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第一章 縛者の跳躍《スプリング・オブ・バインダー》
22素直じゃない親
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その後の兵士達の動きは迅速だった。
避難民に危険を排除したことを伝え、寝る間を惜しんでオーク達の剥ぎ取り作業などを行った。
門の修繕は時間はかかるが二週間ほどで元に戻るとのことだ。
それまでは壊れた門の周辺の警備人数を増やす方針を決めていた。
カイが倒した暗殺者の二人には尋問が行われ、依頼主の正体をはかせた。
どうやら依頼主は隣の領の領主だそうで、この騒動が収まり次第王都へ説明に行くそうだ。
決定的な証拠が無いが、自白だけでも十分な効果があるそうで、隣の領は取り潰しになることになるとラインは予想していた。
一方カイ達は特に何か言われることなくその日は家に戻った。
というよりカイ達にかまっている暇が無いほど、後始末に忙しいのだ。
カイ達は怪我は既に癒しているとはいえ、疲れは溜まっていた。
泥のように眠ったカイ達が目覚めたのは次の日の昼であった。
流石に今日は山の上まで行って訓練しようと思わず、町を見回ることにした。
町は昨日襲撃があったにも関わらず、活気付いていた。
それどころかいつも以上に人々が動いていた。
「昨日あんなことがあったのに、すげえな」
「此処の住民はそういうのは慣れているからね。昨日みたいな大規模な襲撃はほとんど無いけど、小規模ならばよくあるんだ。なんせ国境の領地だからね」
「ふ~ん、そういうもんか」
カイはシュミルの貯金で買ったアイスを舐めながら納得したように頷く。
シュミルはカイの反応を見てため息を吐く。
「ねえ、カイ。今日は僕の旅の準備に必要なものを集めるんでしょ?何でさっきからただ歩いているだけなの?」
カイは頭の後ろで手を組みのんびりと返す。
「だってな~。たいていのものは俺のアイテムボックスに入っているし、必要なものって逆になんだ?」
「何言ってんの!?僕は何のためにそのアイスを奢ったの!?」
「教育料だよ、教育料。騙されんなってこと」
「嘘だよね!?今それらしい嘘でっち上げたよね!?」
シュミルの突っ込みは無視して、カイはあたりを見渡す。
そしてある一点に目を奪われる。
その店からはジュウジュウという音と共に煙が立ち上っていた。
「シュミル、あそこ行こう!!」
「嫌だよ!!肉屋じゃないか!!どうせ僕の奢りだろ!」
「当たり前だろ。俺は金を持っていないんだから」
何当然のことを言っているのかという表情を浮かべるカイ。
そんなカイの反応に少々苛っとしながらシュミルは怒鳴る。
「だからなおさら嫌だよ!!」
絶対に行くもんかという強い意志をシュミルから感じ、カイは肉を諦める。
「ッチ、けちだな」
「僕が悪いの!?違うでしょ!!カイが悪いよね!?」
「シュミル騒ぎ立てんな。周りに迷惑だ」
周りを見るとカイとシュミルの会話を面白そうに眺める人たちの群れがあった。
シュミルは自分に向けられる視線を恐縮そうに受け止めながらカイに抗議の視線を送る。
カイは観衆からの視線もシュミルからの視線も悠然と受け流し肉屋へ向かって歩いていくのだった。
「だから行かないっていってるだろ!!」
************************
その夜。いつも通り夕食をとったシュミルはカイと風呂に入る。
そして、いつものように冒険者になる許可を貰いに父の書斎を訪れていた。
「父さん、僕に冒険者をやらせてくれ!!」
「駄目だといっているだろ。しつこいぞ。私がお前に許可を出すことは一切ない」
「何故其処までして、僕に冒険者をやらせたくないんだ!?」
