偏屈王と花の王子

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第一

帰り道

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ビアン様の元から出てから僕とミナホ様の間には重々しい沈黙が流れていた。息をつくのも許さぬほどに重たいそれに耐えきれなくなったのは僕の方で思わず、「あのっ」と声を出してしまった。

「...あの、ミナホ様と少しお話がしたいのですが...」

意を決したその発言にミナホ様はどう返してくるのだろうか。了承してくれるだろうか。それとも手酷く断られるだろうか...

「...なんでしょうか」

後者であろうと身構えていたが帰ってきた返事は予想もしていない言葉だった。話をしてくれるという返事に心躍る。
やっと、やっとだっ!

「あ、あの、まず、婚姻の件ありがとうございますっ。あの日を心待ちにしていたので本当に嬉しくて...」
「それはあの日にお伺い致しました」
「あ、えっと......ミナホ様はお忙しそうで...なにか僕に手伝いができることはないかと思いまして...」
「貴方はいるだけでいい。特別になにかする必要も気にかけることもありません」

だが、話してみればどれもこれも...ミナホ様の返事は冷たい吹雪の声のようだった。

「ぁ...その......月下草...ありがとうございます...僕の一番好きな花なので...嬉しくて...」
「あれは偶然手に入ったものです。あなたが気にするようなことでは無い」
「そうだとしても...誕生花だから...あなた様からのものだと聞いたから...」

きっと最初で最後のプレゼントに心震えて、嬉しかった。大事にしたかったけどやっぱり一晩で萎んでしまったあの花は今までで見たどの月下草よりも綺麗で...
空っぽの植木鉢を見つめてはまた月下草を植えようと、今度はミナホ様と一緒にあの淡く小さな花を一晩見ていたいと願ってしまって...

「ミナホ様、ご迷惑はおかけしません...多くは望みませんからただ一つだけ...そばにいることだけは許してください...」

「...」

...それに返事はなかった...
許されたのか拒否なのか...分からないけどその無言は僕の心を打つのに十分だった。



まだまだ聞きたいことが山積みだった。
ビアン様との間に何があったのかとか、あの死という文字の意味とか...今度一緒にお茶をしませんかなんて高望みしたお願いとか...さっきまでそばに置いてもらうだけでいいなんて思ってたのに...僕は欲張りで傲慢で...なんて浅はかな人間なのだろう。少しでもほんの一ミリでも彼に僕を見てもらおうなんてほんと...哀れだ...
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