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日本にいる家族、友達、同僚の皆さん。
お元気ですか?
私は異世界に飛ばされてからなんとか生きています。
けど、皆さんに謝らなくてはいけません。
何せ私には愛人ができてしまいました。
ええ、イケメンですよ。
それも“超”が付くね。

そんなイケメン愛人とは、本日開かれる夜会で会うことになります。
いやはや複雑ですよ。
なんせその日は、私婚約者と出席するんですから。
しかも、王族主催の夜会となれば出席必須。
断ることは不敬です。ええ、打首ですよ。

アンナは朝早くから念入りに準備をしていて、取り付く暇もありません。
朝の鍛錬を控えるようにと言われたけど、それは無理。
勇者は1日にしてならず。
異世界チートなにそれ? おいしいの?

リージーのご飯を食べて、今日はアンナ様によるオリジナルコルセットを着用……させていただきますから、そんな怖い顔しないでよ。

伸縮素材で作ってもらったコルセットは、可愛いご令嬢方が着るコルセットとは違い、サポーターに近い感じ。
しっかり体のラインを整えつつでも苦しくない。
私のお母さんが着ていたコルセットを思い出して作ったから、の美と違うと思う。
普段はそんなコルセットを使って胸も潰しているけど、今日着用はアンナが企画したコルセットで胸を潰さないタイプ。
つまり今日は“おしとやかにしなさい”ということである。

「モリガン様、宜しいですか?」

「セバスね。どうぞ」

「失礼致します」

アンナが頭を下げ、殿下をお迎えする。
私も立ち上がり、殿下を迎えなきゃ。
高いヒールを履いて、淑女の礼をすれば、息を飲むような音が聞こえた。

「美しい……まさに女神だね」

「お久しぶりです。でん……か」


ぐはぁっ!! 殿下の王族正装スタイル、やばーい! 刺激が……刺激が強すぎる。

手袋を外した綺麗な手が私の頬に触れ、優しく撫でる。
はっ! 名前、名前で呼ばなきゃ。


「マクシミリアン様……あ、えと」

「ふっ……気が付いてしまったか。残念」

「お仕置きしようとしたのに」なんて冗談笑えませんから。
身に付けている宝石の数々は殿下からの贈り物で、色はアイスブルー。
殿下の瞳の色を表した宝石がティアラとイヤリング、ネックレスになり光を反射させ輝いている。

馬車に乗り首都へ出発。
時間で言えば6時間程度だがお尻が痛いのなんの。
途中休憩を挟み、なんとか首都へ到着。
会場は王城。身分毎に馬車を停める馬車が決まっている。
本来ならば中間地点あたりで停車し、そこそこ歩くのだが、今回は殿下ぎいるので入り口目の前だ。

既に多くの貴族が入場していて、中から美しい音楽と楽しそうな声がする。
これまた下位貴族から徐々に入場するため、私達の到着は最後と言えるほど遅かった。

殿下は私をエスコートするためにわざわざブルゴーまでいらした。
本来ならば、王城で家族と入場するはず。
良かったのかと聞けば、にっこり天使スマイル。
王位継承権を辞退するのだから必要ないとのことでした。

殿下にエスコートされながら踏むのも怖い絨毯の上を歩く。
あのいけすかない宰相もいる事だし、ここは淑女として完璧に振る舞わねば、私のプライドが許さない!

意気込んでいると殿下にぐっと腰を引かれ、何かと殿下を見れば甘い笑顔。
うぐっ……息詰まるよ。綺麗すぎる。
そんな殿下に見惚れる執事やメイドたち。
いや、貴方達見慣れてるんじゃないの?

「私ではなく貴女を見ているのだ」

「まさか、殿下より美しい者などこの世に居りませんわ」

「ふっ……そんなことない。今まさに隣にいるではないか」


あっまーい!! 甘いです。
イチャイチャするつもりはないけど、殿下の返しが甘すぎて砂糖吐きそうだよ。


騎士によって扉が開かれた先には大勢の人・人・人。
そしてその大勢の人が一斉にこちらを向いた。
ひえぇ!! 数の暴力だ!

理由はただ一つ。殿下がいらしたからだろう。
夜会に出るのは子供の時以来だと言っていたから、殿下のことを知らない貴族もいるようだ。

「第三王子、マクシミリアン・ハプスブル様のご入場である!」

その声に辺りがざわつき、そして静まり返った。
皆、頭を下げている。
圧巻の景色だが、私には戸惑いと恐怖でしかない。
引き締めた気持ちが引っ込むぐらい衝撃的だ。
少し怯みかけた私の腰をスッと支え、手の甲にキスを落とした殿下。

「行こう。私の勇者様」

「ッ、はい」

キスを落とした殿下のお姿を見れたのは私一人だけ。
殿下が許可を出さない限り、皆は頭を上げてはならない。

コツコツと二人の足音が響く。
殿下が通り過ぎれば、それは許可と同じらしく、尾から徐々に顔を上げる貴族達。
ご令嬢はうっとりと息を吐いているのが聞こえる。

通り過ぎる殿下から羽と光の褒美を渡されれば、女性は虜だ。
けど、ひとつ気になることがある。
なぜ、男性方までうっとりしている?
殿下の美は性別の壁を越えるというのか。
そんな……すごすぎる。

「……モリガン、違うよ」

「え?」

「皆、貴女の美しさに惚けている」

「まさかご冗談を」

「そう思うか?」

「えぇ」

「……なら、自覚してもらわねばなるまい」

「?」


先頭まで移動し、頭を下げていた貴族全員が直った所で、次は王族のお出ましだ。
殿下を除いて、私含む全員が首を垂れる。

「面をあげよ」

私をこの世界に巻き込んだ国王陛下め。
偉そうにして……って、この国一偉いんだった。
私を見て鼻で笑う第一王子と第二王子。
やっぱ貴方方性格悪いでしょ?