シュミルは机を強く叩き訴える。
十六歳になるまで後三日しかなかった。
気持ちが焦り強い口調でラインに訴えかける。
「お前は俺の後を継ぐべき人間だ。知能は誰にも劣らない。だからこそ領主を継ぐのに向いていると感じた。だが、お前に武術の嗜みはほとんど無いだろう。学校で受けた基礎教育だけだ。そんなものでやっていけるほどこの世界は甘くない」
ラインはシュミルのほうを一瞥することなく淡々と告げる。
「話は以上だ。ああ、お前が逃げないように明日から冒険者を雇うことにした。逃亡を防ぐため門番にもお前を外に出さないように明日伝える予定だ。余計なことをするんじゃないぞ。出てけ、私は忙しいんだ」
話はこれ以上というかのように話を終わらせるライン。
こちらには譲歩の余地は無いと強くシュミルに知らしめる。
シュミルは唇を噛みながら父の書斎を出てカイの元へと向かう。
カイのとまっている部屋に入るとカイはなにやら手紙を書いているようだった。
「カイ、何してんだ?」
「こっちの話だ気にすんな」
カイはペンを置くと手紙をきれいにたたみ封筒に入れる。
そして、シュミルのほうを向くと一瞬キョトンとした表情を浮かべ、笑い出す。
「ははははは、その表情じゃ交渉はまた決裂ってことか?」
「笑い事じゃないよカイ!!それどころか明日からは僕に監視が付くみたいだし外にも出れなくなるんだ!!」
「ははははは、絶体絶命じゃねえか!!」
「だから、笑い事じゃないって!!ねえカイ。今日出発しない?今なら監視も付いていないし町の外にも出れると思うんだ」
シュミルが真剣な表情を浮かべ提案する。
カイもシュミルの真剣な表情に笑うのをやめる。
「どうやってだ?今は門は開いて無いだろ?」
「西門は壊れたままだ。其処を抜けようと思う」
「馬鹿だな。其処は警備がいつも以上にきついんだぞ。抜けられるわけ無いだろ」
「ならば……カイの瞬間移動とかあの空飛ぶ奴とかは?」
「それはできるが………いいのか?」
カイは心配そうな表情を浮かべる。
シュミルが行うのは家出だ。つまり此処には簡単に戻って来れなくなる。
だが、シュミルは決意を滲ませ頷く。
「そうか、なら今夜決行だ。起きてろよ」
「了解」
シュミルが力強く頷いた後、扉が開く。
其処から顔を出したのはルリアだった。その下からはクリルが可愛らしく顔を出す。
「カイさん。ラインが呼んでいます。書斎までだそうです」
シュミルが心配そうな顔でカイを見上げてくる。
カイは口の動きだけで大丈夫だと伝え、書斎へ向けて歩き出した。
***********************
「シュミル、お母さんとクリルに何か言うことはありませんか?」
「え!?何かって何?」
「お別れの挨拶です」
「何でばれてんの!?」
***********************
カイは扉をノックする。
中から「入れ」と声が聞こえたので扉を開き中に入る。
中ではラインが腕組をして座っていた。
「まあ、座れ。いくつか聞きたいことがある」
カイは言われた通りにラインの前にある椅子に腰掛ける。
「まず、あれはお前ら二人だな」
あれを指すのはおそらく戦場に突如として現れたヒーローのことだ。
というかこの状況ではそれ以外存在しない。
「はい」
「誤魔化しはしないんだな」
「ごまかす必要はありませんし。どうせばれていることなんで。其処まで分かっているなら何故シュミルに許可を出さないんですか?褒美としても出してあげてもいいと思いますけど」
カイはラインに詰め寄るようにして話す。
ラインは一度目を閉じ息を吐くと服を捲くしあげる。
其処には痛々しい傷が走っていた。
