ、怯えた声で告げた。
「やめてほしいなら最初から推理ごっこなんてするんじゃなかったのね」
銃口を見つめているうちに意識が遠のいていきそうだった。
「母さん、俺はここで……死ぬのか……?」
ここで……死ぬのか……。
「御影零」
「!」
静間の眉間が一瞬たじろいだように反応した。
霧島が嫌味たらしい笑みを浮かべて呟いた。
だが、陽太にはわかった。
この笑みは余裕のあらわれではない。霧島は今、策を講じることに必死なのだと。
「御影零は、この『審判』のことを知っている」
「なんだと……?」
「僕たちがここに来る前に全てを話したからね。彼女は『審判』の犯人が御影浪子だということを知っている。彼女なら貴方が御影浪子であることも知っているはずだしね」
静間は何も言わずに霧島を睨みつけていた。
「もう終わりだよ。今頃3年1組の生徒たちに伝えて回っているはずだ。この審判の仕組みを」
「嘘だな」
静間は答えたが、一層笑みを深めて霧島は返した。
「本当だよ」
次の瞬間、静間がかつてないほどの怒りの声をあげ、東から拳銃を奪い取った。
そして、陽太たちへと向けた。
「鬱陶しい! 貴様らは本当に鬱陶しい! モルモットは我々の生み出した試験管から薬を投与されるのを黙って待っていればいいんだよ!」
ギチギチとした静間の苛立ちからくる歯ぎしりがこちらまで響いてきそうだった。
「友情、恋愛、仲間、家族、絆、未来、他人、何もかも貴様らには必要ない! 貴様らに必要なのは、罪悪感、報復心、嫉妬、憎悪、苦しみ、他を切り捨てるほどの欲望だ!」
静間の指先が徐々にトリガーへと力を込めていった。
「自分さえ助かればそれでいいだろう! だから貴様らは他を裁ける! 他を殺すことを望める! それが貴様ら醜い人間の義務であり、役割であり、使命であり……つまりは――
――『Duty』だ」
【duty:義務、本分、務め、役割】
唖然として硬直している陽太たちの背後では、五十嵐アキラと東佐紀が無表情で立っていた。
陽太の頬を一滴の汗が流れた。
「そんな……どうして? ……何故だ! 五十嵐も東さんも死んだはず……!」
霧島は確かに感じている動揺を隠しながらも震えた声で呟いた。
「神谷君。僕たちは……五十嵐アキラと東佐紀が死ぬ瞬間を確かにこの目で見たか?」
「え……?」
「『死ぬ瞬間』を、だ」
陽太と桜は自らの記憶を反芻させ愕然とした。
第1の審判にて。
五十嵐アキラが東佐紀によって裁かれ、教室を抜け出していった。
そして、階段で転落し床に顔を削られるようにして死亡、したはずだった。
陽太と桜、また金城とミキが廊下で静間とすれ違い、誘導されるように五十嵐の死亡した現場へと向かっていった。
そこで、五十嵐の死体を見つけたのだ。
だが、陽太たちは自身で五十嵐の死亡を確認してはいない。
五十嵐の生死を確認したのは静間である。
そうだ。
陽太たちは、五十嵐の死ぬ瞬間を見てはいない。
第2の審判にて。
学校を休んでいた東佐紀が裁かれ死亡したはずだった。
だが、こちらのほうは五十嵐よりももっと簡単である。
陽太たちは電話でしか、東佐紀の死亡を確認してはいないからである。
どんなふうにでも偽装できる。
つまり、五十嵐アキラと東佐紀だけは、確かに陽太たちが死ぬ瞬間を見てはいなかったのだ。
「お前たちは本当に無様だ」
背後から静間の冷たい声が響いた。
「おい……嘘だろ! 五十嵐! 東さん! お前ら、最初から『審判』のこと知ってたのかよ!」
恐怖を振り払うかのように陽太は叫んだ。
「……」
「……」
五十嵐も東佐紀も何も答えなかった。静間が鼻で笑いいった。
「正義のヒーローぶってるやつが聞いてるわよ。答えてあげなさい」
その一言のあと五十嵐がゆっくりと口を開いた。
「ああ、勿論だ」
陽太の背に脂汗が滲んだ。
「我々はお前たちに鮮明なスクールカーストを作り出すために3年1組、いやこの宵崎高校に入学した。そして以前から調べていた平森隆寛に接触した」
「平森君に……?」
桜が呟いた言葉のあと、東佐紀が続けるようにいった。
「平森隆寛は実に優秀な報復心を持つ人間だった。己の優しさと他の醜さのギャップから、自分の身の回りに不満を感じていたからだ」
