34 / 76
Ⅲ 第3の審判
chapter 11 第3の審判 -1
しおりを挟む
1 7月8日 第3の審判①
異常なほど小奇麗にされたこの3年1組教室に生徒たちが次々と表情暗く沈んだ面持ちで登校してくる。
今学期に入り、次々とクラスメイトが死亡する事件が続いている。
それは5月から始まり、1ヶ月毎に起こってきた『審判』という出来事が関係していると、おそらくこの3年1組生徒ならば誰しも気が付いていた。
登校してきた霧島は、窓際から呆然と景色を眺めていた神谷陽太と胡桃沢桜のもとへ駆け寄った。
「やあ神谷君、胡桃沢さん。どうかな気分は?」
「いいはずはねえだろ。相変わらず嫌な気分で臨む学校だよ」
「おはよ、霧島君。でも偉いよね皆。ちゃんと登校してくるんだもん」
「偉い? かな」
霧島は桜を見て、くすっと微笑んだ。
「違うね。休むことすら怯えているんだと思うよ。東佐紀の一件もあったしね」
東佐紀は第2の審判で『罪人』にされ、それから不登校を決め込んでいたのだが、ついには審判者から有罪の判決を下されてしまい、断罪された。
つまり、直接的原因は無いにしても登校拒否をすることは有罪にされる危険性がある、と生徒たちは心のどこかで不安に感じているに違いない。
「ところで霧島。例の件は?」
桜が大きな目を瞬かせながら霧島に尋ねた。
「うん? ああ、10年前の自殺生徒の特定かい?」
「ああ、そうだよ。あの刑事の親父さんを介して探しているんだろ?」
「まだだねえ。とりあえず警察署内の資料には見当たらないっぽいよ。とくに事件性のあるものじゃなくて自殺だからね。プライベートなものだから名前も伏せてあるらしいし」
「じゃあどうやって調べているの?」
「父さんの知り合いに探偵が居てね。その人に依頼したんだ。ただ昨日今日の話だから流石にまだだよ。のんびり待つしかないね」
「のんびり待てない立場なんだがなあ。俺たちは」
陽太は窓から登校してくる生徒たちの姿を眺め、そう呟いた。
「そういえば、その探偵さんが面白い人でね。元刑事なんだけど、霊媒体質っていうか、そんなことを事件に絡めようとする人で。現場に合わずに辞めて探偵になったそうなんだけど。この『審判』について真剣に相談してみるかい?」
陽太も桜も、嫌な笑みを浮かべる霧島の顔をキョトンとして見つめた。
「お前……本気で言ってるのか?」
霧島は不敵に笑う。
「本気だと思う?」
頭を掻いて呆れ顔で陽太は続けた。
「変な人もいるもんだな。ま、心にでも留めて置くよ」
今度は霧島がキョトンとして呟いた。
「ありゃ。本気にするとは」
「ねえ陽太、霧島君。……それもだけどさ」
桜が真剣な眼差しを二人に向けて話しかけた。
「それよりも……もう『審判』なんか起こらないってことに賭けてみるのもありじゃないかな?」
「……桜」
「だってもう7月の8日だよ。罪人になんて誰もならなくて、もう終わりになるんだよ。そんな可能性だってあるでしょ?」
「ずいぶんと楽観的予測だね」
「それの何が悪いの?」
「……胡桃沢さんの考えも勿論あるかもしれない。でも、無いかもしれない。だったらこれからの『審判』を食い止めるために動くことは悪いことじゃないだろう」
「……うん、そうだけど」
不満げに桜は目線を落とした。
そんな桜を余所目に霧島は邪悪な笑みを浮かべて、そこから立ち去ろうとした際、言い放った。
「それに勝ち逃げなんて、許さないよ。『審判』」
陽太は瞼をぴくっと動かし、去り際の霧島の背中に言った。
「霧島。これはゲームじゃない」
霧島は歩みを止め、陽太のほうを向き直して告げた。
「わかってるよ」
相変わらずの作り笑顔であった。
異常なほど小奇麗にされたこの3年1組教室に生徒たちが次々と表情暗く沈んだ面持ちで登校してくる。
今学期に入り、次々とクラスメイトが死亡する事件が続いている。
それは5月から始まり、1ヶ月毎に起こってきた『審判』という出来事が関係していると、おそらくこの3年1組生徒ならば誰しも気が付いていた。
登校してきた霧島は、窓際から呆然と景色を眺めていた神谷陽太と胡桃沢桜のもとへ駆け寄った。
「やあ神谷君、胡桃沢さん。どうかな気分は?」
「いいはずはねえだろ。相変わらず嫌な気分で臨む学校だよ」
「おはよ、霧島君。でも偉いよね皆。ちゃんと登校してくるんだもん」
「偉い? かな」
霧島は桜を見て、くすっと微笑んだ。
「違うね。休むことすら怯えているんだと思うよ。東佐紀の一件もあったしね」
東佐紀は第2の審判で『罪人』にされ、それから不登校を決め込んでいたのだが、ついには審判者から有罪の判決を下されてしまい、断罪された。
つまり、直接的原因は無いにしても登校拒否をすることは有罪にされる危険性がある、と生徒たちは心のどこかで不安に感じているに違いない。