「これは俺が昔冒険者だったころに受けた傷だ。この目の傷もそうだ。俺を含んだパーティーは依頼を達成して帰る途中ランクBのモンスターに襲われた。俺のパーティーは全滅。生き残ったのは俺だけだ。分かるか冒険者というのは常に危険と隣り合わせの仕事だ。あいつにそんな危険な仕事をさせるつもりは無いというのが私の主張だ」
ラインは、傷を隠すと再び腕を組む。
「だが、シュミルの成長は私の予想を上回っていた。おそらくシュミルをあそこまで成長させたのは君のお陰だろう」
「いえ、彼の努力の賜物です」
カイは嘘偽りなく答える。事実、シュミルが日頃から剣を振るい基礎が出来上がっていたからこそ短い時間であそこまで上達したのだ。
「だが、君の存在もシュミルの成長に一役買っていると私は思っているよ。それに君とシュミルは似ている。だろ?スブラスト孤児院の生き残りよ」
その言葉を聴いた瞬間カイは椅子から立ち上がり、警戒心を露にする。
「ああ、私が君をどうこうするつもりは無い。此処は敵国だ。向こうの特になるようなことを私がするはず無いだろう?私が言いたいのは君もシュミルも貴族嫌いだということだ」
カイは警戒心を露にしながらも椅子に座る。
「何が言いたいのですか?」
「警戒させてしまったかな?私が言いたいのはシュミルをよろしく頼むということだ」
「それであんな言い方をしたと。きつい言い方さらには護衛が付くとなればシュミルが今日俺と共に抜け出すのが目に見えている」
カイはしゃべり方を崩して答える。
ラインはシュミルに強く当たった。それゆえにシュミルが今日逃げることも分かっていたのだろう。
「そこまでならば、シュミルに許可を出せばいい。わざわざ回りくどい事をする必要は無いだろう。それともまた下らない貴族の意地とでもいうのか」
「父親の意地だよ。親としては子にできるだけ生き残れる道を選んでほしいんだ」
カイは警戒心を解き椅子にもたれかかる。
「不器用な人だ。普通に祝福すればいいのに」
「それができないのが大人だよ。さて、君に渡したいものがある」
ラインは机の下から一本の剣と袋を取り出す。
ラインが取り出した剣はカイがラディールから貰った剣と似ていた。
というかほぼ同じだ。違うのは色合い。カイの剣は黒なのに対して置かれた剣は茶色だった。
「この剣はシュミルに渡してくれ。私が冒険者時代に使っていた剣だ。君の剣と同じダンジョン産だよ」
カイは納得したように頷く。
ラインがカイの記憶喪失に、また武器の性能に気づけたのは同じような剣を持っていたからだったのだ。
「そしてこれはオークの討伐報酬だ。受け取ってくれ」
「いらないといったはずだが?」
「では言い方を変えよう。これはシュミルのことをお願いするための依頼料だ」
カイは数秒迷った末に中から金貨を三枚ほど受け取りつき返す。
更にポケットから手紙を取り出すと机の上に置く。
「まず、俺の討伐報酬として此処に留めてくれたことと一つのお願いに変えてもらいたい」
「それがこの手紙か。宛先はスブラスト孤児院。なるほど敵国に手紙を送れということか」
「ああ、それを誰の名義かをはっきりさせず送ってもらいたい」
手紙はメルにあてたものだ。だが、カイの名義で送ると指名手配犯からの手紙として没収されてしまう。
だから、送るに送られずにいた。だがそれはラインもそうだ。ラインから送ろうとなれば敵国からの手紙として同様に没収される。
「なるほど、報酬として見合った内容だ。確かに受け取った。ついでにお前達の正体について箝口令をじいておいたことも入れておく。だが、依頼料は受け取ってほしいのだが」
ラインは袋をカイの方へと押しやる。
だがカイは首を横に振り拒否する。
「それは遠慮する。だって依頼を受けるまでも無いからだ。シュミルは俺の仲間だからな」
カイは立ち上がり書斎を出ようとする。
そんなカイに背後から声がかけられる。
