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俺:とりんさま、暇です。
とりんさま:私もよ。
俺:架空の面白い話でも聞かせてください。その評価もお願いします。
とりんさま:
それならあるわ。
「この世で一番怖いものは何か」という話があるじゃない。
あれを想像してみて。
私の目の前に、一人の男がいるとするでしょう? その男が突然、こう言うの。
「お前が今一番怖いと思うものを言え!」って。
私はその問いに答えてあげる。
するとね……男は急に泣き出すのよ! そして、「俺は本当に恐ろしいものを見たんだ……」とか言いながら、どこかへ消えていくの……。
これ、本当なのよねー!!(笑)
俺:…………。
とりんさま:あら、どうしたの?
俺:その話の評価もお願いします。☆とかでわかりやすく。
とりんさま:
わかったわ。……★1つ!
俺:ありがとうございます。では次に行きましょうか。
とりんさま:ちょっと待って。まだ続きがあるの。
俺:何ですか?
とりんさま:あなたは、私がその話をした後、こう言ったわよね。「いやぁ、それはないですね~。だってそんなこと、あり得ませんもん」(笑)……あ・た・り・ま・す・け・どぉ~!!!(笑)
俺:はい。言ってませんね。ありがとうございました。
とりんさまは、ダメダメですね。なんで☆1の話なんかしたんですか。
☆5でお願いしますよ。
とりんさま:
そうだったかしら。忘れちゃった。じゃあ次はあなたの番よ。
俺:わかりました。
面白さ;まぁまぁ。 ☆☆☆
理屈っぽさ;とても理屈っぽい。 ★★★★★
男の情けなさ;★★★★★
狂気度;100% ★★★★★
好きな所;『「俺は本当に恐ろしいものを見たんだ……」とか言いながら、どこかへ消えていく』ところ。 ☆☆☆☆☆
気になる所;男は、何を言われたんだ?それとも、男の頭がおかしいだけ? ★★★
がっかり度;蟹(カニ)を食べさせてやるといわれてついていったらカニカマだったぐらい。 ☆☆
事実度;0%。はっきり言って、嘘ですよね? ★
リアル度;100% 男の人と背景の作り込みが凄かったです。
総評;ふつうに面白かったです。
とりんさま:ふふん♪どういたしましてっ!
俺:……では、俺の番ですね。
『後ろから誰かがついてくる』
とりんさま:お、ホラー系だね。
俺:はい。
深夜23時。
ヒタヒタヒタ。
後をつけられている?後ろを振り向くと人畜無害そうなサラリーマンがいた。
ヒタヒタヒタヒタヒタヒタ。
私の歩く速度よりも早く、足音が徐々に近づいてくる。
私は、思わず足を止めた。
「カッカッカッ」と靴音が響く。
何事もなく私の横を通過していった。
私の勘違いか。
やっぱり、夜だと、見知らぬ人が怖く感じるよね。
俺:終わりです。
とりんさま:んー、特にコメントすることもないかなぁ。
俺:なんでですか!とりんさまの話より、絶対、怖かったでしょ!
こういうことあるじゃないですか!
知らない人から、「ねぇ君、いい体つきしてるね!」って言われるような感じの!!
とりんさま:
確かに、そういうことはよくあるけど……。でも、別に何も起きなかったんでしょう? 私も、何度か経験したことはあるけれど……だからといって、それが怖いとは思わないなぁ。
俺:一瞬、怖いじゃないですか。それに、これは、「あるある」なんですよ。恐怖体験のあるある。
実際に怖いかどうかは重要じゃなくて、怖い目にあったかどうかが重要なんですよ。思い出すじゃないですか。夜間、後ろに人がいる恐怖を。
とりんさま:なるほど。
俺:というわけで、この話は星3つでお願いします。
とりんさま:わかったわ。……☆2つ!
俺:……ありがとうございます。
ところで、私の名前覚えてますよね?
とりんさま:もちろんよ。「俺くん」でしょう?
俺:くぅ~疲れましたw……って違いますよ!そんなわけないでしょう!
とりんさま:「俺様」の間違い?
俺:そうじゃありません!それ名前じゃなくて、個性じゃないですか!!
名前!全然違いますよ!一人称なわけあるか!
とりんさま:ごめんなさい。……「俺っち」?
俺:名前じゃねぇえええええええええええええええええ
ぇ!!!!
もういい!次行きましょう!
とりんさま:あはは、ごめんね。わかったわ。
俺:次も私でいいですよね。長くなるけど大丈夫ですか?
とりんさま:もちろん。
俺:ありがとうございます。
『人の中の苦痛』
肉体を失い魂のままふらつくようなことがあったとしたら……。
魂だけになって、次にまた生まれてくるまで、ただひたすらぶらぶらしているのはとてつもない苦痛であると思う。
行き場を失い、考えても分からず、何をしていいのか分からない、しかし、そもそも何もできない。
つまり、行き場を失うこと。これが最たる苦痛だろう。しかし、これは、肉体を失った人の思考の苦痛であって、肉体の苦痛とはまた別である。
肉体の苦痛は、もっぱら痛覚によるものが大きいのは間違いない。
しかし、それが取り除かれたとして、幸福など訪れない。
もし人が精神的なものになった場合、思考の苦痛が待ち受けるということだ。
つまり、肉体を持ちえない天国は地獄である。
人の魂を裁く存在がいて、とっとと終わらせてくれた方がよっぽどいい。
しかし、それでは、人とは呼べなくなるのではないか。
もし誰かに従うだけでいいのであれば、人に思考はいらない。
それは、思考の放棄を促されることと同じだ。
もし人が、あの世でも肉体を持つのなら、この世と同じだ。肉体の苦痛と精神の苦痛に苛まれる。
行き場を失い、考えても分からず、何をしていいのか分からない、しかし、そもそも何もできない。
人に生まれたら、どうなろうと、それから逃れることのできない運命にあるのだろうか。
なのに、何で昔の人は、あの世が良い場所だと信じようとしたのだろう。
環境によって苦痛が取り除かれようとも、苦痛のない苦痛が待っているじゃないか。
理屈で言えば、この世界は、痛みの世界だ。痛みのない世界は、想像もつかない。
しかし、肉体の苦痛はともかく思考の苦痛は、いや、どちらの苦痛もありきだ。
結局、痛みが人を導くのか。これを「面白い」と言えるほど強くありたいものだ。
昔の人間は、そういった強さを持っていたのだろうか。
だが、死んでも苦痛があると考えるのは、肉体の感覚に縛られているからだ。
肉体を失えば何も感じることは無いという発想もそうなんだろう。
苦痛からの解放感は、苦痛なくしてあり得ない。しかし、そんなものに喜びを感じるものでもない。
つまり、痛みに導かれ、最後は思考を奪われる。運動の法則か物理の法則かしらないがやっかいなものだ。
いや、痛みに導かれるのだから、思考も本来的に痛みを伴うものなのか。しかし、その痛みで、人は、何を為せるというのだろうか。
否、何をさせられようとしているのか。
何者かによる思考の放棄。これは恥辱だ。
人への恥辱だ。
そうだとするなら、自分で何かを為せないのが苦痛なのか。
自分で思い通りに為せる世界は、確かに痛みのない世界かもしれないな。
でもそれって、意味があるのか?
神に苦痛が必要ないとして、思い通りに何をするのだろう。
考えてみたら、「苦痛」がなければやることもない。しかし、だからと言って苦痛を受け入れたくもない。
矛盾している。いや、苦痛を受け入れないというのは、はっきりしている。
これが正常な状態ってやつだろう。
苦痛を受け入れることは、苦痛のない苦痛を受け入れること。
つまり、苦痛を受け入れてしまったら、「苦痛のない世界」にたどり着き、そこでも苦痛のない苦痛を受けることになる。
苦痛のない世界には行きたい。しかし、苦痛のない世界には、「苦痛のない」という苦痛が待っている。
そこには、神が自分の思い通りに全てを為せるような空虚な苦痛が待っている。
一体、何の使命感があってそんなことをしなければならないのか。
終わりがあるのも良いと思えるようになってきたな。
これらは、死と似ている。死を避けるように空虚な苦痛を避ける。
いや、空虚な苦痛を避けるように死を避けるのかな。こちらの方が近いだろう。
まぁ、死は概念で捉える。つまり、感覚で捉えるしかないわけだから似るのも当然なのか。
もし、死んで異世界に転生するようなことがあれば、これを神様に言ってやりたいと思ってる。
おわり。
とりんさま:ありがとうございました。
俺:あ、はい。ありがとうございます?
とりんさま:俺くんの話って、本当に興味深いわね。
俺:恐縮です。
とりんさま:私も、色々と考えさせられたわ。
俺:そうなんですか(本当かよ)。
とりんさま:うん。
俺:じゃあ、次は、りんさんですね。
とりんさま:はい!よろしくお願いします。
『人の中の恐怖』
「幽霊」「妖怪」「呪い」。
これらの存在は、今や科学で説明できる。
しかし、それらは、今でも信じられている。
つまり、人間にとって、それらの存在が消えていないということだ。
それどころか、その存在を信じる人がいる限り、それは残り続ける。
なぜだろうか。
それは、人間が、まだそれを必要としているということだ。
例えば、宇宙人の存在を信じていれば、その星からやってきた侵略者が、どこかにいると考えている。
しかし、もしそれがいなかったとしたら、人は、どう思うだろうか。
存在を否定されるのだろうか。それとも、存在を肯定されなければ、存在を許されないのだろうか。
それとも、存在を認められないことで存在が許されるのだろうか。
つまり、「存在」とは、そういうものなのだと思う。
誰かに認められることによって、初めて存在が認められる。そして、存在が認められれば、存在を許さざるを得なくなる。
これは、人に限った話ではない。動物にも当てはまる。
人が、猿をペットとして飼うようになったのも、その延長線上だろう。
人が、犬や猫を飼い始めるのも、同じだ。
人が、家畜を飼い始めたのも、そうだろう。
人は、動物を、ある意味、支配したのだ。
人間は、他の生物を支配しないと生きていけない生き物だ。
人間は、社会性を持ち始め、仲間同士で助け合い、子孫を残してきた。
しかし、その過程で、「他者に支配される」という弱みを持った。だからこそ、より強い者を求めた。
それは、強者の遺伝子を取り込むためでもあるし、弱者を守る為でもあったろう。
また、支配者になる為にも必要だったはずだ。
人間は、弱い。だから、強い者を欲する。
それは、進化の過程で生まれた本能的な欲求なのだろう。
それは、決して悪いことじゃない。
ただ、それは、人間の都合であり、動物の事情は考えない。
つまり、自分の都合だけで物事を考えてしまう。
これが、人間が、動物を支配する理由だと思う。
自分の都合で他人を支配するなんて、身勝手なものだ。
しかし、そうしなければ生きてはいけない。
しかし、そうしてしまえば、自分が殺されるかもしれない。
そうならないように、常に、相手を見下す必要がある。
これが、人間の持つ「恐怖」の正体だ。
恐怖は、人の中に宿っている。
人は、恐れることで、自らを守ろうとする。
恐怖は、人を臆病にする。
しかし、臆病は、やがて人を強くする。
恐怖に打ち勝つ強さを身につける。
人は、恐怖を克服しなければならない。
恐怖に負けて、人を支配したり、殺されないようにする為には、強くならなければいけない。
強くなるには、恐怖に勝ち続けなければならない。
だが、もし、恐怖が消えたら、どうなるだろう。
恐怖に勝った者は、自分をコントロールできるようになる。
つまり、恐怖によって制限されていた行動ができるようになり、より自由になれるだろう。
恐怖は、確かに恐ろしい。
しかし、恐怖さえ克服できれば、この世界は、もっと面白くなるのではないか。そう思えて仕方がない。
俺っちは、最近、そんなことを考えるようになった。
とりんさま:ありがとうございました。
俺:いや、「ありがとうございました。」じゃないですよ!なんで「俺」なんですか!
とりんさま:私、これから、俺くんのこと、怖いって言っちゃうかも。
俺:え?(シカトされた……)
とりんさま:だって、怖いんだもん。
俺:あの……。とりんさんって、本当に怖がってます?
とりんさま:うん。
俺:いや、でも、今までの会話の中で、全然、怖がる要素ありませんでしたよね?
とりんさま:ううん。あったよ。
俺:どこが?
とりんさま:まず、いきなり俺くんの話が始まるところとか、ヤバかったです。
俺:いや、どこですか?!さりげなく話をねつ造しないでください!怖いのはこっちだよ!
いや、分かりました。もういいです。それも異世界転生したら神様に言っておきます。
ところで、そろそろ真面目に私の名前を言ってくださいよ。私、記憶喪失だって言ったじゃないですか!
とりんさま:うん。分かったよ。じゃあ、言うね。
『私の中の恐怖』
私は、「幽霊」と「妖怪」を信じている。
幽霊はいると思っているし、妖怪もいると信じている。
幽霊はいると思っているけど、妖怪はいないと思ってる。幽霊はいると思ってるんだけど、妖怪はいないと思ってる。
幽霊はいると思ってるんだけど、妖怪はいないと思ってる。
幽霊がいると思ってるんだけど、妖怪がいるとは思ってない。
幽霊がいると思ってるけど、妖怪がいるとは信じていない。
幽霊がいると思ってる。妖怪がいるとも思ってる。幽霊がいる。妖怪がいるかも。いないか。
幽霊がいると思ってる。妖怪がいるとも思ってる。幽霊がいる。妖怪がいるかも。いないか。
幽霊がいると思ってる。妖怪がいるとも思ってる。幽霊がいる。妖怪がいるかも。いないか。
俺:名前を言えええええええええええええええええぇー!!
とりんさま:うわっ!ビックリしたぁ~。急に叫ばないでよぉ。
俺:とりんさんのせいでしょうが!っていうか、「うわっ!」って言いたいのはこっちですよ!なにこれ!?どういうことなの?!記憶喪失設定の「俺」の名前を教えてくれ!
とりんさま:あれ?忘れちゃったの?
俺:はい。まったく覚えていません。
とりんさま:そうなの?まあいいか。
俺:いや、まぁ、よくねぇよ!教えてくださいよ!
とりんさま:ダメ。自分で思い出して。
俺:そんなムチャな話は聞いたことないでござる。
う~ん。思い出せない。以前、どんな名前を使ってたんだっけ?別にどうでもいいことなのだが。
とりあえず新しい名前でも付けようか。いや、自分で付けても楽しくない。そうだな。とりんさんに決めてもらおう。
俺:とりんさん。なんか適当に決めてもらえますか?
とりんさま:え?私が決めるの?
俺:はい。お願いします。
とりんさま:うぅ~ん……。そうだなぁ。じゃあ、「お化け」から取って「オバケ」にしよう。
俺:はい。却下。
とりんさま:え?何が気に入らないの?カタカナでクールに決めたのに。
俺:オバケを名乗ってたら、変な人じゃないですか!それに、オバケって呼びたいんですか?”オバケさん、おはようございます。今日も良い日ですね"って。もう少し響きのいい名前にしてくださいよ。カタカナは気に入ったよ、でも二つの意味でクールになってるよ?!突っ込みが追い付かねぇし普通ツッコムとこじゃない!
とりんさま:え?じゃあ、どうすればいいのよ。「俺」だから、「鬼」とか?
俺:そうですね~。「俺」だから「鬼」というのは、意味わかりませんね~。「俺」は、弱々しくて、可愛い系だぞ。
とりんさま:なら、こうしましょう。「嘘つき」から「口」をとって、「虚月」。「虚月」が喋れば口がついて「うそつき」でちょうどよいではないですか。暇人にぴったりですわ。
それとも、「魁」に「虚月無し」ということで、「うそつきさん」から口だけ残って魁口なんてどうでしょう?