五十嵐が代わり続けた。
「平森隆寛は弱い人間だ。自尊心と傲慢さが実に素晴らしいバランスで存在している。醜い人間の代表例のようだ」
東佐紀が代わり続けた。
「だから我々は平森隆寛を中心にカーストを築き上げた。彼のプライドを引き裂くようにして。そのお陰で、彼は『審判』によりよく貢献してくれた。サンプルとして実に優秀な実験体だった」
その言葉に陽太は激昂し、殴りに向かったのを霧島が必死に止めた。
「東さん! お前、平森の友達じゃなかったのかよ!」
東佐紀は再びゆっくりと口を開き、一切の感情のこもっていない声で答えた。
「私は今までに『友情』という感情を持ったことは一度もない」
五十嵐が感情のない声で続けた。
「我々が、人間にとって不要であると考えている感情のひとつだ」
曇りに覆われている空はまるで闇そのもののように見えた。
それは陽太たちの心の中を物語っているかのように思えた。
全ては最初から決まっていた。
全てはこの静間・五十嵐・東によって作れられたレールの上で行われていたことだったのだ。
『審判』が全ての始まりではなかった。
全てはこの宵崎高校に入学したときから始まっていたのだ。
いや始まっていたのではないのかもしれない。
最初から終わっていたのだ。
「静間先生、これからの『審判実験』はいかが致しましょうか?」
そう五十嵐が冷徹な声で静間へと尋ねた。
それを聞くと静間が答えた。
「悩んだが、やはり不確定要素を残しておくリスクを取るわけにはいかない。それに神谷陽太・霧島響哉の反抗的な態度は実験体として危険すぎる」
五十嵐と東は静間のもとへと歩きながら、懐から何かを取り出した。
それはサプレッサー(静音装置)付きの拳銃だった。
陽太たちの顔から血の気が引き衝撃が走った。
その衝撃を気にも留めない様子で静間は抑揚のない声で告げた。
「『審判実験』は今まで通り継続。だが不確定要素である神谷陽太、霧島響哉、胡桃沢桜はここで排除しましょう」
五十嵐と東は拳銃を陽太たちへと向けた。
「そ、そんな……やめろ……!」
陽太は桜を庇うようにしつつ、怯えた声で告げた。
「やめてほしいなら最初から推理ごっこなんてするんじゃなかったのね」
銃口を見つめているうちに意識が遠のいていきそうだった。
「母さん、俺はここで……死ぬのか……?」
ここで……死ぬのか……。
「御影零」
「!」
静間の眉間が一瞬たじろいだように反応した。
霧島が嫌味たらしい笑みを浮かべて呟いた。
だが、陽太にはわかった。
この笑みは余裕のあらわれではない。霧島は今、策を講じることに必死なのだと。
「御影零は、この『審判』のことを知っている」
「なんだと……?」
「僕たちがここに来る前に全てを話したからね。彼女は『審判』の犯人が御影浪子だということを知っている。彼女なら貴方が御影浪子であることも知っているはずだしね」
静間は何も言わずに霧島を睨みつけていた。
「もう終わりだよ。今頃3年1組の生徒たちに伝えて回っているはずだ。この審判の仕組みを」
「嘘だな」
静間は答えたが、一層笑みを深めて霧島は返した。
「本当だよ」
次の瞬間、静間がかつてないほどの怒りの声をあげ、東から拳銃を奪い取った。
そして、陽太たちへと向けた。
「鬱陶しい! 貴様らは本当に鬱陶しい! モルモットは我々の生み出した試験管から薬を投与されるのを黙って待っていればいいんだよ!」
ギチギチとした静間の苛立ちからくる歯ぎしりがこちらまで響いてきそうだった。
「友情、恋愛、仲間、家族、絆、未来、他人、何もかも貴様らには必要ない! 貴様らに必要なのは、罪悪感、報復心、嫉妬、憎悪、苦しみ、他を切り捨てるほどの欲望だ!」
静間の指先が徐々にトリガーへと力を込めていった。
「自分さえ助かればそれでいいだろう! だから貴様らは他を裁ける! 他を殺すことを望める! それが貴様ら醜い人間の義務であり、役割であり、使命であり……つまりは――
――『Duty』だ」
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