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【CASE⑤ シルシチョウ】
【CASE⑤ シルシチョウ】
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【怪怪神奇譚】
『おや、いらっしゃい』
そう告げるのは妖艶という言葉が似合う
この古びた館の主人
煙管を手に、甘い香炉の香りを漂わせ
『さて…と』
主人は、その双眸で【目の前の客】を
しっかりと見据え
ゆらりと甘い声で尋ねる
『貴方の【願い】は、なぁに?』
-------------------------------------------【CASE⑤ シルシチョウ】
『また……厄介な物を。
貴方、ソレ何処で付けてきたんです?』
主人は珍しく青年を自らの後ろに下がらせ
目の前、やつれ細り隈ができ怯え震えている
そんな男性から遠ざけるようにして
びりついた空気で威圧し話す
目を向ける男性は
音や視線全てに怯えきり
ガタガタと震えながらもか細い声で
一冊のノートとを取り出しながら話し始める
『?』
『お前は見なくてよろしい。』
『ぁた』
煙管で頭をコンッと優しく打たれ
渋々、主人に事前に言われた言いつけ通り
男性とは目を合わせない青年
『貴方達でしたか。友人の本殿から
この蝶を連れ去ったのは』
『ひぃっ』
【蝶】と聞いた瞬間
途端に悲鳴を上げ頭を抱える男性
『怯えなくていいですよ。
貴方が抱えるその願い、時間は
…それほど経っていらっしゃらないようだから。』
含み笑いを見せる主人
男性の畏怖と恐怖の全てを
すでに把握しているのだ。
煙管をクルクルと回し男性に向け告げる
『原因は簡単。貴方が今すぐに
【元のように戻りたいと願う】なら
今すぐにでも叶えてあげられる』
『...…そ…れは……本当ですか』
『あぁ。【貴方が望むなら。】今すぐに』
『!お願いしますっ…お願いしますっ
早く早く早くこれから解放してくださぃ』
気圧されるようなほど必死な
命乞いにもにた歪で異様な男性の恐怖心
その答えを待っていたと言わんばかりに
主人は手に持つ赤い紐を
羽織っていた着物の袖から取り出し
男性のシャツを無遠慮に弄り
首元の異様な湿疹と字に触り
糸を巻きつけ始める
ちらりとみえる、その字は
【蝶】のシルエットをして
そこまで綺麗につくものかと
疑いたくなるほど目を見張るものだった
『これは貴方が望んだ【苦しみからの解放】
貴方の願い。貴方の、その心中の願いは
貴方の望みは苦しみからの解放
その畏怖恐怖する、ソレからの解放で
間違いはない?他にはないね?』
再度含みがある言い方で確認を取る主人に
男性は泣きながら縋り付く子供のように
鼻を垂らし涙を流し懇願する
男性の怯えた目、懇願し縋り付く姿
それが答えだと言わんばかりに
主人は赤い紐を巻きつけ終わると
籠を取り出し、また男性に次は
首に白い紐を巻きつけ、血を垂らすため
小さな刃で傷をつける
男性は痛みに悶える声を出すこともなく
早く解放されたいと願うため
ただそれを受け続ける
『次は、好奇心で"自分達"を無残な
死に追いやらないようにしてくださいね』
ニヤリと笑う主人
『はい…。』
『私はこの館の主人として
最後にもう一度確認しましょう。
願いを聞くこんな話をするくらいですからね
貴方のソレは
貴方には簡単に切り離せる代物じゃぁない
さて…改めて聞こうか
【貴方の願いはなぁに?】』
その瞳は紅く妖艶な輝きを放ち
男性を見据えて問いかける
ただ男性は泣き縋り
母に抱きつく子供のように主人の袖に
縋り付くと必死に答えを出す
『どうか俺を
この化物から解放してください
俺をこの化物からお救いください
日常を、どうか……もどして……。』
『承りました…と。じゃあお代は...そうだね
【貴方の手に持つそのノート】という事で。』
煙管を今度打ち鳴らす音が
館の中に響き渡った。
-------------------------------------------
男性は不安と恐怖による
心の重さから解放されたからか
爽やかな顔色で館にお辞儀を一礼すると
直ぐ背を向け帰路に向かった
窓からその姿を眺める主人の手には
男性が肌身離さず持っていた一冊のノート
『今回は、とても不思議な方でしたね』
主人の横には、主人のために紅茶を淹れ
主人に言葉を投げかける1人の青年
『嗚呼……久々に私が憑かれるなんて
ケッタイな事をしなきゃならない
羽目になるとはねぇ。』
主人は笑いながら気怠そうに紅茶に口付ける
『憑かれ……って…先生……、
それ取れるんですか?』
『…まぁ、直ぐに、この筒包に入れるから
少しの間だけ憑かせているだけだしね
逃げられて、執着してる、あの客人に
また憑かれては
今度こそ命の補償はできないし…ね。』
笑いながら話す主人に青年は
少し気後れしながら話しかける
『それで……そのノートには
何と書いてあったんですか?
【先生】がこれほど憑かれるまで欲しがった
品なんでしょう…?』
青年の問いかけに
主人は少し気怠げな笑みを浮かべ
【そのノート】を手に取り青年に渡す
『気になるなら見てみるといい。
ノート自体には何の縛りも効力も
【もうない】からね。』
主人の意味深な発言も気になったが
【縛りも効力もない一冊のノート】
今、目の前
自らの知的好奇心を満たせる誘惑に負け
手渡されたノートのページを捲る
最初のページは
【赤い糊のように張り付くナニカ】によって
見えず剥がすこともできなかったが
2枚目のページから
所々抜けた文字こそあれど
推測と、客人の話していた言葉で
思考の穴埋めができた
【月 日 金曜日
今日とてもいい知らせを聞いた
明日は、街の祭りの日で幼馴染の全員が
この に集まりに帰ると言う。
久々に会える日だ、何年ぶりだろうか?
みんな都会に行って、それぞれの道を進んで
なかなか会うことも機会もなかったから
今から、とても楽しみでならない。】
【月 日 土曜日
なんてことだ。
禁忌を破ってしまった。
祟りが降る?村の に見つかってしまった
祟りなんてあり得ないと が言ったが
あの般若が宿ったような形相
いつもの穏やかな が、浮かべる表情
とてもじゃないが
俺には冗談に聞こえなかった。
アイツらは笑っていたけれど
俺はどうにも引っかかる
恐ろしくてならないのだ。
この事は忘れろと に強く強く言われたが
俺もそうした方がいいのかもしれないと思う。】
【月 日 火曜日
今朝、知らせを聞いた
電話口で母親の慌て青ざめる顔に
声を聞いていない俺ですら背筋が凍りついた
が死んだらしい。
不幸な出来事と言われた
不慮な事故だと言われた
けれど、 に聞いてみると
不幸、不慮だと言う言葉では片づけられない
それほど危険なモノだと理解した
アイツは と の家で泊り会でもしよう
そんな話をし近くのコンビニに行ったらしい
青ざめていて、震える口から聞き取るのには
随分と長い時間がかかったが
深夜のこと、泊り会ではしゃいで酒を仰ぎ
すっかり、あの日のことを忘れ
眠気に誘われるまま眠りについたと言う
深夜3時ごろ
ギシギシとナニカが軋む音
水音がポタポタと滴る
そんな音で目を覚ました が、目にしたのは
目の前、先程まで一緒に飲み明け暮れていた
の、異様な姿
首に自ら締め縄を巻きつけて
天井の梁の少し飛び出た杭に
締め縄を括り付け眼球が飛び出て
舌を垂れ下げ、口や鼻
下から液体を垂れ流す無惨な姿
ただ1番恐ろしかった事があったと言った
それは が、今際の際に
『コレハスベテオワルマデシルシツズケル』
『オマエタチハ、シルシノチョウカラ
ニゲラレナイ。マツノダイマデ。トワに』
と
首を90度曲げさせながら
話し告げた事だと言う
勿論、警察も周りも証言しても
信用すらしてくれない。
酒のせいで幻覚を見たのだと言われたらしい
だから俺に話したという
なぜなら、【次はアイツの番】だからと
狂乱し震え怯えながら自らに迫る
ナニカの手に されるのを待つのだと
アイツは笑って言っていた】
【月 日 木曜日
駄目かもしれない。
また連絡が来た。
俺は電話の鳴る音、些細な物音
それすら恐ろしくてたまらない。
アイツも連れて行かれてしまった
元凶の場所に行く事なんて
俺には無理だできない。
だが、これを解決しなければ
次は俺か、 の番だ。
マツノダイマデと言っていた
末代…俺の娘まで手にかけると言う事
どうにかして、この呪縛を解かねばならない
どうにかして解決法を
せめて、娘と だけは助ける方法を
探さなきゃならない】
バサリとノートを床に落とす青年
青年の表情は恐怖と畏怖で引き攣り