「ところで霧島。例の件は?」
桜が大きな目を瞬かせながら霧島に尋ねた。
「うん? ああ、10年前の自殺生徒の特定かい?」
「ああ、そうだよ。あの刑事の親父さんを介して探しているんだろ?」
「まだだねえ。とりあえず警察署内の資料には見当たらないっぽいよ。とくに事件性のあるものじゃなくて自殺だからね。プライベートなものだから名前も伏せてあるらしいし」
「じゃあどうやって調べているの?」
「父さんの知り合いに探偵が居てね。その人に依頼したんだ。ただ昨日今日の話だから流石にまだだよ。のんびり待つしかないね」
「のんびり待てない立場なんだがなあ。俺たちは」
陽太は窓から登校してくる生徒たちの姿を眺め、そう呟いた。
「そういえば、その探偵さんが面白い人でね。元刑事なんだけど、霊媒体質っていうか、そんなことを事件に絡めようとする人で。現場に合わずに辞めて探偵になったそうなんだけど。この『審判』について真剣に相談してみるかい?」
陽太も桜も、嫌な笑みを浮かべる霧島の顔をキョトンとして見つめた。
「お前……本気で言ってるのか?」
霧島は不敵に笑う。
「本気だと思う?」
頭を掻いて呆れ顔で陽太は続けた。
「変な人もいるもんだな。ま、心にでも留めて置くよ」
今度は霧島がキョトンとして呟いた。
「ありゃ。本気にするとは」
「ねえ陽太、霧島君。……それもだけどさ」
桜が真剣な眼差しを二人に向けて話しかけた。
「それよりも……もう『審判』なんか起こらないってことに賭けてみるのもありじゃないかな?」
「……桜」
「だってもう7月の8日だよ。罪人になんて誰もならなくて、もう終わりになるんだよ。そんな可能性だってあるでしょ?」
「ずいぶんと楽観的予測だね」
「それの何が悪いの?」
「……胡桃沢さんの考えも勿論あるかもしれない。でも、無いかもしれない。だったらこれからの『審判』を食い止めるために動くことは悪いことじゃないだろう」
「……うん、そうだけど」
不満げに桜は目線を落とした。
そんな桜を余所目に霧島は邪悪な笑みを浮かべて、そこから立ち去ろうとした際、言い放った。
「それに勝ち逃げなんて、許さないよ。『審判』」
陽太は瞼をぴくっと動かし、去り際の霧島の背中に言った。
「霧島。これはゲームじゃない」
霧島は歩みを止め、陽太のほうを向き直して告げた。
「わかってるよ」
相変わらずの作り笑顔であった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
Catastrophe
アタラクシア
ホラー
ある日世界は終わった――。
「俺が桃を助けるんだ。桃が幸せな世界を作るんだ。その世界にゾンビはいない。その世界には化け物はいない。――その世界にお前はいない」
アーチェリー部に所属しているただの高校生の「如月 楓夜」は自分の彼女である「蒼木 桃」を見つけるために終末世界を奔走する。
陸上自衛隊の父を持つ「山ノ井 花音」は
親友の「坂見 彩」と共に謎の少女を追って終末世界を探索する。
ミリタリーマニアの「三谷 直久」は同じくミリタリーマニアの「齋藤 和真」と共にバイオハザードが起こるのを近くで目の当たりにすることになる。
家族関係が上手くいっていない「浅井 理沙」は攫われた弟を助けるために終末世界を生き抜くことになる。
4つの物語がクロスオーバーする時、全ての真実は語られる――。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
怪物どもが蠢く島
湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。
クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。
黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか?
次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。
ラヴィ
山根利広
ホラー
男子高校生が不審死を遂げた。
現場から同じクラスの女子生徒のものと思しきペンが見つかる。
そして、解剖中の男子の遺体が突如消失してしまう。
捜査官の遠井マリナは、この事件の現場検証を行う中、奇妙な点に気づく。
「七年前にわたしが体験した出来事と酷似している——」
マリナは、まるで過去をなぞらえたような一連の展開に違和感を覚える。
そして、七年前同じように死んだクラスメイトの存在を思い出す。
だがそれは、連環する狂気の一端にすぎなかった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる