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4【side.タケル】――白
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しおりを挟む首まで真っ赤に染めたまま、ノアは走り去ってしまった。おそらく添木の知識などなく、自身のなかにあるイメージで助けようとしたのだろう。
丁寧に直すべきか悩んだものの、あの子の心遣いをそのまま残してあげることにした。不格好ではあるが枯れてしまうことはなさそうだったから。
職員室に戻ると、エリック先生がデスクで競馬新聞を広げていた。普段なら注意するが、今はノアについて訊ねたい。エリック先生と二人きりで話がしたいと伝え、進路指導室へ移動した。
「――んで? ノアがまた何かやらかしたのか?」
「いえ……今回は僕の方が。本当はノアに直接謝罪したかったのですが、校内を探したものの見つからなくて」
「何があったんだ?」
「彼が花壇に悪戯していると勘違いし、怒鳴りつけてしまいました。実際は茎の折れたチューリップを助けてあげていたんです」
「ハハッ、あいつらしいな」
「……やはりエリック先生はお兄さんですね。担任となって二ヶ月弱の僕など、ノアの人柄を何ひとつ理解してあげることができず――」
「ったく、大袈裟な奴だな。そんな調子だから生徒に煙たがられるんだ」
「……すみません」
「ノアは昔『将来の夢はアニキになること』とか言っててな。いろんな面で俺の真似をしたがるんだ。言葉が汚いのは俺のせいだから、叱るなら俺を叱ってくれ」
僕にも離れて暮らす弟がいるが、成人してからは年末年始に会うだけの薄い関係だ。仲睦まじい彼らが少し羨ましい。
「ノアはエリック先生のことを強く慕っています。〝好かれる兄のコツ〟のようなものはあるんですか?」
「あいつは特別だからな……。そっち方向のアドバイスを求められても困っちまうな」
「どういう意味です?」
「……お前、マジでノアと向き合いたいと思ってくれるのか?」
「当然です。大切な僕の教え子ですから」
「なら昔話をしてやるよ」
エリック先生から語られたのは衝撃の事実だった。
彼らが血の繋がりのない兄弟だということ。
ノアの悲惨な幼少期――。
「あいつは今も〝自分を愛してくれる両親〟という存在に憧れがあるんじゃねーかな。温かな家庭というものに対する嫉妬心や劣等感。人からガキ呼ばわりされるとムキになって怒るのも……たぶん『いい歳した男が恥ずかしい』って自覚があるからじゃねーかと」
「……そんな複雑な家庭事情だったとは知らず、エリック先生の接し方に問題があるかのように責めてしまって。申し訳ないです」
「謝らなくていい」
「いえ、僕は反省しなければなりません。エリック先生のことを完全に誤解していました。責任感の欠片もなく適当に仕事していると呆れていましたが……血の繋がりのない子を引き取って育てるなど、多大な覚悟と包容力がなければ務まりません。少なくとも僕には真似できない」
「んな褒められると照れちまうな。尊敬してくれていいぜ?」
「調子に乗らないでください」
「ワリィ。ノアはワイルドな男に憧れてイキがってるが、本当はピュアで優しい奴なんだと気に留めておいてくれ」
「……はい」
「タケルが本気でノアを心配してたってこと、俺から話しといてやるよ」
「いえ。それは僕自身の口から」
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