あれ? けど王妃様の態度が以前と違うような?
心なしか優しい瞳と笑みを向けてきている気がする。

国王陛下の挨拶が終わり、本格的に夜会が始まった。
まずは陛下と王妃へのご挨拶をするのに並ぶとしましょう。
上位の貴族から順に挨拶するのが決まり。
ならば私は伯爵位だから……って、殿下?

「私とこちらへ」

「でもわたくしは……」

「私の婚約者を一番に挨拶させなくてどうするというのだ」

中間辺りへ移動しようと下がった私の腰を殿下は優雅に引き寄せ先頭へ。
まだ心の準備が出来ていないわ!?

「おぉ、マクシミリアン。待っていたぞ」

「最近会えなくて寂しいわ。
貴方の元気な姿はあまり見たことないもの。
もっと王城にいてちょうだい?」

「お久しぶりです、父上母上。
嬉しいお言葉ありがとうございます。
ですが、私は婚約者である彼女の傍に居りたいのです。
モリガン……彼女は素晴らしく魅力に溢れた女性だ」

ひいい! 家族の会話に水を刺したくないので私に話を振らないでくださいよ!
まだ許可ぎ下りない私は顔を伏せたまま。
殿下の言葉に扇子を閉じた王妃様がキツイ一言をくださるだろう。

「勇者モリガン、久しいな」

「はい、お久しぶりでございます」

「あら……マクシミリアンの言う通り、随分貴族らしくなられたのね」

「王妃様にそう言って頂けるなんて、感激でございます」

あれ? きつーいお言葉がない。

「聞けばブルゴー領は見違えるように栄えていると聞く。
勇者は人の上に立つことにまで優れておったとはな」

「いえ、まだ目標の半分も達成しておりません。
我がブルゴー領はこれからも更なる発展を目指し、私も精進して参ります」

「ほぉ……」
「まぁ……」

そうこれはプレゼン!!
社長に最大級のプレゼンを行っているのだ!
でないと、私の心臓がもたない。
頑張れ私……。挨拶ならもうこれで良いだろう。

「時にブルゴー伯爵、そのドレスは?」

王妃様に全体が見えるよう立ち上がり、殿下によってクルッとターンさせられた。
ひらりと舞うドレスの裾がキラキラと輝いて見えるはず。

「わたくしがデザインしたドレスですわ、
薔薇をイメージして作りましたの」

「左右に開いた裾が薔薇の花弁をイメージしておるのか」

「仰る通りです。
そして、私は勇者。
たとえ魔王が討伐され平和でも、いつ魔物に襲われるか分かりません。
ですから、動きやすいように致しました」

「我が国では初めて見る。
では存在したのか」

「えぇ、更に深くスリットを入れ大胆に脚を晒すデザインも多かったです」

この世界で脚を晒すことは下品とみなされる。
そのため今回のドレスは考えた。

私が着ているドレスは、左右に開いたイブニングドレス。
ワンショルダーで腰から三重にドレープを作り左右に流すことで薔薇を連想させるデザインだ。
タイトに仕上げたスカート裾口には膝までスリットを入れた。
でないといざと言う時動けないし、なにより動きづらい!!
私はドレスなんて着慣れていないもの。
どちらかといえばスーツの方が慣れてるわ。

「やはり平民は常識を知らないのね」
「ほら見て王妃様のお顔。失礼な装いにお怒りよ」

後ろに控える令嬢が私を見下し嘲笑っている。
世間的には、モリガン・ブルゴーは平民上がりの貴族で孤児の女。
魔王を倒し、ブルゴーという姓を手に入れこの度貴族の仲間入りをした新入りだ。

平民上がりは最も下位の貴族として扱われる。
殿下の婚約者として仮婚約をしているが、それは私が異世界人で故郷に帰るから仮であるとは知らず、殿下にとって平民上がりの私は不釣り合いだと王妃様が仮という形で、婚約したと思っている。
“魔王を討伐した褒美にハプスブルの天使を欲しい”と私が強請った。というのが世間に、主に貴族に広まった話だ。
殿下を哀れむ令嬢達が多いのは、その噂を信じているからだ。


「…………素晴らしい!」


「え!」
「王妃様がお認めに……」


「そなたの漆黒な髪に合わせた黒のドレス。
そして肌が目立たぬよう同じ色の布を足に纏い、品よく仕上げた着こなし。
誰がなんと言おうわたくしが認めよう」

「! 見に余るお言葉に返す言葉もないほど感激しております」

「そなたの期待しておるぞ」

「有難うございます」

王妃様の言葉は絶対だ。
このドレスデザインを貶すものは王妃を貶すと同じ事。
後ろで嫌みを言っていた令嬢たちが悔しそうに口を紡いでいる。
貴族社会も女社会と同じだなぁ。
すっと遠くを見ていると、綺麗な髪が視界に入り込み、気付けばマクシミリアン殿下から頬にキス。
その姿に悲鳴が上がるが、王妃と陛下は気にせずご機嫌だ。

大衆の前ということもあり恥ずかしく頬を赤くする私に、殿下は耳元でこう言った。

「私の婚約者は最高だ」

「……ッ、あ、りがとうございます」

ほら天使スマイル。
目の当たりにしたご令嬢が次々ノックダウン。
果たして立ち上がれる令嬢はいるのでしょうか。
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