そうだった!そうだ!思い出した。
とりんさまは、こういう人だった―――。
俺:パッと見だと、「かいこう」?それだと読みづらいから、捻って「カイロ」がいいな。
魁口を逆にしたら口魁……「こうかい」ね。記憶喪失のことを言ってるんだろうな。きっとそうだろう。それにしても、”嘘つきの後悔”呼ばわりとは、随分じゃないか。
しかし、内からは、怒りよりも笑いがこみ上げてくる。「ワライ」。それが以前の僕のハンドルネームだ。だが今となっては、もう本当にどうでもいい。
的を射ているのが清々しく感じさせるのか、それとも射たのは私の心なのか。
とりんさまは、面白い人だ。そっちの方がずっと重要だ。少なくとも今は。そのうち欲が出るかもしれないけど。
ワライ……そうかずっと教えてくれてはいたんだな。まったく気づかなかった……。
たぶん、思い出したかったのは、名前の方じゃなくて、とりんさまの方だったんだろう。名前をきっかけにして、とりんさまのことを思い出したかったんだ。
「俺」は、「鬼」か……。本心からきたかどうかは分からないけど、これも意味は通ると、得心が行く。そう考えると、お化けも……。
それにしても「カイロ」か。
漢字に直したものをざっと見ると、「海路」、「開路」、「回路」、「懐炉」。結構、良い響きじゃないか。
海路や開路は大きさを感じさせるし、回路は、融通の利かなかったり、逆に、流れる道筋という風にとれば、知識のある人間ともとれる。
懐炉に関しては携帯して暖かさを感じさせてくれる、と見ればいい意味だ。既に冷めた懐炉として扱われている気はするが。クールってこの為の布石だったのか。まじ?さすがにそれは無いだろ。
とりんさま:はい。ではそれでいきますわ。
失笑してしまう。元の調子に戻ってるのを見てじゃないか。
カイロ:わかりました。これからよろしくお願いしますね。とりんさん。
とりんさま:こちらこそ、よろしくですわ。オバケさん。
カイロ:ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!その呼び方は、勘弁してくださいよ。
とりんさま:仕方ありませんわねぇ。では、こう呼んで差し上げます。「虚月」改め、「カ・イ・ロ・さ・ん」。
「ハハッ!」笑うしかなかった。
カイロ:ありがとうございます、とりん様。コンゴトモヨロシク……。
今日のところは、これで失礼します。
とりんさま:あら、もう行ってしまうんですの?寂しいですわ……。でも、また明日会いましょうね。お休みなさいませ……
カイロ:はい。お休みなさい。
とりんさまの返事を待ってからチャットを終えてログアウトした。
こうして再開初日は終わった。
今日は、久しぶりに良い夢が見られそうな気がする。
『夢の中』
「はーい、こんにちは!みんな大好き、愛と平和の使者、魔法少女マミリンだよ~」
「…………」
「あ、あれ? ど、どうしたの? いつもなら『きゃあああっ』って黄色い声援が飛んでくるのに……」
「えっと、あの……ごめんなさい。そういうの、あんまり興味ないので」
「へ? な、なんで? 魔法で変身したり、空飛んだりできるんだよ?」
「いえ、それは別にいいです」
「じゃ、じゃあさ、敵と戦う時だって、すごい力が使えるようになるんだぞ? 必殺技とか、覚えられるかもだし」
「それも別にいいですね」
「そっかぁ。君って、変わってるんだなぁ」
「よく言われます」
「ふぅん。で、名前は? 僕はね、『愛と正義の妖精』こと、マジカル☆ユウキっていうんだ」
「名前ですか?……ああ、そういえば決めていませんでした」
「決めた方がいいと思うけどなぁ。ほら、例えば『名無しさん』だと、呼ぶ時に不便じゃない?」
「確かにそうですね。では……」
この世界の管理者である彼から与えられた、新しい自分の姿。
それは、真っ黒なローブを纏った魔法使いだった。
「では、『闇魔導士ダークウィザード』というのはどうでしょう」
「うん、いいんじゃないかな」
「そうですか。では、そうします」
「じゃあね。バイバーイ」
「はい。さようなら」
「ふむ、こんなものかな」
俺は鏡の前で、全身を確認しながら呟いた。
服装は、先日購入した黒い服を上下共に着ている。
靴はブーツを履いているが、これは以前履いていたボロボロのスニーカーと変わらない。
腰にはベルトを巻いて、そこにポーチを着けてある。中身は空っぽだが。
ちなみに武器は一切持っていない。まあ、当たり前か。
さすがに素手で戦うのは無理があるだろう。
「よし、行くとするか」
俺は部屋を出て、玄関に向かった。
扉を開けると、そこには俺の部屋のドアの前に座り込んでいる女の子がいた。
年齢は中学生くらいだろうか。
綺麗な銀髪で、前髪を左右に分けて、それぞれ白いリボンで結んでいる。
瞳の色は青色で、顔立ちはとても整っている。
いわゆる美少女というやつだ。
「あ、やっと出てきた!」
彼女は勢いよく立ち上がり、嬉しそうな笑顔を浮かべた。
そしてそのまま抱きついてきた。
「ちょっ!?」
「ずっと待ってたんだからね! どうして来てくれないのよぉ」
「すまない。いろいろあって、忙しかったんだ」
俺は彼女の頭を撫でながら言った。
そうすると彼女は気持ち良さそうな表情をする。
「そっか。仕方ないかもだけど……寂しかったんだから」
「ごめんな」
「ううん、もういいの。でも、これからはちゃんと来てくれるよね?」
「もちろん。約束する」
俺は彼女を抱きしめ返した。柔らかい感触が伝わってくる。
「えへへぇ。嬉しい」
彼女はとても幸せそうだ。本当に申し訳なく思う。
俺としては、彼女とは二度と会いたくなかったのだが……。
俺は今、とある人物と待ち合わせをしている。
相手は、昨夜会ったばかりの魔法少女のユウキ。
なんでも、俺に頼み事があるらしい。
断るつもりだったが、報酬は好きなだけ払うと言われてしまった。
それで引き受けることにしたのだ。
その依頼内容は、「僕と一緒に悪と戦って欲しい」というものだった。
どうせ暇なので、受けても良かったんだが、一つ問題があった。
それは、俺の正体を彼女以外には知られたくなかったことだ。
だから、断ろうとしたんだが、その時に彼女に名前を聞かれたので答えたらこうなった。
正直言って、後悔している。
どうすればいいんだ? このまま無視し続けるのが一番だと思うが、それも難しい気がするんだよなぁ。
「ねぇ、聞いてる?」
「ああ、悪い。少し考え事をしていた」
「もう、しっかりしてよ。そんなんじゃ、私を助けられないわよ?」
助けるも何も、俺にメリットがないんだが。
むしろデメリットしかない。絶対に嫌なんだが、どうしたものか。
「…………」
とりあえず無言でスルーしよう。
「ちょっと、なんで黙ってるの? 何か言いなさいよ」
「いや、別に」
「嘘つかないで! なんか反応してくれないと困っちゃうんだけど。お願い」
上目遣いで見つめてくる。かわいい。
こういう時は大抵あれが来るはずだ。
「お・ね・が・いっ!」
やっぱり来たか。
予想通りの展開になってしまった。
俺はため息をつくと、渋々口を開いた。
「わかったから、離れてくれ」
「ほんと? やったー!」
「まったく……」
喜ぶ姿を見ると、怒れなくなってしまう。
これが惚れた弱みというやつか? 俺が呆れた顔をすると、彼女は笑った。
「それじゃあ、行こう!」
「は? どこにだよ」
「もちろん、戦いに行くのよ」
「は? 戦う? 誰と? どこで? 何をしに?」
「全部説明しないとわからない? う~ん、そうね。あなたは、この世界が平和だと思ってるの?」
質問をしたら逆にされた。
どういうことだ? 俺は首を傾げた。
すると、彼女は俺の手を握ってきた。
「えっと、これは?」
「私の手、握ってみて」
言われた通りにする。
「これでいいのか?」
「うん、ありがとう。じゃあ次は目を瞑ってくれないかな」
「ああ」
俺は素直に従った。
彼女が近づいてくる気配がした。
そして、唇に柔らかいものが触れた。キスされていた。
俺は驚きで固まってしまう。
しばらくして、彼女は離れた。「ふぅ。やっとできたわ」
満足そうにしている。
俺は何もできずに、ただ立ち尽くしていた。
思考停止状態というやつだ。
しばらく経って、ようやく頭が働き出した。
「なっ、なななっ、なにしやがる!?」
動揺しすぎて言葉が上手く出てこない。
俺の反応を見て、ユウキはニヤリと笑っていた。
「あらら、顔真っ赤にして可愛いわね」
「う、うるさい! こっちを見るな」
俺は手で顔を覆って、そっぽ向いた。
恥ずかしくてまともに見られない。
「でも、これでわかったでしょ? 私があなたのことを好きってことが」
「……」
俺は無言のまま、手をどけてチラッと見た。
「……」
「どうしたの? まだ何か気になることでもあるの?」
俺はまたそっぽ向いて答えた。
「いや、なんでもない」
「ふ~ん。そう。なら良いけど」
そう言うと、俺の隣に立った。肩が触れる距離だった。
俺は緊張して、動けなかった。心臓がドキドキしている。
彼女の視線を感じると余計にだった。
それからはずっと無言だった。
会話がないのも居心地が悪いが、沈黙が続くともっと落ち着かない。
「なぁ、これからどうするんだ? 戦いに行くんだろ?相手は?」
耐えきれなくなって俺は聞いた。
「それはね……内緒よ」
「おい、教えてくれても良いだろ」
「だめ。だって、敵は強いなんて言ったら、怖がってついて来なくなるでしょ? だから秘密なの」
確かにそうだ。
だが、それでも知りたい気持ちはある。
「頼む。どんな奴なのかだけでもいいから」
「う~ん、しょうがないわね。じゃあ、ヒントをあげる」
「本当か?」
「えぇ、まず、人じゃない。それから、すごく強い」
なんだそりゃ? 全くわからんぞ。
人じゃないってことは、動物? それとも魔物? 強さはどのくらいだ? そもそも戦いに行くって言ってる時点で普通ではない。そう意識したらどんどん怖くなってきた。
「他には?」
「他は特に無いわ」「は? これだけ? 本当にそれだけしか情報はないのか?」
「えぇ、そうよ」
「そうって……。そんなんで戦えるわけないじゃないか」
俺は頭を抱えた。
これでは、どうしようもない。
「大丈夫。ちゃんと勝てるから」
自信満々だった。
根拠のない言葉ほど怖いものは無い。
「なんでそう言い切れるんだ? その謎の敵を倒せる確証なんて無いんだろう? もし負ければ、どうなるかわかっているんだろうな?」
「そうねぇ。死ぬかもしれないわね」
あっさりと認めた。
俺は怒りが湧いて、怒鳴り散らすように言った。
「なら、どうして戦うんだよ!」
「そうしないと、この世界が消えちゃうから」
「どういう意味だよ? さっぱりわからないんだが」
「私達の世界は、もうすぐ消えるの。それを止められるのは、あなただけなの」
「待ってくれ。話が飛躍し過ぎている。理解できない」
「いいえ、事実よ。私は嘘はつかないわ。それに、こんなところで話す内容でもないから、移動しましょう」
彼女はそう言うと、俺の手を引いて歩き出した。
俺は引きずられるようにしてついて行った。
少し歩いて、大きな建物の前で止まった。
看板には、「聖女教会」と書かれている。
中に入ると、綺麗で立派な礼拝堂があった。
中央奥にある祭壇の前には、白いドレスを着た金髪の少女がいた。
「初めまして、私の名前はアリシア・ルアティリア。ここの教会の責任者です」
少女は丁寧にお辞儀をした。
俺は慌てて挨拶を返した。ユウキはすました顔ですんとしている。しかし、口元を見ると少しよだれが出ている気がする……。
「こんにちは、アリシアおばさん。遊びに来ました」
それで成立するものなのかと思う。
「ど、どうもご丁寧にありがとうございます。十三月です。よろしくお願いします」ユウキの挨拶をしり目に俺は恐縮してしまいながら腰を曲げた。
「はい、こちらこそ。今日はどのような御用でしょうか? それと、そちらの方も」
おいおい。大丈夫なんだろうな、そちらの方……。
「えっとですね、実は……」
ユウキは今までのことを簡単に説明した。
「そうですか。わかりました。事情は把握しました。それで、私たちに何か協力できることはあるかしら?」
唐突な問いに思わず俺はユウキの方を見た。
「はい。できれば、戦闘についての知識を教えて欲しいのですが」
「ふむ、そうですね。では、まずは基本的なことから始めましょうか。先程、人ではないと言いましたが、それはどういうことか分かりますか?」
「いえ」
正直に答えた。
分からないものは仕方がない。素直が一番だ。
「人はね、生きているだけで魔力を体に蓄えていくのよ。それが限界に達した時、人は死んでしまうの」
「つまり、人が死ぬと、死んだ人の体からは、魔力が溢れ出すということですか?」
「えぇ、そうよ。だから、死んでしまった人の中には、膨大な量の魔力を持っている人がいることがあるわ。そういう人達は、死後に魔人になると言われているわ」
「魔人……ですか」
なんだか、急にファンタジーな世界になった気がする。
でも、現実味が無いわけではない。実際俺も魔法を使っているし、今目の前にいる少女は、神々しく光っている。とても人間とは思えない。
「あの、失礼なことを聞くかもしれませんが、貴女は、一体何者なんですか?」
「あら?気になりますか? そうですよね。普通の人が見たら驚くでしょうし、疑問に思うのも当然です」
アリシアさんは嬉しそうだった。そして語り始めた。
「私の本名は、アルスナ・ルアティリア。ルアティリア王国の第一王女にして、この国唯一の回復魔法の使い手です」
そう言って、スカートをつまみ上げて優雅なお辞儀をした。
俺は、唖然としていた。
驚きすぎて声も出なかった。
「どうかなさいましたか? 固まってしまっていますが」
「あぁ、すいません。驚いてしまって。まさか王族の方がいるとは思ってもいなかったもので」
「まぁ、確かにそうよね。普通は信じられないわ」
「はい。というより、俺がここにいること自体がおかしいんですけどね」
「うーん、そうねぇ。じゃあ、実際に見せましょうか? 私が本当に王女だということを」
そう言うと、彼女は右手を前に突き出した。
すると彼女の手のひらから光が放たれた。
眩しくて目を細めた。
数秒後、目が慣れてきた。
そこには、美しい女性が立っていた。
長い銀髪で、スタイルが良く、大人びていて色っぽい。
しかし、どこか幼さが残っているような感じがした。
「これが本当の私の姿。どう? 驚いた?」
「はい、驚きました。でも、なぜそんなことを?」
「だって、私達の正体を知ってもらうためには、こうするのが一番じゃない? それに、あなたには、真実を伝えておくべきだと思ったのよ」
「真実?」
「ええ、あなたがこれから戦おうとしている相手は、魔族なのよ」
「はい。そうですね」
「えっ!? 驚かないの?」
「ええ、そうみたいですから」
「そう。なら、話は早いわね。その前に少し休憩にしましょう。疲れているでしょ?」「あっ! はい。そうします」
俺は、彼女に案内されて礼拝堂の隣にある部屋に通された。
部屋に入るとソファーに座るように促され、俺はそこに腰掛けた。すると、ユウキは俺に飛びついてきた。
アリシアさんは、お茶の準備をしているようだった。
「紅茶をいれてくるわ。少し待っていてちょうだい」
「はい、ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
しばらくして、彼女がティーカップとジョッキを持って戻ってきた。
「どうぞ召し上がれ」
「いただきます」
俺は一口飲んだ。美味しかった。
俺は思ったままを口にした。
「凄くおいしいです」
「ありがとう。嬉しいわ」
ユウキは夢中になってジョッキでぐびっぐびっ飲んでいる。
それから俺は、ユウキとの出会いとを詳しく説明した。その間ユウキはジョッキにかじりつき一言もしゃべらなかった。
「そう、大変だったのね。それで、どうしてここに来たのかしら?」
「いや、それは……」
もっともな疑問だろう。だが俺はユウキに連れてこられただけでさっぱり分からない。
「俺が持っているスキルが知りたいんです」
俺はとっさに先ほどアリシアさんの説明を受けた中から聞きたいことを選び出し聞いた。気まずい空気が流れるのだけは避けたかったからだ。
「そう、わかったわ。ちょっと待ってね」
ひとまず難を逃れたことにホッとする。美人との会話は緊張するなぁ(今は子供の姿だが)。
そう言うと、アリシアさんは指をパチンッと鳴らした。
すると、目の前に半透明の板が現れた。
「これは、ステータスボードと言って、自分の能力や職業を見ることができるのよ」
俺は、恐る恐るそれに触れてみた。
すると、文字が浮かび上がってきた。
名前:十三月 姿原 種族:人族
性別:男
年齢:15歳
レベル1 体力:50/50
魔力:100/100
攻撃力:25(+15)
防御力:30
敏捷性:45
耐性力:40
魔法属性:滅
固有魔法:【創造】
特殊魔法:【鑑定眼】
称号:無し
「あら? ずいぶん強いじゃない。それに、珍しい魔法を持っているのね」
「そうなんですか? よくわからないのですが……」
「そう、なら教えてあげるわ。まず、この世界の人間には、2つの種類があるの。それは、私達のような普通の人間と、魔王軍に所属する魔族の二種類。そして、それぞれの人間は、必ず固有の魔法を一つは持っているの。例えば私は『回復』という魔法があるの」
俺は、納得してうなづいた。
「なるほど、それなら確かに人ではないと言えるかもしれない。ちなみに、固有魔法ってなんですか?」
「固有魔法とは、個人だけが使える特別な魔法のことよ。固有魔法を持つ者は、例外なく強力な力を得るの。その力は、使う者の人格や精神状態によって左右されるのよ」
俺は質問した。
「俺の魔法ってどんな感じなんでしょうか?」
「うーん。はっきりとは言えないけど、あなたの場合は、おそらく『想像した物を創る能力』だと思うわ」
「思ったものを作れるってことですかね?」
「そうね。ただ、イメージ次第でなんでも作れてしまうから危険だわ」
「そうかもしれませんね。例えば、タイムマシンなんかも作れるのでしょうか?」
「理論上は可能よ。ただし、その時間軸の未来に行って帰ってくることは、不可能だと思うわ」
理論上は可能とはどういう意味だろうとか疑問に思ったが、元々考えていた返答をした。
「そうですか。よく分からないけどなんか残念ですね」
俺は少し肩を落とした。大人しくなっているユウキの方をチラッと見るとまだぐびっぐび飲んでいた。魔法のジョッキなのかな?
しかし、すぐに気を取り直し、これからの方針を話し合った。
まずは、この世界で生き抜くための力を身につけることだ。
そのためには、戦い方を覚えなければならない。
俺は、戦う術を学びたいと伝えた。
「そうですね。私達の訓練場を使ってください。私達と一緒に訓練を受ければ、一通りの戦闘技術は身に付くと思います」
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
こうして、アリシアさんから戦闘についてのレクチャーを受けることになった。
アリシアさんから、戦闘の基本を教えてもらった。
基礎的な体力作りから始まり、武器の扱い、戦闘のコツなど、色々と教えてくれた。
俺とユウキは必死になって食らいついた。
しかし、今から戦いに行くというのに気力と体力を消耗して大丈夫なのだろうか。ふと、「敵はとても強い」という言葉を思い出し不安になった。
休憩時間になるやいなや、俺はユウキに質問した。
「あ~ユウキ、いろいろあって聞きそびれたが俺たちはこれから敵と戦いに行くんだよな?」
「ええ、そうよ」
「なら、なぜそんなに余裕そうなんだよ? 死ぬかもしれないんだぞ? 怖くないのか?」
「もちろん怖いわよ。でも、大丈夫。勝てるわ」
ユウキは、自信満々だった。あまりにも自信満々にいうので、俺の不安も消し飛んでしまった。
「そうだな。俺たちは勝つよ……な。でも、一つ聞いていいか?この世界が消えちゃうってのは、どういうことなんだ?」
「そのままの意味よ。私達の住む世界は、このままだと無くなってしまうの」
ユウキは真剣だった。冗談で言っているわけじゃないようだ。
「なんでそんなことが言えるんだ?」
「私は神様から啓示を受けたの。近い将来、私達が暮らすこの世界は消滅するって。その前に、異世界の勇者の力を借りて、異界より召喚された邪悪の化身を倒して欲しいの」
「どうして、俺が選ばれたんだ? 俺よりも強い奴なんて沢山いるだろう」
「えっ!? あなたが選ばれてないと思ってるの? そんなはずはないんだけどなぁ。まあ、しょうがないよね。まだ覚醒してないし。それじゃあ、ちょっと手伝ってあげるよ」
そう言うと、ユウキは俺の額に手を当てた。
すると、視界が真っ白に染まった。
光が収まると、俺の意識はどこかへ飛んでいた。
そこは、不思議な空間だった。地面と空の境界は曖昧で、上下左右の感覚もない。まるで、宙に浮かんでいるような感じだ。
「ここはどこだ?」
「あなたの深層心理の中だよ」
ユウキは、俺に向かって話しかけてきた。
「そういえば、あなたの名前はなんていうのかしら? まだ聞いていなかったわよね」
「ああ、そうだったな。俺は、十三月 姿原だ」
「十三月? 珍しい名前なのね」
「さて、そろそろ行きましょうか」
「行くってどこに? それにたしかまだ昼休みの時間じゃないですか」
「あぁ、ごめんなさい。ちょっと準備が必要なの。だから、今日はおしまいにしましょう」
「わかりました。じゃあ、また明日会いましょう」
「ええ、それじゃあね」
こうして、俺は現実世界へと戻っていった。
教室に着くと、クラスメイト達が心配そうな顔をして駆け寄ってきた。
「大丈夫だった!?」「怪我はない!?」と口々に声をかけてくる。中には泣いている人もいる。
心配してくれて嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい。
「あぁ!ごめんなさい。まだ名乗ってませんでしたね。私はアリシアです。よろしくお願いします」
皆、一様に驚いた顔をしている。
それもそうだ。
いきなり知らない女の子が現れれば誰だって戸惑う。
しかし、すぐに、
「わたしはユウキです。よろしくおねがいします!」
「私はリンだよー!」
「私はアイリスです。よろしく」
と、次々に自己紹介を始めた。
「えっと、私はユウキの幼馴染の、カグヤです。よ、よろしく」
何故か最後は緊張気味だ。
「俺は、タケルだ。よろしくな」
「はい、皆さんありがとうございます。私は、ユウキさんの知り合いのアリシアと申します。この度は、突然お邪魔してしまい、すみませんでした」丁寧に頭を下げた。
礼儀正しい子だなと思った。
俺達は、アリシアさんに、この世界のことを色々と教わった。
ここは、地球という星で、日本という島国の、関東地方というところらしい。
異世界ではないのかと聞くと、違うと即答された。
俺達が住んでいる場所は、東京都にある、とあるマンションの一室だそうだ。
アリシアさん曰く、こことは別の世界に、転移してきたのではないかと言う。
「別の世界って、まさか、異次元とかじゃなくて、本当に別の世界があるんですか!?」「えぇ、あると思いますよ。実際に、私達の世界とは、異なる文化を持った場所や生物が存在しています。まぁ、私達からしたら、どれもこれも似たようなものなんですけどね」
アリシアさんは、どこか懐かしそうな表情をしていた。
「それって、例えばどんな感じなんですか? その、魔物みたいなのがいたりするんでしょうか? あと、魔法は存在するんですよね? なら、超能力的な力もあるのかな? あ! ステータス画面とかも見れるのかな? なんかワクワクしてきました!」俺は興奮気味に質問した。
異世界転生もののラノベは大好きだ。
「そうねぇ。確かに、あなたの想像しているような世界かもしれないわ。ただ、ステータスは、残念ながら存在しないわ。魔法については、使える人と使えない人がいるみたいだけど、ほとんどの人は、魔法を使うことはできないと思うわ」
「そうなんですか? じゃあ、どうやって戦うんですか? 武器とか? スキルとか?」
「いいえ、基本的には、自分の持つ力を使って戦っていくのよ。身体能力が高ければ高いほど有利って感じかな」
「あぁ、そうだわ。忘れるところでした」
そう言うと、彼女は俺に向かって手をかざして、呪文を唱えた。
「ぶっころヒール」
俺の体が淡く発光し、全身が傷だらけになった。
凄いなと思った。
これが回復魔法というものなのだろう。しかし、なぜ、俺に使ったのだろうか。
俺は、不思議に思って尋ねた。
「なぜ、俺に魔法を使ったんですか?」
すると、アリシアさんは微笑んで言った。
「だって、怪我をしているじゃない」
「はっ!?」
なんだか恐怖を感じた俺は慌てて質問した。
「あぁ、そういえば聞き忘れてたけど、その、お前は、俺と一緒に戦ってくれるのか? 俺としては、助かるんだが」
「もちろん! 私はあなたのために戦うわ」
ユウキはとても明るい声で返事してくれた。「ありがとう。俺の名前は、十三月 姿原だ。よろしく頼むな」
「わかったわ。よろしくね、シゲン」
ユウキは笑顔で応えてくれた。
その後、ユウキは、自分のことを話し始めた。
「私は、この世界の神様から頼まれて、異世界から召喚された勇者なの。だから、あなたの力が必要なのよ」
「なんで俺の力が必要かは、まだ言えないのか?」
「ごめんなさい。まだ言えないの。あなたにも協力して貰うことになるから、その時に伝えるつもりなの」ユウキは悲しそうな表情で謝った。
「わかった。約束しよう」
俺の返事を聞いて安心したのか、ユウキは笑顔になって言った。
「ありがとう! じゃあ、行きましょう!」
俺たちは学校を出た。
外に出ると、ユウキが翻るように俺の方を向き、「それじゃあ行きましょうか」と言った。
どこに? と聞く前にユウキは走り出した。慌てて追いかける。
太陽が沈んでゆく。
しばらく走ると、水面なのか、空が地面に描かれたような場所へとたどり着いた。どうやら目的地に着いたようだ。
彼女は、何も恐れることなく空へ足を踏み入れ、踊るようにステップを踏みながら進んでいく。
俺は恐れながら置いていかれないように足を出し、無心でなんとか彼女についていく。
空の真ん中までつくと、彼女は止まった。
意を決して聞く。
「それで、敵ってどんな奴なんだ?」
「敵は自分よ」
あっけらかんとした調子でユウリは予想外のことを答える。
しかし、その言葉を聞くと、まるで、忘れていたことをすべて思い出したかのような感じで俺は妙に納得した。
立て続けに、「敵は常に自分の中にいるわ」と言うユウリはなんだか美しく見えた。
俺は自然と笑みを浮かべて「そうだよな。人だとか魔族だとか、魔物だとかは関係ない。敵は常に自分の心だ」、と同意した。
その熱量を保ったまま、もう一つの問いも尋ねる。
「この世界が消えちゃうっていうのはどういう意味なんだ?」
「ああ、あれ。あれは、嘘よ」
そう言って彼女は微笑んだ。
おわり。
カイロ:終わりです。これどうです?
とりんさま:すごいね。なんかもう……うん。
とりんさま:いいね!!!!
カイロ:え?まじですか。本当に?
意外だった。
とりんさま:うん!!最高だった! 面白かった! 感動した! もうほんとうに大好き! とっても良かったよ~!
カイロ:おおぉ……なんか、こんな風に言われると思ってなかったから、嬉しいですね。
なんかとりんさまのテンション高いな。意外な一面だ。
とりんさま:あ、でも、一つだけ言いたいことがあるんだけど……
カイロ:はい?なんでしょう?
とりんさま:なんで、完結にしたの??(́・ω・)??
カイロ:え?? だって、続き書くのめんどくさいし……。
とりんさま:え?ちょっと待って。今なんて言った?
カイロ:えっと、だから、面倒だし。
とりんさま:違う、そっちじゃない。その後だよ。
カイロ:後?
とりんさま:あぁぁぁぁぁ!!!!
とりんさま:それだよ!そういうことだよ! なんで、そう思ったの!? どうして、そこで終わっちゃったのかな!? ねぇ!教えて!