「シュミルを頼んだ」
「言われるまでも無い」
カイは頷くと書斎を出てシュミルの元に戻るのであった。
避難民に危険を排除したことを伝え、寝る間を惜しんでオーク達の剥ぎ取り作業などを行った。
門の修繕は時間はかかるが二週間ほどで元に戻るとのことだ。
それまでは壊れた門の周辺の警備人数を増やす方針を決めていた。
カイが倒した暗殺者の二人には尋問が行われ、依頼主の正体をはかせた。
どうやら依頼主は隣の領の領主だそうで、この騒動が収まり次第王都へ説明に行くそうだ。
決定的な証拠が無いが、自白だけでも十分な効果があるそうで、隣の領は取り潰しになることになるとラインは予想していた。
一方カイ達は特に何か言われることなくその日は家に戻った。
というよりカイ達にかまっている暇が無いほど、後始末に忙しいのだ。
カイ達は怪我は既に癒しているとはいえ、疲れは溜まっていた。
泥のように眠ったカイ達が目覚めたのは次の日の昼であった。
流石に今日は山の上まで行って訓練しようと思わず、町を見回ることにした。
町は昨日襲撃があったにも関わらず、活気付いていた。
それどころかいつも以上に人々が動いていた。
「昨日あんなことがあったのに、すげえな」
「此処の住民はそういうのは慣れているからね。昨日みたいな大規模な襲撃はほとんど無いけど、小規模ならばよくあるんだ。なんせ国境の領地だからね」
「ふ~ん、そういうもんか」
カイはシュミルの貯金で買ったアイスを舐めながら納得したように頷く。
シュミルはカイの反応を見てため息を吐く。
「ねえ、カイ。今日は僕の旅の準備に必要なものを集めるんでしょ?何でさっきからただ歩いているだけなの?」
カイは頭の後ろで手を組みのんびりと返す。
「だってな~。たいていのものは俺のアイテムボックスに入っているし、必要なものって逆になんだ?」
「何言ってんの!?僕は何のためにそのアイスを奢ったの!?」
「教育料だよ、教育料。騙されんなってこと」
「嘘だよね!?今それらしい嘘でっち上げたよね!?」
シュミルの突っ込みは無視して、カイはあたりを見渡す。
そしてある一点に目を奪われる。
その店からはジュウジュウという音と共に煙が立ち上っていた。
「シュミル、あそこ行こう!!」
「嫌だよ!!肉屋じゃないか!!どうせ僕の奢りだろ!」
「当たり前だろ。俺は金を持っていないんだから」
何当然のことを言っているのかという表情を浮かべるカイ。
そんなカイの反応に少々苛っとしながらシュミルは怒鳴る。
「だからなおさら嫌だよ!!」
絶対に行くもんかという強い意志をシュミルから感じ、カイは肉を諦める。
「ッチ、けちだな」
「僕が悪いの!?違うでしょ!!カイが悪いよね!?」
「シュミル騒ぎ立てんな。周りに迷惑だ」
周りを見るとカイとシュミルの会話を面白そうに眺める人たちの群れがあった。
シュミルは自分に向けられる視線を恐縮そうに受け止めながらカイに抗議の視線を送る。
カイは観衆からの視線もシュミルからの視線も悠然と受け流し肉屋へ向かって歩いていくのだった。
「だから行かないっていってるだろ!!」
************************
その夜。いつも通り夕食をとったシュミルはカイと風呂に入る。
そして、いつものように冒険者になる許可を貰いに父の書斎を訪れていた。
「父さん、僕に冒険者をやらせてくれ!!」
「駄目だといっているだろ。しつこいぞ。私がお前に許可を出すことは一切ない」
「何故其処までして、僕に冒険者をやらせたくないんだ!?」
シュミルは机を強く叩き訴える。
十六歳になるまで後三日しかなかった。
気持ちが焦り強い口調でラインに訴えかける。
