【完結/おまけ追加中】幻惑の華

双葉

文字の大きさ
上 下
8 / 194
3【side.パスカル】――白

しおりを挟む


「そっか、タケル先生は今月赴任してきたばかりですもんね。どうりで威勢がいいわけだ」

「何のことだ?」

「俺の親父、警察官なんですよ。階級は警視長。今の警察組織だと上から三番目だったかな?」

「だからどうした」

「……え」

「親父さんの職業など関係ないだろう。君がだらしない学園生活を送っている以上、それを改めさせるのが教師・学校の努めだ。そんな舐め腐った態度も校則違反も決してあってはならない。必ず直せ」

「……へぇ。あんまり面倒くさいお説教をするなら親父に言いつけちゃおうかな?」

「言いたければ言えばいい。僕は何ひとつ間違っていないからな」

 熱意と自信に満ちた瞳。
 正義感溢れる心。
 俺とは対極の位置にいる。

 あまりにも真っ直ぐすぎて。
 性根の腐った俺とは大違いで。
 思わず吹き出してしまった。

「何が可笑しい!」

「いや……どうせタケル先生も他の教師と同じ、コロッと態度を変えると思ったんですけどね。親父に目を付けられたくないって」

「馬鹿馬鹿しい。生徒の違反を指摘するのは教師の義務だ。臆して何も言えない方が間違っている。そういった事実があるのならば、明日の職員会議で僕から問題提起しておこう」

「どうせ黙殺されておしまいですよ」

「そんなことはありえない! そもそもカタリナ高校は風紀が乱れすぎなんだ。エリック先生のように職員室で競馬新聞を広げるふざけた教師もいる。僕はカタリナ高校の風紀向上、そして生徒の健全な未来を担うと誓ったんだ」

「ただの高校教師が、まるで世界の命運を握るヒーローの如し……ですね。暑苦しいな」

「暑苦しいだと!?」

「だから、声が大きいってば。タケル先生のせいでさっきから耳が痛いんですけど」

「……すまない。とにかく僕は、カタリナ高校をより良いものにしていく。君の生活態度も改めさせる」

「無駄だと思いますけど」


 進路指導室を出る際、タケル先生は奪い取ったロリポップを返してくれた。学校で食べるのはこれで最後にしろと言われたが、当然やめるつもりなどない。

 次の日からも俺は変わらぬ態度で生活していた。タケル先生は何度もしつこく説教してきたが、笑ってかわすだけの日々。

 いい加減諦めればいいのに。
 いつまで俺に構うつもりだろう。

 誰も〝ゴミ生徒〟のことなんか見ていないはずだったのに――。


 高校二年の終わり頃、担任としてのタケル先生から最後の呼び出しがあった。

「学年が変わり鬱陶しい担任から逃げられると思ったら大間違いだぞ。来年もずっと君のことを注意し続けるからな」

「諦めの悪さ、ギネス級ですね」

「あぁ」

「俺のおちゃらけた態度にいちいちカッカしなくなりましたよね。タケル先生が成長したってことなんでしょうけど、反応薄くてつまんないです」

「……君も多少は変わったんじゃないか?」

 タケル先生が俺の首元を指さす。今日はネックレスをしていない。校則を守ろうとしたわけじゃなく、ただ着け忘れただけだ。

 タケル先生の努力が実を結んだわけじゃないよ?
 そう伝えようとしたのに。

 彼の顔に珍しく笑みが浮かんだ。
 こんなふうに爽やかな顔もするんだ。

 ……でもさ。
 本音を言えば、その真面目な顔をゆがませてみたい。

 俺が「タケル先生のなかに入りたい」と言ったらどんな顔をするかな……なんてね。こんないびつな感情は妄想だけに留めておかないと。

 孤独なゴミ生徒だったのに。
 性格歪みまくりの問題児なのに。

 一年間相手にしてくれてありがとう。
 俺のことを見ていてくれてありがとう。

 俺は明日からも変わらない、カタリナ高校の厄介者だけど。
 タケル先生のこと、好きでいさせて。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

処理中です...