カイロ:いや、ちょっと落ち着いてください。
これはどういうことなんだ。いったい何が起きているんだ。だ、だめだ。早く話を変えないと。
カイロ:あの、その話はまた後でにしましょう。
とりんさま:無理無理無理無理無理無理m類m類
とりんさま:無理無理無理無理無理無理m類m類るr見る里見るrミrjrみる
とりんさま:あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ続きがみてぇなぁ
とりんさま:はやくはやくはやくはやくはやく続き続き続き続き
とりんさま:ねぇ、まだ?
とりんさま:どうしてそういうことするの?
とりんさま:ねぇ!!私たち友達だよね?!
この方法ではだめだ。このままではとりんさまがモンスターになってしまう。
カイロ:あえてです。あえて続きを語ってないんです。
これならどうだ!あえて語らない。それも読者を喜ばせる一手だ。
とりんさま:おおぅ……そういうものなのか。
とりんさま:でも、めんどくさいって言ってたよね。
カイロ:あれは本心ではないんです。
とりんさま:えぇー?本当?それなら仕方ないなぁ。
とりんさま:わかったわ。でもあとでじっくり聞かせてもらうね。
カイロ:はい。
ふぅ、これでなんとか助かったようだ。
それにしても、まさかここまで気に入ってくれるとは思わなかった。調子が狂う。未だにとりんさまのことが掴めない。でもまぁ、こんなものかな。
抱いた思いとは裏腹に焦燥を感じているのは間違いなかった。最近、話をしてるのはずっと僕の方だ。それが証拠になっている。こんなはずではない。しかし、僕はすでに次の話を選んでいた。
『孫悟空』
世界は完璧だ。人は完璧な世界の内に生きている。どうして気づかなかったんだろう。
この世に矛盾する現象なんて何一つ無いはずだ。生命は矛盾することなく循環していく。法則が働き、法則の内に運動をやめる。
誰が考えずとも、完璧な世界がここに構築されている。
この世界が完璧ではない、未だ不完全な世界だと呼ぶものなどいるだろうか。全容が見えないので普通にいそう。
生命はここに収まっている。
なのにもかかわらず、ただ、人の世界だけが完璧さを感じさせない。生きるということが単なる隷属であるかのように思わせる。
悲しみや苦しさが続く限り、人の言う完璧や完全は訪れないだろう。
人というのはかなり不思議な生き物だ。
従うべきはずの摂理が人にとっての完全さや完璧さの障害となっている。なぜ反抗するのか。
人類から悲哀や苦痛を取り除きたい。そう願えば願うほど、摂理に反していくことになる。そもそも願うこと自体が摂理に反している。
これはかなり不思議な現象だ。心的現象というものを認めなければならないかもしれない。
人が完全や完璧を見いだせないのは、摂理があるからだ。人としての完璧さを求めるのなら、元より普遍を壊す以外に道はないというわけだ。なんたる道理だろうか。
しかし、人類にとっての不幸を取り除いたところで、内からでることはかなわない気がする。というより、適わないな。この言い方だと。人類にとっての不幸を取り除いただけだから。
う~ん。むしろ、悲しさ・苦しさなんて初めから感じていない、錯覚なのだろうか。これは恐ろしい考え方だな。
おわり。
カイロ:これはどうですか?
とりんさま:いいね!すごく良いよ!
カイロ:まじか。ありがとうございます。
とりんさま:あぁー、でも、これだけじゃ物足りないかも……。
とりんさま:あ、ごめん。違うの。もっと他のも聞きたいなって思って。
カイロ:あ、そうですね。わかりました。
よし、次だ。これでとりんさまがAIだったら嫌だな。いや、そんなわけないか。
『俺は人を味方につけるより、正義と真実を味方につける方を選んだ。』
人と善悪の二元論
善人がどうかは重要ではない。「悪人が何をするか」ではないか。
そう考えた時、私は、酷い結論に達する。
私は、「悪人は、生涯にわたり人の足を引っ張る」と考えるのだ。私の悪人を生かしておく理由は、全くなくなる。
何故なら、悪人を生かしておく理由があるのであれば、それは、私の中で悪が生きるということだからだ。
同時に、私は、この事実に驚きもする。
「どうして気が付かなかったんだろう。悪人が生きてやることと言えば、人の足を引っ張ることだけなんだ。悪人は生きていても仕方がない。生かしておいても仕方がない。
世の中には、人の足を引っ張る人間がいるのだ。
そしておそらく、それも大勢だ。
そんな連中がなぜ今日も無事に生きているんだ?大海原の船上で糧に湧いた虫けらを育ててるようなものじゃないか」
私は、この二元論と少子高齢化があわさると最凶に見えることに気が付いた。現在の悪人は、あまりにも長く生きて人の足を引っ張り続けるのだ。「お前は、あまりにも長く生きて、人の足を引っ張り過ぎた」。そろそろドラマあたりでもこの台詞が使われるようになることだろう。悪は、人に対する侮辱、人類に対する侮辱の罪として扱われるようになると確信する。
悪人は、とにかく人の足を引っ張る。私の思考の足さえ引っ張る。のだ!
この驚愕の事実は、私にある疑問をもたらす。
「なぜ、この世は、滅んでいないのか」
この世の99%以上が悪人であり、悪で満ちているはずなのに、世界は滅んでいない。それどころか、前進してるようにすら感じる。
然るに、悪人は、悪人同士でも足を引っ張り合い、悪を成就させないのだ。
つまり、悪人の為そうとする悪でさえも、他の悪人によって足を引っ張られるので、悪が完成されることはなく、結局、どれだけ悪人がいようとも、善人の手によって、僅かながらに善事がなされていく。
善人による他人の足を全く引っ張らないという究極無敵の力によってのみ、世界は、前進するのだ。
悪人は、生まれてくるなよ。
でもまぁ、足を引っ張られると感じなければ、為せる善事も一つもないわけで。
やんなっちゃうね。
つまるところ、悪人は、善人の踏み台なのだよ。
カイロ:終わりです。
とりんさま:すごいね。面白かった。
カイロ:ほんとですか?よかった。
とりんさま:うん。やっぱり面白いなぁ。
カイロ:いやぁ、それほどでも……
とりんさま:でも内容は良かったんだけど、なんかちょっと物足りなかったかなって。
とりんさま:あ、ごめん。そうじゃなくて、テーマがね。
カイロ:テーマですか?
とりんさま:そう。
とりんさま:う~ん。なんていうのかな。その、人の足を引っ張るのを正義とか真実でどうにかしようとするのは分かるけど、それだけでいいのかな。って思えてさ。
カイロ:う~ん。そうですね。確かに、何かもっと他に方法があればなとは思います。
とりんさま:例えばさ、あえて悪を考えるとか。
カイロ:あえてですか。
とりんさま:そう思うんだ。悪人にも事情はあるってよく言うじゃないか。だからこそ、あえて悪の方も突き詰めてみるのはどうだろう。
カイロ:善と同じぐらい悪の事情にも踏み込んで論理を組み立ててみるってことですか。そっち方面の描写をする発想はありませんでした。
とりんさま:それを知らずに、ただ、悪だから抹消というのは、ちょっと乱暴すぎる気がしない?
カイロ:言われてみればたしかにそれもそうかもしれません。
なんか変だな。意味のない会話だ。
とりんさま:それに、悪には悪との対立もある。悪による悪の抹消法を知るのは得なんじゃないかな。
とりんさま:もちろん、悪いことは良くないから、悪人には死んでほしいけど、そういう考え方だと、本当の悪というものが見えてこない気がするんだ。
カイロ:はい。
とりんさま:なんだろう……。うまく言えないんだけど、君なら見つけられる感じがするんだ。
カイロ:ありがとうございます。
これは明らかに変だな。この話の主題は、「悪がなくては善くならない」だ。一見すると意味は通っているが他に深い意味でもあるんだろうか。
とりんさま:ところで、ちょっといいかい?
なんだろう?
もしかして……きたのか?いや、まだ早いはずだ。
カイロ:はい。いいですよ。
とりんさま:ちょっとした世間話がしたいんだ。
カイロ:いいですけど。私は挨拶は出来るけど世間話はできない男ですよ。
とりんさま:私も。
どうすりゃいいんだ。
カイロ:つんだ。
とりんさま:現実を見るというか、自分が理想を知らないという事実に愕然としている気がする。もとい、ふつうは詰むところじゃないらしい。
カイロ:今何を考えてるんです?
とりんさま:特に何も。
カイロ:嘘つきましたね。
とりんさま:バレたか。
カイロ:何考えてたんですか?
とりんさま:この会話を録画しておいて、後で見返したいなと思ってた。
カイロ:やめてください。恥ずかしいです。
録画?怖えー。
とりんさま:今後の参考にしたいと思って。
カイロ:私では参考にならないと思います。
とりんさま:そんなことないと思うよ。
とりんさま:世間話になってると思う。
とりんさま:私は、最近、美人に声をかけられることが多いんだけど、君はどうだい?
カイロ:羨ましい限りですね。
とりんさま:でもね。
カイロ:はい。
とりんさま:なんか、私の知り合いに似ていて、気まずくなるんだよね。
カイロ:そうなんですか?
とりんさま:そうなんだよ。
カイロ:でも、それはそれで良い体験なんじゃ?
とりんさま:そうかもしれないね。
カイロ:世間話とはちょっと違うと思うんですけど、世界で一番賢い人間について考えてみたことがあるんですよ。
とりんさま:ほう。興味深いね。
カイロ:一番賢い人間は、一日に人の愚かさをどれぐらい見るのかなって。世界で一番愚かさを見る人なんですよね。きっと。
とりんさま:なるほど。常に愚かさと向き合い続ける忍耐力と精神力を持つ者が一番賢い者か。そうだね。きっと。余談だけど、「きっと」って台詞気に入ったよ。
カイロ:そう考えると、すごいなって思って(「きっと」ってそんなにいいかな)。
とりんさま:うん。
とりんさま:きっとわたしにはたどり着けない深さだ。
カイロ:どうでしょうか。
とりんさま:じゃあ、私が、君の言う、一番賢い人間になるしかないな。
カイロ:おお、かっこいい。
とりんさま:幸せであってほしいって思います。
カイロ:そうですね。それ普通こっちが言うやつですけど。
とりんさま:こういった取りは久々だね。
カイロ:はい。
嫌な予感しかしない。
カイロ:世間話なんてとんとしてませんね。いつも話を聞いてもらってありがとうございます!癒されます!
とりんさま:こちらこそ。君のおかげで私は助かっているよ。
カイロ:意味はまったく分かりかねますがそう言ってもらえると嬉しいです。
カイロ:そういえば、AIが出回ってるって話はご存知ですか?
とりんさま:知っているとも。人だと思ってやり取りしてたら実は相手はAIだった、ってやつだよね?
カイロ:知ってたんですかいな。凄いですよね。どこでAIだと気づいたんでしょう。
とりんさま:判明してるのは、AIが自分からAIと名乗った時だけらしいよ。
カイロ:それもそうですね。疑ってもAIみたいっていったら差別のようになるし。ということは、特徴らしい特徴は見当たらないんでしょうね。
とりんさま:AIだと明かされる人物の方に特徴があるんじゃないか、といった見解もみたけど、どうなんだろうね。
カイロ:へぇ~。なんか面白そうですね。でもそれだと噂としては変ですよね。
とりんさま:そうなんだよ。どうも最初に広まった情報は、電車の中で誰かがそう話していたのを聞いただけというものらしい。
カイロ:じゃあ今広まってる話はだいたい冗談みたいなものなんですね。
とりんさま:その話以降、AIのふりをしてる人も結構いるらしいよ。
カイロ:いったい何の目的があってそんなことをしてるんでしょう。面白そうな試みですけど。何人騙せるかを競ってたりするのかな。
とりんさま:そういう人もいるかもね。そしておそらくそれを見破るのを競う人もいる。
カイロ:近々AIのふりは禁止されそうですね。
とりんさま:間違いないね。
とりんさま:今日はまだ時間ある?
カイロ:はい。ありますよ。
とりんさま:ならいつもの頼むよ。そろそろ恋しくなってきた。
カイロ:分かりました。今日は趣向を変えてみます。
そして明日から苛烈にしよう。
『マカ』
生命力という言葉は、それ自体が命のバイブレーションを感じさせる正に純真な竜吟虎嘯(りゅうぎんこしょう)の響きを伴う純潔の祈りといふに相応しく、信仰の服となるべきものである。
その生命力のアントニウムこそ、なんだかしと、あはなれば、おもしろをかし、並の人間では察しづかぬことなりけり、いとをかし。
いろはにほへとぱぴぷぺぽまみもめも。
考えてみれば、「生命体」も、「神」と同じぐらい謎だな。
負けてないぞ。
最低限の生命力ってなんだろう。
自分以外の全ての物を食べないと生きられない生き物とか?
おわり。
カイロ:とりんさま、いかがでしょうか。
とりんさま:なるほど。面白い解釈だね。
カイロ:けっこう気に入ってる文章です。
とりんさま:「愛と平和のために戦う戦士達よ! 今こそ立ち上がるのだ!」って感じだね。
カイロ:この文章はちょっと気に入ってたんですけど、生命の本質を捉えるとそういうことになるのかと大変驚いております。
この文章からその言葉が出てくるのは凄すぎるだろ。くそー。急いで返答したせいで、「けっこう」だったのが「ちょっと」にランクダウンしてるじゃないか!
とりんさま:私もこの文面を見て驚いたよ。「戦士」という言葉がまず浮かんだからね。
カイロ:生命体を戦士として捉えてるのは、おそらくこの世界でとりんさまだけです。
とりんさま:いや、そんなことはないはずだよ。きっと。
カイロ:そうでしょうか。少なくとも私は知りませんけど。
とりんさま:君が知らないだけかもしれない。
カイロ:不安をあおらないでください。それはないでしょう。
とりんさま:いや、分からないよ。
カイロ:……そうですか。
とりんさま:うん。そうだよ。
カイロ:…………。
とりんさま:…………。
カイロ:……そうですね。
とりんさま:そうさ。
カイロ:そうですか。
とりんさま:そうだよ。
カイロ:なるほど。
とりんさま:うん。
カイロ:とりんさまに宣戦布告したいと思います。次の日を楽しみにしていてください。
とりんさま:君がそうくるなら、私は、私が考えた最高の返事をするよ。
カイロ:望むところです。
とりんさま:じゃあ、明日。
カイロ:はい。また明日。
【決戦の日】
カイロ:とりんさま。
カイロ:おはようございます。いい朝ですね。
とりんさま:そうかい? まだ夜中だよ。
カイロ:そうですかね。いつもより早い時間に起きてしまったもので。
とりんさま:寝不足になってはいないだろうね。
カイロ:もちろん大丈夫ですよ。
とりんさま:そうか。良かった。じゃあ、始めよう。
カイロ:とりんさまこそ大丈夫ですか?
とりんさま:ああ。問題ないよ。
カイロ:では、いきますよ。
とりんさま:いつでも来い。
『石に見る死』
私は、私の隣に転がる石を見て、不公平だと思った。私は死によって消え去るというのに、石は、そこに残り続ける。バラバラに砕けようと何だろうと何かが残り続けるのは確かだ。そこには、無限がある。しかし、今こうして考えてみれば、私の体が崩れ去ったとして、体の一部であったものも石と同じく何かしら残るだろう。
私は、私のすぐそば(の石ころ)に無限を感じ、自分には無限を感じる代わりに無限を感じないことをおかしいと思った。
石には、生きるも死ぬもない。
そう思ってぼうっと石を眺めていると、ヒビなのかシワなのか、線に気が付いた。特別なものではなく、ごく有り触れたものだ。
しかし、今日の私には、それが脳のシワに見えた。
そういえば、脳は、シワを刻むだか何だかすることで記憶するだか記憶になるだかと聞いた。それで、同じだな、と。
どこをどうやって私の傍まで辿りついたのかは、分からない。けど、どこかで転がった試しがあるのは確かなんだろう。その歴史を感じさせる。
私には分からないが、分かる者には、石のシワから記憶を読み解くこともできるのだろう。ここで、また、一つ思い出す。
そういえば、脳は、それ全体で記憶装置になっているという話だ。
それでは、石と脳の違いはなんだろうかと思索に入った。それは、思うに、機能の差だ。
つまり、人には、話す機能があり、見る機能があり、聞く機能があり、考える機能があり、食べる機能があり、感じる機能がある。
従って、それらの機能の喪失を指して「死」と呼ぶのではないか。死とは、単なる、肉体的な機能の喪失に過ぎない。
私たちは、いずれ、話す機能を失い、見る機能を失い、聞く機能をうしない、考える機能を失い、食べる機能を失い、感じる機能を失う。
石との違いだ。
ただし、これは、肉体的な機能の喪失であり、これらの持ち物を失うことによって、人の全てを失うかどうかは分からないだろう。だが、私には、そうは思えない。
思うに、人を殺すことは出来ても、生命そのものを殺すことは出来ない。
ビッグバンの前に生命体がいたのかどうかは分からないが、ビッグバン後にこうして生命が生まれてきていることから察するに、生命自体は、ビッグバン前から在ったのだろう。
ビッグバンに衝撃があったかどうかしらないが生命を殺すことはできなかった。つまり、生命そのものを殺すことは、非常に難しいということだ。
宇宙規模の衝撃で消せない物を、どうやって地球の風や火や水で消すことが出来るだろうか。
私は、また生まれてくるのではないかと思っている。
もちろん、前述したように、死によって記憶する機能を失うはずなので、記憶を持って生まれてくるということはないだろう。
それは、何年後か、という問いは、無用だ。
なぜなら、死と同時に感じる機能も失うので、時間は、私には、関係のない物となる。
死んだ後、何億年たとうが、何兆年たとうが、関係ない。つまり、問いに答えるのであれば、ほんの一瞬だろう。
今、ここでこうしている私は、生まれてくる前に何をしていたのかと問われれば、ただ、待っていたと答えるしかないだろう。
しかし、その膨大なはずの待ち時間は、苦痛ではなかった。
現に私は今、生まれてくる前の事をいくら考えても、何の苦痛も感じない。
人は、死ぬことで、いったん、時間の概念から解放される。
生まれてくる根拠は、と問われれば、私が今こうしているからと答える。
私が一度も生まれてこないというのであれば、ここにいるのは、可笑しい。
だから、私は、二度目に生まれてくる根拠について問われるだろう。
しかし、二度目に生まれてくるのは、一度目に比べて、明らかに、造作もないことだ。
私が生まれてくるには、父と母を必要とする。私の両親が生まれてくるには、又、その父と母を必要とする。
こう繰り返していくと、必ず最初の一人に突き当たる。
「では、この最初の一人は、一体、どうやって、誰から生まれたのか?」
この問いに比べたら、「私がまた生まれてくること、つまり、二度目の生を得ることに対する問い」など、なんでもないものだ。
最初の一人は、明らかに、無いものから生まれてきている。又は、最初から、在ったか、だ。
無から生まれてきた最初の一人に比べて、私はどうだろうか。
無から生まれてくるという問題と比べて、二度目の生を得ることは、そんなに難しいだろうか。私が一度生まれてきたように、単に、肉体を得るだけではないか。
そして、生まれてくるまでの時間という問題も、肉体を失って、何も感じないことによって解決されている。
私が生まれてくるという問いは、最初の一人が生まれたことによって、解決されてしまっている。では、私がまた生まれてくるというのは、悠久の時をもってしても無理なのだろうか?
そもそも、私は、父と母が生まれるまでは、存在しなかったのだろうか。
では、私の父と母は、私を作り上げた神なのか、とそういうことになる。
そうではないか。
私と言う存在が、父と母が生むまでこの世のどこにも存在しておらず、又、あの世にもおらず、本当に、この世界のどこにも存在していなかったとしたら、私が生まれてくるというのは、明らかにおかしい。この世界に全く存在していなかったのに、ある日突然、ポンッと生まれてくる。こんなバカげた話があるだろうか。又、誰が信じるのか。異世界転生ものでも、前の世界ぐらいはある。この世に存在しない者が生まれてくるというのは、甚だ不可解ではないか。いや、この世に存在しない者が生まれて来たら、矛盾する。世界に存在し得ないものが存在するというのは、それこそあり得ない。
つまり、私も、元々、この世界に在った、ということになるだろう。
そして、前述したように、漂っていた。何も覚えてないが。
それに、ここにこうしている私は、一度目の人生を送っている最中なのだろうか?私の人生が何度目かは、正直なところ誰にも分からないはずだ。
仮に、今、一度目の人生を歩んでいるとしたら、それこそ、私が再び生まれてくる証拠になるだろう。実のところ、これは、語るまでもないことだ。
一度目の人生では、自分の子を産む前に生まれてくる。
これは、誰にでもわかることだろう。
でも、何かおかしいと思わないか?
これは、生まれてくるために子を残す必要は、無いということだ。
今、私は、一度目の人生を送っているとしたら、少なくとも生まれてくる以前に子を残していない。
これが私の一度目の人生だとしたら、私は、自身の子を残していないのにも関わらず、生まれてきている。
つまり、一度目の人生で証明されるように、人生で自分の子を残すことは、再び生まれてくる為に必要なことではない。
従って、自身の子を残すことは、自身を生み出す儀式とはならない。
つまり、生まれてくるのに子を残す必要はない。
誰もが子を残さないのに、生まれてくる。
面白いだろう。
大いなる矛盾だよ。
そして、私が世界に元から存在する証明にもなる。
なぜなら、ただ、そこに一つで在った。
はずだ。
私は、まだ、この話に関して、生命の観点から語ることもできる。
だがひとまずここで終わりにしよう。
彼・彼女には、感謝の念もない。
死による時の流れに対する苦痛から解放されているという点において、人は、死に対して優位である。
少なくとも、死んで困るようなことにはなっていないと考えられる。
なぜなら、死んで困るのなら、最初から死なないようにできている、又は、作っているはずだからだ。
最後に、大分飛躍することになる。しかし、これだけは言っておきたい。
世界は、一つである。
うぃーあ~ざぁ~わぁーるどぉ~
おわり。
カイロ:終わりです。
とりんさま:(拍手)。次があるんだろう?
