102 / 194
日常7【side.エリック】――対照的な二組
5
しおりを挟む何があったのかはさておき、パスカルの闇は果てしなく深い。ノアやタケルとは真逆の位置にいる。だからこそ放っておくことができず、吸い込まれるようにして恋に落ちた。パスカルの肩を抱き寄せ、ぎゅっと包み込む。
「たまには教師らしく、ひとつアドバイスをやる」
「何?」
「俺も昔は校則違反だの喧嘩だの繰り返して、教師からしょっちゅう呼び出し食らってた。今もテキトー不良教師だが……これでも両親が生きていた頃よりマトモになったんだぜ?」
「……うん」
「俺は一本筋の通った綺麗な生き様じゃないが、『死ななきゃいい』と思って生きている。お前にとって悔いるような過去があるのなら、その後悔をしっかりと胸に刻んで、二度と同じ過ちを繰り返さなければいいだろ」
パスカルを解放すると、今度は俺から口付けた。
普段は飄々として掴みどころのない奴だが、こうして時折発動する病みモード――本質的には危うくて不安定なパスカルの心を、この先もずっと守ってやりたい。
「馬鹿真面目で自他共に厳しいタケルだって、状況次第でコロッと言動が変わる――昨夜の件で分かっただろ?」
「……そだね」
「何があっても芯の揺るがない人間なんていない。どんなにメンタルの強い奴でも、時と場合によっては大きくブレちまうモンだ。環境や出会う人々にも強く左右される。お前の言う後悔も、自分の芯を見失ってブレブレの道を歩いているときに躓いた結果じゃねーか?」
「……言い訳に過ぎないけど、たぶんそんな感じだね」
「さっきは俺の言い方が悪くて誤解させちまったが、お前とノアを比べているワケじゃねーからな。お前に潔白さを求めているワケでもない。心に巣くう闇もパスカルを構成する要素のひとつ。世話の焼ける奴だなと思うが、その黒さも含めて好きだ」
「…………今ここで押し倒していい?」
「駄目に決まってるだろ」
パスカルの顔に笑みが戻った。
すっかり調子を取り戻したようで、艶めかしいキスを繰り返される。
生徒に道徳を説くべき立場の教師が、校内でこんな行為を許容している――俺も〝黒〟確定だ。綺麗とは程遠い、似た者同士のカップルだろう。
「――ね、あとで俺の部屋に来てよ。続きしたい」
「まだ仕事残ってるんだが」
「それ終わってからでいいから。ここまできてあとは我慢しろなんて酷でしょ」
「……仕方ねーな」
先に屋上を出ると、真っ直ぐ職員室へ戻り雑務を片付けた。学校から車でパスカルの家へ向かう。部屋に上がって早々、深く口付けられた。パスカルの手が俺の腰に触れる。
「言葉を交わす暇もナシかよ」
「ごめん。エッチなこと考えながらあんたのこと待ってたからさ」
「盛りの付いたガキだな」
「俺、すっごく性欲強いから。ちゃんと付いてきてね」
ジャケットだけ脱いでベッドへ。パスカルは全てを味わうかのように、唇や指で俺を興奮させていく。何度も身体を重ねているが、こうして愛撫されることに対する羞恥は未だ抜けない。
片想いしていた頃、自分は当然〝上〟だと思っていた。中性的で端麗な魅力を持つパスカルが「俺が上」と言い張ったのは想定外。まさか自分が突っ込まれる側になるなど夢にも思わなかったのに――。
「ねぇ、すごいことになってるよ?」
パスカルの指が俺の先端を撫でる。溢れた雫をすくい上げるかのように。
「……んなとこ触んじゃねーよ」
「ぬるぬるしてて恥ずかしい?」
「黙れ!」
「可愛い。さっきは止められちゃったけど、今度こそ口でしてあげるね」
こいつの舌遣いは異様なほど巧みだ。本人は「いつもロリポップ舐めて鍛えてます」とジョークか本気か分からないことを言っていたが。
執拗に与えられる刺激で全身が熱を帯びていく。つい腰が動いてしまいそうになるのを堪えた。そんな自分が酷く淫らに感じられ、羞恥心がますます強くなる。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる