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21【side.エリック】――パスカル/白(Second End)
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しおりを挟むパスカルの指が俺の唇に触れる。
美麗な顔立ちが台無しの、歪な泣き笑い。
「あんたとキスしたいな。ダメ?」
「……ならシャワー浴びてこい」
「何で?」
「妙なアロマの成分を綺麗さっぱり流してこいって意味だ。今は大丈夫だが……またそのうちユリの匂いに引きずられちまう」
「それでよかったのにな」
「お前、普段は綿菓子みたいな甘い香水つけてるだろ。ずっと黙ってたが……俺、あの匂い好きなんだよな。綺麗なお前によく似合う」
「……そっか。ありがと」
「だから尚更。妙なアロマに侵食されたお前を抱きたくねーよ」
「……なに言ってるの? これからも一生、あんたが抱かれる側だから。覚悟しといてね」
バスタオルを肩に羽織ったパスカルが風呂場へと向かっていく。
……お前は「釣り合わない」と言ったが。
本当は心の弱い者同士。
結構お似合いなんじゃねーかな。
+ + +
「――まさか二十歳で卒業証書を受け取るような高校生活になるとは思わなかったよね」
春の陽光の下。
屋上で顔を合わせるなり、パスカルは苦笑した。制服姿のこいつを見るのも今日で最後だと思うと感慨深い。
「ノアはどこいった?」
「あの子は最後のホームルームが終わってすぐ帰ったよ。『早く引っ越しの準備を進めたい』ってさ」
「そうか。あんなにちっこかったノアが高校を卒業して、来週には家を出ていくんだもんな……。時が経つのは早いぜ」
「寂しい?」
「そりゃな。だが代わりにお前が来るから。嬉しい気持ちの方が強い」
「なら良かった。毎日寂しそうに溜め息つかれたら俺の立場ないからね」
パスカルと並び、屋上から街を眺める。
ふいに右手を取られた。
交差するように指を絡めたパスカルが微笑する。
「離せよ。誰か来たらどうすんだ」
「見せつけとけばいいんじゃない?」
「駄目に決まってんだろ」
手を繋ぎたいのなら、ドアから死角になる場所で。足音が聞こえたらすぐ離れられるように。そう忠告しても、パスカルは動こうとしなかった。
「受水槽の陰に移動したら街が見えなくなっちゃうでしょ」
「お前、街の景色なんざ大して興味ないだろ」
「ここから市内を一望できるの、これで最後なんだもん。あとちょっとだけ、大好きな人に触れながら思い出に浸らせてよ。ね、エリック先生?」
「……ったく。お前には敵わんな」
さらさらとなびくパスカルの髪。
俺を見つめる美麗な笑顔。
絶対に離さない。
心に誓いを立て、大切な恋人の手を強く握り返した。
* * * * *
【この先の物語】
四人の心を深掘りする【真シナリオ】が始まります(それぞれの恋模様、生徒同士・教師同士に芽生える友情など)
二組のカップルが成立してから卒業までに一体どんなことがあったのか、本編の時間をさかのぼって見ていきます。
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