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20【side.パスカル】――ノア/白
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しおりを挟む「アニキとなにかあったのかよ。お前がアニキの気持ちをバカにしてケンカになったとか」
「まさか。日曜の夜、あの人から告白されて……今すぐ気持ちを切り替えるのは不可能だけど、前向きに考えたいと思ってた。あの人のことは元々信頼してたしね」
「お前の返事がそれだとしたら、なんでアニキはあんなにしんどそうなんだよ。なんで『早く忘れねーと』とか言うんだよ」
「……やっぱり忘れたがってるんだ」
「オレ、アニキの足枷になりたくない」
「エリックは絶対そんなこと思ってないから大丈夫」
「なんでそう言い切れるんだよ」
……お願いだから。
そんな澄みきった瞳で俺を見つめないでよ。
ノアは無邪気で純真で穢れを知らなくて。両親を亡くした不幸はあれど、大好きなお兄ちゃんからたっぷり愛情を注がれている。
対する俺は、ただ〝いるだけ〟の両親……。
俺もノアみたいに美しくありたかった。
綺麗なノアが眩しすぎて。
俺のように穢れを知ればいいのにと、醜い感情に支配されてしまった。
ノアのコンプレックスを散々からかって、自分の中にある嫉妬心を少しずつ消化した。
あの日……アロマを利用した交わりもそう。ノアは「タケルを盗られた腹いせ」と思い込んでいるだろうが、それはあくまで理由のひとつでしかない。
……だけど。
ノアを憎んだことは一度もなかった。
嫉妬は、裏を返せば羨望の証。
綺麗なノアが羨ましくて、その輝きに憧れて、仲良くなりたい気持ちもあった。だからこそ身体を交えたあと居たたまれなくなって、何のフォローもせず逃げてしまった。本当に酷いことをしてしまった。
それでもノアは、俺を突き放さずにいてくれる。どうしてそんなに綺麗でいられるのだろう。やっぱり、心の綺麗なエリックと一緒に暮らしているからかな。
俺なんかの穢れには絶対染まらない強さと美しさ。そんな子だからタケル先生の心も掴んだ。
真っ黒な自分がまた大嫌いになる。
また惨めになる――。
「ノアは何も気にしなくていいから。これは俺たち大人の問題だ」
「急に大人ぶるんじゃねーよ。お前だって高校生だろ」
「もうすぐハタチになるけどね」
「……とにかく! お前とは和解する、ちゃんと友達になるってことで。お前はオレに逆らえる立場じゃねーんだからな。文句言うなよ?」
「逆らえる立場じゃないって、それは友達と言えるの? 完全に上下関係が出来上がってるよね」
「それはそうだけどっ!」
「俺なんかと友達になったら危ないよ? 好きになったのはタケル先生だけど、好みのタイプはキミみたいに可愛い男の子だと言ったよね」
警戒して身を引くかと思ったのに。
ノアはその場から全く動かなかった。
「俺なんかのこと、信じていいの?」
「本当にどうしようもないロクデナシだったら、最強にシブくてかっけーアニキが惚れるはずねーもん。だから信じてやるよ」
「エリックって人を見る目がないよね」
「アニキをバカにすんなっ!」
「でもキミだってそう思ったんじゃないの? 『あんなサボり魔のどこがいいんだ、趣味悪すぎ』って」
「……アニキは人を見る目だってあるに決まってる!」
「じゃあ訊くけど、エリックは俺のどこが好きなんだと思う?」
「……さっぱり分かんねー」
「でしょうね。本人に直接訊いてみたら?」
「そんな必要ねーもん! アニキに教えてもらわなくたって、お前の良いところくらい自分で見つけられる。友達になったんだから」
「…………あーあ。なんかもう、ホント良い子すぎてバカらしくなってきた。俺の負けは最初から決まってたなって思うよ」
「オレはもうお前のこと許してやったから。お前もこれからはチビ呼ばわりすんなよ?」
「うん。もうしない」
こんな俺を許してくれてありがとう。
でもごめんね。
俺はノアみたいに綺麗になれない。
どす黒く濁ったままだ。
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