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日常10【side.タケル】――特別な日
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しおりを挟むたくさんの紙袋を受け取ったエリック先生の後ろからノアが顔を覗かせる。彼はムスッと頬を膨らませていた。
「アニキたち、いつまで玄関にいるんだよっ。オレがメシの準備してやってるのに――ってアニキ、その荷物なんなの?」
「タケルからの手土産だ。しばらく夜食には困らないだろう」
「そ、そっか。こっちはお吸い物できたぜ」
今夜は寿司を注文したとのこと。ダイニングテーブルの中央には立派な寿司桶が鎮座していた。ノアが作ってくれたお吸い物にはほうれん草と蒲鉾が入っている。冷え切った身体に染み渡りそうだ。
僕はノアの隣に。
エリック先生はノアの正面に腰掛ける。
誕生日おめでとう。
エリック先生と声を揃えお祝いすると、ノアは頬を染めてはにかんだ。
喜ぶ君の顔も愛おしい。
可愛い。
来年もその先もずっと、君に「おめでとう」と伝えていくから。いつまでも僕の隣にいてほしい――そう願わずにいられない。
食事を終えるとノアにプレゼントを差し出した。小さな黒い髪袋。中にはラッピングされた正方形の箱が入っている。ノアはキラキラと瞳を輝かせた。
「開けていい?」
「もちろん。使う機会はしばらくないと思うが」
「……え、なんだろ。箱の感じはアクセサリーっぽいけど違うの?」
「身に着けるものではあるが、君の期待するようなアクセサリーとは違うだろうな」
ノアが小箱の蓋を開ける。
シルバーのネクタイピンがきらりと光った。ジルコニアが一粒あしらわれている。
「まだ少し早いが、ノアも社会人になる。正装が制服からスーツに変わるから。ビジネスシーンで使用できるシンプルなデザインのタイピンを、大人としてひとつ持っているといい」
「大人……!」
「学生が喜びそうなプレゼントも調べていたんだが、そうしたものはエリック先生や友人から贈られているかもしれないから。僕は違う角度から用意してみた」
がっかりされたらどうしようと不安もあったが。ノアは「ありがと!」と声を弾ませた。満面の笑み――僕が望んでいた表情。
抱き締めたい衝動を堪え、こちらも笑みを返した。ノアの隣で見守っていたエリック先生は戸惑った様子だ。
「ハイブランドじゃねーか。ノアには高価すぎるんじゃ……」
「就職祝いも込みですから」
ネクタイピンを手に取ったノアは、輝きを確かめるように角度を変え見つめている。このうっとりした表情を見る限り、気を遣って喜んだふりをしているわけではなさそうだ。僕も胸を撫で下ろすことができた。
「オレまだスーツ持ってないんだよな。スーツ買うまでは大事に飾っとくよ」
「喜んでもらえたようで何よりだ」
「嬉しいに決まってるじゃん! 大人向けのプレゼントなんて初めてもらったからな!」
今回のプレゼント、「ノアは幼く見られることを気にしているから、大人扱いされる方が嬉しいのではないか」という推測から決めたものでもある。それが功を奏したようだ。
〝大人向け〟という部分を強調するあたり、彼がまだ子供であることの象徴でもある気はするが。ノアの笑顔を見ることができて、僕にとっても特別な日となった。
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