手と全身が震え青ざめて血の気が引いていく
『………っ…こ…れ』
青ざめ震える青年に主人は
ふわりと自らの着物の羽織を頭からかぶせ
目を覆い、耳元で優しく大丈夫だと
安心させるために抱きしめながら話す
『さすが感のいい弟子だ。
そうだよ、これに至っては解決はしていない
一時的に、あの客人の願い通りに
私が、これを引き受けたにすぎない。
あの客人の天寿が全うされたなら
その時は、この筒包に入れても
マツノダイマデ
つまり末代の娘さんに逢い憑きに行くだろう
生憎と言わせてもらうなら
今回の願いは、あの客人から
これを取り除くこと。
末代まで、家族までのことには触れていない
狡く思うかな?』
儚げに、寂しげな声音の主人
青年は震え乍ら主人の腕を掴み首を横に振る
『……こ…れは…一体何なんですか?』
『はぁ…こんな時でも好奇心と
知識探究心があるのは、まぁ感心はするよ
さすがは私の弟子だ。
……そうだな。
これはね本来、人が触れてはならない
関わってはいけないモノだった。
シルシチョウと言ってね
蝶のように美しい絵姿が
本来の此れの姿なんだ。
私が小さな頃、
一度だけ先代に連れられて教わったが
当時と全く変わらぬ姿で一眼でわかったよ
話が全て隠されず本当ならば
このシルシチョウは、ある本殿に厳重に
丁重に縛られていた筈だが…。
其れを彼等は
意図も容易く破ってしまったのだろうね。
ちょうど一か月ほど前に
このシルシチョウのある本殿の友人から
いなくなったと連絡を受けていた
後から見つかったのと経緯を説明して
返そうと思うが中々に難儀でね。』
『難儀…?』
『先程も言っただろう。
これはマツノダイマデ。
つまり、あの客人の末代、娘さんに
逢い憑き死を与えるまでは完全には
この本には戻らないんだ。
このシルシチョウは、
若い人の子、贄を常に求め
本殿に縛り付けられていた。
うちの友人は優秀でね、だから祭りと称して
贄を人の代わりに代用する祭事を行っていた
だが…、
今回で長年の恒例も無駄足になってしまった
これは、恐怖と畏怖をされるほどに力を増す
殺すと言うのも事実
これは一度自らの姿を好奇心で見た人間を
贄とし、それを食い尽くすまでは
此れの食欲は終わりを迎えないのさ。
ターゲット、獲物は、すべての近親者
配偶者、末の代まで。必ず喰らい尽くすまで
治ることも完璧に元の本殿に封じることも
叶わない。
これは相当に危険なモノなのさ。
【シルシチョウ】は【印蝶】と書く
本来蝶は縁起のいい物とされるが
これは、れっきとした【怪異】
蜜を吸うように生気を吸い
最大限、その対象が恐怖と畏怖を刻むまで
決して離れないし消えはしない執念深いんだ
それに、蝶は死体に寄り付く
死の表しでもあるからね。
恐怖と畏怖がある限り
自らの存在は人々から消えず
存在し続けらる。
人に忘れられて存在は死を迎えるなんて
よく言うじゃないか
だから、日記にもある通り
本殿を守ってくれていた主様が
せめてもの助言として忘れる事を告げた
けれど、彼等は守らなかった。
好奇心は猫をも殺す。ピッタリじゃないか』
『………』
『怯えなくていい。
お前は、この館の私の物だ
誰にも、何にも危害を加えさせはしまいよ
ならば、此処に問題なんて
何一つだってないんだ
だから、お前は今日のことを必ず忘れる事だ
いいね』
しばらく眺めていたノートの表紙をなぞると
主人は丁重に筒包に赤い紐を巻きつけ
そうして青年に忠告をした後
早々に筒包を着物の袖に仕舞い込んだ
『はい。』
『さて、新しい御客人みたいだが
お前は今日は私から離れず側にいなさい』
『はい。お茶の準備は…』
『茶くらい偶にはいらないだろうさ。
さぁさ、出迎えだ。』
知ってる?
