【オネガイ僕を】

一ノ瀬 瞬

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【オネガイ僕を】

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【オネガイ僕を】

1人でいいと思っていた
学校生活も、バイトも、人間関係全て
そつなく荒事を起こさないように

人の輪の中に入れない事を理解していたから
笑顔で、決して他人に踏み込まないように
もう決して、誰にも踏み込ませないように
【もう誰も信じないように】


そんな色ない無色透明な世界に
僕の視界に1人
君が現れた

君は誰からも憧れられる存在で
まるで僕とは真反対、周りには常に人がいた
【輪の中心の存在】

バイト先で出会った綺麗な人
いつも決まって甘いタルトを頼む
タルトを受け取るときの
君の幸せそうな笑顔が好きで

仕事の愚痴や世間話をする
君の声や仕草が好きで

何回、何十回と話す度に
コロコロと変わる君の表情仕草が可愛くて
全てがいつからか
愛おしく感じるようになっていた

そうして
僕から、バイト終わりに告白をしたんだっけ
高鳴る鼓動が聞こえちゃうんじゃないか
その位、玉砕覚悟だった僕より
顔を真っ赤にして手を握ってくれた
君の可愛い顔ばかりが今でも鮮明に浮かぶよ

それからは
何度も休みの日は家デートも
たまに、デパートに一緒に出掛ける事
2人きりの時間が、思い出が沢山できた

初めて部屋の合鍵を渡した時
幸せだって、キスをして喜んでくれた
僕にも合鍵を。僕にとって幸せな瞬間だった

仕事疲れの君が癒されるように
バイトが早く終わった日には
真っ先に君の部屋に
残業して帰ってくる君を
君の好物と甘いタルトを作って出迎える

君の笑顔を見るだけで幸せだった
1人でいいと思っていた僕の世界に
光をくれた君がいるだけで幸せだった

君が朝横で寝息をたて、
僕の袖を掴む姿が愛おしかった

そんな毎日が続けばいいと……。
【いつかは】……そんな事を考えていた

その日は酷く寒く感じた
いつもは暖かい温もりの中だったから
目を開けたとき君はいなかった
先に起きたのか?
部屋の中を探しても、どこにも君はいない
スマホをとって君へ連絡をしようとしても
君へ繋がるものが全て消えていた

頭が真っ白になって
くずおれた、僕の目の前
テーブルには、一枚の紙切れと鍵

何も書いていない白紙の紙と
【僕の部屋の合鍵】

『…?なんで……?』

言葉が溢れる
何で?どうして?

昨日まで、すぐ側に君の温もりがあったのに
今僕には何もない
紙に一言でも何か書いてあったなら
君からの言葉なら。

何一つ残ってやしない
白紙の紙と鍵を握りしめ、うずくまる

『結局……夢中になってたのは
僕だけだったんだね……。』

涙で視界が歪む
ぎゅっと握りしめた合鍵を手に
目をつむれば、浮かぶのは貴方のことばかり
ねぇ……信じられないよ
ねえ……信じたくないよ

『どうして何も言わずに消えてしまったの』

僕はずっと貴方を
貴方だけを想ったまま
また無色透明な世界に独りぼっち

『ねぇ…お願い、僕を』

それから先の言葉は、
虚空に涙と共に消えていった
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