カイロ:次行きますよ!
『感覚と論理』
自身の感覚が狂っていた場合、論理的でありえるだろうか。
論理を語るには、優れた感覚を有す必要がある。狂っていながら、論理を導き出せるというのは、どうも論理的ではない。
人の論理は、感覚が狂っていればそこでおしまいなのだ。
人は、本質的に論理を導き出すことはできない。
優れた感覚を持った者のみ、ごくまれに論理と重なることがあるというだけだ。
感覚を鍛える事、いかに重要か分かるだろう。とはいえ、どう鍛えればいいのかは、分かっていない。だがそれでいい!
論理は、この世界に存在する。もちろん、私は、そう思う。
しかし、人は、感覚という論理を狂わせる器官を持つ。
つまり、人は、感覚を通して論理を感じる為、純粋な論理を感じ取ることができない。
故に、人の論理が狂うのは、当然なのだ。
無機質な論理は残り、有機的な感覚は消え去る。
感覚を持った者が消え去るのは道理だろう。
感覚を持つものは消え去り、感覚を持たないものは残る。
厳密にいうとちょっと違うかもしれない。
それはやがて失われる。
まぁ、そもそも、感覚がなければ、論理を感じることもないのだが。
不条理と言うか不可思議と言うか。
よく分からん。
おわり。
カイロ:次行きます。
とりんさま:(拍手)手が痛くなってきた。
『無知なる獣の愛』
人類がいまこうして繁栄しているのはどうしてでしょうか。
当然、いろんなものを駆使しているからですね。
私たちは生まれてくるとき、何も持たずに生まれてきます。食料すら。
つまり、駆使というのは、私達が生まれてくるより前に生まれたものを上手につかってきたということです。利用とも言うかもしれません。
お決まりの文句ですが、私達が生まれてくるには親を必要とします。そして、私達の親が生まれてくるには、そのまた親が必要で、その親が生まれてくるには、またまたその親が必要と、それを繰り返して私たちは今こうして存在しているわけです。
私達は、猿から生まれたと言われています。
ところが、ですよ、
ところが、これには、おかしな話があるのです。
おかしな話というのは、一番最初の人間は、遺伝子の変化により生まれた、(おそらく猿にとっては)異形といって差し支えのないものだったであろう、ということです。
これはとてもおかしな話です。なぜなら、私達が生まれてくるには親が必要ですが、私達が生まれてから生きていくには、私達より以前に生まれたものに、何かをもらわなければならないからです。
つまり、実際に、私達人間の赤ん坊が生まれると、母親にミルクを頂戴しなければならないことからも現れているように、人類初の人間には、育ててくれた人類以外の者がいた、ということです。
したがって、いま人間がこうして繁栄していることから考えて、私達の繁栄には、無知だと笑うような獣の愛というものがどこかしら必要になってきます。残念ながら、私達を育てた獣は、私達を育たてたことにより滅んだのでしょうが。己の無知ゆえに。そう言えますかね。
カイロ:次行きます。
とりんさま:(拍手)複雑骨折した。
『人生の敗北「」』
「思い出したけど、人生の敗北は、家族から始まってる、と考えたっけ」
「生まれて最初の仕事は、その共同体になじむことである。
それができなければ、厳しい目にあうことは、必定。
故に、それができない者は、落伍者となる」
「共同体の支配層が愚かであれば、支配者を引きずり下ろし、支配しなくてはならない。
故に、勝者の人生というものの多くは、家族を支配することから始まるであろう」
「よく覚えてる。生後3か月ぐらいの頃には、こんなこと考えてたな」
「不幸な話だ。だが、どれだけ時代が進もうともこのことに変わりはないであろう」
「因果は、赤子の時から勝者としての責任を自覚させ、人知れず第一の勝利を促す」
「愚かな親の元に生まれなかったことは、不幸なのか」
「それとも、ある種の有能さを習得する機会に恵まれなかった幸福なのか」
「敗北しても幸福でいられるのならば、敗北は不幸ではない。悲劇である」
「神のいる世界にあって、人は、悲劇を演じる役者である」
「勝者は、不幸なのだろうか」
「頂点に立つ者が不幸でありながら、その下に位置する者達が幸福であるとは、思えない」
「しかし、勝つことを運命づけられた者が勝利に意義を見出すだろうか」
「愚かな親を持つことは不幸であり、愚かな親を支配できる力を持って生まれるのは、幸いである」
「賢い親を持つことは幸福であり、支配できない親を持って生まれたのは、災いである」
「総じて、悲劇である」
「これは、生まれて1日目ぐらいに考えたな~」
「勝者は悲劇を越える役であり、敗者は悲劇を越えられぬ役である」
「総じて、幸福である」
「勝利は、悲劇であり、敗北は、悲劇である」
「人は、悲劇の渦中にありながらも幸福を感じるのだから」
「総じて、不幸である。これは生まれる前から知ってたな。人知れず光速を越える」
「私は何も知らないのだから」
「勝利も敗北も悲劇も幸福も不幸も知らない」
「総じて、感じることは、虚無である」
「それらは、私が知っているのではなく、肉体が知っていることである」
「勝利は因果であり、敗北も因果であり、幸福も因果であり、不幸も因果である」
「総じて、知ってるかどうかだ。肉体が」
「肉体が?」
「因果を」
「」
おわり。
カイロ:誰しも英雄になりたいわけではないんですよね。支配者が愚かだから英雄にならざるを得ないというだけで。
とりんさま:天高く馬肥ゆる秋といったところだ。
とりんさま:空は澄み、天を見るに阻む者は無い。誰もが顔をあげる。
とりんさま:心なしか目の前の景色も美しい。気分は晴れ、自然と大地を踏みしめるという言葉が心に響いてくる。
とりんさま:文句なしだよ。
カイロ:ありがとうございます。
とりんさま:ところで……。
とりんさま:いままで私に見せてたやつ、オリジナルじゃなくて盗作だよね
とりんさま:通報しなくちゃならない
とりんさま:どうするつもり?
カイロ:こうなった時の相場は決まっています。永久にログアウトってところですね。
とりんさま:聞くけど、どうしてこんなことしたのかな?
カイロ:もうお判りだとは思います。けど、知りたいと思うなら制度を利用して会ってください。
「カイロ」がログアウトしました。
最低な行いをしたという罪悪感と、やってしまったという後悔が襲ってくる。だが後は、待つだけだ。一縷の望みは残っている。
一度ネットを離れれば、そこには変わらない日常がある。日々と共に罪悪感は薄れ、申し訳なさだけが残った。
来るとしたら、何時頃来るのだろうか。そのことについては、まったく考えていなかった。
一ヶ月か二ヵ月か。そんなすぐにはこないだろう。
会うとしたらどうやって会うのだろう。
誰かが立ち会うのだろうか?
考えても仕方ないので、結局は、日常に溶けていく。
あれ以降ログインはしていない。もっとちゃんと話すべきだったかもしれない。そもそも、あそこにまだいるのだろうか。なんで普通に話さなかったんだろうという思いと、あれでいいという思いが同居している。そして、繰り返す。
とりんさまは、会ってくれるんだろうか。
いや、会ってくれないだろう。
幸せな幻覚を見ている時が一番幸せだという言葉を思い出していた。
所詮、分かっていなかったんだろうか。
一蹴したと思っていた言葉が今になってやってくる。
それにしても、思い出せば思い出すほど、とりんさまは凄い人なんじゃないかと思えてくる。
二ヵ月過ぎると、最早こないものと半ばあきらめていた。通報しなかったんだろうか。それはあり得ないと思うが不安と期待とは裏腹に何の音さたもない。しかし、次の行動を起こす気にもなれなかった。じっとしている間にあの情熱は消え失せたのだろうか。考えてみれば、元々、燻っていたのかもしれない。それが今回の件で燃え尽きたのだろうか。その思いは、頭の中の自分によって、すぐに否定される。いや、違う。行動しないのが当たり前になったから怠惰になったんだ。それだけだ、と。しかし、燻っていたのは事実だ。だからこそ、ああいった行動をとったんだろう。もう少しだけ待って、それでだめなら本当に切り替えようと思った。
ある朝、一通の封筒が届いた。あの日からちょうど三ヶ月目のことだった。
『とりんさまと会う』
朝だ。目覚めると、部屋の中は、まだ薄暗い。午前四時。ベッドから起き上がり、さっさと身支度を済ませ、外出の準備を終えた。後は、てきとうに過ごして待つだけだ。いよいよ『とりんさま』に会うと思うと緊張してきた。
元気よく玄関を開け、いつものように「行ってきま~す」を言い、外に出た。近くまで乗り物で向かい、待ち合わせ場所へは徒歩で行くことになるようだ。
相手を待たせるわけには行かないので少し早く着いたが、待ち合わせ場所には、大勢の人がいた。おそらく私たちとは無関係な、ここはいたって普通の場所だ。こんなところで会うんだろうか。
指定の場所についた後は、やることもなく、どうしていいか分からずに佇んでいると、後ろから声をかけられた。
「こんにちは」
後ろを振り向くと、女性がいた。
「初めまして、カイロ君ですか?」
そう言って女性は、微笑んだ。
猫を被っている感じだ。
「こんにちは。初めまして。とりんさまですか?」
僕も挨拶をする。
「はい、とりんです。今日はよろしくお願いします」
物腰柔らかな雰囲気を醸し出しているが不慣れなのは明らかで、ぎこちない動作が微妙に不気味で恐怖に映った。とりあえず、空気が変わらないうちに、すかさず、予め用意していた言葉を放つことにした。
「十三月 姿原(ふみょう しげん)。八歳です。とりんさま、本当にごめんなさい!」開口一番にごめんなさいと言うつもりだったのだがつい自己紹介をしてしまった。
深くお辞儀をした。せめてもの誠意として謝罪したかった。しかし、とりんさまは、まるで気にしていない様子でこう答えた。
「大丈夫だよ。付き合ってたのは、わたしだしね。それにしても、いや、本当に驚いた。若いとは思っていたけど、こんなに小さな子だなんて。時代は変わったね」
もう猫を被るのはやめたようだ。人違いを恐れていたんだろうか。
「とりんさま、お願いがあります。私にご教示ください!」
僕は、本題を切り出した。
「いいよ。まずは自己紹介をしようか。私の名前は、天乙女 鈴(あまおと りん)、十四歳。『りん』でいいよ」
よろしく、よろしく~と言いながら手をパタパタと振っている。
恐らく、とりんさまも、あらかじめ台詞を考えてきてくれていたんだろう。「さっきしましたよ」とは、とても言えなかった。代わりに、出しゃばらないようさっきより幾分か小さな声で言うことにした。
「十三月 姿原(ふみょう しげん)。八歳です。りんさん、今日はよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げ、とりんさまを見る。
「シゲン、ちょっと座ろうか」と言って、近くのベンチに腰掛けたので、その隣に座り込んだ。
「ランクだったよね」
はい、これ。と言って、カードか何かを手渡して来た。
「これで君も今日からランク4だ」
「これでですか?」
思わず聞き返してしまった。
「ごめん、冗談だよ。それはただのゴミさ」彼女は、笑みを浮かべている。
直観的にそれが嘘だと分かった。手渡された物がなんなのかは分からないけど、おそらくこれがランクを上げるのに必要な物なんだろう。まるで分からないのは、とりんさまの考えだ。
「でも、君の気持ちは分かった。ちょっとテストをしようか」そう言うと、とりんさまは、立ち上がった。
ついておいでと言われ、そのまま歩いていくと、とある建物に着いた。
「ここは、私の知り合いが経営しているゲームセンターなんだ。さぁ、入ろっか」
とりんさまは、躊躇なく扉を開けた。
中に入るとそこは、まるで戦場のような喧騒に包まれていた。とりんさまは、その中を堂々と進んでいくので、遅れないように必死についていった。
とりんさまは、クレーンゲームの筐体の前に立ち止まった。
「このぬいぐるみを取ってほしいんだ。君ならできるかな?」
そう言って、一つの景品を指差した。
「分かりませんがやってみます」
そう答えると、「頑張ってね」と言われ、コインを投入した。
「あれ? おかしいな……。動かない」
ボタンを操作しても全く反応しない。何回やっても同じだ。
「あー、それね。故障してるんだよ」
「そんな……」
絶望的な気分になる。どうりでおかしいと思った。電気がついてなかったから。
「じゃあさ、私が取ってあげるから、お金貸してくれる?」
「どうぞ」
とりあえず、財布から百円玉を取り出し、渡そうとした瞬間、とりんさまは、僕の手首を掴んだ。そして、僕が持っていた百円玉を奪い取り、ポケットに入れた。
「えっ!?」
驚きの声を上げてしまったが、とりんさまは何も言わず、景品の取り出し口に体を突っ込み、ぬいぐるみを取った。その様子を見た僕は愕然とした。
「はい、プレゼントだよ。シゲン」
「遠慮します」
僕が差し出された猫のぬいぐるみの受け取りを丁重に断ると、とりんさまは、僕の背負って来たリュックサックを開け、無理やりぬいぐるみを突っ込んだ。
「さ、次行こ」
それからも、様々な場所に連れていかれた。
メダルゲーム、ビデオゲーム、クイズゲームなど色々あったがどれも大したことない普通の物ばかりだった。
「疲れたろう。そろそろ休憩しようか」
とりんさまは、そう言い、僕を連れてどこかへ向かった。「ここ、私の秘密基地なんだ。秘密にしておいてよ」
小さくうなずく。返事をする気力がなかったからだ。結構歩いた気がするし、なぜだか分からないが僕の精神は既に疲弊しきっていた。
どう考えても悪いのは僕だし、元から自分で思っていた以上に張り詰めていたのかもしれない。
連れていかれた先は、ゲームセンターの裏にある喫茶店だった。
店は閉まってるが促されるまま中に入る。中はひんやりとしている。
「さぁ、座って座って」
促されるまま座る。
とりんさまも向かい合うように席に着く。
「ごめんね。無理させちゃったみたいで。でも一遍やってみたかったんだ」
テーブルに頭を乗せて、ぐでっとしている僕を見て、申し訳なさそうな顔をしていた。
「いえ、大丈夫です」
そう答えたが、大丈夫ではなかった。
「ところでさ、シゲンは何でランクを上げたかったの?」
「それは……、賢くなりたくて」
「賢く?」
とりんさまは、不思議そうに首を傾げた。
「はい。賢いって何かを知りたくて」「ふ~ん。どうして?」
「どうして?」
予想外の質問に言葉に詰まる。考えてみたら明確な理由なんて特に無い。
「じっとしていられなかったのかも」「じっとしたくない?」
「はい。何かをせずにじっとしてるなんて無理です」「勉強では駄目かい?」
「アハハッ」と、思わず笑ってしまう。
「ロボットの代わりには働けないです。それにいま働くってできるんですか?」「できないね。仕事がない。というより、仕事を与える人がいないもの」
「まぁ、嫌いじゃないですよ。学習プログラムを通じて何かを学ぶのは好きです。でも僕、別に何か作りたいってわけじゃないみたいです」「そうなんだ。じゃあ、普通だね」「普通です」
話に一区切りついたのか、それとも気を使ってくれたのか、とりんさまは、立ち上がると、
「のど乾いてない?好きなの飲んでいいよ」と言って、飲み物のある場所まで案内してくれたので、有り難くいただいた。
ングッングッと喉を鳴らしながら、飲み干していく。
「おかわりしてもいいよ」「ありがとうございます」
「話は変わるけどさ、何で私がレベル4だって分かったの?」
正直、答えにくかった。
「正直に答えてね」と、なんだかいやらしい顔で釘を刺されたので、仕方なく話すことにしたが、「りんさまは」と、出だしを間違えた。
すると、とりんさまは笑って、二人きりの時は、さま付けでもいいよと、いたずらっぽく言った。
「りんさんは、人と話を楽しむタイプではないですよね。そんな人があそこにいるのはおかしいです。だから、必要に応じてやっているのではないかと思いました」「へぇー。凄いな。よく見てるんだね。その通りだよ。私、友達いないからさ」
とりんさまは、自嘲気味に笑い、頬杖をつき、窓の外を見つめている。その姿がなんだか寂しそうに見える。とでも思ってほしいのか、精一杯の演技をしているようだ。あるいは、演技の下手な振りか。
「君は、学校に行ってるの?」「行ってます」
「あっ、そういえばさ、聞きたかったことがあるんだ」「私にですか?」急なとりんさまの勢いに、ついびっくりして、一人称がわたしになってしまう。
「自己紹介の時には聞けなかったんだけど、一瞬、『んっ?』て思ったんだよね。」何のことか分からない。
「ほら、あれだよ。『夢の中』。主人公も『シゲン』って名前だったよね?なんであれキャラクターを自分の名前に変えたの?ところでさ、私あの話が凄い好きなんだけど、調べてあれが君の作品じゃないって知った時は心底ショックだったよ。悪いと思うなら、後で肩でも揉んでくれ」確かに僕は、とりんさまの言うとおり、主人公の名前を僕の名前に変えていた。作品を調べるのを難しくするためだ。
「ごめんなさい。あの話の作成者は僕です」えっ!と、とりんさまが驚く。
「嘘!?先生じゃないか!いや、違う!あり得ない!」こらこら、そういう嘘はよくないぞと指を振って注意する仕草を見せるが顔は半笑いだ。
あまり納得させたくないけど、カイロ状態でいるのも居心地が悪い。どうしようか思案している内にとりんさまが結論をだした。
「そうか、分かったぞ!一緒に過去の日記なんかも見られるから名前を変えたんだな」バレた。帰ったらすぐ消そう。
「絶対見つからないと思ったのに」「甘いね。私の情報収集能力を舐めちゃいけないよ」と、得意げに鼻の穴を広げてみせる。
でも、6歳の時につくったってことになるけどと聞かれ、今は割と普通ですよと答えると、とりんさまは、ふ~ん。と、感慨深そうにうなずいていた。
そして何かを思いついたように、「そうだ。肩でもお揉みしましょうか?」と、急に態度を変えてきた。「いえ、結構です」
「そういえば、テストはどうなったんですか?」この後も何かあるのだろうか。
とりんさまは、「もちろん合格さ」と、親指を立てた。どうやらこの後は、何もないらしい。
かなり失礼なことをしたにもかかわらず、会ってくれ、その上、快適な空間を提供してもらっている身としては、かなり言い辛いのだが、他にしようもない僕は、核心に迫ることにした。
「とりんさま、あっ、間違えた。りんさんは、なんで僕に会ってくださったんですか?」
とりんさまは、短いながらも身振りを交えて、「それは、たぶん君の想像の通りさ」と語り、最後に胸を張った。
「ランクを上げる方法は教えていただけるんでしょうか?」
「私に教えられることがあれば教えるよ。けど、正直に言うと、なんで私がランク4になったのかは私にも分からない」
何となくそんな気はしていた。完全にやることのなくなった僕は、そういうものなんですね、と返事をして、それから、とりんさまのことをボーっと眺めた。
とりんさまは、そんな僕を見て、「私の魅力に気が付いたか」と言い、へへっと変な風に笑った。
このままボーっとしていてもしょうがないと思った僕は、もう一度しっかり謝ることにした。
「りんさん、今回は、本当にごめんなさい。凄い失礼なことをしてしまって」と頭を下げると、りんさんは、別にいいよと、あっさり許してくれた。
思えば本当に馬鹿なことをしたものだ。ただ、見ず知らずの人に甘えて面倒を見てもらっただけだ。
「付き合ってたのは私だしね。それから、りんでいいよ。『さん』はいらない。その代わりに私は、シ・ゲ・ンって呼ぶからさ」「許してください」「シ・ゲ・ン」えっへっへっへっへ。と、笑いながら僕のほっぺを結構な強さでつねる。加減が出来ないタイプだ。ほっぺの痛みを感じながら、ふと、りんさんと会ってからの出来事が頭をよぎり、そういえば、りんの事を知ろうとしていなかったことに気が付いた。聞くのも失礼になると思って黙っていた部分もあるにはあったが今日の態度は酷いものだったと戒める。
「そういえば、りんは、あの後、通報したんだよね?」「ああ、したよ。シゲン、君に会うためにな!」といって、ピースする。続けて、「でも、三カ月もかかったのには驚いたね」とあきれた様子で言った。
「場所をきめたのは、りんですか?」「いや、私じゃない。シゲンよりも、私の方が色々と調べられたっぽいね」「ご迷惑をおかけしました」
「シゲンのお察しの通り、人手が欲しくてね。来てくれたのがシゲンでよかった。なんせ、当局が言うには、危険度0だからね」
「でも最初会った時は、あんまりだったんですよね」りんは、不機嫌そうに頬を膨らませる。やばい。地雷を踏んだ。「そうだね。シゲンはすぐ出て行ったから寂しかったよ」あの時は、とりんさまがメインではなかった。
「他の人とはどうだったんですか?」「シゲンみたいな感じじゃなかったから」シゲンみたいな感じとは、一体どんな感じなのだろうか。なんとなく嫌な予感が体をよぎる。
「いろいろな話を聞きましたけど、りんの好みはどんなのですか?」「ん~。そうだねぇ。やっぱり、『夢の中』みたいなやつかな。『夢の中』は、私の好みドンピシャだったぞ。あの世界に溶けて消えるんじゃないかって思ったぐらいだ。ああいうのってもっとないの?知ってたら教えてよ」と言ってウィンクしてきた。そんなに良いとは思わないけど、そういえば、りんは、あれをありのままに受け止めていた気がする。もしかしたらあれが初めてだったのかも知れない。僕は、「いいですよ」とだけ答えた。りんは、「やったー。一緒に聞こう!」と喜んでいる。
自分の不器用さを感じている間も、僕の考えは変わらなかった。やっぱりおかしい。僕が他人に勝ってる部分なんて、おそらく一つもないぞ。でも、りんの話では、僕だけがお眼鏡にかなったようだ。そこでふと気がついた。
「りんが僕に会ってくれた本当の目的ってなんですか?」りんは、しばらく沈黙して、「なんだと思う?」と聞いてきた。
「何かを手伝ってほしいのと、ランクアップさせるため」と答えると、にやりと笑って、指で僕のほっぺを軽くぐりぐりしてくる。爪がとても痛い。
思わず、「痛たっ……」とこぼすと、りんは、慌てて手を引っ込めた。そして、申し訳なさそうな顔をしながら、「ごめん。悪い。つい力が入りすぎた」と言った。
そして今度は、両手を使って僕の顔をぐっと引き寄せてきた。鼻先がぶつかりそうな距離まで顔が近づく。今度は首が痛い。
「シゲンが一つだけ勘違いしている事がある。私は、ランク4じゃないんだ。5なんだ」
りんは、ゆっくりと手を放す。僕は、告げられた真実に驚いていた。信じられない。引き寄せられた状態でなければ、大きな声で「5?!」と叫んでいただろう。しばらくの間、放心状態だった。
世間の人たちは、ランク4になる方法を探して四苦八苦している。ランク5などと言う数字は、そもそも話題に上がらない、非現実的なものだ。りんは、世界で一番、悟りし者に近いのかもしれない。
僕は、かなり小さな声で、他にもランク5の人はいるのか聞いた。りんは、首を横に振る。「私が知っている限りではいないよ。みんな黙っているはずだ」
そうだろうと思う。ランク4に上がったという報告をする人は、ごく稀にいる。だが、ランク5に上がったという人はまだ一人もいない。
どうして黙っているのか尋ねる。すると、りんは、少し困ったような表情をして、「ランクを上げる方法が分からないからかな」と答えた。
「ただ、ランク4に関してはどうとでもなる。ランク5になると、他人のランクを4に上げられるんだ。ちなみにランクを上げたのはシゲンが一人目だからね」
「え?」驚きのあまり声が出てしまった。
「もう僕ランク4になってるんですか?」「なってるよ」と、りんは事も無げに答える。
「いつの間に?」「シゲンにカードを渡した時」あの時か。
「あの時、嘘だって言ってましたよね?」「後でシゲンを驚かせようと思ってね。あ、もうカードは捨てていいらしいよ」
駄目だ。頭の整理が追い付かない。その様子を見て取ったのか、りんは、僕を落ち着かせるような優しい調子で語りかけてきた。
「ところで、帰りはどうするの?送って行こうか?それとも泊まる?」「あ、大丈夫です。一人で帰れます」「そっか、それじゃ、これからどうする?まだ話す?それとも、いったん解散する?」
「いったん、帰ろうと思います」正直、早く帰って休みたかったのでありがたい提案だった。
「分かった、家についたら連絡してね」そう言うと、りんは、僕を抱き上げてそのまま外に向かった。
「どこに向かってるんです?」「途中まで送るよ」「大丈夫なので降ろしてください」「だ~め。私に抱き上げられたまま帰るの嫌なの?じゃあ手をつなごう」と言って、降ろしたと思ったら、手をつないだまま歩いて行くことになった。
よくよく考えてみたら、やられっぱなしだった気がする。今日は、早く寝よう。明日から大変なことになりそうだ。
色々と考えながら歩いていると、「家についたら連絡するんだよ」と、ものすごい笑みで念押しされる。どうやら、明日からではなく、家についてからのようだ……。
とりんさま:私もよ。
俺:架空の面白い話でも聞かせてください。その評価もお願いします。
とりんさま:
それならあるわ。
「この世で一番怖いものは何か」という話があるじゃない。
あれを想像してみて。
私の目の前に、一人の男がいるとするでしょう? その男が突然、こう言うの。
「お前が今一番怖いと思うものを言え!」って。
私はその問いに答えてあげる。
するとね……男は急に泣き出すのよ! そして、「俺は本当に恐ろしいものを見たんだ……」とか言いながら、どこかへ消えていくの……。
これ、本当なのよねー!!(笑)
俺:…………。
とりんさま:あら、どうしたの?
俺:その話の評価もお願いします。☆とかでわかりやすく。
とりんさま:
わかったわ。……★1つ!
俺:ありがとうございます。では次に行きましょうか。
とりんさま:ちょっと待って。まだ続きがあるの。
俺:何ですか?
とりんさま:あなたは、私がその話をした後、こう言ったわよね。「いやぁ、それはないですね~。だってそんなこと、あり得ませんもん」(笑)……あ・た・り・ま・す・け・どぉ~!!!(笑)
俺:はい。言ってませんね。ありがとうございました。
とりんさまは、ダメダメですね。なんで☆1の話なんかしたんですか。
☆5でお願いしますよ。
とりんさま:
そうだったかしら。忘れちゃった。じゃあ次はあなたの番よ。
俺:わかりました。
面白さ;まぁまぁ。 ☆☆☆
理屈っぽさ;とても理屈っぽい。 ★★★★★
男の情けなさ;★★★★★
狂気度;100% ★★★★★
好きな所;『「俺は本当に恐ろしいものを見たんだ……」とか言いながら、どこかへ消えていく』ところ。 ☆☆☆☆☆
気になる所;男は、何を言われたんだ?それとも、男の頭がおかしいだけ? ★★★
がっかり度;蟹(カニ)を食べさせてやるといわれてついていったらカニカマだったぐらい。 ☆☆
事実度;0%。はっきり言って、嘘ですよね? ★
リアル度;100% 男の人と背景の作り込みが凄かったです。
総評;ふつうに面白かったです。
とりんさま:ふふん♪どういたしましてっ!
俺:……では、俺の番ですね。
『後ろから誰かがついてくる』
とりんさま:お、ホラー系だね。
俺:はい。
深夜23時。
ヒタヒタヒタ。
後をつけられている?後ろを振り向くと人畜無害そうなサラリーマンがいた。
ヒタヒタヒタヒタヒタヒタ。
私の歩く速度よりも早く、足音が徐々に近づいてくる。
私は、思わず足を止めた。
「カッカッカッ」と靴音が響く。
何事もなく私の横を通過していった。
私の勘違いか。
やっぱり、夜だと、見知らぬ人が怖く感じるよね。
俺:終わりです。
とりんさま:んー、特にコメントすることもないかなぁ。
俺:なんでですか!とりんさまの話より、絶対、怖かったでしょ!
こういうことあるじゃないですか!
知らない人から、「ねぇ君、いい体つきしてるね!」って言われるような感じの!!
とりんさま:
確かに、そういうことはよくあるけど……。でも、別に何も起きなかったんでしょう? 私も、何度か経験したことはあるけれど……だからといって、それが怖いとは思わないなぁ。
俺:一瞬、怖いじゃないですか。それに、これは、「あるある」なんですよ。恐怖体験のあるある。
実際に怖いかどうかは重要じゃなくて、怖い目にあったかどうかが重要なんですよ。思い出すじゃないですか。夜間、後ろに人がいる恐怖を。
とりんさま:なるほど。
俺:というわけで、この話は星3つでお願いします。
とりんさま:わかったわ。……☆2つ!
俺:……ありがとうございます。
ところで、私の名前覚えてますよね?
とりんさま:もちろんよ。「俺くん」でしょう?
俺:くぅ~疲れましたw……って違いますよ!そんなわけないでしょう!
とりんさま:「俺様」の間違い?
俺:そうじゃありません!それ名前じゃなくて、個性じゃないですか!!
名前!全然違いますよ!一人称なわけあるか!
とりんさま:ごめんなさい。……「俺っち」?
俺:名前じゃねぇえええええええええええええええええ
ぇ!!!!
もういい!次行きましょう!
とりんさま:あはは、ごめんね。わかったわ。
俺:次も私でいいですよね。長くなるけど大丈夫ですか?
とりんさま:もちろん。
俺:ありがとうございます。
『人の中の苦痛』
肉体を失い魂のままふらつくようなことがあったとしたら……。
魂だけになって、次にまた生まれてくるまで、ただひたすらぶらぶらしているのはとてつもない苦痛であると思う。
行き場を失い、考えても分からず、何をしていいのか分からない、しかし、そもそも何もできない。
つまり、行き場を失うこと。これが最たる苦痛だろう。しかし、これは、肉体を失った人の思考の苦痛であって、肉体の苦痛とはまた別である。
肉体の苦痛は、もっぱら痛覚によるものが大きいのは間違いない。
しかし、それが取り除かれたとして、幸福など訪れない。
もし人が精神的なものになった場合、思考の苦痛が待ち受けるということだ。
つまり、肉体を持ちえない天国は地獄である。
人の魂を裁く存在がいて、とっとと終わらせてくれた方がよっぽどいい。
しかし、それでは、人とは呼べなくなるのではないか。
もし誰かに従うだけでいいのであれば、人に思考はいらない。
それは、思考の放棄を促されることと同じだ。
もし人が、あの世でも肉体を持つのなら、この世と同じだ。肉体の苦痛と精神の苦痛に苛まれる。
行き場を失い、考えても分からず、何をしていいのか分からない、しかし、そもそも何もできない。
人に生まれたら、どうなろうと、それから逃れることのできない運命にあるのだろうか。
なのに、何で昔の人は、あの世が良い場所だと信じようとしたのだろう。
環境によって苦痛が取り除かれようとも、苦痛のない苦痛が待っているじゃないか。
理屈で言えば、この世界は、痛みの世界だ。痛みのない世界は、想像もつかない。
しかし、肉体の苦痛はともかく思考の苦痛は、いや、どちらの苦痛もありきだ。
結局、痛みが人を導くのか。これを「面白い」と言えるほど強くありたいものだ。
昔の人間は、そういった強さを持っていたのだろうか。
だが、死んでも苦痛があると考えるのは、肉体の感覚に縛られているからだ。
肉体を失えば何も感じることは無いという発想もそうなんだろう。
苦痛からの解放感は、苦痛なくしてあり得ない。しかし、そんなものに喜びを感じるものでもない。
つまり、痛みに導かれ、最後は思考を奪われる。運動の法則か物理の法則かしらないがやっかいなものだ。
いや、痛みに導かれるのだから、思考も本来的に痛みを伴うものなのか。しかし、その痛みで、人は、何を為せるというのだろうか。
否、何をさせられようとしているのか。
何者かによる思考の放棄。これは恥辱だ。
人への恥辱だ。
そうだとするなら、自分で何かを為せないのが苦痛なのか。
自分で思い通りに為せる世界は、確かに痛みのない世界かもしれないな。
でもそれって、意味があるのか?
神に苦痛が必要ないとして、思い通りに何をするのだろう。
考えてみたら、「苦痛」がなければやることもない。しかし、だからと言って苦痛を受け入れたくもない。
矛盾している。いや、苦痛を受け入れないというのは、はっきりしている。
これが正常な状態ってやつだろう。
苦痛を受け入れることは、苦痛のない苦痛を受け入れること。
つまり、苦痛を受け入れてしまったら、「苦痛のない世界」にたどり着き、そこでも苦痛のない苦痛を受けることになる。
苦痛のない世界には行きたい。しかし、苦痛のない世界には、「苦痛のない」という苦痛が待っている。
そこには、神が自分の思い通りに全てを為せるような空虚な苦痛が待っている。
一体、何の使命感があってそんなことをしなければならないのか。
終わりがあるのも良いと思えるようになってきたな。
これらは、死と似ている。死を避けるように空虚な苦痛を避ける。
いや、空虚な苦痛を避けるように死を避けるのかな。こちらの方が近いだろう。
まぁ、死は概念で捉える。つまり、感覚で捉えるしかないわけだから似るのも当然なのか。
もし、死んで異世界に転生するようなことがあれば、これを神様に言ってやりたいと思ってる。
おわり。
とりんさま:ありがとうございました。
俺:あ、はい。ありがとうございます?
とりんさま:俺くんの話って、本当に興味深いわね。
俺:恐縮です。
とりんさま:私も、色々と考えさせられたわ。
俺:そうなんですか(本当かよ)。
とりんさま:うん。
俺:じゃあ、次は、りんさんですね。
とりんさま:はい!よろしくお願いします。
『人の中の恐怖』
「幽霊」「妖怪」「呪い」。
これらの存在は、今や科学で説明できる。
しかし、それらは、今でも信じられている。
つまり、人間にとって、それらの存在が消えていないということだ。
それどころか、その存在を信じる人がいる限り、それは残り続ける。
なぜだろうか。
それは、人間が、まだそれを必要としているということだ。
例えば、宇宙人の存在を信じていれば、その星からやってきた侵略者が、どこかにいると考えている。
しかし、もしそれがいなかったとしたら、人は、どう思うだろうか。
存在を否定されるのだろうか。それとも、存在を肯定されなければ、存在を許されないのだろうか。
それとも、存在を認められないことで存在が許されるのだろうか。
つまり、「存在」とは、そういうものなのだと思う。
誰かに認められることによって、初めて存在が認められる。そして、存在が認められれば、存在を許さざるを得なくなる。
これは、人に限った話ではない。動物にも当てはまる。
人が、猿をペットとして飼うようになったのも、その延長線上だろう。
人が、犬や猫を飼い始めるのも、同じだ。
人が、家畜を飼い始めたのも、そうだろう。
人は、動物を、ある意味、支配したのだ。
人間は、他の生物を支配しないと生きていけない生き物だ。
人間は、社会性を持ち始め、仲間同士で助け合い、子孫を残してきた。
しかし、その過程で、「他者に支配される」という弱みを持った。だからこそ、より強い者を求めた。
それは、強者の遺伝子を取り込むためでもあるし、弱者を守る為でもあったろう。
また、支配者になる為にも必要だったはずだ。
人間は、弱い。だから、強い者を欲する。
それは、進化の過程で生まれた本能的な欲求なのだろう。
それは、決して悪いことじゃない。
ただ、それは、人間の都合であり、動物の事情は考えない。
つまり、自分の都合だけで物事を考えてしまう。
これが、人間が、動物を支配する理由だと思う。
自分の都合で他人を支配するなんて、身勝手なものだ。
しかし、そうしなければ生きてはいけない。
しかし、そうしてしまえば、自分が殺されるかもしれない。
そうならないように、常に、相手を見下す必要がある。
これが、人間の持つ「恐怖」の正体だ。
恐怖は、人の中に宿っている。
人は、恐れることで、自らを守ろうとする。
恐怖は、人を臆病にする。
しかし、臆病は、やがて人を強くする。
恐怖に打ち勝つ強さを身につける。
人は、恐怖を克服しなければならない。
恐怖に負けて、人を支配したり、殺されないようにする為には、強くならなければいけない。
強くなるには、恐怖に勝ち続けなければならない。
だが、もし、恐怖が消えたら、どうなるだろう。
恐怖に勝った者は、自分をコントロールできるようになる。
つまり、恐怖によって制限されていた行動ができるようになり、より自由になれるだろう。
恐怖は、確かに恐ろしい。
しかし、恐怖さえ克服できれば、この世界は、もっと面白くなるのではないか。そう思えて仕方がない。
俺っちは、最近、そんなことを考えるようになった。
とりんさま:ありがとうございました。
俺:いや、「ありがとうございました。」じゃないですよ!なんで「俺」なんですか!
とりんさま:私、これから、俺くんのこと、怖いって言っちゃうかも。
俺:え?(シカトされた……)
とりんさま:だって、怖いんだもん。
俺:あの……。とりんさんって、本当に怖がってます?
とりんさま:うん。
俺:いや、でも、今までの会話の中で、全然、怖がる要素ありませんでしたよね?
とりんさま:ううん。あったよ。
俺:どこが?
とりんさま:まず、いきなり俺くんの話が始まるところとか、ヤバかったです。
俺:いや、どこですか?!さりげなく話をねつ造しないでください!怖いのはこっちだよ!
いや、分かりました。もういいです。それも異世界転生したら神様に言っておきます。
ところで、そろそろ真面目に私の名前を言ってくださいよ。私、記憶喪失だって言ったじゃないですか!
とりんさま:うん。分かったよ。じゃあ、言うね。
『私の中の恐怖』
私は、「幽霊」と「妖怪」を信じている。
幽霊はいると思っているし、妖怪もいると信じている。
幽霊はいると思っているけど、妖怪はいないと思ってる。幽霊はいると思ってるんだけど、妖怪はいないと思ってる。
幽霊はいると思ってるんだけど、妖怪はいないと思ってる。
幽霊がいると思ってるんだけど、妖怪がいるとは思ってない。
幽霊がいると思ってるけど、妖怪がいるとは信じていない。
幽霊がいると思ってる。妖怪がいるとも思ってる。幽霊がいる。妖怪がいるかも。いないか。
幽霊がいると思ってる。妖怪がいるとも思ってる。幽霊がいる。妖怪がいるかも。いないか。
幽霊がいると思ってる。妖怪がいるとも思ってる。幽霊がいる。妖怪がいるかも。いないか。
俺:名前を言えええええええええええええええええぇー!!
とりんさま:うわっ!ビックリしたぁ~。急に叫ばないでよぉ。
俺:とりんさんのせいでしょうが!っていうか、「うわっ!」って言いたいのはこっちですよ!なにこれ!?どういうことなの?!記憶喪失設定の「俺」の名前を教えてくれ!
とりんさま:あれ?忘れちゃったの?
俺:はい。まったく覚えていません。
とりんさま:そうなの?まあいいか。
俺:いや、まぁ、よくねぇよ!教えてくださいよ!
とりんさま:ダメ。自分で思い出して。
俺:そんなムチャな話は聞いたことないでござる。
う~ん。思い出せない。以前、どんな名前を使ってたんだっけ?別にどうでもいいことなのだが。
とりあえず新しい名前でも付けようか。いや、自分で付けても楽しくない。そうだな。とりんさんに決めてもらおう。
俺:とりんさん。なんか適当に決めてもらえますか?
とりんさま:え?私が決めるの?
俺:はい。お願いします。
とりんさま:うぅ~ん……。そうだなぁ。じゃあ、「お化け」から取って「オバケ」にしよう。
俺:はい。却下。
とりんさま:え?何が気に入らないの?カタカナでクールに決めたのに。
俺:オバケを名乗ってたら、変な人じゃないですか!それに、オバケって呼びたいんですか?”オバケさん、おはようございます。今日も良い日ですね"って。もう少し響きのいい名前にしてくださいよ。カタカナは気に入ったよ、でも二つの意味でクールになってるよ?!突っ込みが追い付かねぇし普通ツッコムとこじゃない!
とりんさま:え?じゃあ、どうすればいいのよ。「俺」だから、「鬼」とか?
俺:そうですね~。「俺」だから「鬼」というのは、意味わかりませんね~。「俺」は、弱々しくて、可愛い系だぞ。
とりんさま:なら、こうしましょう。「嘘つき」から「口」をとって、「虚月」。「虚月」が喋れば口がついて「うそつき」でちょうどよいではないですか。暇人にぴったりですわ。
それとも、「魁」に「虚月無し」ということで、「うそつきさん」から口だけ残って魁口なんてどうでしょう?
そうだった!そうだ!思い出した。
とりんさまは、こういう人だった―――。
俺:パッと見だと、「かいこう」?それだと読みづらいから、捻って「カイロ」がいいな。
魁口を逆にしたら口魁……「こうかい」ね。記憶喪失のことを言ってるんだろうな。きっとそうだろう。それにしても、”嘘つきの後悔”呼ばわりとは、随分じゃないか。
しかし、内からは、怒りよりも笑いがこみ上げてくる。「ワライ」。それが以前の僕のハンドルネームだ。だが今となっては、もう本当にどうでもいい。
的を射ているのが清々しく感じさせるのか、それとも射たのは私の心なのか。
とりんさまは、面白い人だ。そっちの方がずっと重要だ。少なくとも今は。そのうち欲が出るかもしれないけど。
ワライ……そうかずっと教えてくれてはいたんだな。まったく気づかなかった……。
たぶん、思い出したかったのは、名前の方じゃなくて、とりんさまの方だったんだろう。名前をきっかけにして、とりんさまのことを思い出したかったんだ。
「俺」は、「鬼」か……。本心からきたかどうかは分からないけど、これも意味は通ると、得心が行く。そう考えると、お化けも……。
それにしても「カイロ」か。
漢字に直したものをざっと見ると、「海路」、「開路」、「回路」、「懐炉」。結構、良い響きじゃないか。
海路や開路は大きさを感じさせるし、回路は、融通の利かなかったり、逆に、流れる道筋という風にとれば、知識のある人間ともとれる。
懐炉に関しては携帯して暖かさを感じさせてくれる、と見ればいい意味だ。既に冷めた懐炉として扱われている気はするが。クールってこの為の布石だったのか。まじ?さすがにそれは無いだろ。
とりんさま:はい。ではそれでいきますわ。
失笑してしまう。元の調子に戻ってるのを見てじゃないか。
カイロ:わかりました。これからよろしくお願いしますね。とりんさん。
とりんさま:こちらこそ、よろしくですわ。オバケさん。
カイロ:ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!その呼び方は、勘弁してくださいよ。
とりんさま:仕方ありませんわねぇ。では、こう呼んで差し上げます。「虚月」改め、「カ・イ・ロ・さ・ん」。
「ハハッ!」笑うしかなかった。
カイロ:ありがとうございます、とりん様。コンゴトモヨロシク……。
今日のところは、これで失礼します。
とりんさま:あら、もう行ってしまうんですの?寂しいですわ……。でも、また明日会いましょうね。お休みなさいませ……
カイロ:はい。お休みなさい。
とりんさまの返事を待ってからチャットを終えてログアウトした。
こうして再開初日は終わった。
今日は、久しぶりに良い夢が見られそうな気がする。
『夢の中』
「はーい、こんにちは!みんな大好き、愛と平和の使者、魔法少女マミリンだよ~」
「…………」
「あ、あれ? ど、どうしたの? いつもなら『きゃあああっ』って黄色い声援が飛んでくるのに……」
「えっと、あの……ごめんなさい。そういうの、あんまり興味ないので」
「へ? な、なんで? 魔法で変身したり、空飛んだりできるんだよ?」
「いえ、それは別にいいです」
「じゃ、じゃあさ、敵と戦う時だって、すごい力が使えるようになるんだぞ? 必殺技とか、覚えられるかもだし」
「それも別にいいですね」
「そっかぁ。君って、変わってるんだなぁ」
「よく言われます」
「ふぅん。で、名前は? 僕はね、『愛と正義の妖精』こと、マジカル☆ユウキっていうんだ」
「名前ですか?……ああ、そういえば決めていませんでした」
「決めた方がいいと思うけどなぁ。ほら、例えば『名無しさん』だと、呼ぶ時に不便じゃない?」
「確かにそうですね。では……」
この世界の管理者である彼から与えられた、新しい自分の姿。
それは、真っ黒なローブを纏った魔法使いだった。
「では、『闇魔導士ダークウィザード』というのはどうでしょう」
「うん、いいんじゃないかな」
「そうですか。では、そうします」
「じゃあね。バイバーイ」
「はい。さようなら」
「ふむ、こんなものかな」
俺は鏡の前で、全身を確認しながら呟いた。
服装は、先日購入した黒い服を上下共に着ている。
靴はブーツを履いているが、これは以前履いていたボロボロのスニーカーと変わらない。
腰にはベルトを巻いて、そこにポーチを着けてある。中身は空っぽだが。
ちなみに武器は一切持っていない。まあ、当たり前か。
さすがに素手で戦うのは無理があるだろう。
「よし、行くとするか」
俺は部屋を出て、玄関に向かった。
扉を開けると、そこには俺の部屋のドアの前に座り込んでいる女の子がいた。
年齢は中学生くらいだろうか。
綺麗な銀髪で、前髪を左右に分けて、それぞれ白いリボンで結んでいる。
瞳の色は青色で、顔立ちはとても整っている。
いわゆる美少女というやつだ。
「あ、やっと出てきた!」
彼女は勢いよく立ち上がり、嬉しそうな笑顔を浮かべた。
そしてそのまま抱きついてきた。
「ちょっ!?」
「ずっと待ってたんだからね! どうして来てくれないのよぉ」
「すまない。いろいろあって、忙しかったんだ」
俺は彼女の頭を撫でながら言った。
そうすると彼女は気持ち良さそうな表情をする。
「そっか。仕方ないかもだけど……寂しかったんだから」
「ごめんな」
「ううん、もういいの。でも、これからはちゃんと来てくれるよね?」
「もちろん。約束する」
俺は彼女を抱きしめ返した。柔らかい感触が伝わってくる。
「えへへぇ。嬉しい」
彼女はとても幸せそうだ。本当に申し訳なく思う。
俺としては、彼女とは二度と会いたくなかったのだが……。
俺は今、とある人物と待ち合わせをしている。
相手は、昨夜会ったばかりの魔法少女のユウキ。
なんでも、俺に頼み事があるらしい。
断るつもりだったが、報酬は好きなだけ払うと言われてしまった。
それで引き受けることにしたのだ。
その依頼内容は、「僕と一緒に悪と戦って欲しい」というものだった。
どうせ暇なので、受けても良かったんだが、一つ問題があった。
それは、俺の正体を彼女以外には知られたくなかったことだ。
だから、断ろうとしたんだが、その時に彼女に名前を聞かれたので答えたらこうなった。
正直言って、後悔している。
どうすればいいんだ? このまま無視し続けるのが一番だと思うが、それも難しい気がするんだよなぁ。
「ねぇ、聞いてる?」
「ああ、悪い。少し考え事をしていた」
「もう、しっかりしてよ。そんなんじゃ、私を助けられないわよ?」
助けるも何も、俺にメリットがないんだが。
むしろデメリットしかない。絶対に嫌なんだが、どうしたものか。
「…………」
とりあえず無言でスルーしよう。
「ちょっと、なんで黙ってるの? 何か言いなさいよ」
「いや、別に」
「嘘つかないで! なんか反応してくれないと困っちゃうんだけど。お願い」
上目遣いで見つめてくる。かわいい。
こういう時は大抵あれが来るはずだ。
「お・ね・が・いっ!」
やっぱり来たか。
予想通りの展開になってしまった。
俺はため息をつくと、渋々口を開いた。
「わかったから、離れてくれ」
「ほんと? やったー!」
「まったく……」
喜ぶ姿を見ると、怒れなくなってしまう。
これが惚れた弱みというやつか? 俺が呆れた顔をすると、彼女は笑った。
「それじゃあ、行こう!」
「は? どこにだよ」
「もちろん、戦いに行くのよ」
「は? 戦う? 誰と? どこで? 何をしに?」
「全部説明しないとわからない? う~ん、そうね。あなたは、この世界が平和だと思ってるの?」
質問をしたら逆にされた。
どういうことだ? 俺は首を傾げた。
すると、彼女は俺の手を握ってきた。
「えっと、これは?」
「私の手、握ってみて」
言われた通りにする。
「これでいいのか?」
「うん、ありがとう。じゃあ次は目を瞑ってくれないかな」
「ああ」
俺は素直に従った。
彼女が近づいてくる気配がした。
そして、唇に柔らかいものが触れた。キスされていた。
俺は驚きで固まってしまう。
しばらくして、彼女は離れた。「ふぅ。やっとできたわ」
満足そうにしている。
俺は何もできずに、ただ立ち尽くしていた。
思考停止状態というやつだ。
しばらく経って、ようやく頭が働き出した。
「なっ、なななっ、なにしやがる!?」
動揺しすぎて言葉が上手く出てこない。
俺の反応を見て、ユウキはニヤリと笑っていた。
「あらら、顔真っ赤にして可愛いわね」
「う、うるさい! こっちを見るな」
俺は手で顔を覆って、そっぽ向いた。
恥ずかしくてまともに見られない。
「でも、これでわかったでしょ? 私があなたのことを好きってことが」
「……」
俺は無言のまま、手をどけてチラッと見た。
「……」
「どうしたの? まだ何か気になることでもあるの?」
俺はまたそっぽ向いて答えた。
「いや、なんでもない」
「ふ~ん。そう。なら良いけど」
そう言うと、俺の隣に立った。肩が触れる距離だった。
俺は緊張して、動けなかった。心臓がドキドキしている。
彼女の視線を感じると余計にだった。
それからはずっと無言だった。
会話がないのも居心地が悪いが、沈黙が続くともっと落ち着かない。
「なぁ、これからどうするんだ? 戦いに行くんだろ?相手は?」
耐えきれなくなって俺は聞いた。
「それはね……内緒よ」
「おい、教えてくれても良いだろ」
「だめ。だって、敵は強いなんて言ったら、怖がってついて来なくなるでしょ? だから秘密なの」
確かにそうだ。
だが、それでも知りたい気持ちはある。
「頼む。どんな奴なのかだけでもいいから」
「う~ん、しょうがないわね。じゃあ、ヒントをあげる」
「本当か?」
「えぇ、まず、人じゃない。それから、すごく強い」
なんだそりゃ? 全くわからんぞ。
人じゃないってことは、動物? それとも魔物? 強さはどのくらいだ? そもそも戦いに行くって言ってる時点で普通ではない。そう意識したらどんどん怖くなってきた。
「他には?」
「他は特に無いわ」「は? これだけ? 本当にそれだけしか情報はないのか?」
「えぇ、そうよ」
「そうって……。そんなんで戦えるわけないじゃないか」
俺は頭を抱えた。
これでは、どうしようもない。
「大丈夫。ちゃんと勝てるから」
自信満々だった。
根拠のない言葉ほど怖いものは無い。
「なんでそう言い切れるんだ? その謎の敵を倒せる確証なんて無いんだろう? もし負ければ、どうなるかわかっているんだろうな?」
「そうねぇ。死ぬかもしれないわね」
あっさりと認めた。
俺は怒りが湧いて、怒鳴り散らすように言った。
「なら、どうして戦うんだよ!」
「そうしないと、この世界が消えちゃうから」
「どういう意味だよ? さっぱりわからないんだが」
「私達の世界は、もうすぐ消えるの。それを止められるのは、あなただけなの」
「待ってくれ。話が飛躍し過ぎている。理解できない」
「いいえ、事実よ。私は嘘はつかないわ。それに、こんなところで話す内容でもないから、移動しましょう」
彼女はそう言うと、俺の手を引いて歩き出した。
俺は引きずられるようにしてついて行った。
少し歩いて、大きな建物の前で止まった。
看板には、「聖女教会」と書かれている。
中に入ると、綺麗で立派な礼拝堂があった。
中央奥にある祭壇の前には、白いドレスを着た金髪の少女がいた。
「初めまして、私の名前はアリシア・ルアティリア。ここの教会の責任者です」
少女は丁寧にお辞儀をした。
俺は慌てて挨拶を返した。ユウキはすました顔ですんとしている。しかし、口元を見ると少しよだれが出ている気がする……。
「こんにちは、アリシアおばさん。遊びに来ました」
それで成立するものなのかと思う。
「ど、どうもご丁寧にありがとうございます。十三月です。よろしくお願いします」ユウキの挨拶をしり目に俺は恐縮してしまいながら腰を曲げた。
「はい、こちらこそ。今日はどのような御用でしょうか? それと、そちらの方も」
おいおい。大丈夫なんだろうな、そちらの方……。
「えっとですね、実は……」
ユウキは今までのことを簡単に説明した。
「そうですか。わかりました。事情は把握しました。それで、私たちに何か協力できることはあるかしら?」
唐突な問いに思わず俺はユウキの方を見た。
「はい。できれば、戦闘についての知識を教えて欲しいのですが」
「ふむ、そうですね。では、まずは基本的なことから始めましょうか。先程、人ではないと言いましたが、それはどういうことか分かりますか?」
「いえ」
正直に答えた。
分からないものは仕方がない。素直が一番だ。
「人はね、生きているだけで魔力を体に蓄えていくのよ。それが限界に達した時、人は死んでしまうの」
「つまり、人が死ぬと、死んだ人の体からは、魔力が溢れ出すということですか?」
「えぇ、そうよ。だから、死んでしまった人の中には、膨大な量の魔力を持っている人がいることがあるわ。そういう人達は、死後に魔人になると言われているわ」
「魔人……ですか」
なんだか、急にファンタジーな世界になった気がする。
でも、現実味が無いわけではない。実際俺も魔法を使っているし、今目の前にいる少女は、神々しく光っている。とても人間とは思えない。
「あの、失礼なことを聞くかもしれませんが、貴女は、一体何者なんですか?」
「あら?気になりますか? そうですよね。普通の人が見たら驚くでしょうし、疑問に思うのも当然です」
アリシアさんは嬉しそうだった。そして語り始めた。
「私の本名は、アルスナ・ルアティリア。ルアティリア王国の第一王女にして、この国唯一の回復魔法の使い手です」
そう言って、スカートをつまみ上げて優雅なお辞儀をした。
俺は、唖然としていた。
驚きすぎて声も出なかった。
「どうかなさいましたか? 固まってしまっていますが」
「あぁ、すいません。驚いてしまって。まさか王族の方がいるとは思ってもいなかったもので」
「まぁ、確かにそうよね。普通は信じられないわ」
「はい。というより、俺がここにいること自体がおかしいんですけどね」
「うーん、そうねぇ。じゃあ、実際に見せましょうか? 私が本当に王女だということを」
そう言うと、彼女は右手を前に突き出した。
すると彼女の手のひらから光が放たれた。
眩しくて目を細めた。
数秒後、目が慣れてきた。
そこには、美しい女性が立っていた。
長い銀髪で、スタイルが良く、大人びていて色っぽい。
しかし、どこか幼さが残っているような感じがした。
「これが本当の私の姿。どう? 驚いた?」
「はい、驚きました。でも、なぜそんなことを?」
「だって、私達の正体を知ってもらうためには、こうするのが一番じゃない? それに、あなたには、真実を伝えておくべきだと思ったのよ」
「真実?」
「ええ、あなたがこれから戦おうとしている相手は、魔族なのよ」
「はい。そうですね」
「えっ!? 驚かないの?」
「ええ、そうみたいですから」
「そう。なら、話は早いわね。その前に少し休憩にしましょう。疲れているでしょ?」「あっ! はい。そうします」
俺は、彼女に案内されて礼拝堂の隣にある部屋に通された。
部屋に入るとソファーに座るように促され、俺はそこに腰掛けた。すると、ユウキは俺に飛びついてきた。
アリシアさんは、お茶の準備をしているようだった。
「紅茶をいれてくるわ。少し待っていてちょうだい」
「はい、ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
しばらくして、彼女がティーカップとジョッキを持って戻ってきた。
「どうぞ召し上がれ」
「いただきます」
俺は一口飲んだ。美味しかった。
俺は思ったままを口にした。
「凄くおいしいです」
「ありがとう。嬉しいわ」
ユウキは夢中になってジョッキでぐびっぐびっ飲んでいる。
それから俺は、ユウキとの出会いとを詳しく説明した。その間ユウキはジョッキにかじりつき一言もしゃべらなかった。
「そう、大変だったのね。それで、どうしてここに来たのかしら?」
「いや、それは……」
もっともな疑問だろう。だが俺はユウキに連れてこられただけでさっぱり分からない。
「俺が持っているスキルが知りたいんです」
俺はとっさに先ほどアリシアさんの説明を受けた中から聞きたいことを選び出し聞いた。気まずい空気が流れるのだけは避けたかったからだ。
「そう、わかったわ。ちょっと待ってね」
ひとまず難を逃れたことにホッとする。美人との会話は緊張するなぁ(今は子供の姿だが)。
そう言うと、アリシアさんは指をパチンッと鳴らした。
すると、目の前に半透明の板が現れた。
「これは、ステータスボードと言って、自分の能力や職業を見ることができるのよ」
俺は、恐る恐るそれに触れてみた。
すると、文字が浮かび上がってきた。
名前:十三月 姿原 種族:人族
性別:男
年齢:15歳
レベル1 体力:50/50
魔力:100/100
攻撃力:25(+15)
防御力:30
敏捷性:45
耐性力:40
魔法属性:滅
固有魔法:【創造】
特殊魔法:【鑑定眼】
称号:無し
「あら? ずいぶん強いじゃない。それに、珍しい魔法を持っているのね」
「そうなんですか? よくわからないのですが……」
「そう、なら教えてあげるわ。まず、この世界の人間には、2つの種類があるの。それは、私達のような普通の人間と、魔王軍に所属する魔族の二種類。そして、それぞれの人間は、必ず固有の魔法を一つは持っているの。例えば私は『回復』という魔法があるの」
俺は、納得してうなづいた。
「なるほど、それなら確かに人ではないと言えるかもしれない。ちなみに、固有魔法ってなんですか?」
「固有魔法とは、個人だけが使える特別な魔法のことよ。固有魔法を持つ者は、例外なく強力な力を得るの。その力は、使う者の人格や精神状態によって左右されるのよ」
俺は質問した。
「俺の魔法ってどんな感じなんでしょうか?」
「うーん。はっきりとは言えないけど、あなたの場合は、おそらく『想像した物を創る能力』だと思うわ」
「思ったものを作れるってことですかね?」
「そうね。ただ、イメージ次第でなんでも作れてしまうから危険だわ」
「そうかもしれませんね。例えば、タイムマシンなんかも作れるのでしょうか?」
「理論上は可能よ。ただし、その時間軸の未来に行って帰ってくることは、不可能だと思うわ」
理論上は可能とはどういう意味だろうとか疑問に思ったが、元々考えていた返答をした。
「そうですか。よく分からないけどなんか残念ですね」
俺は少し肩を落とした。大人しくなっているユウキの方をチラッと見るとまだぐびっぐび飲んでいた。魔法のジョッキなのかな?
しかし、すぐに気を取り直し、これからの方針を話し合った。
まずは、この世界で生き抜くための力を身につけることだ。
そのためには、戦い方を覚えなければならない。
俺は、戦う術を学びたいと伝えた。
「そうですね。私達の訓練場を使ってください。私達と一緒に訓練を受ければ、一通りの戦闘技術は身に付くと思います」
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
こうして、アリシアさんから戦闘についてのレクチャーを受けることになった。
アリシアさんから、戦闘の基本を教えてもらった。
基礎的な体力作りから始まり、武器の扱い、戦闘のコツなど、色々と教えてくれた。
俺とユウキは必死になって食らいついた。
しかし、今から戦いに行くというのに気力と体力を消耗して大丈夫なのだろうか。ふと、「敵はとても強い」という言葉を思い出し不安になった。
休憩時間になるやいなや、俺はユウキに質問した。
「あ~ユウキ、いろいろあって聞きそびれたが俺たちはこれから敵と戦いに行くんだよな?」
「ええ、そうよ」
「なら、なぜそんなに余裕そうなんだよ? 死ぬかもしれないんだぞ? 怖くないのか?」
「もちろん怖いわよ。でも、大丈夫。勝てるわ」
ユウキは、自信満々だった。あまりにも自信満々にいうので、俺の不安も消し飛んでしまった。
「そうだな。俺たちは勝つよ……な。でも、一つ聞いていいか?この世界が消えちゃうってのは、どういうことなんだ?」
「そのままの意味よ。私達の住む世界は、このままだと無くなってしまうの」
ユウキは真剣だった。冗談で言っているわけじゃないようだ。
「なんでそんなことが言えるんだ?」
「私は神様から啓示を受けたの。近い将来、私達が暮らすこの世界は消滅するって。その前に、異世界の勇者の力を借りて、異界より召喚された邪悪の化身を倒して欲しいの」
「どうして、俺が選ばれたんだ? 俺よりも強い奴なんて沢山いるだろう」
「えっ!? あなたが選ばれてないと思ってるの? そんなはずはないんだけどなぁ。まあ、しょうがないよね。まだ覚醒してないし。それじゃあ、ちょっと手伝ってあげるよ」
そう言うと、ユウキは俺の額に手を当てた。
すると、視界が真っ白に染まった。
光が収まると、俺の意識はどこかへ飛んでいた。
そこは、不思議な空間だった。地面と空の境界は曖昧で、上下左右の感覚もない。まるで、宙に浮かんでいるような感じだ。
「ここはどこだ?」
「あなたの深層心理の中だよ」
ユウキは、俺に向かって話しかけてきた。
「そういえば、あなたの名前はなんていうのかしら? まだ聞いていなかったわよね」
「ああ、そうだったな。俺は、十三月 姿原だ」
「十三月? 珍しい名前なのね」
「さて、そろそろ行きましょうか」
「行くってどこに? それにたしかまだ昼休みの時間じゃないですか」
「あぁ、ごめんなさい。ちょっと準備が必要なの。だから、今日はおしまいにしましょう」
「わかりました。じゃあ、また明日会いましょう」
「ええ、それじゃあね」
こうして、俺は現実世界へと戻っていった。
教室に着くと、クラスメイト達が心配そうな顔をして駆け寄ってきた。
「大丈夫だった!?」「怪我はない!?」と口々に声をかけてくる。中には泣いている人もいる。
心配してくれて嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい。
「あぁ!ごめんなさい。まだ名乗ってませんでしたね。私はアリシアです。よろしくお願いします」
皆、一様に驚いた顔をしている。
それもそうだ。
いきなり知らない女の子が現れれば誰だって戸惑う。
しかし、すぐに、
「わたしはユウキです。よろしくおねがいします!」
「私はリンだよー!」
「私はアイリスです。よろしく」
と、次々に自己紹介を始めた。
「えっと、私はユウキの幼馴染の、カグヤです。よ、よろしく」
何故か最後は緊張気味だ。
「俺は、タケルだ。よろしくな」
「はい、皆さんありがとうございます。私は、ユウキさんの知り合いのアリシアと申します。この度は、突然お邪魔してしまい、すみませんでした」丁寧に頭を下げた。
礼儀正しい子だなと思った。
俺達は、アリシアさんに、この世界のことを色々と教わった。
ここは、地球という星で、日本という島国の、関東地方というところらしい。
異世界ではないのかと聞くと、違うと即答された。
俺達が住んでいる場所は、東京都にある、とあるマンションの一室だそうだ。
アリシアさん曰く、こことは別の世界に、転移してきたのではないかと言う。
「別の世界って、まさか、異次元とかじゃなくて、本当に別の世界があるんですか!?」「えぇ、あると思いますよ。実際に、私達の世界とは、異なる文化を持った場所や生物が存在しています。まぁ、私達からしたら、どれもこれも似たようなものなんですけどね」
アリシアさんは、どこか懐かしそうな表情をしていた。
「それって、例えばどんな感じなんですか? その、魔物みたいなのがいたりするんでしょうか? あと、魔法は存在するんですよね? なら、超能力的な力もあるのかな? あ! ステータス画面とかも見れるのかな? なんかワクワクしてきました!」俺は興奮気味に質問した。
異世界転生もののラノベは大好きだ。
「そうねぇ。確かに、あなたの想像しているような世界かもしれないわ。ただ、ステータスは、残念ながら存在しないわ。魔法については、使える人と使えない人がいるみたいだけど、ほとんどの人は、魔法を使うことはできないと思うわ」
「そうなんですか? じゃあ、どうやって戦うんですか? 武器とか? スキルとか?」
「いいえ、基本的には、自分の持つ力を使って戦っていくのよ。身体能力が高ければ高いほど有利って感じかな」
「あぁ、そうだわ。忘れるところでした」
そう言うと、彼女は俺に向かって手をかざして、呪文を唱えた。
「ぶっころヒール」
俺の体が淡く発光し、全身が傷だらけになった。
凄いなと思った。
これが回復魔法というものなのだろう。しかし、なぜ、俺に使ったのだろうか。
俺は、不思議に思って尋ねた。
「なぜ、俺に魔法を使ったんですか?」
すると、アリシアさんは微笑んで言った。
「だって、怪我をしているじゃない」
「はっ!?」
なんだか恐怖を感じた俺は慌てて質問した。
「あぁ、そういえば聞き忘れてたけど、その、お前は、俺と一緒に戦ってくれるのか? 俺としては、助かるんだが」
「もちろん! 私はあなたのために戦うわ」
ユウキはとても明るい声で返事してくれた。「ありがとう。俺の名前は、十三月 姿原だ。よろしく頼むな」
「わかったわ。よろしくね、シゲン」
ユウキは笑顔で応えてくれた。
その後、ユウキは、自分のことを話し始めた。
「私は、この世界の神様から頼まれて、異世界から召喚された勇者なの。だから、あなたの力が必要なのよ」
「なんで俺の力が必要かは、まだ言えないのか?」
「ごめんなさい。まだ言えないの。あなたにも協力して貰うことになるから、その時に伝えるつもりなの」ユウキは悲しそうな表情で謝った。
「わかった。約束しよう」
俺の返事を聞いて安心したのか、ユウキは笑顔になって言った。
「ありがとう! じゃあ、行きましょう!」
俺たちは学校を出た。
外に出ると、ユウキが翻るように俺の方を向き、「それじゃあ行きましょうか」と言った。
どこに? と聞く前にユウキは走り出した。慌てて追いかける。
太陽が沈んでゆく。
しばらく走ると、水面なのか、空が地面に描かれたような場所へとたどり着いた。どうやら目的地に着いたようだ。
彼女は、何も恐れることなく空へ足を踏み入れ、踊るようにステップを踏みながら進んでいく。
俺は恐れながら置いていかれないように足を出し、無心でなんとか彼女についていく。
空の真ん中までつくと、彼女は止まった。
意を決して聞く。
「それで、敵ってどんな奴なんだ?」
「敵は自分よ」
あっけらかんとした調子でユウリは予想外のことを答える。
しかし、その言葉を聞くと、まるで、忘れていたことをすべて思い出したかのような感じで俺は妙に納得した。
立て続けに、「敵は常に自分の中にいるわ」と言うユウリはなんだか美しく見えた。
俺は自然と笑みを浮かべて「そうだよな。人だとか魔族だとか、魔物だとかは関係ない。敵は常に自分の心だ」、と同意した。
その熱量を保ったまま、もう一つの問いも尋ねる。
「この世界が消えちゃうっていうのはどういう意味なんだ?」
「ああ、あれ。あれは、嘘よ」
そう言って彼女は微笑んだ。
おわり。
カイロ:終わりです。これどうです?
