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3【side.パスカル】――白
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しおりを挟む「そっか、タケル先生は今月赴任してきたばかりですもんね。どうりで威勢がいいわけだ」
「何のことだ?」
「俺の親父、警察官なんですよ。階級は警視長。今の警察組織だと上から三番目だったかな?」
「だからどうした」
「……え」
「親父さんの職業など関係ないだろう。君がだらしない学園生活を送っている以上、それを改めさせるのが教師・学校の努めだ。そんな舐め腐った態度も校則違反も決してあってはならない。必ず直せ」
「……へぇ。あんまり面倒くさいお説教をするなら親父に言いつけちゃおうかな?」
「言いたければ言えばいい。僕は何ひとつ間違っていないからな」
熱意と自信に満ちた瞳。
正義感溢れる心。
俺とは対極の位置にいる。
あまりにも真っ直ぐすぎて。
性根の腐った俺とは大違いで。
思わず吹き出してしまった。
「何が可笑しい!」
「いや……どうせタケル先生も他の教師と同じ、コロッと態度を変えると思ったんですけどね。親父に目を付けられたくないって」
「馬鹿馬鹿しい。生徒の違反を指摘するのは教師の義務だ。臆して何も言えない方が間違っている。そういった事実があるのならば、明日の職員会議で僕から問題提起しておこう」
「どうせ黙殺されておしまいですよ」
「そんなことはありえない! そもそもカタリナ高校は風紀が乱れすぎなんだ。エリック先生のように職員室で競馬新聞を広げるふざけた教師もいる。僕はカタリナ高校の風紀向上、そして生徒の健全な未来を担うと誓ったんだ」
「ただの高校教師が、まるで世界の命運を握るヒーローの如し……ですね。暑苦しいな」
「暑苦しいだと!?」
「だから、声が大きいってば。タケル先生のせいでさっきから耳が痛いんですけど」
「……すまない。とにかく僕は、カタリナ高校をより良いものにしていく。君の生活態度も改めさせる」
「無駄だと思いますけど」
進路指導室を出る際、タケル先生は奪い取ったロリポップを返してくれた。学校で食べるのはこれで最後にしろと言われたが、当然やめるつもりなどない。
次の日からも俺は変わらぬ態度で生活していた。タケル先生は何度もしつこく説教してきたが、笑ってかわすだけの日々。
いい加減諦めればいいのに。
いつまで俺に構うつもりだろう。
誰も〝ゴミ生徒〟のことなんか見ていないはずだったのに――。
高校二年の終わり頃、担任としてのタケル先生から最後の呼び出しがあった。
「学年が変わり鬱陶しい担任から逃げられると思ったら大間違いだぞ。来年もずっと君のことを注意し続けるからな」
「諦めの悪さ、ギネス級ですね」
「あぁ」
「俺のおちゃらけた態度にいちいちカッカしなくなりましたよね。タケル先生が成長したってことなんでしょうけど、反応薄くてつまんないです」
「……君も多少は変わったんじゃないか?」
タケル先生が俺の首元を指さす。今日はネックレスをしていない。校則を守ろうとしたわけじゃなく、ただ着け忘れただけだ。
タケル先生の努力が実を結んだわけじゃないよ?
そう伝えようとしたのに。
彼の顔に珍しく笑みが浮かんだ。
こんなふうに爽やかな顔もするんだ。
……でもさ。
本音を言えば、その真面目な顔を歪ませてみたい。
俺が「タケル先生のなかに入りたい」と言ったらどんな顔をするかな……なんてね。こんな歪な感情は妄想だけに留めておかないと。
孤独なゴミ生徒だったのに。
性格歪みまくりの問題児なのに。
一年間相手にしてくれてありがとう。
俺のことを見ていてくれてありがとう。
俺は明日からも変わらない、カタリナ高校の厄介者だけど。
タケル先生のこと、好きでいさせて。
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