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Ⅲ 第3の審判
chapter 14 夏季休暇 -2
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2 8月20日 意外な出会い
駅へ向かう途中の商店街に古びた書店がある。
そこは様々な雑誌やコミック、小説の類だけでなく、学問の参考書なども豊富で、小さな書店の割に有名な書店であった。
この書店の前は開放的にされていて、普通に歩いて通るだけでもカウンターに座る店主が見えるほどでもある。
陽太と霧島はその道を歩いていたときに意外な人物を書店の中に見掛けた。
3年1組担任の静間である。普段学校で見かけるときと変わらない地味な恰好に、寝癖つけ、本を漁っていた。
陽太と霧島は一旦顔を合わせて、どうしようかと悩んだが、とりあえず無視はできまいと挨拶をすることにした。
静間とて3年1組の生徒が次々と死亡している現実に関しては目を逸らし切れてはいないはずである。
だが、今までの静間の機械的な態度を踏まえた上で、陽太と霧島は静間に関して『審判』の事実を相談する気など芽生えないでいた。
「静間先生」
陽太はなるべく明るめの印象で声を掛けた。
「おや、神谷君に霧島君? こんにちは」
「こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「探しものですか?」
霧島は静間の抱える本を眺めながら言った。
難しそうな本が数冊抱えられていた。
「ここでしか売っていないんだ。教師になってからでも勉強は耐えませんよ」
「先生の家、この近くなんですか?」
「そうなんですよ」
そのまま静間はカウンターへ向かって会計を済ませた。
「キミたちは?」
陽太と霧島は再び顔を合わせ、
「あー」
と声を漏らした後に、霧島が続けた。
「ちょっと用事で。隣町まで」
「そうなんですか。夏休みだからって羽目を外しすぎないでくださいよ」
買った本を抱えて静間は外までやって来た。
「先生のマンション、この先なんです。途中まで一緒に行きませんか?」
意外な誘いが飛んできた。
正直軽く挨拶を交わして、去っていこうというのが陽太と霧島の本音だったのだが、何故か今日の静間からはいつもの機械的な感情が感じられず、共にすることとなった。
「実は先生もこのあと、ちょっとした約束がありまして。キミたちの友達、と」
「……え?」
駅へ向かう途中のおしゃれな街の一角にさほど大きくないマンションが建っている。
そこが静間の家であると指され、陽太と霧島は空返事をした。
『陽太たちの友達と約束がある』と静間は言った。
それは一体誰のことなのだろうか。その答えはすぐに明かされた。
マンション前に見慣れた人影があった。
その人物とは胡桃沢桜であった。
桜は驚いた顔で陽太と霧島を見つめていた。
「陽太と霧島君!? どうして?」
「お前こそ、何やってんだよ、桜!」
陽太は側に立つ静間を見て聞いた。
「約束って桜とですか!?」
「そうです。真剣な話があると言われ断れませんでした」
霧島は苦笑いを浮かべ言った。
「いや……教師がいち生徒を自宅に招いて大丈夫なんですか? その……一応……」
「だから、キミたちも一緒だったら安心なんですけどね、先生も」
静間は陽太たちの間で初めて笑った。
陽太はその笑みに驚きつつも桜に尋ねた。
「桜……何を考えてるんだよ」
桜は深刻な顔をしながら真面目に答えた。
「先生に頼んだの。クラスの現状を知って欲しいって。ちゃんと向き合って欲しいって」
陽太も霧島も桜の言葉に何も返すことができなかった。
静間への信頼など皆無だったからである。
「何ももてなせないけど、良かったらどうぞ。歓迎します」
そんな担任の声に続き、生徒たちはマンションへと歩を進めた。
駅へ向かう途中の商店街に古びた書店がある。
そこは様々な雑誌やコミック、小説の類だけでなく、学問の参考書なども豊富で、小さな書店の割に有名な書店であった。
この書店の前は開放的にされていて、普通に歩いて通るだけでもカウンターに座る店主が見えるほどでもある。
陽太と霧島はその道を歩いていたときに意外な人物を書店の中に見掛けた。
3年1組担任の静間である。普段学校で見かけるときと変わらない地味な恰好に、寝癖つけ、本を漁っていた。
陽太と霧島は一旦顔を合わせて、どうしようかと悩んだが、とりあえず無視はできまいと挨拶をすることにした。
静間とて3年1組の生徒が次々と死亡している現実に関しては目を逸らし切れてはいないはずである。
だが、今までの静間の機械的な態度を踏まえた上で、陽太と霧島は静間に関して『審判』の事実を相談する気など芽生えないでいた。
「静間先生」
陽太はなるべく明るめの印象で声を掛けた。
「おや、神谷君に霧島君? こんにちは」
「こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「探しものですか?」
霧島は静間の抱える本を眺めながら言った。
難しそうな本が数冊抱えられていた。
「ここでしか売っていないんだ。教師になってからでも勉強は耐えませんよ」
「先生の家、この近くなんですか?」
「そうなんですよ」
そのまま静間はカウンターへ向かって会計を済ませた。
「キミたちは?」
陽太と霧島は再び顔を合わせ、
「あー」
と声を漏らした後に、霧島が続けた。
「ちょっと用事で。隣町まで」
「そうなんですか。夏休みだからって羽目を外しすぎないでくださいよ」
買った本を抱えて静間は外までやって来た。
「先生のマンション、この先なんです。途中まで一緒に行きませんか?」
意外な誘いが飛んできた。
正直軽く挨拶を交わして、去っていこうというのが陽太と霧島の本音だったのだが、何故か今日の静間からはいつもの機械的な感情が感じられず、共にすることとなった。
「実は先生もこのあと、ちょっとした約束がありまして。キミたちの友達、と」
「……え?」
駅へ向かう途中のおしゃれな街の一角にさほど大きくないマンションが建っている。
そこが静間の家であると指され、陽太と霧島は空返事をした。
『陽太たちの友達と約束がある』と静間は言った。
それは一体誰のことなのだろうか。その答えはすぐに明かされた。
マンション前に見慣れた人影があった。
その人物とは胡桃沢桜であった。
桜は驚いた顔で陽太と霧島を見つめていた。
「陽太と霧島君!? どうして?」
「お前こそ、何やってんだよ、桜!」
陽太は側に立つ静間を見て聞いた。
「約束って桜とですか!?」
「そうです。真剣な話があると言われ断れませんでした」
霧島は苦笑いを浮かべ言った。
「いや……教師がいち生徒を自宅に招いて大丈夫なんですか? その……一応……」
「だから、キミたちも一緒だったら安心なんですけどね、先生も」
静間は陽太たちの間で初めて笑った。
陽太はその笑みに驚きつつも桜に尋ねた。
「桜……何を考えてるんだよ」
桜は深刻な顔をしながら真面目に答えた。
「先生に頼んだの。クラスの現状を知って欲しいって。ちゃんと向き合って欲しいって」
陽太も霧島も桜の言葉に何も返すことができなかった。
静間への信頼など皆無だったからである。
「何ももてなせないけど、良かったらどうぞ。歓迎します」
そんな担任の声に続き、生徒たちはマンションへと歩を進めた。
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