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第一
確執
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突然現れた、彼に驚いているとすっと、腰に手を回しがっつりと捕まえて離さない。
はっと我に返ったころにはもう遅かった。しっかりと抑えられたそれはちょっとやそっとでは離れず、僕は彼の腕の中でもがくことしかできずにいた。
「あ、あの!離してっ!」
「えー?でも、離したらユマは逃げるだろ?」
それなら離さないとまるで小さな子が楽しそうにいたずらをしているかのような声でそういわれる。くすくすふふふととても楽しそうに嬉しそうに言う目の前の彼はどうしても離れてはくれないようだ。ならばちょっと気になっていたことを聞いてみよう
「わ、わかった。でもなんで僕の名前」
「なんでって簡単だよ。ユマのことをミナホに教えたのは私だからね」
…?ますますわけがわからなくなった。ミナホ様に教えた?何が?
「私は森林の精霊王、ビアンという。君は花の国の王子ユマだろ?」
精霊王のビアンだと名乗った青年に目を丸くした。彼が?
「ユマは知ってるかな?森林は風と水、そして未来を司る精霊王だって」
「は、はい。国で精霊の国については勉強しましたので」
ビアン様は「いいこだね」と言ってから僕の頭をなでる。
勉強はしたけれど、実際にこの目で見ることはもちろん初めてだ。精霊が見える人は僅かで、それ以外の人たちは精霊なんて御伽噺かなにかだとおもっている。
僕だって、勉強はしたけれど本当にいるかどうかなんていまの今まで正直半信半疑だったし…
「それで、僕はその森林の精霊王。ミナホには遥か昔に未来を見せてあげたんだよ」
再び笑ってからビアン様はそっと僕の頬に触ろうとした。だが、その間を何かが空をきる。
ビアン様が手を引き何かが飛んできたほうへと視線を向けるとそこには馬にまたがり、弓をこちらにむけ、すでに新しい矢を引いているミナホ様の姿があった。
「ミナホ様っ」
「あははっ、相変わらず早いね。ミナホ」
愉快そうに笑ってから挑発をするかのように口の端を吊り上げるビアン様は改めて僕の腰を引き自分との距離を縮めた。いやだ、いくらミナホ様に嫌われているとはいえ、この状況をミナホ様に見せるのは気持ち悪くて仕方が無い。
涙が目の端にたまって思わず助けを求めるようにミナホ様を見てみると、昨日、両親とユリを見たときのような無表情は違う、とても怖い顔で僕らを見ており、距離があるというのに弓からはぎちぎちと到底弓矢が出してはいけないような音を立てていた。
「勘違いしないでよ。ミナホ。僕はユマに君から嫌われてしまっているという勘違いを正してあげようとおもってこうやって、僕の中に呼んだんだ。決して君の腕の中から奪い取ってしまおうなんて…そんな恐ろしいことは考えてないよ。だって誰だって。人間だって精霊たちだってまだ、体から頭を切り離したいなんておもっていないんだから」
ぺらぺらと早口でそう答えるビアン様にミナホ様の顔はさらに険しくなっていく。ミナホ様のまとっている空気がどんどん殺気立っているのが僕にもわかるほどだ。
「……ミナホ。そう、殺気立たないでよ。ユマが怯えてる。なにもとって食おうなんておもってないんだから、許してよ」
「黙れ、くそ野郎。今すぐ黙らないなら強制的に永遠にその口をふさいでやるぞ」
「おぉ、怖い。…ユマ、またね。早く君をあの偏屈な王様に帰さないと僕の首はどこか、この深い森の中に飛んでいってしまうみたいだ」
くすくすとビアン様が笑うとどこからとも無く風が僕らをつつむ。目も開けていられないほどのつよい風に思わず目を瞑って顔を手で覆った。
『またね、ユマ。今度はゆっくりお茶でもしよう』
そう風がささやいて次に目を開けるときには、ビアン様の姿はなかった。
はっと我に返ったころにはもう遅かった。しっかりと抑えられたそれはちょっとやそっとでは離れず、僕は彼の腕の中でもがくことしかできずにいた。
「あ、あの!離してっ!」
「えー?でも、離したらユマは逃げるだろ?」
それなら離さないとまるで小さな子が楽しそうにいたずらをしているかのような声でそういわれる。くすくすふふふととても楽しそうに嬉しそうに言う目の前の彼はどうしても離れてはくれないようだ。ならばちょっと気になっていたことを聞いてみよう
「わ、わかった。でもなんで僕の名前」
「なんでって簡単だよ。ユマのことをミナホに教えたのは私だからね」
…?ますますわけがわからなくなった。ミナホ様に教えた?何が?
「私は森林の精霊王、ビアンという。君は花の国の王子ユマだろ?」
精霊王のビアンだと名乗った青年に目を丸くした。彼が?
「ユマは知ってるかな?森林は風と水、そして未来を司る精霊王だって」
「は、はい。国で精霊の国については勉強しましたので」
ビアン様は「いいこだね」と言ってから僕の頭をなでる。
勉強はしたけれど、実際にこの目で見ることはもちろん初めてだ。精霊が見える人は僅かで、それ以外の人たちは精霊なんて御伽噺かなにかだとおもっている。
僕だって、勉強はしたけれど本当にいるかどうかなんていまの今まで正直半信半疑だったし…
「それで、僕はその森林の精霊王。ミナホには遥か昔に未来を見せてあげたんだよ」
再び笑ってからビアン様はそっと僕の頬に触ろうとした。だが、その間を何かが空をきる。
ビアン様が手を引き何かが飛んできたほうへと視線を向けるとそこには馬にまたがり、弓をこちらにむけ、すでに新しい矢を引いているミナホ様の姿があった。
「ミナホ様っ」
「あははっ、相変わらず早いね。ミナホ」
愉快そうに笑ってから挑発をするかのように口の端を吊り上げるビアン様は改めて僕の腰を引き自分との距離を縮めた。いやだ、いくらミナホ様に嫌われているとはいえ、この状況をミナホ様に見せるのは気持ち悪くて仕方が無い。
涙が目の端にたまって思わず助けを求めるようにミナホ様を見てみると、昨日、両親とユリを見たときのような無表情は違う、とても怖い顔で僕らを見ており、距離があるというのに弓からはぎちぎちと到底弓矢が出してはいけないような音を立てていた。
「勘違いしないでよ。ミナホ。僕はユマに君から嫌われてしまっているという勘違いを正してあげようとおもってこうやって、僕の中に呼んだんだ。決して君の腕の中から奪い取ってしまおうなんて…そんな恐ろしいことは考えてないよ。だって誰だって。人間だって精霊たちだってまだ、体から頭を切り離したいなんておもっていないんだから」
ぺらぺらと早口でそう答えるビアン様にミナホ様の顔はさらに険しくなっていく。ミナホ様のまとっている空気がどんどん殺気立っているのが僕にもわかるほどだ。
「……ミナホ。そう、殺気立たないでよ。ユマが怯えてる。なにもとって食おうなんておもってないんだから、許してよ」
「黙れ、くそ野郎。今すぐ黙らないなら強制的に永遠にその口をふさいでやるぞ」
「おぉ、怖い。…ユマ、またね。早く君をあの偏屈な王様に帰さないと僕の首はどこか、この深い森の中に飛んでいってしまうみたいだ」
くすくすとビアン様が笑うとどこからとも無く風が僕らをつつむ。目も開けていられないほどのつよい風に思わず目を瞑って顔を手で覆った。
『またね、ユマ。今度はゆっくりお茶でもしよう』
そう風がささやいて次に目を開けるときには、ビアン様の姿はなかった。
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