【完結/おまけ追加中】幻惑の華 ※次回のNewシナリオ追加は3月21日~予定です

双葉

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20【side.パスカル】――ノア/白

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「アニキとなにかあったのかよ。お前がアニキの気持ちをバカにしてケンカになったとか」

「まさか。日曜の夜、あの人から告白されて……今すぐ気持ちを切り替えるのは不可能だけど、前向きに考えたいと思ってた。あの人のことは元々信頼してたしね」

「お前の返事がそれだとしたら、なんでアニキはあんなにしんどそうなんだよ。なんで『早く忘れねーと』とか言うんだよ」

「……やっぱり忘れたがってるんだ」

「オレ、アニキの足枷になりたくない」

「エリックは絶対そんなこと思ってないから大丈夫」

「なんでそう言い切れるんだよ」

 ……お願いだから。
 そんな澄みきった瞳で俺を見つめないでよ。

 ノアは無邪気で純真で穢れを知らなくて。両親を亡くした不幸はあれど、大好きなお兄ちゃんからたっぷり愛情を注がれている。

 対する俺は、ただ〝いるだけ〟の両親……。

 俺もノアみたいに美しくありたかった。
 綺麗なノアが眩しすぎて。
 俺のように穢れを知ればいいのにと、醜い感情に支配されてしまった。

 ノアのコンプレックスを散々からかって、自分の中にある嫉妬心を少しずつ消化した。

 あの日……アロマを利用した交わりもそう。ノアは「タケルを盗られた腹いせ」と思い込んでいるだろうが、それはあくまで理由のひとつでしかない。

 ……だけど。
 ノアを憎んだことは一度もなかった。
 嫉妬は、裏を返せば羨望せんぼうの証。

 綺麗なノアが羨ましくて、その輝きに憧れて、仲良くなりたい気持ちもあった。だからこそ身体を交えたあと居たたまれなくなって、何のフォローもせず逃げてしまった。本当に酷いことをしてしまった。

 それでもノアは、俺を突き放さずにいてくれる。どうしてそんなに綺麗でいられるのだろう。やっぱり、心の綺麗なエリックと一緒に暮らしているからかな。

 俺なんかの穢れには絶対染まらない強さと美しさ。そんな子だからタケル先生の心も掴んだ。

 真っ黒な自分がまた大嫌いになる。
 また惨めになる――。


「ノアは何も気にしなくていいから。これは俺たち大人の問題だ」

「急に大人ぶるんじゃねーよ。お前だって高校生だろ」

「もうすぐハタチになるけどね」

「……とにかく! お前とは和解する、ちゃんと友達になるってことで。お前はオレに逆らえる立場じゃねーんだからな。文句言うなよ?」

「逆らえる立場じゃないって、それは友達と言えるの? 完全に上下関係が出来上がってるよね」

「それはそうだけどっ!」

「俺なんかと友達になったら危ないよ? 好きになったのはタケル先生だけど、好みのタイプはキミみたいに可愛い男の子だと言ったよね」

 警戒して身を引くかと思ったのに。
 ノアはその場から全く動かなかった。

「俺なんかのこと、信じていいの?」

「本当にどうしようもないロクデナシだったら、最強にシブくてかっけーアニキが惚れるはずねーもん。だから信じてやるよ」

「エリックって人を見る目がないよね」

「アニキをバカにすんなっ!」

「でもキミだってそう思ったんじゃないの? 『あんなサボり魔のどこがいいんだ、趣味悪すぎ』って」

「……アニキは人を見る目だってあるに決まってる!」

「じゃあ訊くけど、エリックは俺のどこが好きなんだと思う?」

「……さっぱり分かんねー」

「でしょうね。本人に直接訊いてみたら?」

「そんな必要ねーもん! アニキに教えてもらわなくたって、お前の良いところくらい自分で見つけられる。友達になったんだから」

「…………あーあ。なんかもう、ホント良い子すぎてバカらしくなってきた。俺の負けは最初から決まってたなって思うよ」

「オレはもうお前のこと許してやったから。お前もこれからはチビ呼ばわりすんなよ?」

「うん。もうしない」

 こんな俺を許してくれてありがとう。
 でもごめんね。
 俺はノアみたいに綺麗になれない。
 どす黒く濁ったままだ。


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