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第一
はじめまして
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僕の結婚相手は産まれる前から決まっていたらしい。いわゆる政略結婚というものになるのだろうか。
でも、それに対して僕は一度も不満におもったことは無かった。国のため、国民のために生きれるということは王族としてとても誇らしいことだとおもったからだ。
それに、あの日、彼に出会った日。僕自身もこの結婚が嬉しくて嬉しくて…舞い上がってしまう気持ちを必死に抑えていたんだ。
あの日、精霊の国でのパーティに参加した日をよく覚えている。
「ユマ、ご挨拶なさい。この方があなたの未来の旦那さまよ」
母に言われてその国の王と王子に会った。
前に押し出された僕は少し恥ずかしくてうつむいてしまいそうだったが、目の前に現れ朝露に濡れたようなきらきらとした藤色の瞳に程よく焼けた小麦色の肌にさらさらと流れる金糸の髪、そのすべてに目を奪われた。
「は、はじめまして。花の国のユマです」
「はじめまして、精霊の国のミナホです」
ぺこっと頭を下げるとミナホ様と名乗った彼はきれいなお手本のようなお辞儀を返してくれる。このお辞儀も立っている姿もすべてがさまになっていて、まっすぐと僕を見る目にどきどきとした胸がうるさかった。
視線が交じり合ってる間は永遠とも思えるくらい長い時間だった。だけどたぶんすごい短い時間だったとおもう。
不意にはずされた視線に少し寂しさを覚えながらも大人たちの話を聞き流し、持て余してしまった自分の目線を時々、彼に向けながらも自分の手先に持っていく。
目の前の彼が将来自分の結婚する相手なのだと思うと胸の高鳴りは押さえることができず、嬉しいような恥ずかしいようなそんな感情がむねのうちを支配する。
「ミナホ、ユマ王子と踊ってきたらいかがかしら」
「はい、母上。そうします」
ミナホ様のお母様の一言でミナホ様はそっと僕に向けて手を差し出した。
「ユマ様。僕と一曲踊っていただけますか?」
「は、はい」
彼のまだ幼い手に僕のまた小さな手を重ねる。彼のぬくもりにまた心臓が高く鳴る。
どきどきとどこまでもうるさい心臓を、目の前の彼に悟られないようにするのに必死で足元が覚束なかったが、そんな僕を笑うわけでもなくミナホ様はゆっくりとリードするようにダンスフロアへと導いてくれた。
オーケストラたちの演奏に合わせて踊る大人たちに混ざって僕とミナホ様は向きあいゆっくりとした音楽とともに体を揺らす。もう、そのときには心臓の音は最高潮に高鳴っていた気がする。
でも、僕の耳にはそんな心臓のうるささも周りの声も聞こえないほどに二人だけの時間をゆっくりと感じていた。
どれくらい踊っていたのだろう。静かで穏やかな時間はとてもあっという間でお互いの親が呼ぶ声に僕は初めてはっとして踊る足を止めた。
「ユマ、そろそろミナホ王子にご挨拶して?」
「あ…」
もうさよならの時間だとわかって僕は明らかにがっかりした顔をしていたのだろう。
そんな僕の手をミナホ様は持ち上げそっと手の甲にキスをした。
「ユマ様、またお会いできます」
そういって初めてミナホ様は優しく、本当にきれいに微笑んだ。
「そのときはまた一緒に踊ってくださいますか?」
「っ、はいっ!もちろん」
手の甲のキスも笑顔もあまりの衝撃に顔に熱が集まるのを感じた。
嬉しい。また会ってくれる…また一緒の時間を過ごしてくれるのだとおもうとその場で飛び跳ねたい気分になった。
きっともう、このときはミナホ様に心を奪われてしまったのだとおもった。
初恋というには十分でこの先のものになんの疑いも無かった。
彼を思えば何でもできる。なににでもなれるとおもったし、そのための努力を惜しむ必要などないのだとおもった。
