上 下
29 / 39
第二章 守衛の捧女《ガーディアン・オファー》

26遺跡の守り手

しおりを挟む

登場人物紹介を前話に挿入しました。

******************


「甘い!!集中しすぎると周りが見えなくなる癖どうにかせんか!!」

剣を握った男性が、目の前に倒れこむ少女に叱責する。
そんな男性の頭には白銀の獣耳がついていた。

「お父さん!!もう嫌だ!!何でこんなことしなくてはいけないの!!」

少女は目じりに涙を浮かべて父親に抗議する。
そんな少女の耳にも白銀の獣耳が頭の上についていた。

彼らは獣人。人よりも高い身体能力と、種族に応じた特徴がある。
彼らは銀狼の獣人。犬系統の獣人の中でもっとも強いと言われる種族だ。
それはひとえに身体能力だけの話ではない。

「私には魔法があるよ!!だから良いでしょう!?」

「馬鹿モン!!ワシら皆魔法は使えるわ!!魔法だけでは足りないのだ!!」

父は少女の頭に拳骨を落とす。
少女は頭を抱えて蹲る。

彼女達の種族である銀狼が強いと言われる所以は魔法を使えることにある。
基本的に獣人は魔法を使えない。魔力自体は持っているものの、それは身体強化にしか使うことは出来ないのだ。

だが、例外があるそれが彼女達だ。
彼女達の種族、銀狼を含めた四種族が魔法を使うことが出来るのだ。
だからあらゆる種族の中でも強いといわれているのだ。

だが、その数はすくない。
その特異性ゆえに昔から妬みにあっており、殺されその数を激減させたのだ。
また、彼らは特異性を持つためある物・・・の守護も代々受け継いでいる。
そのある物を狙い奪いにくる者がいることもその数を激減させたことにつながっている。

今では数が減ったことで危機感を覚えた国のトップが保護に回っており、襲われることも少なくなっている。
他の獣人も数を減らした四種族を守るため手を尽くしている状態だ。

「何で私がこんなことをしなければならないの!!」

「自分の身を守るためだ!!いつ襲われても大丈夫なように鍛えなければならないのだ!!」

父親は駄々をこねる自分の娘を叱責する。
同時に心苦しくもあった。止むを得ないとはいえ少女につらい責務を負わせているのだから。

少女は目じりに涙をためながらも立ち上がる。
男性は心の中に葛藤を抱えながらも少女に向け剣を振り上げるのだった。



**************************



「ドルマさん。リーリエの様子はどうですか?」

その夜、男性――ドルマ――は妻のケティと酒を飲んでいた。

「恐ろしいな。剣の腕も魔法の腕も一流だ。流石あれ・・に選ばれただけの事はある」

「それが彼女を苦しめているのですけどね………」

ケティは心苦しそうに呟く。
少女――リーリエが担う運命はつらいものである。
ただ適合者・・・だったというだけで運命を担うことになったリーリエをケティは嘆いているのだ。

「適合者でなければ、彼女にも選べる道があったのに………」

「しょうがない、それにリーリエが運命から解放されればリーリエにも選ぶ道がある……」

ドルマの言葉が尻すぼみになる。
彼も理解しているのだ、リーリエが運命から逃れられないっこと。そして開放されることが無いことを・

「私たちに出来ることは、戦う術を教えることだけだ。彼女を彼女自身を守るためにはそれしかない」

「そうですね……ッツ!!」

ケティとドルマが気配を感じ立ち上がる。
感じた気配は敵意。つまり彼らを狙った何者かが近づいてきているということだ。

「ケティ、リーリエを起こして来い」

「ハイ」

ケティはリーリエを起こしに寝室へ行く。
その間にドルマは聴覚を強化し、敵対者の情報を探る。

(足音が多い!?数は二百以上。何者だ!?)

