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日常2【side.タケル】――ツンデレ攻略法
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しおりを挟む金曜の昼休み。
職員室で小テストの採点を行っていると、隣からエリック先生に呼ばれた。昨日まで酷く沈んだ顔色をしていたが、今日の彼はすっかり元気を取り戻しているように見える。
「どうされました?」
「今夜時間があれば一緒に飯でもどうだ?」
「……おうちへお邪魔させていただくということですか?」
「いや、ノア抜きで」
つまり僕と二人きり、ノアには聞かれたくない話があるということか。「構いませんよ」と返した。
一日の業務を終えた午後七時。
エリック先生とともに個室居酒屋を訪れた。
と言っても今夜は車。ノンアルコールしか飲むことはできない。エリック先生はお酒が一滴も飲めない――初めてそう伺ったときは意外に思った。
席に着きドリンクと食事を注文。
それらがテーブルに揃ったところで本題へ入った。
「俺が伝えたかったのはパスカルのことだ」
「何か相談事が?」
「いや……。先日『もう終わったこと』と言ったばかりでアレだが、あいつも俺のことを必要としてくれてな。付き合うことになった」
「……そうですか」
「お前はノアが卒業するまで、正式に恋人という形は取らないと言っていた。俺がパスカルとそういう関係になることも不服だろう。だが……お前とは今後、ただの同僚という関係じゃなくなるはず。ノアを通して深い付き合いになっていくだろうから、話せることは話しておきたくてな」
以前の僕であれば「相思相愛だとしてもパスカルの卒業まで待つべきだ」と苦言を呈しただろう。
しかし今はそんなことを言える立場でない。僕もノアを部屋へ誘い、抱き締めようと考えているのだから。
「僕から言えることは……『パスカルが今年こそ卒業できるよう、残りの単位をしっかり取らせてください』くらいですね」
「ちょうど今日計算したんだが、残りの授業を全て出席すれば足りそうだ。数学に関しては危ういが、幸い教科担当が俺だからな。足りなければ放課後に個人補習を追加して稼げると思う」
「その話をするためにノアを外したんですね」
「あぁ。生徒の個人情報や成績に関する話は、いくらノアであっても漏らすワケにいかねーから」
僕も一組の古典担当だ。
何か協力できることがあれば――と思ったが。
パスカルの担任を務めていた年の終わり頃から、彼が古典の授業をサボることはなくなった。再三の注意が功を奏したのだろう。定期テストも毎回平均点は取れている。僕は見守ることくらいしかできないかもしれない。
「エリック先生が元気になればノアも安心でしょう」
「まぁな。ノアにとっちゃ鬱陶しいサボり魔なワケだが、パスカルとの関係を応援すると言ってくれた。それはタケルのおかげでもある」
「何故です?」
「ノアが俺以外に大切な人を得たから。きっかけは最低だったかもしれんが……お前の一途な想いがノアの心を動かした。それは紛れもない事実だろ?」
僕の存在がノアに良い影響を与えるなら喜ばしいが、僕たちの関係は前途多難だと感じる。特に学校で過ごす時間に関しては。
週末に会う約束をしてからは校内で会話する機会もなかった。僕の被害妄想かもしれないが、目が合わないよう顔を背けられている気もした。
「僕からもエリック先生にお聞きしなければと思っていたんです。日曜の午前から夜まで、ノアを僕の家へ招いて構いませんか?」
「好きにしろ。いちいち許可取る必要ねーよ」
「いえ、大切な弟さんをプライベートで預かるわけですから。保護者であるエリック先生にはきちんと把握しておいていただき――」
「面倒クセェ奴だな。そんな調子じゃまたノアにキレられるぞ」
「……気を付けます」
「だがお前、日曜は仕事入ってなかったか?」
「全て明日にまとめました。ノアからのメールに『短い時間のために外出するのは面倒だ』と書いてあったので。嫌な思いをさせないためにも丸一日空けたかったんです」
「あーっと……その文面まだ残ってるか? 俺にも見せてくれ」
「しかし本人の許可なく――」
「いいからスマホ見せてみろ」
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