偏屈王と花の王子

よる

文字の大きさ
上 下
6 / 21
第一

森林の精霊王 2

しおりを挟む
「んぅ…」

いつの間にか寝てしまったらしい。目を覚ますと窓の外は真っ暗で街の明かりと夜のにぎやかさだけが室内に入ってくる。
目元がはれぼったく泣きすぎてしまったことがわかった。

「お腹すいた…」

空腹を感じた僕はのそのそとベッドから降りて部屋の外に出た。

「っ!?」
「わっ」

部屋を出た瞬間だった。何かぶつかってしまい驚く。顔を抑え何ぶつかったのかとそのまま顔を上げるとそこには同じように驚いた顔をしているミナホ様の姿があった。

「ミナホ様っ。も、申し訳ございません」

反射的に謝罪をする。まさかミナホ様が部屋の前にいるとはおもわなかったし、ぶつかった驚きと恥ずかしい姿を見せたこと、目の間にあったあの整った顔をみて顔に熱が集まるのを感じた。

「…いや、……それよりなぜ、貴殿が私の部屋に?」
「え?えっと、リモーネさんからここを使うよういわれまして…」

まだ日が昇っていた頃の話をするとミナホ様は少しだけ息を詰まらせたような感じになってからはぁ...と酷くため息をつく。

「あいつめ...」
「も、申し訳ございませんっ。あの...僕はなんとか別のお部屋を用意していただくのでこちらはミナホ様がお使いください」

憎々しくつぶやく声に言葉をつまらせながらそう頭を下げた。
心にない人間と一緒にいるなど苦痛でしかないだろう...なんてそんな考えがすんなり出てきた。
もう既にすんなりとそう思えてしまった自分が酷く悲しく、下げた頭をあげることが出来なかった。

「...いえ、私が別に部屋に行きますので気遣いは無用です」

こうして、顔を合わせることも嫌だとでも言いたげに再びため息を着くミナホ様の声に自分の足元に向けている視界が揺らいだ。...あぁ...涙が零れそうだ...

「陛下?ユマ様も如何なさいましたか?」

そんな時にまた別の声が聞こえた。
自然な動作で涙を拭い顔を上げると微笑みを浮かべて首を傾げるリモーネさんの姿があった。

「...リモーネ、部屋をひとつ早急に準備しろ」
「...陛下、またそう我儘を申さないでくださいませ。この宿は我々が貸切にしておりますが、部屋のあまりはございません。よくご存知でしょう...大きい街と言えど、ここは観光地ではございませんからね。宿事態少なく「あぁ!もういい!お前の小言は一々長い」ふふ、ご理解いただけて感謝致します、陛下」

リモーネさんの言葉にも驚いたけど、それ以上にミナホ様の苦虫を噛み潰したような顔にも驚いた。
花の国の城でも、馬車の中でも、それにいまさっきもミナホ様の表情が無から崩れたことは無かったから。だから少しだけ、ほんの少しだけ胸の奥がちりっと傷んだ。
決して自分ではなし得ないことが目の前で簡単に起こってしまったのだ...

「あぁ、そうでした。お食事の準備が出来ましたのでこちらへ」
「あ、はい」

にっこりと笑って案内をしようとするリモーネさんに僕は返事をするが、ミナホ様はぎろっとリモーネさんを睨む。

「陛下?我儘はお控えください。ユマ様に笑われてしまいますよ」

整った顔が怖い顔をすると本当に怖いのだが、リモーネさんはなんのそのでそんな返事をした。一切気後れする様子もなく言ってしまう彼に思わず心の中で感嘆をあげてしまったくらいだ。

「はぁ...お前の企みはわかってるからな...」
「企みなど...滅相もございません」

本日何度目だろうかというため息をついたミナホ様はさっさと歩みを進める。その後ろでふふっといたずらっ子のように笑うリモーネさんは僕にも「ユマ様も」とだけ言って案内をしてくれた。



夕食はそれはそれは美味しかった。食事の最後に出たシャーベットまで美味しくて、少しだけ食べすぎたな...と思いながらでもまた食べたいなーと考えてしまう。
...食事はミナホ様と共にした。終始無言で、黙々と食べるミナホ様に僕は話しかける勇気はなかった。
だってそうだろ?彼は僕に興味が無いんだから...お腹は満たされても心はこれからもずっと満たされることは無いんだ...
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋のキューピットは歪な愛に招かれる

春於
BL
〈あらすじ〉 ベータの美坂秀斗は、アルファである両親と親友が運命の番に出会った瞬間を目の当たりにしたことで心に深い傷を負った。 それも親友の相手は自分を慕ってくれていた後輩だったこともあり、それからは二人から逃げ、自分の心の傷から目を逸らすように生きてきた。 そして三十路になった今、このまま誰とも恋をせずに死ぬのだろうと思っていたところにかつての親友と遭遇してしまう。 〈キャラクター設定〉 美坂(松雪) 秀斗 ・ベータ ・30歳 ・会社員(総合商社勤務) ・物静かで穏やか ・仲良くなるまで時間がかかるが、心を許すと依存気味になる ・自分に自信がなく、消極的 ・アルファ×アルファの政略結婚をした両親の元に生まれた一人っ子 ・両親が目の前で運命の番を見つけ、自分を捨てたことがトラウマになっている 養父と正式に養子縁組を結ぶまでは松雪姓だった ・行方をくらますために一時期留学していたのもあり、語学が堪能 二見 蒼 ・アルファ ・30歳 ・御曹司(二見不動産) ・明るくて面倒見が良い ・一途 ・独占欲が強い ・中学3年生のときに不登校気味で1人でいる秀斗を気遣って接しているうちに好きになっていく ・元々家業を継ぐために学んでいたために優秀だったが、秀斗を迎え入れるために誰からも文句を言われぬように会社を繁栄させようと邁進してる ・日向のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(日向)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づくと同時に日向に向けていた熱はすぐさま消え去った 二見(筒井) 日向 ・オメガ ・28歳 ・フリーランスのSE(今は育児休業中) ・人懐っこくて甘え上手 ・猪突猛進なところがある ・感情豊かで少し気分の浮き沈みが激しい ・高校一年生のときに困っている自分に声をかけてくれた秀斗に一目惚れし、絶対に秀斗と結婚すると決めていた ・秀斗を迎え入れるために早めに子どもをつくろうと蒼と相談していたため、会社には勤めずにフリーランスとして仕事をしている ・蒼のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(蒼)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づいた瞬間に絶望をして一時期病んでた ※他サイトにも掲載しています  ビーボーイ創作BL大賞3に応募していた作品です

僕の大好きな旦那様は後悔する

小町
BL
バッドエンドです! 攻めのことが大好きな受けと政略結婚だから、と割り切り受けの愛を迷惑と感じる攻めのもだもだと、最終的に受けが死ぬことによって段々と攻めが後悔してくるお話です!拙作ですがよろしくお願いします!! 暗い話にするはずが、コメディぽくなってしまいました、、、。

そんなの聞いていませんが

みけねこ
BL
お二人の門出を祝う気満々だったのに、婚約破棄とはどういうことですか?

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 ハッピーエンド保証! 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります) 11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。 ※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。 自衛お願いします。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

処理中です...