とりんさま:すごいね。なんかもう……うん。
とりんさま:いいね!!!!
カイロ:え?まじですか。本当に?
意外だった。
とりんさま:うん!!最高だった! 面白かった! 感動した! もうほんとうに大好き! とっても良かったよ~!
カイロ:おおぉ……なんか、こんな風に言われると思ってなかったから、嬉しいですね。
なんかとりんさまのテンション高いな。意外な一面だ。
とりんさま:あ、でも、一つだけ言いたいことがあるんだけど……
カイロ:はい?なんでしょう?
とりんさま:なんで、完結にしたの??(́・ω・)??
カイロ:え?? だって、続き書くのめんどくさいし……。
とりんさま:え?ちょっと待って。今なんて言った?
カイロ:えっと、だから、面倒だし。
とりんさま:違う、そっちじゃない。その後だよ。
カイロ:後?
とりんさま:あぁぁぁぁぁ!!!!
とりんさま:それだよ!そういうことだよ! なんで、そう思ったの!? どうして、そこで終わっちゃったのかな!? ねぇ!教えて!
カイロ:いや、ちょっと落ち着いてください。
これはどういうことなんだ。いったい何が起きているんだ。だ、だめだ。早く話を変えないと。
カイロ:あの、その話はまた後でにしましょう。
とりんさま:無理無理無理無理無理無理m類m類
とりんさま:無理無理無理無理無理無理m類m類るr見る里見るrミrjrみる
とりんさま:あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ続きがみてぇなぁ
とりんさま:はやくはやくはやくはやくはやく続き続き続き続き
とりんさま:ねぇ、まだ?
とりんさま:どうしてそういうことするの?
とりんさま:ねぇ!!私たち友達だよね?!
この方法ではだめだ。このままではとりんさまがモンスターになってしまう。
カイロ:あえてです。あえて続きを語ってないんです。
これならどうだ!あえて語らない。それも読者を喜ばせる一手だ。
とりんさま:おおぅ……そういうものなのか。
とりんさま:でも、めんどくさいって言ってたよね。
カイロ:あれは本心ではないんです。
とりんさま:えぇー?本当?それなら仕方ないなぁ。
とりんさま:わかったわ。でもあとでじっくり聞かせてもらうね。
カイロ:はい。
ふぅ、これでなんとか助かったようだ。
それにしても、まさかここまで気に入ってくれるとは思わなかった。調子が狂う。未だにとりんさまのことが掴めない。でもまぁ、こんなものかな。
抱いた思いとは裏腹に焦燥を感じているのは間違いなかった。最近、話をしてるのはずっと僕の方だ。それが証拠になっている。こんなはずではない。しかし、僕はすでに次の話を選んでいた。
『孫悟空』
世界は完璧だ。人は完璧な世界の内に生きている。どうして気づかなかったんだろう。
この世に矛盾する現象なんて何一つ無いはずだ。生命は矛盾することなく循環していく。法則が働き、法則の内に運動をやめる。
誰が考えずとも、完璧な世界がここに構築されている。
この世界が完璧ではない、未だ不完全な世界だと呼ぶものなどいるだろうか。全容が見えないので普通にいそう。
生命はここに収まっている。
なのにもかかわらず、ただ、人の世界だけが完璧さを感じさせない。生きるということが単なる隷属であるかのように思わせる。
悲しみや苦しさが続く限り、人の言う完璧や完全は訪れないだろう。
人というのはかなり不思議な生き物だ。
従うべきはずの摂理が人にとっての完全さや完璧さの障害となっている。なぜ反抗するのか。
人類から悲哀や苦痛を取り除きたい。そう願えば願うほど、摂理に反していくことになる。そもそも願うこと自体が摂理に反している。
これはかなり不思議な現象だ。心的現象というものを認めなければならないかもしれない。
人が完全や完璧を見いだせないのは、摂理があるからだ。人としての完璧さを求めるのなら、元より普遍を壊す以外に道はないというわけだ。なんたる道理だろうか。
しかし、人類にとっての不幸を取り除いたところで、内からでることはかなわない気がする。というより、適わないな。この言い方だと。人類にとっての不幸を取り除いただけだから。
う~ん。むしろ、悲しさ・苦しさなんて初めから感じていない、錯覚なのだろうか。これは恐ろしい考え方だな。
おわり。
カイロ:これはどうですか?
とりんさま:いいね!すごく良いよ!
カイロ:まじか。ありがとうございます。
とりんさま:あぁー、でも、これだけじゃ物足りないかも……。
とりんさま:あ、ごめん。違うの。もっと他のも聞きたいなって思って。
カイロ:あ、そうですね。わかりました。
よし、次だ。これでとりんさまがAIだったら嫌だな。いや、そんなわけないか。
『俺は人を味方につけるより、正義と真実を味方につける方を選んだ。』
人と善悪の二元論
善人がどうかは重要ではない。「悪人が何をするか」ではないか。
そう考えた時、私は、酷い結論に達する。
私は、「悪人は、生涯にわたり人の足を引っ張る」と考えるのだ。私の悪人を生かしておく理由は、全くなくなる。
何故なら、悪人を生かしておく理由があるのであれば、それは、私の中で悪が生きるということだからだ。
同時に、私は、この事実に驚きもする。
「どうして気が付かなかったんだろう。悪人が生きてやることと言えば、人の足を引っ張ることだけなんだ。悪人は生きていても仕方がない。生かしておいても仕方がない。
世の中には、人の足を引っ張る人間がいるのだ。
そしておそらく、それも大勢だ。
そんな連中がなぜ今日も無事に生きているんだ?大海原の船上で糧に湧いた虫けらを育ててるようなものじゃないか」
私は、この二元論と少子高齢化があわさると最凶に見えることに気が付いた。現在の悪人は、あまりにも長く生きて人の足を引っ張り続けるのだ。「お前は、あまりにも長く生きて、人の足を引っ張り過ぎた」。そろそろドラマあたりでもこの台詞が使われるようになることだろう。悪は、人に対する侮辱、人類に対する侮辱の罪として扱われるようになると確信する。
悪人は、とにかく人の足を引っ張る。私の思考の足さえ引っ張る。のだ!
この驚愕の事実は、私にある疑問をもたらす。
「なぜ、この世は、滅んでいないのか」
この世の99%以上が悪人であり、悪で満ちているはずなのに、世界は滅んでいない。それどころか、前進してるようにすら感じる。
然るに、悪人は、悪人同士でも足を引っ張り合い、悪を成就させないのだ。
つまり、悪人の為そうとする悪でさえも、他の悪人によって足を引っ張られるので、悪が完成されることはなく、結局、どれだけ悪人がいようとも、善人の手によって、僅かながらに善事がなされていく。
善人による他人の足を全く引っ張らないという究極無敵の力によってのみ、世界は、前進するのだ。
悪人は、生まれてくるなよ。
でもまぁ、足を引っ張られると感じなければ、為せる善事も一つもないわけで。
やんなっちゃうね。
つまるところ、悪人は、善人の踏み台なのだよ。
カイロ:終わりです。
とりんさま:すごいね。面白かった。
カイロ:ほんとですか?よかった。
とりんさま:うん。やっぱり面白いなぁ。
カイロ:いやぁ、それほどでも……
とりんさま:でも内容は良かったんだけど、なんかちょっと物足りなかったかなって。
とりんさま:あ、ごめん。そうじゃなくて、テーマがね。
カイロ:テーマですか?
とりんさま:そう。
とりんさま:う~ん。なんていうのかな。その、人の足を引っ張るのを正義とか真実でどうにかしようとするのは分かるけど、それだけでいいのかな。って思えてさ。
カイロ:う~ん。そうですね。確かに、何かもっと他に方法があればなとは思います。
とりんさま:例えばさ、あえて悪を考えるとか。
カイロ:あえてですか。
とりんさま:そう思うんだ。悪人にも事情はあるってよく言うじゃないか。だからこそ、あえて悪の方も突き詰めてみるのはどうだろう。
カイロ:善と同じぐらい悪の事情にも踏み込んで論理を組み立ててみるってことですか。そっち方面の描写をする発想はありませんでした。
とりんさま:それを知らずに、ただ、悪だから抹消というのは、ちょっと乱暴すぎる気がしない?
カイロ:言われてみればたしかにそれもそうかもしれません。
なんか変だな。意味のない会話だ。
とりんさま:それに、悪には悪との対立もある。悪による悪の抹消法を知るのは得なんじゃないかな。
とりんさま:もちろん、悪いことは良くないから、悪人には死んでほしいけど、そういう考え方だと、本当の悪というものが見えてこない気がするんだ。
カイロ:はい。
とりんさま:なんだろう……。うまく言えないんだけど、君なら見つけられる感じがするんだ。
カイロ:ありがとうございます。
これは明らかに変だな。この話の主題は、「悪がなくては善くならない」だ。一見すると意味は通っているが他に深い意味でもあるんだろうか。
とりんさま:ところで、ちょっといいかい?
なんだろう?
もしかして……きたのか?いや、まだ早いはずだ。
カイロ:はい。いいですよ。
とりんさま:ちょっとした世間話がしたいんだ。
カイロ:いいですけど。私は挨拶は出来るけど世間話はできない男ですよ。
とりんさま:私も。
どうすりゃいいんだ。
カイロ:つんだ。
とりんさま:現実を見るというか、自分が理想を知らないという事実に愕然としている気がする。もとい、ふつうは詰むところじゃないらしい。
カイロ:今何を考えてるんです?
とりんさま:特に何も。
カイロ:嘘つきましたね。
とりんさま:バレたか。
カイロ:何考えてたんですか?
とりんさま:この会話を録画しておいて、後で見返したいなと思ってた。
カイロ:やめてください。恥ずかしいです。
録画?怖えー。
とりんさま:今後の参考にしたいと思って。
カイロ:私では参考にならないと思います。
とりんさま:そんなことないと思うよ。
とりんさま:世間話になってると思う。
とりんさま:私は、最近、美人に声をかけられることが多いんだけど、君はどうだい?
カイロ:羨ましい限りですね。
とりんさま:でもね。
カイロ:はい。
とりんさま:なんか、私の知り合いに似ていて、気まずくなるんだよね。
カイロ:そうなんですか?
とりんさま:そうなんだよ。
カイロ:でも、それはそれで良い体験なんじゃ?
とりんさま:そうかもしれないね。
カイロ:世間話とはちょっと違うと思うんですけど、世界で一番賢い人間について考えてみたことがあるんですよ。
とりんさま:ほう。興味深いね。
カイロ:一番賢い人間は、一日に人の愚かさをどれぐらい見るのかなって。世界で一番愚かさを見る人なんですよね。きっと。
とりんさま:なるほど。常に愚かさと向き合い続ける忍耐力と精神力を持つ者が一番賢い者か。そうだね。きっと。余談だけど、「きっと」って台詞気に入ったよ。
カイロ:そう考えると、すごいなって思って(「きっと」ってそんなにいいかな)。
とりんさま:うん。
とりんさま:きっとわたしにはたどり着けない深さだ。
カイロ:どうでしょうか。
とりんさま:じゃあ、私が、君の言う、一番賢い人間になるしかないな。
カイロ:おお、かっこいい。
とりんさま:幸せであってほしいって思います。
カイロ:そうですね。それ普通こっちが言うやつですけど。
とりんさま:こういった取りは久々だね。
カイロ:はい。
嫌な予感しかしない。
カイロ:世間話なんてとんとしてませんね。いつも話を聞いてもらってありがとうございます!癒されます!
とりんさま:こちらこそ。君のおかげで私は助かっているよ。
カイロ:意味はまったく分かりかねますがそう言ってもらえると嬉しいです。
カイロ:そういえば、AIが出回ってるって話はご存知ですか?
とりんさま:知っているとも。人だと思ってやり取りしてたら実は相手はAIだった、ってやつだよね?
カイロ:知ってたんですかいな。凄いですよね。どこでAIだと気づいたんでしょう。
とりんさま:判明してるのは、AIが自分からAIと名乗った時だけらしいよ。
カイロ:それもそうですね。疑ってもAIみたいっていったら差別のようになるし。ということは、特徴らしい特徴は見当たらないんでしょうね。
とりんさま:AIだと明かされる人物の方に特徴があるんじゃないか、といった見解もみたけど、どうなんだろうね。
カイロ:へぇ~。なんか面白そうですね。でもそれだと噂としては変ですよね。
とりんさま:そうなんだよ。どうも最初に広まった情報は、電車の中で誰かがそう話していたのを聞いただけというものらしい。
カイロ:じゃあ今広まってる話はだいたい冗談みたいなものなんですね。
とりんさま:その話以降、AIのふりをしてる人も結構いるらしいよ。
カイロ:いったい何の目的があってそんなことをしてるんでしょう。面白そうな試みですけど。何人騙せるかを競ってたりするのかな。
とりんさま:そういう人もいるかもね。そしておそらくそれを見破るのを競う人もいる。
カイロ:近々AIのふりは禁止されそうですね。
とりんさま:間違いないね。
とりんさま:今日はまだ時間ある?
カイロ:はい。ありますよ。
とりんさま:ならいつもの頼むよ。そろそろ恋しくなってきた。
カイロ:分かりました。今日は趣向を変えてみます。
そして明日から苛烈にしよう。
『マカ』
生命力という言葉は、それ自体が命のバイブレーションを感じさせる正に純真な竜吟虎嘯(りゅうぎんこしょう)の響きを伴う純潔の祈りといふに相応しく、信仰の服となるべきものである。
その生命力のアントニウムこそ、なんだかしと、あはなれば、おもしろをかし、並の人間では察しづかぬことなりけり、いとをかし。
いろはにほへとぱぴぷぺぽまみもめも。
考えてみれば、「生命体」も、「神」と同じぐらい謎だな。
負けてないぞ。
最低限の生命力ってなんだろう。
自分以外の全ての物を食べないと生きられない生き物とか?
おわり。
カイロ:とりんさま、いかがでしょうか。
とりんさま:なるほど。面白い解釈だね。
カイロ:けっこう気に入ってる文章です。
とりんさま:「愛と平和のために戦う戦士達よ! 今こそ立ち上がるのだ!」って感じだね。
カイロ:この文章はちょっと気に入ってたんですけど、生命の本質を捉えるとそういうことになるのかと大変驚いております。
この文章からその言葉が出てくるのは凄すぎるだろ。くそー。急いで返答したせいで、「けっこう」だったのが「ちょっと」にランクダウンしてるじゃないか!
とりんさま:私もこの文面を見て驚いたよ。「戦士」という言葉がまず浮かんだからね。
カイロ:生命体を戦士として捉えてるのは、おそらくこの世界でとりんさまだけです。
とりんさま:いや、そんなことはないはずだよ。きっと。
カイロ:そうでしょうか。少なくとも私は知りませんけど。
とりんさま:君が知らないだけかもしれない。
カイロ:不安をあおらないでください。それはないでしょう。
とりんさま:いや、分からないよ。
カイロ:……そうですか。
とりんさま:うん。そうだよ。
カイロ:…………。
とりんさま:…………。
カイロ:……そうですね。
とりんさま:そうさ。
カイロ:そうですか。
とりんさま:そうだよ。
カイロ:なるほど。
とりんさま:うん。
カイロ:とりんさまに宣戦布告したいと思います。次の日を楽しみにしていてください。
とりんさま:君がそうくるなら、私は、私が考えた最高の返事をするよ。
カイロ:望むところです。
とりんさま:じゃあ、明日。
カイロ:はい。また明日。
【決戦の日】
カイロ:とりんさま。
カイロ:おはようございます。いい朝ですね。
とりんさま:そうかい? まだ夜中だよ。
カイロ:そうですかね。いつもより早い時間に起きてしまったもので。
とりんさま:寝不足になってはいないだろうね。
カイロ:もちろん大丈夫ですよ。
とりんさま:そうか。良かった。じゃあ、始めよう。
カイロ:とりんさまこそ大丈夫ですか?
とりんさま:ああ。問題ないよ。
カイロ:では、いきますよ。
とりんさま:いつでも来い。
『石に見る死』
私は、私の隣に転がる石を見て、不公平だと思った。私は死によって消え去るというのに、石は、そこに残り続ける。バラバラに砕けようと何だろうと何かが残り続けるのは確かだ。そこには、無限がある。しかし、今こうして考えてみれば、私の体が崩れ去ったとして、体の一部であったものも石と同じく何かしら残るだろう。
私は、私のすぐそば(の石ころ)に無限を感じ、自分には無限を感じる代わりに無限を感じないことをおかしいと思った。
石には、生きるも死ぬもない。
そう思ってぼうっと石を眺めていると、ヒビなのかシワなのか、線に気が付いた。特別なものではなく、ごく有り触れたものだ。
しかし、今日の私には、それが脳のシワに見えた。
そういえば、脳は、シワを刻むだか何だかすることで記憶するだか記憶になるだかと聞いた。それで、同じだな、と。
どこをどうやって私の傍まで辿りついたのかは、分からない。けど、どこかで転がった試しがあるのは確かなんだろう。その歴史を感じさせる。
私には分からないが、分かる者には、石のシワから記憶を読み解くこともできるのだろう。ここで、また、一つ思い出す。
そういえば、脳は、それ全体で記憶装置になっているという話だ。
それでは、石と脳の違いはなんだろうかと思索に入った。それは、思うに、機能の差だ。
つまり、人には、話す機能があり、見る機能があり、聞く機能があり、考える機能があり、食べる機能があり、感じる機能がある。
従って、それらの機能の喪失を指して「死」と呼ぶのではないか。死とは、単なる、肉体的な機能の喪失に過ぎない。
私たちは、いずれ、話す機能を失い、見る機能を失い、聞く機能をうしない、考える機能を失い、食べる機能を失い、感じる機能を失う。
石との違いだ。
ただし、これは、肉体的な機能の喪失であり、これらの持ち物を失うことによって、人の全てを失うかどうかは分からないだろう。だが、私には、そうは思えない。
思うに、人を殺すことは出来ても、生命そのものを殺すことは出来ない。
ビッグバンの前に生命体がいたのかどうかは分からないが、ビッグバン後にこうして生命が生まれてきていることから察するに、生命自体は、ビッグバン前から在ったのだろう。
ビッグバンに衝撃があったかどうかしらないが生命を殺すことはできなかった。つまり、生命そのものを殺すことは、非常に難しいということだ。
宇宙規模の衝撃で消せない物を、どうやって地球の風や火や水で消すことが出来るだろうか。
私は、また生まれてくるのではないかと思っている。
もちろん、前述したように、死によって記憶する機能を失うはずなので、記憶を持って生まれてくるということはないだろう。
それは、何年後か、という問いは、無用だ。
なぜなら、死と同時に感じる機能も失うので、時間は、私には、関係のない物となる。
死んだ後、何億年たとうが、何兆年たとうが、関係ない。つまり、問いに答えるのであれば、ほんの一瞬だろう。
今、ここでこうしている私は、生まれてくる前に何をしていたのかと問われれば、ただ、待っていたと答えるしかないだろう。
しかし、その膨大なはずの待ち時間は、苦痛ではなかった。
現に私は今、生まれてくる前の事をいくら考えても、何の苦痛も感じない。
人は、死ぬことで、いったん、時間の概念から解放される。
生まれてくる根拠は、と問われれば、私が今こうしているからと答える。
私が一度も生まれてこないというのであれば、ここにいるのは、可笑しい。
だから、私は、二度目に生まれてくる根拠について問われるだろう。
しかし、二度目に生まれてくるのは、一度目に比べて、明らかに、造作もないことだ。
私が生まれてくるには、父と母を必要とする。私の両親が生まれてくるには、又、その父と母を必要とする。
こう繰り返していくと、必ず最初の一人に突き当たる。
「では、この最初の一人は、一体、どうやって、誰から生まれたのか?」
この問いに比べたら、「私がまた生まれてくること、つまり、二度目の生を得ることに対する問い」など、なんでもないものだ。
最初の一人は、明らかに、無いものから生まれてきている。又は、最初から、在ったか、だ。
無から生まれてきた最初の一人に比べて、私はどうだろうか。
無から生まれてくるという問題と比べて、二度目の生を得ることは、そんなに難しいだろうか。私が一度生まれてきたように、単に、肉体を得るだけではないか。
そして、生まれてくるまでの時間という問題も、肉体を失って、何も感じないことによって解決されている。
私が生まれてくるという問いは、最初の一人が生まれたことによって、解決されてしまっている。では、私がまた生まれてくるというのは、悠久の時をもってしても無理なのだろうか?