「お前は俺の後を継ぐべき人間だ。知能は誰にも劣らない。だからこそ領主を継ぐのに向いていると感じた。だが、お前に武術の嗜みはほとんど無いだろう。学校で受けた基礎教育だけだ。そんなものでやっていけるほどこの世界は甘くない」
ラインはシュミルのほうを一瞥することなく淡々と告げる。
「話は以上だ。ああ、お前が逃げないように明日から冒険者を雇うことにした。逃亡を防ぐため門番にもお前を外に出さないように明日伝える予定だ。余計なことをするんじゃないぞ。出てけ、私は忙しいんだ」
話はこれ以上というかのように話を終わらせるライン。
こちらには譲歩の余地は無いと強くシュミルに知らしめる。
シュミルは唇を噛みながら父の書斎を出てカイの元へと向かう。
カイのとまっている部屋に入るとカイはなにやら手紙を書いているようだった。
「カイ、何してんだ?」
「こっちの話だ気にすんな」
カイはペンを置くと手紙をきれいにたたみ封筒に入れる。
そして、シュミルのほうを向くと一瞬キョトンとした表情を浮かべ、笑い出す。
「ははははは、その表情じゃ交渉はまた決裂ってことか?」
「笑い事じゃないよカイ!!それどころか明日からは僕に監視が付くみたいだし外にも出れなくなるんだ!!」
「ははははは、絶体絶命じゃねえか!!」
「だから、笑い事じゃないって!!ねえカイ。今日出発しない?今なら監視も付いていないし町の外にも出れると思うんだ」
シュミルが真剣な表情を浮かべ提案する。
カイもシュミルの真剣な表情に笑うのをやめる。
「どうやってだ?今は門は開いて無いだろ?」
「西門は壊れたままだ。其処を抜けようと思う」
「馬鹿だな。其処は警備がいつも以上にきついんだぞ。抜けられるわけ無いだろ」
「ならば……カイの瞬間移動とかあの空飛ぶ奴とかは?」
「それはできるが………いいのか?」
カイは心配そうな表情を浮かべる。
シュミルが行うのは家出だ。つまり此処には簡単に戻って来れなくなる。
だが、シュミルは決意を滲ませ頷く。
「そうか、なら今夜決行だ。起きてろよ」
「了解」
シュミルが力強く頷いた後、扉が開く。
其処から顔を出したのはルリアだった。その下からはクリルが可愛らしく顔を出す。
「カイさん。ラインが呼んでいます。書斎までだそうです」
シュミルが心配そうな顔でカイを見上げてくる。
カイは口の動きだけで大丈夫だと伝え、書斎へ向けて歩き出した。
***********************
「シュミル、お母さんとクリルに何か言うことはありませんか?」
「え!?何かって何?」
「お別れの挨拶です」
「何でばれてんの!?」
***********************
カイは扉をノックする。
中から「入れ」と声が聞こえたので扉を開き中に入る。
中ではラインが腕組をして座っていた。
「まあ、座れ。いくつか聞きたいことがある」
カイは言われた通りにラインの前にある椅子に腰掛ける。
「まず、あれはお前ら二人だな」
あれを指すのはおそらく戦場に突如として現れたヒーローのことだ。
というかこの状況ではそれ以外存在しない。
「はい」
「誤魔化しはしないんだな」
「ごまかす必要はありませんし。どうせばれていることなんで。其処まで分かっているなら何故シュミルに許可を出さないんですか?褒美としても出してあげてもいいと思いますけど」
カイはラインに詰め寄るようにして話す。
ラインは一度目を閉じ息を吐くと服を捲くしあげる。
其処には痛々しい傷が走っていた。
「これは俺が昔冒険者だったころに受けた傷だ。この目の傷もそうだ。俺を含んだパーティーは依頼を達成して帰る途中ランクBのモンスターに襲われた。俺のパーティーは全滅。生き残ったのは俺だけだ。分かるか冒険者というのは常に危険と隣り合わせの仕事だ。あいつにそんな危険な仕事をさせるつもりは無いというのが私の主張だ」
