98 / 196
日常7【side.エリック】――対照的な二組
1
しおりを挟む十二月下旬。
二学期の終業式が直前に迫り、様々な雑務に追われていた今日。
残業を終えて帰宅した直後、「もういい、勝手にしろっ!」という苛立ちの声が耳を貫いた。また始まったか……?
愚痴祭り覚悟でリビングへ入る。
ノアはソファにもたれ、スマホを睨みつけていた。
「お前、またタケルと喧嘩したんだろ」
「だって! あいつマジ酷いんだもん!」
「先日はデレデレニヤニヤとメールしてたくせに。お前たちの関係、浮き沈みの激しいジェットコースターみたいだな」
「デレデレもニヤニヤもしてねーよっ!」
「コレはアレだよな……〝ケンカップル〟とか言うヤツ。傍から見る分には面白いが、ノアにとっちゃ死活問題だよな。今日は何にキレてんだ?」
「土曜に会う約束、勝手にキャンセルされた」
今週土曜――終業式の翌日か。
就職組のノアは冬休み丸々オフだが、進学組の生徒は補習などで登校する。と同時に、三年の担任も受験生のフォローで忙しい。俺含め、日程調整に苦労している教師が多いはずだ。
「大人ってのはいろいろ大変なんだ。ワガママ言っても仕方な――」
「ちげーんだよ! 仕事で忙しいとか疲れてるとかならオレだって納得するし! そうじゃなくて……『少し距離を置く』って言われた」
……何だ、その不穏な発言は。
まだ両想いになって一ヶ月程度。一緒に暮らす計画まで立てているというのに、もう駄目になりそうということか? 仮にノアがワガママ放題で振り回したとしても、あのタケルがそう簡単に冷めると思えないが……。
「何があったのかイチから話せ」
「……うん。先にメシ準備するよ」
今夜の夕食はカレー。
ダイニングテーブルに着いて食事を摂りつつ、ノアは経緯を説明してくれた。
発端は今日の放課後。
ノアは日直だったらしい。
ホームルームのあとで日誌を書き、教室に残っていたタケルに提出したというが――。
「漢字の間違いが多いから直すようにって言われてさ。タケルの指示で書き直してたんだけど……教室に二人きりだし? ちょっとくらいいいかなーと思って手を握ったらブチギレられた」
「……それで?」
「さっき電話が掛かってきて……そのときと全く同じことを注意されたんだ。ちゃんと『学校で触るのは絶対ダメって言われてたのにごめん』って謝ったんだぜ? なのに――」
タケルの言い分はこうだ。
『ノアは事の重大さを理解できていない。教師と生徒が関係を持っているなど、表沙汰になれば大問題に発展する。公私の区別をきちんとつけられないのなら土曜の約束はキャンセルだ』
――と一方的に突きつけられ、ノアもムキになってしまった。売り言葉に買い言葉で喧嘩勃発という流れだったらしい。
「『オレがせっかく時間空けてやったんだから会えよ』って言ったら、『何故そんなに上から目線なんだ』ってキレられた」
「素直に『会いたい』と言えないノアもノアだが、タケルは相変わらずツンデレ対処が下手だな」
「……それでさ! 『先に好きになったのはお前だから』って返して、『君も好きと言ってくれたのだから対等だ』って言われて。『好きなら誰もいない教室で触るくらいいいじゃん』、『好きだからこそ君との関係を確実に守りた――」
「だーもー、恥ずかしい奴らだな! 好き好き言い合いながら喧嘩してんじゃねーよ。新手のノロケか?」
「ちげーよっ! あいつ『そもそも都合が合うたび部屋に招いていたら〝卒業まで正式交際しない〟という約束の意味もない。自制心を持つために少し距離を置いた方がいいな』って自己完結しやがったもん。酷くね?」
心情的には、可愛い弟を全面擁護してやりたいが。第三者として意見を述べるのであれば〝どっちもどっち〟としか……。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
【正義のミカタ学園】 ※挿絵ありきのドタバタ会話劇
双葉
キャラ文芸
女の子四人でハチャメチャ学園生活!
メタ発言・顔文字を多用したおふざけ会話劇なので、そういったノリが苦手な方はBack推奨です(^^;)
※本編セリフのみ(台本風)
※漫画家さんにコミカライズしていただくのが夢なので、一緒にはっちゃけながら応援してくださる方募集中です!
※イラスト内に一部アイビスペイントの素材使用
※別サイトにも掲載



【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる