偏屈王と花の王子

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第一

森林の精霊王 3

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次の日。結局一緒に部屋で、一晩を過ごすことになってしまった。だが、僕が寝るまでにミナホ様が戻ってきた気配はなかった。朝、カーテンからこぼれる日差しで目を覚ますと、離れたソファの上で眠っている彼の姿があった。
いつの間に帰ってきたのだろうか、近くのローテーブルの上には書類が乱雑に広がっている。
そっと覗いてみるとどれも難しそうな言葉が並んでいた。

「森林の精霊王...未来視...ミナホ王の、死...?」


精霊の国のことは何度も学んできた。歴史、文化、しきたり...様々なものを学ぶ中で精霊と呼ばれる生き物がいて、その精霊の中でも"精霊王"と呼ばれるものが王を選ぶのだという。代々、国王に選ばれてきたものは精霊が見えるという。それが王位継承権の最低条件だと。
基本的には見える子は遺伝するってのも書いてあったっけ...

ミナホ様は国王だから見える人ということだろうか...森林の精霊王、未来視、ミナホ様の死。それがどれもが意味のわからない単語だった。...特に、ミナホ様の死というものが...

「んー...」

思わず書類を声に出して読んでしまっていたからか、ミナホ様の眉間のシワがさらに深くなっていく。急いで元に戻した。
もう一度ミナホ様に視線を向けるっと寒そうにモゾモゾ動いている。ベッドからかけるものを持っていけばそっと起こさないようにかける。
少しだけ眉間のシワがやわらいだきがした。その様子に少しだけ安心する。


音を立てないように部屋を出た。まだ、朝早い時間なのだろう。厨房のあるであろう、食堂はざわざわと騒がしかったが、それ以外はとても静かだ。
出発は朝食のあとだとリモーネが昨日の時点で言っていたことを思い出して僕はこれまたそっと宿を出た。
春先の暖かさを含んだ風が頬をなでる。まだ、そこまでにぎやかではない町並みを見ながら僕は森のほうへと歩みを進めていた。

街の外にうっそうと生い茂る木々はまだ陽を通していないからだろうか。薄暗く不気味ささえ感じさせるものだった。
風が木々を揺らす音が轟々と聞こえ、思わずびくっと肩を揺らす。本当に不気味だ。なにせ、その風の音は段々と人の呼ぶ声に聞こえてきたからだ。

『おいで…おいで、ユマ』

そう聞こえた。ただの風がだ。そんなことあるわけが無いというのにおいでと自分をいまだに呼び続ける風の音に思わず一歩を踏み出していた。それは次第に一歩、また一歩と誰かに背中を押されるように、でも、自分の意思がそうしているような不思議な感覚。

(だめだ、ミナホ様のとこに戻らなきゃいけないのに)
『でも、ミナホは君自身はいらないんだろ?』

戻ろうという意思と、それを否定して僕を連れて行こうとする風の声。

(違う、きっとなにか理由があって、…)
『理由なんてないさ。彼はそういう適当な人間だよ』

どんなに言葉を並べても風は僕の言葉を否定する。それは僕もおもってる。きっと純粋に僕が嫌い。見たくない。
でもそれでも、僕は彼が好きで好きで仕方が無い。ミナホ様にどれだけ拒否されたところで「はい、そうですか」なんて事はとてもじゃないがいえないとおもった。

(どんなにおもわれても僕は彼が好きだ。)

それだけは決して変わらない。確実な答えだから。

「なるほど、それが君の答えか。ユマ」

それはとても静かな。例えるなら春をまった花が一斉に咲き出すための春風のような。心地よくも甘い声だった。
シルバーグリーンの瞳をが僕を捕らえ、抱きしめられた。あまりのことに驚き目をまるくすると、シルバーグリーンの瞳は優しそうに弧を描いた。

「やぁ、ユマ。会いたかったよ」

シルバーの長髪がとてもきれいに風に靡く。そのたびに僕はミナホ様とは別の胸の高鳴りを感じて押さえられなかった。
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