その古い洋館に行けば御代を払うだけで
なんでも願いを叶えてくれるんだって
本当に願いを叶えてほしい人にしか
館は姿を現さないらしいよ
『そう、どんな願いも
其れに見合う代償
御代があるのならなんなりと。
さて…貴方の【願い】は、なぁに?』
『おや、いらっしゃい』
そう告げるのは妖艶という言葉が似合う
この古びた館の主人
煙管を手に、甘い香炉の香りを漂わせ
『さて…と』
主人は、その双眸で【目の前の客】を
しっかりと見据え
ゆらりと甘い声で尋ねる
『貴方の【願い】は、なぁに?』
-------------------------------------------【CASE⑤ シルシチョウ】
『また……厄介な物を。
貴方、ソレ何処で付けてきたんです?』
主人は珍しく青年を自らの後ろに下がらせ
目の前、やつれ細り隈ができ怯え震えている
そんな男性から遠ざけるようにして
びりついた空気で威圧し話す
目を向ける男性は
音や視線全てに怯えきり
ガタガタと震えながらもか細い声で
一冊のノートとを取り出しながら話し始める
『?』
『お前は見なくてよろしい。』
『ぁた』
煙管で頭をコンッと優しく打たれ
渋々、主人に事前に言われた言いつけ通り
男性とは目を合わせない青年
『貴方達でしたか。友人の本殿から
この蝶を連れ去ったのは』
『ひぃっ』
【蝶】と聞いた瞬間
途端に悲鳴を上げ頭を抱える男性
『怯えなくていいですよ。
貴方が抱えるその願い、時間は
…それほど経っていらっしゃらないようだから。』
含み笑いを見せる主人
男性の畏怖と恐怖の全てを
すでに把握しているのだ。
煙管をクルクルと回し男性に向け告げる
『原因は簡単。貴方が今すぐに
【元のように戻りたいと願う】なら
今すぐにでも叶えてあげられる』
『...…そ…れは……本当ですか』
『あぁ。【貴方が望むなら。】今すぐに』
『!お願いしますっ…お願いしますっ
早く早く早くこれから解放してくださぃ』
気圧されるようなほど必死な
命乞いにもにた歪で異様な男性の恐怖心
その答えを待っていたと言わんばかりに
主人は手に持つ赤い紐を
羽織っていた着物の袖から取り出し
男性のシャツを無遠慮に弄り
首元の異様な湿疹と字に触り
糸を巻きつけ始める
ちらりとみえる、その字は
【蝶】のシルエットをして
そこまで綺麗につくものかと
疑いたくなるほど目を見張るものだった
『これは貴方が望んだ【苦しみからの解放】
貴方の願い。貴方の、その心中の願いは
貴方の望みは苦しみからの解放
その畏怖恐怖する、ソレからの解放で
間違いはない?他にはないね?』
再度含みがある言い方で確認を取る主人に
男性は泣きながら縋り付く子供のように
鼻を垂らし涙を流し懇願する
男性の怯えた目、懇願し縋り付く姿
それが答えだと言わんばかりに
主人は赤い紐を巻きつけ終わると
籠を取り出し、また男性に次は
首に白い紐を巻きつけ、血を垂らすため
小さな刃で傷をつける
男性は痛みに悶える声を出すこともなく
早く解放されたいと願うため
ただそれを受け続ける
『次は、好奇心で"自分達"を無残な
死に追いやらないようにしてくださいね』
ニヤリと笑う主人
『はい…。』
『私はこの館の主人として
最後にもう一度確認しましょう。
願いを聞くこんな話をするくらいですからね
貴方のソレは
貴方には簡単に切り離せる代物じゃぁない
さて…改めて聞こうか
【貴方の願いはなぁに?】』
その瞳は紅く妖艶な輝きを放ち
男性を見据えて問いかける
ただ男性は泣き縋り
母に抱きつく子供のように主人の袖に
縋り付くと必死に答えを出す
『どうか俺を
この化物から解放してください
俺をこの化物からお救いください
日常を、どうか……もどして……。』
『承りました…と。じゃあお代は...そうだね
【貴方の手に持つそのノート】という事で。』
煙管を今度打ち鳴らす音が
館の中に響き渡った。
-------------------------------------------
男性は不安と恐怖による
心の重さから解放されたからか
爽やかな顔色で館にお辞儀を一礼すると
直ぐ背を向け帰路に向かった
窓からその姿を眺める主人の手には
男性が肌身離さず持っていた一冊のノート
『今回は、とても不思議な方でしたね』
主人の横には、主人のために紅茶を淹れ
主人に言葉を投げかける1人の青年
『嗚呼……久々に私が憑かれるなんて
ケッタイな事をしなきゃならない
羽目になるとはねぇ。』
主人は笑いながら気怠そうに紅茶に口付ける
『憑かれ……って…先生……、
それ取れるんですか?』
『…まぁ、直ぐに、この筒包に入れるから
少しの間だけ憑かせているだけだしね
逃げられて、執着してる、あの客人に
また憑かれては
今度こそ命の補償はできないし…ね。』
笑いながら話す主人に青年は
少し気後れしながら話しかける
『それで……そのノートには
何と書いてあったんですか?
