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祝賀会といっても、スタイルは夜会と同じ。
陛下と王妃がいる中、主役は私。
気まずいじゃん? 普通に考えてさ。
だから祝賀会が決まってすぐ、私は殿下に一つの提案をした。

我がブルゴー公国を皆さんに知ってもらうため、料理提供をしたいとね。

そうすれば、色んな柵から逃げられると考えたってわけ。

ならば王家の馬車を出すと、王妃様からの提案で食堂スタッフとリージーを乗せ、王城まで出張してもらうことになった。

馬車の前に迎えに行けば、顔を真っ青にした面々が降りて来た。

「ももももモリガン様。
王家の馬車に乗るなど……命がいくつあっても足りません……」

「モリガン様だー! わぁ! そのドレス姿素敵ですー」
 
平常運転のリージー頼もしいわね。

ふかふかで痛みのない馬車は、逆に怖すぎて尻を浮かせ空気椅子のようにしていた者もいたしく、到着する頃には疲労していた。
みんなの気持ち、痛いほど分かるから回復魔術をかけてあげよう。
あ、リージーはいらないわね。


宮廷料理人の皆さんは退室してもらい、調理場を借りることになった。
料理長は渋っていたが、殿下の一言で出てもらうことに。

国王陛下や王妃など、国の頂点たる面々が食べるとなると豪華な盛り付けが必要だ。
けれど堅苦しくない立食スタイル。
陛下と王妃だけ座って召し上がるそうだ。

ならば、料理はビュッフェスタイルで取りやすく食べやすい盛り付けにしよう。

王妃様は座っていても大口を開けられないだろうから、一口スタイルが理想的じゃない?

生野菜はピンチョス。
トマトや胡瓜にブルゴー産ハムを花のように盛り付けピンで刺す。

チーズを用いた料理では、ガーニッシュトレイ。
スプーンの上で美しく盛り付け、そのまま食べれるようにする。
王城だもの。道具はたくさんあるわよね。

揚げ物は茶色で埋まってしまうため、串に刺し揚げ、周りを薄くスライスした野菜で包みロール状に。
これで揚げ物も華やか!

主食のパンは惣菜パンとハードパンに分け、ハードパンはカゴに盛り付け、目の前にはバターやジャムなどお好みで楽しめるように。
惣菜パンは、ミニサイズにしてコーンマヨ・タマゴサンド・塩パンなど様々な種類を立て一列に陳列。
わぉ、パン屋みたいね。

どこが豪華な盛り付けなのかと言われれば答えられないけど、許してほしい。
だって私、ただのOLだもん。
豪華なランチだって、ホテルのビュッフェぐらいよ?

飲み物は我が公国誇るワイン。
テレルのワインだ。
白と赤。シャンパンも用意。
もちろん、ソフトドリンクもね。

並ばれる数々の料理に会場は賑わう。
普段冷めてしまう料理も今日は違った。

陛下と王妃がいらっしゃる前に堪能しようと多くの貴族が皿を手に取る。
女性は盛り付けの美しさにうっとりだ。

そんな中、陛下と王妃ご入場。
一同頭を下げ、着席を待ち許可が下りれば晩餐会の開始だ。

「此度の食事はブルゴー公国が手掛けていると聞く。
実に楽しみにしておるぞ」

「ありがとうございます。
ご期待に応えてみせますわ」

陛下と王妃には、コース形式で一皿一皿丁寧に盛り付けし、付け合わせのソースで線を描き華やかに。

「おお。これは見事な……」

「ブルゴー公、の料理か?」

「仰る通りです」

お二人は異世界料理に舌鼓を打つ。
の人達からしたら、日本人の食への熱意は理解できないかもね。

お二人には特別ステーキをお出しした。
王妃様には一口サイズに切った肉の上に、にんにく・大根おろしなど何種類か味を変えて楽しめるように工夫。

「王妃様にはこちらを」

「何故じゃ」

「肉料理は女性の胃に厳しいですから、少しでも多くの味を楽しめるよう工夫させて頂きました」

これには王妃も大満足のご様子。
思わず殿下とこっそり喜びを分かち合った。

そして極め付けはデザート。
ようやく一定量の生産を実現させた生クリーム様のお通りよ。

ショートケーキにチーズケーキ。
フルーツタルトにミルクレープ。
シュークリーム、プリンにフルーツゼリー。

サイコロ型にカットしたケーキの数々。
フルーツタルトはカップ型。
シュークリームはクロカンプッシュにして目を惹く演出。
食べれるお花を添えて可愛くしてみた。
プリンやゼリーはグラスに入れて煌びやかに。
どう? 渾身の可愛いを演出してみたよ。

さて、皆さんデザートを食べているので私は食事を摂ろうかな。

「モリガン様、お食事をするならあちらに」

「え?」

背後にいたハインに案内されたそこは、イザベルとシャルロッテがいるテーブルだった。
立ちながらではあるが、料理を楽しめているようで良かった。
私に気が付いたシャルロッテ様が満面の笑顔で近づいて来る。
先を越されまいとイザベル様も隣へ。
そして、頭を下げた。
何してるの二人とも。

