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Ⅲ 第3の審判
chapter 12 輪郭 -3
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3 7月8日 同じ匂い
陽太が目を覚ましたときには水滴に曇った窓から見える景色はすっかり暗くなり、夜に耽っていた。
雑誌類や様々な事件の参考書が散らばる汚いソファーからゆっくりと身を起こした。
「……ここは?」
「気が付いたかー?」
飲み物を持って、乙黒が陽太のもとにやって来た。
どうやらここは乙黒探偵事務所の中らしい。
桜と霧島と共に情報を聞きにやってきた陽太だったが、『御影零』という名前を聞いてそれから記憶が無かった。
「えっと……あれ? どうして俺……まさか寝てたんすか?」
「んー。寝てたってより気絶に近いけど。……いや寝てたね、随分ぐっすりと。人様の城でくつろぎ過ぎだよ、少しは遠慮を知れ」
「あ……えっと、すみません」
乙黒は呆れ顔を陽太に向けた。
「霧島と胡桃沢には先に帰ってもらったよ。お前はただ寝てるだけだったからね」
「どうして寝てたんですか?」
「アタシが知るかよっと。ま、そうだな……御影零……」
「!」
「……って名前を聞いた途端に倒れるようにして寝たんだよ」
「……」
「この名前に聞き覚えがあったのかい?」
「い、いや……無いはずです。無いはず」
「『はず』ってことは『ある』って言っているようなもんだぞ」
「……知らないです、たぶん」
「たぶんって……」
「ただ前にどこかで聞いたことがあるような……ないような」
「……お前のクラスメイトらしいからな。聞いたことがあるのは当然だろが」
乙黒は辞書みたいに厚い本で陽太の頭をぽかりと叩いた。
「あ、いて」
乙黒は陽太を汚いソファーに座らせ、その向かいに沢山のオカルトチックな雑誌を積み重ねて腰を置いた。
「神谷陽太。お前、御影零について何を知っている?」
「だから……何も知りません。クラスメイトってことすら気付いてなかったんですから。名前覚えるの苦手で」
「ふん……じゃあ言い方を変えよう。お前は『審判』について何を知っている?」
「はあ? 俺は何も知りません! だから原因と対策を練るために貴方に頼んでここまで来て調べているんですから!」
「ふーん」
「俺を疑ってるんですか?」
「そんなことは無いよ。事情聴取イコール犯人とは限らん」
「……俺、今まで本当に寝てただけですか?」
「……ああ。お前はずっと寝てたよ」
陽太は不審な目を乙黒に向けた。そして、差し出された飲み物を一口飲み、渇いた喉を潤せた。
「神谷、お前。『審判』について『正義』or『悪』どっちの印象を思っている?」
「何を……?」
「率直なお前の意見を聞かせろ」
「……人が死んでいるんです。いいわけないでしょう。俺は早く審判を……悪夢を終わらせたい」
「とは言っても。死んでいるのはこの世に不必要な人間だとは思わない?」
陽太は目を見開き、真顔でそう質問を投げ掛ける乙黒を見つめた。
「なんだと?」
「人に迷惑を掛け、陥れるような人間が裁かれるのは当然だとは思わない? また、そういう人間なんか居なくなったほうがいいとは思ったことはない?」
「ふざけるな! アンタ言っていいことと悪いことが――」
乙黒は頬を緩め、唇を釣り上げた。
「ああ悪い……そうだな。じゃあ質問を変えるよ。今まで虐められたことはある?」
「!」
「あるか?」
「……小学校の頃に軽いことなら少しだけ……でも多分それはイジメられた内に入りません」
「そうか」
そう言うと乙黒は静かに目を閉じ、再びゆっくりと口を開いた。
「御影充が10年前に死亡したことに対して何か異論はない?」
「は?」
「御影充が死亡していない、現在も生きているという仮説を立てられるとしたら?」
陽太の腕が痙攣し始める。陽太は乙黒を睨みつけるように視界に捉え続けた。
「有り得ると思う?」
「……な、なにを」
「ねえ? 『神谷陽太』」
「御影充は、し、死んだはずでしょう? 仮説も何も死んだ人間が生き返るなんて有り得ません!」
乙黒は静かに陽太の目を見つめ続けた。そして、「ふふ」と笑い、頬を緩ませた。
「あーいや、悪い。そうだな、当然だよな。今のことは忘れて。もう目も覚めたでしょ? 帰ったほうがいい。親も心配するよ」
陽太は乙黒から視線を外し、ソファーから立ち上がった。
そして、俯く乙黒を視界に捉えながら、出口に向かって歩いていく。
「『神谷陽太』」
再び咄嗟に名前を呼ばれ陽太は振り向いた。
「な、なんですか?」
再びにやっと乙黒は笑っているように見えた。
そして、
「『お前は私と同類だよ』」
そう呟いた。
「え? どういう……?」
「夜道は危険だから、男でも油断すんじゃねえぞ、ってことだ。気を付けて帰んな」
陽太は何かを考え込むようにした後、乙黒の背中に向かって、
「迷惑掛けました。乙黒さんありがとうございました……」
と、不満そうに告げた。
乙黒はわずかに手を振り背中で応えた。
そして陽太は擦れる音の鳴るドアを開け、事務所をあとにした。
暗い事務所の中で乙黒は一杯のスポーツドリンクを飲み干した。
そして、御影充に対する調査資料を眺めた。
「御影充は10年前に自殺……。父親は既に死去……。妹は宵崎高校3年1組生徒である御影零の可能性……。そして母親が消息不明……ね」
資料をテーブルに置き、自らの椅子にふんぞり返るように腰を落とした。
