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日常7【side.エリック】――対照的な二組
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しおりを挟む何があったのかはさておき、パスカルの闇は果てしなく深い。ノアやタケルとは真逆の位置にいる。だからこそ放っておくことができず、吸い込まれるようにして恋に落ちた。パスカルの肩を抱き寄せ、ぎゅっと包み込む。
「たまには教師らしく、ひとつアドバイスをやる」
「何?」
「俺も昔は校則違反だの喧嘩だの繰り返して、教師からしょっちゅう呼び出し食らってた。今もテキトー不良教師だが……これでも両親が生きていた頃よりマトモになったんだぜ?」
「……うん」
「俺は一本筋の通った綺麗な生き様じゃないが、『死ななきゃいい』と思って生きている。お前にとって悔いるような過去があるのなら、その後悔をしっかりと胸に刻んで、二度と同じ過ちを繰り返さなければいいだろ」
パスカルを解放すると、今度は俺から口付けた。
普段は飄々として掴みどころのない奴だが、こうして時折発動する病みモード――本質的には危うくて不安定なパスカルの心を、この先もずっと守ってやりたい。
「馬鹿真面目で自他共に厳しいタケルだって、状況次第でコロッと言動が変わる――昨夜の件で分かっただろ?」
「……そだね」
「何があっても芯の揺るがない人間なんていない。どんなにメンタルの強い奴でも、時と場合によっては大きくブレちまうモンだ。環境や出会う人々にも強く左右される。お前の言う後悔も、自分の芯を見失ってブレブレの道を歩いているときに躓いた結果じゃねーか?」
「……言い訳に過ぎないけど、たぶんそんな感じだね」
「さっきは俺の言い方が悪くて誤解させちまったが、お前とノアを比べているワケじゃねーからな。お前に潔白さを求めているワケでもない。心に巣くう闇もパスカルを構成する要素のひとつ。世話の焼ける奴だなと思うが、その黒さも含めて好きだ」
「…………今ここで押し倒していい?」
「駄目に決まってるだろ」
パスカルの顔に笑みが戻った。
すっかり調子を取り戻したようで、艶めかしいキスを繰り返される。
生徒に道徳を説くべき立場の教師が、校内でこんな行為を許容している――俺も〝黒〟確定だ。綺麗とは程遠い、似た者同士のカップルだろう。
「――ね、あとで俺の部屋に来てよ。続きしたい」
「まだ仕事残ってるんだが」
「それ終わってからでいいから。ここまできてあとは我慢しろなんて酷でしょ」
「……仕方ねーな」
先に屋上を出ると、真っ直ぐ職員室へ戻り雑務を片付けた。学校から車でパスカルの家へ向かう。部屋に上がって早々、深く口付けられた。パスカルの手が俺の腰に触れる。
「言葉を交わす暇もナシかよ」
「ごめん。エッチなこと考えながらあんたのこと待ってたからさ」
「盛りの付いたガキだな」
「俺、すっごく性欲強いから。ちゃんと付いてきてね」
ジャケットだけ脱いでベッドへ。パスカルは全てを味わうかのように、唇や指で俺を興奮させていく。何度も身体を重ねているが、こうして愛撫されることに対する羞恥は未だ抜けない。
片想いしていた頃、自分は当然〝上〟だと思っていた。中性的で端麗な魅力を持つパスカルが「俺が上」と言い張ったのは想定外。まさか自分が突っ込まれる側になるなど夢にも思わなかったのに――。
「ねぇ、すごいことになってるよ?」
パスカルの指が俺の先端を撫でる。溢れた雫をすくい上げるかのように。
「……んなとこ触んじゃねーよ」
「ぬるぬるしてて恥ずかしい?」
「黙れ!」
「可愛い。さっきは止められちゃったけど、今度こそ口でしてあげるね」
こいつの舌遣いは異様なほど巧みだ。本人は「いつもロリポップ舐めて鍛えてます」とジョークか本気か分からないことを言っていたが。
執拗に与えられる刺激で全身が熱を帯びていく。つい腰が動いてしまいそうになるのを堪えた。そんな自分が酷く淫らに感じられ、羞恥心がますます強くなる。
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