「モリガン様、許可を」

「イザベル様、シャルロッテ様。
素敵なお召し物ですわね。よくお似合いよ」

そうだ、私公爵だった。
いや忘れてなどいませんよ? まだ慣れていないだけさ。

「嬉しいですわ、ブルゴー公爵様。
このデザインを着こなせる女性になるべく、頑張りましたの」

「シャルロッテたら、こっそり運動をして身体を磨いておりましたのよ?
ずるいですわ。ね? ブルゴー公爵様」

「ふふ、それは仕方ないわ。
イザベル様。
女たる者、美の追求は内密に行うものですもの」

「ダイエットしてるでしょ?」「してないよー!」と言いながら、影で懸命に努力するのが女というもの。
よくあるよね、友人同士で隠しあってるやつ。

「随分と華やかな面々だね。私も混ぜてくれないか? モリガン」

「まわりを見てご覧。イザベル、君の美しさに見惚れているではないか」

お二人には敵いませんよ。
ルードルフ殿下とマクシミリアン殿下。
物腰の柔らかさや言い回しが兄弟よく似ていらっしゃる。
お二人ともワイン片手に婚約者の腰を抱くんだから。

「あら、フリードリヒ殿下はどちらに?」

「フリードリヒは気分が優れないらしくてね。席を外しているよ。
ブルゴー公の栄光を讃える会だというのに、弟がすまないね」

「いえ、お気遣いありがとうございます」

フリードリヒ殿下、拗らせてるなぁ。
シャルロッテ様がかわいそうだ。

「ところでモリガン、我々王族の美しい婚約者がなんと言われているか知っているかな」

「私たちですか?」

「そう。モリガン、君は薔薇」

「イザベル、君は百合だ」

「まあ、嬉しいですわ」

「シャルロッテ嬢は牡丹だそうだ」

「身に余る言葉ですわ。ルードルフ殿下」

薔薇は美しいが棘があるため、簡単に触れることの出来ない花である。
百合は気高く美しい、品のある花だ。
牡丹は華やかで可憐な花だ。最近、柔らかく笑顔を見せてくれると噂になっているらしい。

さすがは貴族。
日本人男性にはなかなかできないキザな言い回しだ。

マクシミリアン様はルードルフ様とともに挨拶を受け、貴族の相手を始めたので、背後に待機していたハインが隣へやってきた。

「やっと隣に立てます。
貴女の腰に手を回したくて我慢するのに苦労しました。褒めてください」

「ばか」

その後、ヴァレンロード侯爵が挨拶に来てくれたのだが、ヴァレンロード侯爵より位が高くなるなんて想像もしていなかったから、発言の許可を出すのが遅れてしまい、笑われてしまった。

「薔薇はどこまでも高貴になられましたな」

「その噂、ヴァレンロード侯もご存知でしたの?
恥ずかしいのでお忘れください」

「美しい薔薇には棘があるとはよく言うが、貴女自身の棘は鋭いがとても柔らかい。
それよりも貴女の傍で蔓となり、害する者を容赦なく排除する我が甥が恐ろしいですな」

「お褒めに預かり光景です」

「ハインリヒ……褒めてるつもりはないのだが」

胸に手を当て、誇らしげに微笑むハインに本家当主も呆れ顔だ。
私の指先に現れた家紋を見て、侯爵は胸に手を当て会釈した。

「やはり忠誠の儀をしたようですな。
遅かれ早かれ、すると予想していたが女性には少し酷ではないか? ハインリヒ」

「命を捧げる主人がいる事、これこそ史上の喜びです。そうでしょう? 叔父上」

「はは、違いない」

ヴァレンロード当主である侯爵は、陛下に忠誠の儀を行ったのだと後に聞いた。
女性に酷だと言ったのは、騎士の重い命を背負うのには華奢すぎるのではないかと心配してくれていたらしい。

「最近ではブルゴー公国の騎士になりたいと志願するうちの若い者が多くてね。
既にハインリヒが騎士団長を務めているので、派遣という形でそちらにお邪魔しても宜しいかな?」

「それは有り難いですわ。ね? 

「騎士として恥じぬ理由であれば」

「ははは! さあそれはどうかな?
触れることのできない花ほど刈り取ってみたくなるものよ」

刈り取られるのはお断りしたいものだ。
すでに天使と騎士に刈り取られ、花瓶に挿され管理されている気がしますので。

「あの結晶、盗まれたと聞きましたか?」

「え……いえ、初耳です」

「魔人化する結晶、あんな危険なもの盗むとは一体犯人は何を考えているのでしょうな」

持ち出すのに触れているだろうから、犯人は既に魔人化しているだろう。
今もどこかで人間の命を狙い徘徊しているかもしれない。
二度と犠牲者を出したくなくて、国に預けたのに……。

「モリガン様、貴女は帝国の大事な公爵。
いずれ大公になられるお方。
そんな貴女が自ら剣を取る必要はありません」

「ハイン……」

「その通りですぞ。
今貴女を失うのは帝国の財を失うのと同じ。
公爵であり一国の主である貴女が前線に出る必要などないのですよ。
出るとしたら、王位を継ぐ第一王子か第三王子でしょう。
本来は強大な力を持つ第三王子が赴くのが得策ですが、殿下は貴女の婚約者。
公国の世継ぎも……残さねばなりませんからな」

最後の一言に、ハインの瞳が細められた。
機嫌を損ねたかと思いきや、ほくそ笑み、家紋のある心臓に手を添えた。

「マクシミリアン殿下とモリガン様の子、どれほどまでに美しい子が生まれるでしょう」

「……ッ」

「ハインリヒ」

「これは失礼致しました。我が愛しき主」

頬を赤く染めたのは恥ずかしいからではない。
ハインの手が私の背中をするりと撫でて、腰をトントンと突いたからだ。
その意図に気付いてしまったから、身体が火照てしまっただけ。
本当は気付いているくせに、気付かぬふりをして忠実に振る舞うハインをひと睨みしてやった。


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