そして、窓のから街頭の下を歩く陽太の姿を見つめた。
「お前はアタシと同じ匂いがするんだよね。神谷陽太」
陽太が目を覚ましたときには水滴に曇った窓から見える景色はすっかり暗くなり、夜に耽っていた。
雑誌類や様々な事件の参考書が散らばる汚いソファーからゆっくりと身を起こした。
「……ここは?」
「気が付いたかー?」
飲み物を持って、乙黒が陽太のもとにやって来た。
どうやらここは乙黒探偵事務所の中らしい。
桜と霧島と共に情報を聞きにやってきた陽太だったが、『御影零』という名前を聞いてそれから記憶が無かった。
「えっと……あれ? どうして俺……まさか寝てたんすか?」
「んー。寝てたってより気絶に近いけど。……いや寝てたね、随分ぐっすりと。人様の城でくつろぎ過ぎだよ、少しは遠慮を知れ」
「あ……えっと、すみません」
乙黒は呆れ顔を陽太に向けた。
「霧島と胡桃沢には先に帰ってもらったよ。お前はただ寝てるだけだったからね」
「どうして寝てたんですか?」
「アタシが知るかよっと。ま、そうだな……御影零……」
「!」
「……って名前を聞いた途端に倒れるようにして寝たんだよ」
「……」
「この名前に聞き覚えがあったのかい?」
「い、いや……無いはずです。無いはず」
「『はず』ってことは『ある』って言っているようなもんだぞ」
「……知らないです、たぶん」
「たぶんって……」
「ただ前にどこかで聞いたことがあるような……ないような」
「……お前のクラスメイトらしいからな。聞いたことがあるのは当然だろが」
乙黒は辞書みたいに厚い本で陽太の頭をぽかりと叩いた。
「あ、いて」
乙黒は陽太を汚いソファーに座らせ、その向かいに沢山のオカルトチックな雑誌を積み重ねて腰を置いた。
「神谷陽太。お前、御影零について何を知っている?」
「だから……何も知りません。クラスメイトってことすら気付いてなかったんですから。名前覚えるの苦手で」
「ふん……じゃあ言い方を変えよう。お前は『審判』について何を知っている?」
「はあ? 俺は何も知りません! だから原因と対策を練るために貴方に頼んでここまで来て調べているんですから!」
「ふーん」
「俺を疑ってるんですか?」
「そんなことは無いよ。事情聴取イコール犯人とは限らん」
「……俺、今まで本当に寝てただけですか?」
「……ああ。お前はずっと寝てたよ」
陽太は不審な目を乙黒に向けた。そして、差し出された飲み物を一口飲み、渇いた喉を潤せた。
「神谷、お前。『審判』について『正義』or『悪』どっちの印象を思っている?」
「何を……?」
「率直なお前の意見を聞かせろ」
「……人が死んでいるんです。いいわけないでしょう。俺は早く審判を……悪夢を終わらせたい」
「とは言っても。死んでいるのはこの世に不必要な人間だとは思わない?」
陽太は目を見開き、真顔でそう質問を投げ掛ける乙黒を見つめた。
「なんだと?」
「人に迷惑を掛け、陥れるような人間が裁かれるのは当然だとは思わない? また、そういう人間なんか居なくなったほうがいいとは思ったことはない?」
「ふざけるな! アンタ言っていいことと悪いことが――」
乙黒は頬を緩め、唇を釣り上げた。
「ああ悪い……そうだな。じゃあ質問を変えるよ。今まで虐められたことはある?」
「!」
「あるか?」
「……小学校の頃に軽いことなら少しだけ……でも多分それはイジメられた内に入りません」
「そうか」
そう言うと乙黒は静かに目を閉じ、再びゆっくりと口を開いた。
「御影充が10年前に死亡したことに対して何か異論はない?」
「は?」
「御影充が死亡していない、現在も生きているという仮説を立てられるとしたら?」
陽太の腕が痙攣し始める。陽太は乙黒を睨みつけるように視界に捉え続けた。
「有り得ると思う?」
「……な、なにを」
「ねえ? 『神谷陽太』」
「御影充は、し、死んだはずでしょう? 仮説も何も死んだ人間が生き返るなんて有り得ません!」
乙黒は静かに陽太の目を見つめ続けた。そして、「ふふ」と笑い、頬を緩ませた。
「あーいや、悪い。そうだな、当然だよな。今のことは忘れて。もう目も覚めたでしょ? 帰ったほうがいい。親も心配するよ」
陽太は乙黒から視線を外し、ソファーから立ち上がった。
そして、俯く乙黒を視界に捉えながら、出口に向かって歩いていく。
「『神谷陽太』」
再び咄嗟に名前を呼ばれ陽太は振り向いた。
「な、なんですか?」
再びにやっと乙黒は笑っているように見えた。
そして、
「『お前は私と同類だよ』」
そう呟いた。
「え? どういう……?」
「夜道は危険だから、男でも油断すんじゃねえぞ、ってことだ。気を付けて帰んな」
陽太は何かを考え込むようにした後、乙黒の背中に向かって、
「迷惑掛けました。乙黒さんありがとうございました……」
と、不満そうに告げた。
乙黒はわずかに手を振り背中で応えた。
そして陽太は擦れる音の鳴るドアを開け、事務所をあとにした。
暗い事務所の中で乙黒は一杯のスポーツドリンクを飲み干した。
そして、御影充に対する調査資料を眺めた。
「御影充は10年前に自殺……。父親は既に死去……。妹は宵崎高校3年1組生徒である御影零の可能性……。そして母親が消息不明……ね」
資料をテーブルに置き、自らの椅子にふんぞり返るように腰を落とした。
そして、窓のから街頭の下を歩く陽太の姿を見つめた。
「お前はアタシと同じ匂いがするんだよね。神谷陽太」
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