【先生】がこれほど憑かれるまで欲しがった
品なんでしょう…?』
青年の問いかけに
主人は少し気怠げな笑みを浮かべ
【そのノート】を手に取り青年に渡す
『気になるなら見てみるといい。
ノート自体には何の縛りも効力も
【もうない】からね。』
主人の意味深な発言も気になったが
【縛りも効力もない一冊のノート】
今、目の前
自らの知的好奇心を満たせる誘惑に負け
手渡されたノートのページを捲る
最初のページは
【赤い糊のように張り付くナニカ】によって
見えず剥がすこともできなかったが
2枚目のページから
所々抜けた文字こそあれど
推測と、客人の話していた言葉で
思考の穴埋めができた
【月 日 金曜日
今日とてもいい知らせを聞いた
明日は、街の祭りの日で幼馴染の全員が
この に集まりに帰ると言う。
久々に会える日だ、何年ぶりだろうか?
みんな都会に行って、それぞれの道を進んで
なかなか会うことも機会もなかったから
今から、とても楽しみでならない。】
【月 日 土曜日
なんてことだ。
禁忌を破ってしまった。
祟りが降る?村の に見つかってしまった
祟りなんてあり得ないと が言ったが
あの般若が宿ったような形相
いつもの穏やかな が、浮かべる表情
とてもじゃないが
俺には冗談に聞こえなかった。
アイツらは笑っていたけれど
俺はどうにも引っかかる
恐ろしくてならないのだ。
この事は忘れろと に強く強く言われたが
俺もそうした方がいいのかもしれないと思う。】
【月 日 火曜日
今朝、知らせを聞いた
電話口で母親の慌て青ざめる顔に
声を聞いていない俺ですら背筋が凍りついた
が死んだらしい。
不幸な出来事と言われた
不慮な事故だと言われた
けれど、 に聞いてみると
不幸、不慮だと言う言葉では片づけられない
それほど危険なモノだと理解した
アイツは と の家で泊り会でもしよう
そんな話をし近くのコンビニに行ったらしい
青ざめていて、震える口から聞き取るのには
随分と長い時間がかかったが
深夜のこと、泊り会ではしゃいで酒を仰ぎ
すっかり、あの日のことを忘れ
眠気に誘われるまま眠りについたと言う
深夜3時ごろ
ギシギシとナニカが軋む音
水音がポタポタと滴る
そんな音で目を覚ました が、目にしたのは
目の前、先程まで一緒に飲み明け暮れていた
の、異様な姿
首に自ら締め縄を巻きつけて
天井の梁の少し飛び出た杭に
締め縄を括り付け眼球が飛び出て
舌を垂れ下げ、口や鼻
下から液体を垂れ流す無惨な姿
ただ1番恐ろしかった事があったと言った
それは が、今際の際に
『コレハスベテオワルマデシルシツズケル』
『オマエタチハ、シルシノチョウカラ
ニゲラレナイ。マツノダイマデ。トワに』
と
首を90度曲げさせながら
話し告げた事だと言う
勿論、警察も周りも証言しても
信用すらしてくれない。
酒のせいで幻覚を見たのだと言われたらしい
だから俺に話したという
なぜなら、【次はアイツの番】だからと
狂乱し震え怯えながら自らに迫る
ナニカの手に されるのを待つのだと
アイツは笑って言っていた】
【月 日 木曜日
駄目かもしれない。
また連絡が来た。
俺は電話の鳴る音、些細な物音
それすら恐ろしくてたまらない。
アイツも連れて行かれてしまった
元凶の場所に行く事なんて
俺には無理だできない。
だが、これを解決しなければ
次は俺か、 の番だ。
マツノダイマデと言っていた
末代…俺の娘まで手にかけると言う事
どうにかして、この呪縛を解かねばならない
どうにかして解決法を
せめて、娘と だけは助ける方法を
探さなきゃならない】
バサリとノートを床に落とす青年
青年の表情は恐怖と畏怖で引き攣り
手と全身が震え青ざめて血の気が引いていく
『………っ…こ…れ』
青ざめ震える青年に主人は
ふわりと自らの着物の羽織を頭からかぶせ
目を覆い、耳元で優しく大丈夫だと
安心させるために抱きしめながら話す
『さすが感のいい弟子だ。
そうだよ、これに至っては解決はしていない
一時的に、あの客人の願い通りに
私が、これを引き受けたにすぎない。
あの客人の天寿が全うされたなら
その時は、この筒包に入れても
マツノダイマデ
つまり末代の娘さんに逢い憑きに行くだろう
生憎と言わせてもらうなら
今回の願いは、あの客人から
これを取り除くこと。
末代まで、家族までのことには触れていない
狡く思うかな?』
儚げに、寂しげな声音の主人
