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第一
森林の精霊王 2
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「んぅ…」
いつの間にか寝てしまったらしい。目を覚ますと窓の外は真っ暗で街の明かりと夜のにぎやかさだけが室内に入ってくる。
目元がはれぼったく泣きすぎてしまったことがわかった。
「お腹すいた…」
空腹を感じた僕はのそのそとベッドから降りて部屋の外に出た。
「っ!?」
「わっ」
部屋を出た瞬間だった。何かぶつかってしまい驚く。顔を抑え何ぶつかったのかとそのまま顔を上げるとそこには同じように驚いた顔をしているミナホ様の姿があった。
「ミナホ様っ。も、申し訳ございません」
反射的に謝罪をする。まさかミナホ様が部屋の前にいるとはおもわなかったし、ぶつかった驚きと恥ずかしい姿を見せたこと、目の間にあったあの整った顔をみて顔に熱が集まるのを感じた。
「…いや、……それよりなぜ、貴殿が私の部屋に?」
「え?えっと、リモーネさんからここを使うよういわれまして…」
まだ日が昇っていた頃の話をするとミナホ様は少しだけ息を詰まらせたような感じになってからはぁ...と酷くため息をつく。
「あいつめ...」
「も、申し訳ございませんっ。あの...僕はなんとか別のお部屋を用意していただくのでこちらはミナホ様がお使いください」
憎々しくつぶやく声に言葉をつまらせながらそう頭を下げた。
心にない人間と一緒にいるなど苦痛でしかないだろう...なんてそんな考えがすんなり出てきた。
もう既にすんなりとそう思えてしまった自分が酷く悲しく、下げた頭をあげることが出来なかった。
「...いえ、私が別に部屋に行きますので気遣いは無用です」
こうして、顔を合わせることも嫌だとでも言いたげに再びため息を着くミナホ様の声に自分の足元に向けている視界が揺らいだ。...あぁ...涙が零れそうだ...
「陛下?ユマ様も如何なさいましたか?」
そんな時にまた別の声が聞こえた。
自然な動作で涙を拭い顔を上げると微笑みを浮かべて首を傾げるリモーネさんの姿があった。
「...リモーネ、部屋をひとつ早急に準備しろ」
「...陛下、またそう我儘を申さないでくださいませ。この宿は我々が貸切にしておりますが、部屋のあまりはございません。よくご存知でしょう...大きい街と言えど、ここは観光地ではございませんからね。宿事態少なく「あぁ!もういい!お前の小言は一々長い」ふふ、ご理解いただけて感謝致します、陛下」
リモーネさんの言葉にも驚いたけど、それ以上にミナホ様の苦虫を噛み潰したような顔にも驚いた。
花の国の城でも、馬車の中でも、それにいまさっきもミナホ様の表情が無から崩れたことは無かったから。だから少しだけ、ほんの少しだけ胸の奥がちりっと傷んだ。
決して自分ではなし得ないことが目の前で簡単に起こってしまったのだ...
「あぁ、そうでした。お食事の準備が出来ましたのでこちらへ」
「あ、はい」
にっこりと笑って案内をしようとするリモーネさんに僕は返事をするが、ミナホ様はぎろっとリモーネさんを睨む。
「陛下?我儘はお控えください。ユマ様に笑われてしまいますよ」
整った顔が怖い顔をすると本当に怖いのだが、リモーネさんはなんのそのでそんな返事をした。一切気後れする様子もなく言ってしまう彼に思わず心の中で感嘆をあげてしまったくらいだ。
「はぁ...お前の企みはわかってるからな...」
「企みなど...滅相もございません」
本日何度目だろうかというため息をついたミナホ様はさっさと歩みを進める。その後ろでふふっといたずらっ子のように笑うリモーネさんは僕にも「ユマ様も」とだけ言って案内をしてくれた。
夕食はそれはそれは美味しかった。食事の最後に出たシャーベットまで美味しくて、少しだけ食べすぎたな...と思いながらでもまた食べたいなーと考えてしまう。
...食事はミナホ様と共にした。終始無言で、黙々と食べるミナホ様に僕は話しかける勇気はなかった。
だってそうだろ?彼は僕に興味が無いんだから...お腹は満たされても心はこれからもずっと満たされることは無いんだ...