ラインは、傷を隠すと再び腕を組む。
「だが、シュミルの成長は私の予想を上回っていた。おそらくシュミルをあそこまで成長させたのは君のお陰だろう」
「いえ、彼の努力の賜物です」
カイは嘘偽りなく答える。事実、シュミルが日頃から剣を振るい基礎が出来上がっていたからこそ短い時間であそこまで上達したのだ。
「だが、君の存在もシュミルの成長に一役買っていると私は思っているよ。それに君とシュミルは似ている。だろ?スブラスト孤児院の生き残りよ」
その言葉を聴いた瞬間カイは椅子から立ち上がり、警戒心を露にする。
「ああ、私が君をどうこうするつもりは無い。此処は敵国だ。向こうの特になるようなことを私がするはず無いだろう?私が言いたいのは君もシュミルも貴族嫌いだということだ」
カイは警戒心を露にしながらも椅子に座る。
「何が言いたいのですか?」
「警戒させてしまったかな?私が言いたいのはシュミルをよろしく頼むということだ」
「それであんな言い方をしたと。きつい言い方さらには護衛が付くとなればシュミルが今日俺と共に抜け出すのが目に見えている」
カイはしゃべり方を崩して答える。
ラインはシュミルに強く当たった。それゆえにシュミルが今日逃げることも分かっていたのだろう。
「そこまでならば、シュミルに許可を出せばいい。わざわざ回りくどい事をする必要は無いだろう。それともまた下らない貴族の意地とでもいうのか」
「父親の意地だよ。親としては子にできるだけ生き残れる道を選んでほしいんだ」
カイは警戒心を解き椅子にもたれかかる。
「不器用な人だ。普通に祝福すればいいのに」
「それができないのが大人だよ。さて、君に渡したいものがある」
ラインは机の下から一本の剣と袋を取り出す。
ラインが取り出した剣はカイがラディールから貰った剣と似ていた。
というかほぼ同じだ。違うのは色合い。カイの剣は黒なのに対して置かれた剣は茶色だった。
「この剣はシュミルに渡してくれ。私が冒険者時代に使っていた剣だ。君の剣と同じダンジョン産だよ」
カイは納得したように頷く。
ラインがカイの記憶喪失に、また武器の性能に気づけたのは同じような剣を持っていたからだったのだ。
「そしてこれはオークの討伐報酬だ。受け取ってくれ」
「いらないといったはずだが?」
「では言い方を変えよう。これはシュミルのことをお願いするための依頼料だ」
カイは数秒迷った末に中から金貨を三枚ほど受け取りつき返す。
更にポケットから手紙を取り出すと机の上に置く。
「まず、俺の討伐報酬として此処に留めてくれたことと一つのお願いに変えてもらいたい」
「それがこの手紙か。宛先はスブラスト孤児院。なるほど敵国に手紙を送れということか」
「ああ、それを誰の名義かをはっきりさせず送ってもらいたい」
手紙はメルにあてたものだ。だが、カイの名義で送ると指名手配犯からの手紙として没収されてしまう。
だから、送るに送られずにいた。だがそれはラインもそうだ。ラインから送ろうとなれば敵国からの手紙として同様に没収される。
「なるほど、報酬として見合った内容だ。確かに受け取った。ついでにお前達の正体について箝口令をじいておいたことも入れておく。だが、依頼料は受け取ってほしいのだが」
ラインは袋をカイの方へと押しやる。
だがカイは首を横に振り拒否する。
「それは遠慮する。だって依頼を受けるまでも無いからだ。シュミルは俺の仲間だからな」
カイは立ち上がり書斎を出ようとする。
そんなカイに背後から声がかけられる。
「シュミルを頼んだ」
「言われるまでも無い」
カイは頷くと書斎を出てシュミルの元に戻るのであった。
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