青年は震え乍ら主人の腕を掴み首を横に振る
『……こ…れは…一体何なんですか?』
『はぁ…こんな時でも好奇心と
知識探究心があるのは、まぁ感心はするよ
さすがは私の弟子だ。
……そうだな。
これはね本来、人が触れてはならない
関わってはいけないモノだった。
シルシチョウと言ってね
蝶のように美しい絵姿が
本来の此れの姿なんだ。
私が小さな頃、
一度だけ先代に連れられて教わったが
当時と全く変わらぬ姿で一眼でわかったよ
話が全て隠されず本当ならば
このシルシチョウは、ある本殿に厳重に
丁重に縛られていた筈だが…。
其れを彼等は
意図も容易く破ってしまったのだろうね。
ちょうど一か月ほど前に
このシルシチョウのある本殿の友人から
いなくなったと連絡を受けていた
後から見つかったのと経緯を説明して
返そうと思うが中々に難儀でね。』
『難儀…?』
『先程も言っただろう。
これはマツノダイマデ。
つまり、あの客人の末代、娘さんに
逢い憑き死を与えるまでは完全には
この本には戻らないんだ。
このシルシチョウは、
若い人の子、贄を常に求め
本殿に縛り付けられていた。
うちの友人は優秀でね、だから祭りと称して
贄を人の代わりに代用する祭事を行っていた
だが…、
今回で長年の恒例も無駄足になってしまった
これは、恐怖と畏怖をされるほどに力を増す
殺すと言うのも事実
これは一度自らの姿を好奇心で見た人間を
贄とし、それを食い尽くすまでは
此れの食欲は終わりを迎えないのさ。
ターゲット、獲物は、すべての近親者
配偶者、末の代まで。必ず喰らい尽くすまで
治ることも完璧に元の本殿に封じることも
叶わない。
これは相当に危険なモノなのさ。
【シルシチョウ】は【印蝶】と書く
本来蝶は縁起のいい物とされるが
これは、れっきとした【怪異】
蜜を吸うように生気を吸い
最大限、その対象が恐怖と畏怖を刻むまで
決して離れないし消えはしない執念深いんだ
それに、蝶は死体に寄り付く
死の表しでもあるからね。
恐怖と畏怖がある限り
自らの存在は人々から消えず
存在し続けらる。
人に忘れられて存在は死を迎えるなんて
よく言うじゃないか
だから、日記にもある通り
本殿を守ってくれていた主様が
せめてもの助言として忘れる事を告げた
けれど、彼等は守らなかった。
好奇心は猫をも殺す。ピッタリじゃないか』
『………』
『怯えなくていい。
お前は、この館の私の物だ
誰にも、何にも危害を加えさせはしまいよ
ならば、此処に問題なんて
何一つだってないんだ
だから、お前は今日のことを必ず忘れる事だ
いいね』
しばらく眺めていたノートの表紙をなぞると
主人は丁重に筒包に赤い紐を巻きつけ
そうして青年に忠告をした後
早々に筒包を着物の袖に仕舞い込んだ
『はい。』
『さて、新しい御客人みたいだが
お前は今日は私から離れず側にいなさい』
『はい。お茶の準備は…』
『茶くらい偶にはいらないだろうさ。
さぁさ、出迎えだ。』
知ってる?
その古い洋館に行けば御代を払うだけで
なんでも願いを叶えてくれるんだって
本当に願いを叶えてほしい人にしか
館は姿を現さないらしいよ
『そう、どんな願いも
其れに見合う代償
御代があるのならなんなりと。
さて…貴方の【願い】は、なぁに?』
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・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
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・自作発言
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・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
【ショートショート】恋愛系 笑顔
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
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声劇用だと1分半〜5分ほど、黙読だと1分〜3分ほどで読みきれる作品です。
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