いつの間にか寝てしまったらしい。目を覚ますと窓の外は真っ暗で街の明かりと夜のにぎやかさだけが室内に入ってくる。
目元がはれぼったく泣きすぎてしまったことがわかった。
「お腹すいた…」
空腹を感じた僕はのそのそとベッドから降りて部屋の外に出た。
「っ!?」
「わっ」
部屋を出た瞬間だった。何かぶつかってしまい驚く。顔を抑え何ぶつかったのかとそのまま顔を上げるとそこには同じように驚いた顔をしているミナホ様の姿があった。
「ミナホ様っ。も、申し訳ございません」
反射的に謝罪をする。まさかミナホ様が部屋の前にいるとはおもわなかったし、ぶつかった驚きと恥ずかしい姿を見せたこと、目の間にあったあの整った顔をみて顔に熱が集まるのを感じた。
「…いや、……それよりなぜ、貴殿が私の部屋に?」
「え?えっと、リモーネさんからここを使うよういわれまして…」
まだ日が昇っていた頃の話をするとミナホ様は少しだけ息を詰まらせたような感じになってからはぁ...と酷くため息をつく。
「あいつめ...」
「も、申し訳ございませんっ。あの...僕はなんとか別のお部屋を用意していただくのでこちらはミナホ様がお使いください」
憎々しくつぶやく声に言葉をつまらせながらそう頭を下げた。
心にない人間と一緒にいるなど苦痛でしかないだろう...なんてそんな考えがすんなり出てきた。
もう既にすんなりとそう思えてしまった自分が酷く悲しく、下げた頭をあげることが出来なかった。
「...いえ、私が別に部屋に行きますので気遣いは無用です」
こうして、顔を合わせることも嫌だとでも言いたげに再びため息を着くミナホ様の声に自分の足元に向けている視界が揺らいだ。...あぁ...涙が零れそうだ...
「陛下?ユマ様も如何なさいましたか?」
そんな時にまた別の声が聞こえた。
自然な動作で涙を拭い顔を上げると微笑みを浮かべて首を傾げるリモーネさんの姿があった。
「...リモーネ、部屋をひとつ早急に準備しろ」
「...陛下、またそう我儘を申さないでくださいませ。この宿は我々が貸切にしておりますが、部屋のあまりはございません。よくご存知でしょう...大きい街と言えど、ここは観光地ではございませんからね。宿事態少なく「あぁ!もういい!お前の小言は一々長い」ふふ、ご理解いただけて感謝致します、陛下」
リモーネさんの言葉にも驚いたけど、それ以上にミナホ様の苦虫を噛み潰したような顔にも驚いた。
花の国の城でも、馬車の中でも、それにいまさっきもミナホ様の表情が無から崩れたことは無かったから。だから少しだけ、ほんの少しだけ胸の奥がちりっと傷んだ。
決して自分ではなし得ないことが目の前で簡単に起こってしまったのだ...
「あぁ、そうでした。お食事の準備が出来ましたのでこちらへ」
「あ、はい」
にっこりと笑って案内をしようとするリモーネさんに僕は返事をするが、ミナホ様はぎろっとリモーネさんを睨む。
「陛下?我儘はお控えください。ユマ様に笑われてしまいますよ」
整った顔が怖い顔をすると本当に怖いのだが、リモーネさんはなんのそのでそんな返事をした。一切気後れする様子もなく言ってしまう彼に思わず心の中で感嘆をあげてしまったくらいだ。
「はぁ...お前の企みはわかってるからな...」
「企みなど...滅相もございません」
本日何度目だろうかというため息をついたミナホ様はさっさと歩みを進める。その後ろでふふっといたずらっ子のように笑うリモーネさんは僕にも「ユマ様も」とだけ言って案内をしてくれた。
夕食はそれはそれは美味しかった。食事の最後に出たシャーベットまで美味しくて、少しだけ食べすぎたな...と思いながらでもまた食べたいなーと考えてしまう。
...食事はミナホ様と共にした。終始無言で、黙々と食べるミナホ様に僕は話しかける勇気はなかった。
だってそうだろ?彼は僕に興味が無いんだから...お腹は満たされても心はこれからもずっと満たされることは無いんだ...
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