「父さんどうしたの?」

焦りが表情に表れていたのか、起きてきたリーリエが心配そうな表情でドルマの顔を覗き込んでいた。
ドルマはリーリエにこわばった笑みを浮かべ首を横に振る。

「いや、なんでもない。それよりリーリエ、お前は外出の準備をしろ。逃げる準備だ!」

ドルマの真剣な表情に、リーリエは何か聞きたそうな顔をしていたが頷くだけにとどめ、荷物をまとめるため部屋へと駆け出す。
ドルマは防具と武器を取り出し身につける。

「ドルマさん。相手はそんなに……」

「相手は二百以上、獣人と人間の混合部隊だ。となると狙いは一つだ」

「まさかリーリエを!?」

ケティは顔を真っ青にして呟く。
ドルマはそんなケティに向かって深く頷く。

「ああ、リーリエをり……!?」

突如家が揺れる。
近くにあった家具が吹き飛び、其処から火が燃え上がっていた。

「魔法か!!ケティ!リーリエを連れて逃げろ!!あれは私が食い止める!!」

「父さん!!私も戦う!!」

悲壮な覚悟で敵に挑まんとするドルマに準備を整えたリーリエは呼びかける。
だが、ドルマは首を横に振り諭すように話す。

「リーリエ、奴らの狙いはお前だ。だからお前はなんとしても逃げなければならない。それに奴ら程度ならば父さん一人で何とかなる。母さんと一緒に待っててくれ」

「う、うん」

ケティはリーリエの手を引き裏口へと駆け出す。
直後再び家が揺れる。見れば天井が吹き飛んでいた。

開いた壁の穴からドルマは迫り来る集団を見据える。

「私が生きてる限り!この先へは何人たりとも通さんぞ!!」

ドルマは武器を構え、集団へと突っ込んでいった。



**********************



「はあ、はあ、はあ」

ケティは悲壮な顔を浮かべながら山道を走っていた。
ケティには分かっていた。ドルマが勝てるはずも無いことを。
だが、振り返ることはしない。彼の作ってくれた時間を一秒たりとも無駄には出来なかった。

「はあ、はあ、はあ」

もう数時間は走っただろうか。ケティの体は疲れを訴えていた。
いくら獣人とはいえ、ケティは戦闘訓練も何も受けてはいない。
数時間も全力で走り続ければ疲れないはずも無かった。

「お母さんもう休もう?」

リーリエは心配そうな表情でケティを見る。
リーリエは汗はかいているものの、疲れはなさそうに見える。
ケティは其処に希望を見出した。

「リーリエ先に行きなさい。お母さんは休んでからあなたの元へ向かうから」

「嫌だよ!!お母さんも一緒に行くんだよ!!」

リーリエは首を横に振る。
ケティはそんな愛娘を撫でると安心させるように笑いかける。

「あなたはもう十六歳でしょ?いつまでも駄々こねるんじゃありません。それとも一人じゃ何も出来ないの?違うでしょ。あなたなら出来る。さあ行って、私も後から行くわ」

ケティはリーリエの背中を押す。
リーリエは何度も振り返りながら走り出す。

「ゴメンね、約束は果たせそうに無いわ」

後から必ず行くといった。だが、それは果たせそうに無かった。
ケティの耳にはいくつもの足音が聞こえていた。追っ手だ。

このままではリーリエに追いつかれる。それをさせるわけには行かなかった。

『炎魔法 灼熱の神狼インコンデンセンスフェンリル

リーリエは呪文を唱え、敵が現れた瞬間魔法を解き放つ。
現れたのは真っ赤に燃える狼。
その狼は現れた敵を片っ端から攻撃していく。

「逃げなさい………リーリエ」

ケティーは魔法を避けて迫ってくる敵に対処するため詠唱を始めるのだった。



****************************



「お父さん、お母さん………」

リーリエは涙を流しながら山道を駆け下りていた。
リーリエには分かっていた。ドルマやケティが助かる可能性が低いことも。
彼らは必死にその悲痛な決意を隠し笑顔を浮かべていたが、リーリエは彼らの子供だ。隠していても分かってしまう。

だが、自分には何にも出来ない。ただ守られることしか出来ないのだ。
そのことが悔しくて、そして悲しかった。

「ッツ!!」

リーリエの耳が足音を捉える。自分を捕まえんと迫る追跡者だ。
リーリエは身体強化を全力で施し、山を駆け下りる。
だが、その距離は遠ざかるどころか縮まる一方だ。

(逃げ切れない)

リーリエはそう判断し、剣を構える。
敵対者はすぐ現れた。

「投降してもらおう。リーリエ・マテライト」

事務的口調で男が告げる。
だが、リーリエにその選択肢は無い。
両親が繋いだ命を粗末には出来ない。

「やああああああああああ!!」

リーリエは目の前の敵へと切りかかる。

甲高い刃物の音が周囲に響き渡った。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...