偏屈王と花の王子

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第一

愛とは 2

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「ビアン...」

地の底から這い上がってくるような声に一瞬にして背筋が凍った。まるで野獣の唸り声のようなそんな声にやはりなれることは無い。

「あはは、思ったより早かったね」
「お前以外にあんな芸当出来るやつなんざ居ない」
「嬉しいなぁ。そんなに高く評価してくれるなんて」

地を凍らせる程のミナホ様の声とは裏腹に、ビアン様の声はハキハキと明るく飄々と掴みどころのないようなものだった。
未だにビアン様の腕の中に囚われカタカタとその状況に震えている僕を一瞥すると、ミナホ様の殺気は風船のように膨れ上がる。

「貴様...」
「待ってミナホ。たまには僕の話も聞いておくれよ」

腰の剣に手が置かれたの同時にビアン様が右手を突き出し、そう制する。するとミナホ様の動きがピタリと止まった。苦虫を噛み潰したように眉を寄せたミナホ様は、こちらを睨んで再び「貴様」とだけ呟いた。
どうやらミナホ様の意思で動きを停めたのではないようだ。

「ミナホ、これは僕からの提案でもあるのさ。このままユマをここに置くという提案をしたいんだ」
「......」

何を話しているのか分からなかったがミナホ様の眉がぴくりと動いたことを僕は見逃さなかった。

「君が杞憂している自体を僕は勿論、知っている。それに対して君がもうどうしようも無くなっていることも知ってる。さらに言えば、僕の元に置くという選択肢を残していたことも知っている」

ビアン様は妖艶に微笑み話をした。
なんの話しをしているのだろう杞憂していることとはなんだろう。どうしようもないとはなんだろ...何を知って、何を僕に隠しているのだろう。知りたいことが多すぎて、僕は質問しようと口を開くがそこから声が出ることは無かった。

(声が出ない!?)

言葉を挟むことは許さないとでも言いたげにビアン様は僕を見てゆっくりと微笑んだ。

「俺はそれを否定する。俺のやり方で変えていく」
「そうだね。君はそういう男だ。でも、何度も見ただろう?結果はどれも変わらない」

ちりちりと頬を焦がすような熱気がミナホ様の周りに漂い始める。
だが、ビアン様はそれすらも余裕そうに笑うだけだ。

「どうしても、ユマを連れて帰るかい?偏屈王よ」
「貴様のようなイカれた精霊王の元に置くよりは何百倍、何全倍とマシだ...」

ギチギチと油の足りないロボットのような動きミナホ様は剣を鞘から抜き出そうとする。その姿にビアン様は「わぉ...」とだけ小さく呟いた。

「ほんと...可愛げもなにもなくなっちゃったんだから...」

小さく呟かれ、寂しそうな目でミナホ様を見つめるビアン様の姿を僕は見逃さなかった。

「そいつを返せ...」
「......なら、ユマに決めてもらおう。このことはユマにも大いに関係することだ」

鞘から剣が半分以上出たところでビアン様はいつもの考えの読めぬ笑顔を作りパッと僕を離す。
僕は思わず戸惑ったようにビアン様とミナホ様を交互に見た。

ニコニコと穏やかにこちらを見るビアン様と殺気立ち、こちらに来いと目で訴えるミナホ様。
さっきの話...きっとミナホ様の元に行けば内容は聞けないだろ...何があったのか...あるいはあるのか...聞くにはきっとこの場に留まり、ビアン様の口から聞くのが早いはず。
なんのことなのか聞きたい...


でも、きっと今ここでミナホ様から離れたら...?きっと今以上にミナホ様のそばにはいれない...居てはいけなくなるのではないか?
あれ以上に彼から突き放されたらきっと、僕の恋心は枯れてしまう...


それに、ずっとずっと頭の片隅に残っているたんごがある...『ミナホ様の死』...
強烈な一文、忘れたくても忘れられない恐ろしい一言...
もし、そんなことになるかもしれない可能性があるとしたら...そうなってしまったら、僕はそばにいなかったことを強く後悔する...

「ごめんなさい、ビアン様...」

やっと出た言葉にビアン様はわかっていたとでも言いたげに優しく微笑んで僕を立ち上がらせてくれた。
少しよろめきながらもミナホ様の元に行く。まだ怖い顔が戻ることはないようだが、それでもどこかホッとした様子があるのは見間違えでは無いはずだ。

「ビアン...次はないとしれ...」
「僕から出向くことはしないさ。でもユマ自身が来たいと願えばそれはやぶさかではないよ」

睨み合うようにお互いそう言い合えば開けられた穴からミナホ様が出ていく。僕もビアン様に一礼してから急いでミナホ様のあとをおった。
出ればそこは森の中で振り向くとそこには何も無いただの大木があった。僕は今。どこから出てきたのだ?
驚いていると先を歩いていたのであろうミナホ様から「ユマ殿」と声をかけられた。

「いつまでもここのいるのはよろしくありません。城に戻りますよ」
「は、はい!」

見慣れた不機嫌そうな顔。少しだけ長く話された言葉に嬉しくなった気がした。
かけよれば少し離れたとこにミナホ様の愛馬が主人を待っていた。
ミナホ様が先に乗り手を差し出される。僕は何も躊躇わずその手を取ったのだった。
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