またお会いする。その日のために僕はなんでもしようと、彼の隣に立って恥ずかしくないように。不釣合いだとおもわれないように…
でも、それに対して僕は一度も不満におもったことは無かった。国のため、国民のために生きれるということは王族としてとても誇らしいことだとおもったからだ。
それに、あの日、彼に出会った日。僕自身もこの結婚が嬉しくて嬉しくて…舞い上がってしまう気持ちを必死に抑えていたんだ。
あの日、精霊の国でのパーティに参加した日をよく覚えている。
「ユマ、ご挨拶なさい。この方があなたの未来の旦那さまよ」
母に言われてその国の王と王子に会った。
前に押し出された僕は少し恥ずかしくてうつむいてしまいそうだったが、目の前に現れ朝露に濡れたようなきらきらとした藤色の瞳に程よく焼けた小麦色の肌にさらさらと流れる金糸の髪、そのすべてに目を奪われた。
「は、はじめまして。花の国のユマです」
「はじめまして、精霊の国のミナホです」
ぺこっと頭を下げるとミナホ様と名乗った彼はきれいなお手本のようなお辞儀を返してくれる。このお辞儀も立っている姿もすべてがさまになっていて、まっすぐと僕を見る目にどきどきとした胸がうるさかった。
視線が交じり合ってる間は永遠とも思えるくらい長い時間だった。だけどたぶんすごい短い時間だったとおもう。
不意にはずされた視線に少し寂しさを覚えながらも大人たちの話を聞き流し、持て余してしまった自分の目線を時々、彼に向けながらも自分の手先に持っていく。
目の前の彼が将来自分の結婚する相手なのだと思うと胸の高鳴りは押さえることができず、嬉しいような恥ずかしいようなそんな感情がむねのうちを支配する。
「ミナホ、ユマ王子と踊ってきたらいかがかしら」
「はい、母上。そうします」
ミナホ様のお母様の一言でミナホ様はそっと僕に向けて手を差し出した。
「ユマ様。僕と一曲踊っていただけますか?」
「は、はい」
彼のまだ幼い手に僕のまた小さな手を重ねる。彼のぬくもりにまた心臓が高く鳴る。
どきどきとどこまでもうるさい心臓を、目の前の彼に悟られないようにするのに必死で足元が覚束なかったが、そんな僕を笑うわけでもなくミナホ様はゆっくりとリードするようにダンスフロアへと導いてくれた。
オーケストラたちの演奏に合わせて踊る大人たちに混ざって僕とミナホ様は向きあいゆっくりとした音楽とともに体を揺らす。もう、そのときには心臓の音は最高潮に高鳴っていた気がする。
でも、僕の耳にはそんな心臓のうるささも周りの声も聞こえないほどに二人だけの時間をゆっくりと感じていた。
どれくらい踊っていたのだろう。静かで穏やかな時間はとてもあっという間でお互いの親が呼ぶ声に僕は初めてはっとして踊る足を止めた。
「ユマ、そろそろミナホ王子にご挨拶して?」
「あ…」
もうさよならの時間だとわかって僕は明らかにがっかりした顔をしていたのだろう。
そんな僕の手をミナホ様は持ち上げそっと手の甲にキスをした。
「ユマ様、またお会いできます」
そういって初めてミナホ様は優しく、本当にきれいに微笑んだ。
「そのときはまた一緒に踊ってくださいますか?」
「っ、はいっ!もちろん」
手の甲のキスも笑顔もあまりの衝撃に顔に熱が集まるのを感じた。
嬉しい。また会ってくれる…また一緒の時間を過ごしてくれるのだとおもうとその場で飛び跳ねたい気分になった。
きっともう、このときはミナホ様に心を奪われてしまったのだとおもった。
初恋というには十分でこの先のものになんの疑いも無かった。
彼を思えば何でもできる。なににでもなれるとおもったし、そのための努力を惜しむ必要などないのだとおもった。
またお会いする。その日のために僕はなんでもしようと、彼の隣に立って恥ずかしくないように。不釣合いだとおもわれないように…
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