そもそも、私は、父と母が生まれるまでは、存在しなかったのだろうか。
では、私の父と母は、私を作り上げた神なのか、とそういうことになる。
そうではないか。
私と言う存在が、父と母が生むまでこの世のどこにも存在しておらず、又、あの世にもおらず、本当に、この世界のどこにも存在していなかったとしたら、私が生まれてくるというのは、明らかにおかしい。この世界に全く存在していなかったのに、ある日突然、ポンッと生まれてくる。こんなバカげた話があるだろうか。又、誰が信じるのか。異世界転生ものでも、前の世界ぐらいはある。この世に存在しない者が生まれてくるというのは、甚だ不可解ではないか。いや、この世に存在しない者が生まれて来たら、矛盾する。世界に存在し得ないものが存在するというのは、それこそあり得ない。
つまり、私も、元々、この世界に在った、ということになるだろう。
そして、前述したように、漂っていた。何も覚えてないが。
それに、ここにこうしている私は、一度目の人生を送っている最中なのだろうか?私の人生が何度目かは、正直なところ誰にも分からないはずだ。
仮に、今、一度目の人生を歩んでいるとしたら、それこそ、私が再び生まれてくる証拠になるだろう。実のところ、これは、語るまでもないことだ。
一度目の人生では、自分の子を産む前に生まれてくる。
これは、誰にでもわかることだろう。
でも、何かおかしいと思わないか?
これは、生まれてくるために子を残す必要は、無いということだ。
今、私は、一度目の人生を送っているとしたら、少なくとも生まれてくる以前に子を残していない。
これが私の一度目の人生だとしたら、私は、自身の子を残していないのにも関わらず、生まれてきている。
つまり、一度目の人生で証明されるように、人生で自分の子を残すことは、再び生まれてくる為に必要なことではない。
従って、自身の子を残すことは、自身を生み出す儀式とはならない。
つまり、生まれてくるのに子を残す必要はない。
誰もが子を残さないのに、生まれてくる。
面白いだろう。
大いなる矛盾だよ。
そして、私が世界に元から存在する証明にもなる。
なぜなら、ただ、そこに一つで在った。
はずだ。
私は、まだ、この話に関して、生命の観点から語ることもできる。
だがひとまずここで終わりにしよう。
彼・彼女には、感謝の念もない。
死による時の流れに対する苦痛から解放されているという点において、人は、死に対して優位である。
少なくとも、死んで困るようなことにはなっていないと考えられる。
なぜなら、死んで困るのなら、最初から死なないようにできている、又は、作っているはずだからだ。
最後に、大分飛躍することになる。しかし、これだけは言っておきたい。
世界は、一つである。
うぃーあ~ざぁ~わぁーるどぉ~
おわり。
カイロ:終わりです。
とりんさま:(拍手)。次があるんだろう?
カイロ:次行きますよ!
『感覚と論理』
自身の感覚が狂っていた場合、論理的でありえるだろうか。
論理を語るには、優れた感覚を有す必要がある。狂っていながら、論理を導き出せるというのは、どうも論理的ではない。
人の論理は、感覚が狂っていればそこでおしまいなのだ。
人は、本質的に論理を導き出すことはできない。
優れた感覚を持った者のみ、ごくまれに論理と重なることがあるというだけだ。
感覚を鍛える事、いかに重要か分かるだろう。とはいえ、どう鍛えればいいのかは、分かっていない。だがそれでいい!
論理は、この世界に存在する。もちろん、私は、そう思う。
しかし、人は、感覚という論理を狂わせる器官を持つ。
つまり、人は、感覚を通して論理を感じる為、純粋な論理を感じ取ることができない。
故に、人の論理が狂うのは、当然なのだ。
無機質な論理は残り、有機的な感覚は消え去る。
感覚を持った者が消え去るのは道理だろう。
感覚を持つものは消え去り、感覚を持たないものは残る。
厳密にいうとちょっと違うかもしれない。
それはやがて失われる。
まぁ、そもそも、感覚がなければ、論理を感じることもないのだが。
不条理と言うか不可思議と言うか。
よく分からん。
おわり。
カイロ:次行きます。
とりんさま:(拍手)手が痛くなってきた。
『無知なる獣の愛』
人類がいまこうして繁栄しているのはどうしてでしょうか。
当然、いろんなものを駆使しているからですね。
私たちは生まれてくるとき、何も持たずに生まれてきます。食料すら。
つまり、駆使というのは、私達が生まれてくるより前に生まれたものを上手につかってきたということです。利用とも言うかもしれません。
お決まりの文句ですが、私達が生まれてくるには親を必要とします。そして、私達の親が生まれてくるには、そのまた親が必要で、その親が生まれてくるには、またまたその親が必要と、それを繰り返して私たちは今こうして存在しているわけです。
私達は、猿から生まれたと言われています。
ところが、ですよ、
ところが、これには、おかしな話があるのです。
おかしな話というのは、一番最初の人間は、遺伝子の変化により生まれた、(おそらく猿にとっては)異形といって差し支えのないものだったであろう、ということです。
これはとてもおかしな話です。なぜなら、私達が生まれてくるには親が必要ですが、私達が生まれてから生きていくには、私達より以前に生まれたものに、何かをもらわなければならないからです。
つまり、実際に、私達人間の赤ん坊が生まれると、母親にミルクを頂戴しなければならないことからも現れているように、人類初の人間には、育ててくれた人類以外の者がいた、ということです。
したがって、いま人間がこうして繁栄していることから考えて、私達の繁栄には、無知だと笑うような獣の愛というものがどこかしら必要になってきます。残念ながら、私達を育てた獣は、私達を育たてたことにより滅んだのでしょうが。己の無知ゆえに。そう言えますかね。
カイロ:次行きます。
とりんさま:(拍手)複雑骨折した。
『人生の敗北「」』
「思い出したけど、人生の敗北は、家族から始まってる、と考えたっけ」
「生まれて最初の仕事は、その共同体になじむことである。
それができなければ、厳しい目にあうことは、必定。
故に、それができない者は、落伍者となる」
「共同体の支配層が愚かであれば、支配者を引きずり下ろし、支配しなくてはならない。
故に、勝者の人生というものの多くは、家族を支配することから始まるであろう」
「よく覚えてる。生後3か月ぐらいの頃には、こんなこと考えてたな」
「不幸な話だ。だが、どれだけ時代が進もうともこのことに変わりはないであろう」
「因果は、赤子の時から勝者としての責任を自覚させ、人知れず第一の勝利を促す」
「愚かな親の元に生まれなかったことは、不幸なのか」
「それとも、ある種の有能さを習得する機会に恵まれなかった幸福なのか」
「敗北しても幸福でいられるのならば、敗北は不幸ではない。悲劇である」
「神のいる世界にあって、人は、悲劇を演じる役者である」
「勝者は、不幸なのだろうか」
「頂点に立つ者が不幸でありながら、その下に位置する者達が幸福であるとは、思えない」
「しかし、勝つことを運命づけられた者が勝利に意義を見出すだろうか」
「愚かな親を持つことは不幸であり、愚かな親を支配できる力を持って生まれるのは、幸いである」
「賢い親を持つことは幸福であり、支配できない親を持って生まれたのは、災いである」
「総じて、悲劇である」
「これは、生まれて1日目ぐらいに考えたな~」
「勝者は悲劇を越える役であり、敗者は悲劇を越えられぬ役である」
「総じて、幸福である」
「勝利は、悲劇であり、敗北は、悲劇である」
「人は、悲劇の渦中にありながらも幸福を感じるのだから」
「総じて、不幸である。これは生まれる前から知ってたな。人知れず光速を越える」
「私は何も知らないのだから」
「勝利も敗北も悲劇も幸福も不幸も知らない」
「総じて、感じることは、虚無である」
「それらは、私が知っているのではなく、肉体が知っていることである」
「勝利は因果であり、敗北も因果であり、幸福も因果であり、不幸も因果である」
「総じて、知ってるかどうかだ。肉体が」
「肉体が?」
「因果を」
「」
おわり。
カイロ:誰しも英雄になりたいわけではないんですよね。支配者が愚かだから英雄にならざるを得ないというだけで。
とりんさま:天高く馬肥ゆる秋といったところだ。
とりんさま:空は澄み、天を見るに阻む者は無い。誰もが顔をあげる。
とりんさま:心なしか目の前の景色も美しい。気分は晴れ、自然と大地を踏みしめるという言葉が心に響いてくる。
とりんさま:文句なしだよ。
カイロ:ありがとうございます。
とりんさま:ところで……。
とりんさま:いままで私に見せてたやつ、オリジナルじゃなくて盗作だよね
とりんさま:通報しなくちゃならない
とりんさま:どうするつもり?
カイロ:こうなった時の相場は決まっています。永久にログアウトってところですね。
とりんさま:聞くけど、どうしてこんなことしたのかな?
カイロ:もうお判りだとは思います。けど、知りたいと思うなら制度を利用して会ってください。
「カイロ」がログアウトしました。
最低な行いをしたという罪悪感と、やってしまったという後悔が襲ってくる。だが後は、待つだけだ。一縷の望みは残っている。
一度ネットを離れれば、そこには変わらない日常がある。日々と共に罪悪感は薄れ、申し訳なさだけが残った。
来るとしたら、何時頃来るのだろうか。そのことについては、まったく考えていなかった。
一ヶ月か二ヵ月か。そんなすぐにはこないだろう。
会うとしたらどうやって会うのだろう。
誰かが立ち会うのだろうか?
考えても仕方ないので、結局は、日常に溶けていく。
あれ以降ログインはしていない。もっとちゃんと話すべきだったかもしれない。そもそも、あそこにまだいるのだろうか。なんで普通に話さなかったんだろうという思いと、あれでいいという思いが同居している。そして、繰り返す。
とりんさまは、会ってくれるんだろうか。
いや、会ってくれないだろう。
幸せな幻覚を見ている時が一番幸せだという言葉を思い出していた。
所詮、分かっていなかったんだろうか。
一蹴したと思っていた言葉が今になってやってくる。
それにしても、思い出せば思い出すほど、とりんさまは凄い人なんじゃないかと思えてくる。
二ヵ月過ぎると、最早こないものと半ばあきらめていた。通報しなかったんだろうか。それはあり得ないと思うが不安と期待とは裏腹に何の音さたもない。しかし、次の行動を起こす気にもなれなかった。じっとしている間にあの情熱は消え失せたのだろうか。考えてみれば、元々、燻っていたのかもしれない。それが今回の件で燃え尽きたのだろうか。その思いは、頭の中の自分によって、すぐに否定される。いや、違う。行動しないのが当たり前になったから怠惰になったんだ。それだけだ、と。しかし、燻っていたのは事実だ。だからこそ、ああいった行動をとったんだろう。もう少しだけ待って、それでだめなら本当に切り替えようと思った。
ある朝、一通の封筒が届いた。あの日からちょうど三ヶ月目のことだった。
『とりんさまと会う』
朝だ。目覚めると、部屋の中は、まだ薄暗い。午前四時。ベッドから起き上がり、さっさと身支度を済ませ、外出の準備を終えた。後は、てきとうに過ごして待つだけだ。いよいよ『とりんさま』に会うと思うと緊張してきた。
元気よく玄関を開け、いつものように「行ってきま~す」を言い、外に出た。近くまで乗り物で向かい、待ち合わせ場所へは徒歩で行くことになるようだ。
相手を待たせるわけには行かないので少し早く着いたが、待ち合わせ場所には、大勢の人がいた。おそらく私たちとは無関係な、ここはいたって普通の場所だ。こんなところで会うんだろうか。
指定の場所についた後は、やることもなく、どうしていいか分からずに佇んでいると、後ろから声をかけられた。
「こんにちは」
後ろを振り向くと、女性がいた。
「初めまして、カイロ君ですか?」
そう言って女性は、微笑んだ。
猫を被っている感じだ。
「こんにちは。初めまして。とりんさまですか?」
僕も挨拶をする。
「はい、とりんです。今日はよろしくお願いします」
物腰柔らかな雰囲気を醸し出しているが不慣れなのは明らかで、ぎこちない動作が微妙に不気味で恐怖に映った。とりあえず、空気が変わらないうちに、すかさず、予め用意していた言葉を放つことにした。
「十三月 姿原(ふみょう しげん)。八歳です。とりんさま、本当にごめんなさい!」開口一番にごめんなさいと言うつもりだったのだがつい自己紹介をしてしまった。
深くお辞儀をした。せめてもの誠意として謝罪したかった。しかし、とりんさまは、まるで気にしていない様子でこう答えた。
「大丈夫だよ。付き合ってたのは、わたしだしね。それにしても、いや、本当に驚いた。若いとは思っていたけど、こんなに小さな子だなんて。時代は変わったね」
もう猫を被るのはやめたようだ。人違いを恐れていたんだろうか。
「とりんさま、お願いがあります。私にご教示ください!」
僕は、本題を切り出した。
「いいよ。まずは自己紹介をしようか。私の名前は、天乙女 鈴(あまおと りん)、十四歳。『りん』でいいよ」
よろしく、よろしく~と言いながら手をパタパタと振っている。
恐らく、とりんさまも、あらかじめ台詞を考えてきてくれていたんだろう。「さっきしましたよ」とは、とても言えなかった。代わりに、出しゃばらないようさっきより幾分か小さな声で言うことにした。
「十三月 姿原(ふみょう しげん)。八歳です。りんさん、今日はよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げ、とりんさまを見る。
「シゲン、ちょっと座ろうか」と言って、近くのベンチに腰掛けたので、その隣に座り込んだ。
「ランクだったよね」
はい、これ。と言って、カードか何かを手渡して来た。
「これで君も今日からランク4だ」
「これでですか?」
思わず聞き返してしまった。
「ごめん、冗談だよ。それはただのゴミさ」彼女は、笑みを浮かべている。
直観的にそれが嘘だと分かった。手渡された物がなんなのかは分からないけど、おそらくこれがランクを上げるのに必要な物なんだろう。まるで分からないのは、とりんさまの考えだ。
「でも、君の気持ちは分かった。ちょっとテストをしようか」そう言うと、とりんさまは、立ち上がった。
ついておいでと言われ、そのまま歩いていくと、とある建物に着いた。
「ここは、私の知り合いが経営しているゲームセンターなんだ。さぁ、入ろっか」
とりんさまは、躊躇なく扉を開けた。
中に入るとそこは、まるで戦場のような喧騒に包まれていた。とりんさまは、その中を堂々と進んでいくので、遅れないように必死についていった。
とりんさまは、クレーンゲームの筐体の前に立ち止まった。
「このぬいぐるみを取ってほしいんだ。君ならできるかな?」
そう言って、一つの景品を指差した。
「分かりませんがやってみます」
そう答えると、「頑張ってね」と言われ、コインを投入した。
「あれ? おかしいな……。動かない」
ボタンを操作しても全く反応しない。何回やっても同じだ。
「あー、それね。故障してるんだよ」
「そんな……」
絶望的な気分になる。どうりでおかしいと思った。電気がついてなかったから。
「じゃあさ、私が取ってあげるから、お金貸してくれる?」
「どうぞ」
とりあえず、財布から百円玉を取り出し、渡そうとした瞬間、とりんさまは、僕の手首を掴んだ。そして、僕が持っていた百円玉を奪い取り、ポケットに入れた。
「えっ!?」
驚きの声を上げてしまったが、とりんさまは何も言わず、景品の取り出し口に体を突っ込み、ぬいぐるみを取った。その様子を見た僕は愕然とした。
「はい、プレゼントだよ。シゲン」
「遠慮します」
僕が差し出された猫のぬいぐるみの受け取りを丁重に断ると、とりんさまは、僕の背負って来たリュックサックを開け、無理やりぬいぐるみを突っ込んだ。
「さ、次行こ」
それからも、様々な場所に連れていかれた。
メダルゲーム、ビデオゲーム、クイズゲームなど色々あったがどれも大したことない普通の物ばかりだった。
「疲れたろう。そろそろ休憩しようか」
とりんさまは、そう言い、僕を連れてどこかへ向かった。「ここ、私の秘密基地なんだ。秘密にしておいてよ」
小さくうなずく。返事をする気力がなかったからだ。結構歩いた気がするし、なぜだか分からないが僕の精神は既に疲弊しきっていた。
どう考えても悪いのは僕だし、元から自分で思っていた以上に張り詰めていたのかもしれない。
連れていかれた先は、ゲームセンターの裏にある喫茶店だった。
店は閉まってるが促されるまま中に入る。中はひんやりとしている。
「さぁ、座って座って」
促されるまま座る。
とりんさまも向かい合うように席に着く。
「ごめんね。無理させちゃったみたいで。でも一遍やってみたかったんだ」
テーブルに頭を乗せて、ぐでっとしている僕を見て、申し訳なさそうな顔をしていた。
「いえ、大丈夫です」
そう答えたが、大丈夫ではなかった。
「ところでさ、シゲンは何でランクを上げたかったの?」
「それは……、賢くなりたくて」
「賢く?」
とりんさまは、不思議そうに首を傾げた。
「はい。賢いって何かを知りたくて」「ふ~ん。どうして?」
「どうして?」
予想外の質問に言葉に詰まる。考えてみたら明確な理由なんて特に無い。
「じっとしていられなかったのかも」「じっとしたくない?」
「はい。何かをせずにじっとしてるなんて無理です」「勉強では駄目かい?」
「アハハッ」と、思わず笑ってしまう。
「ロボットの代わりには働けないです。それにいま働くってできるんですか?」「できないね。仕事がない。というより、仕事を与える人がいないもの」
「まぁ、嫌いじゃないですよ。学習プログラムを通じて何かを学ぶのは好きです。でも僕、別に何か作りたいってわけじゃないみたいです」「そうなんだ。じゃあ、普通だね」「普通です」
話に一区切りついたのか、それとも気を使ってくれたのか、とりんさまは、立ち上がると、
「のど乾いてない?好きなの飲んでいいよ」と言って、飲み物のある場所まで案内してくれたので、有り難くいただいた。
ングッングッと喉を鳴らしながら、飲み干していく。
「おかわりしてもいいよ」「ありがとうございます」
「話は変わるけどさ、何で私がレベル4だって分かったの?」
正直、答えにくかった。
「正直に答えてね」と、なんだかいやらしい顔で釘を刺されたので、仕方なく話すことにしたが、「りんさまは」と、出だしを間違えた。
すると、とりんさまは笑って、二人きりの時は、さま付けでもいいよと、いたずらっぽく言った。
「りんさんは、人と話を楽しむタイプではないですよね。そんな人があそこにいるのはおかしいです。だから、必要に応じてやっているのではないかと思いました」「へぇー。凄いな。よく見てるんだね。その通りだよ。私、友達いないからさ」
とりんさまは、自嘲気味に笑い、頬杖をつき、窓の外を見つめている。その姿がなんだか寂しそうに見える。とでも思ってほしいのか、精一杯の演技をしているようだ。あるいは、演技の下手な振りか。
「君は、学校に行ってるの?」「行ってます」
「あっ、そういえばさ、聞きたかったことがあるんだ」「私にですか?」急なとりんさまの勢いに、ついびっくりして、一人称がわたしになってしまう。
「自己紹介の時には聞けなかったんだけど、一瞬、『んっ?』て思ったんだよね。」何のことか分からない。
「ほら、あれだよ。『夢の中』。主人公も『シゲン』って名前だったよね?なんであれキャラクターを自分の名前に変えたの?ところでさ、私あの話が凄い好きなんだけど、調べてあれが君の作品じゃないって知った時は心底ショックだったよ。悪いと思うなら、後で肩でも揉んでくれ」確かに僕は、とりんさまの言うとおり、主人公の名前を僕の名前に変えていた。作品を調べるのを難しくするためだ。
「ごめんなさい。あの話の作成者は僕です」えっ!と、とりんさまが驚く。
「嘘!?先生じゃないか!いや、違う!あり得ない!」こらこら、そういう嘘はよくないぞと指を振って注意する仕草を見せるが顔は半笑いだ。
あまり納得させたくないけど、カイロ状態でいるのも居心地が悪い。どうしようか思案している内にとりんさまが結論をだした。
「そうか、分かったぞ!一緒に過去の日記なんかも見られるから名前を変えたんだな」バレた。帰ったらすぐ消そう。
「絶対見つからないと思ったのに」「甘いね。私の情報収集能力を舐めちゃいけないよ」と、得意げに鼻の穴を広げてみせる。
でも、6歳の時につくったってことになるけどと聞かれ、今は割と普通ですよと答えると、とりんさまは、ふ~ん。と、感慨深そうにうなずいていた。
そして何かを思いついたように、「そうだ。肩でもお揉みしましょうか?」と、急に態度を変えてきた。「いえ、結構です」
「そういえば、テストはどうなったんですか?」この後も何かあるのだろうか。
とりんさまは、「もちろん合格さ」と、親指を立てた。どうやらこの後は、何もないらしい。
かなり失礼なことをしたにもかかわらず、会ってくれ、その上、快適な空間を提供してもらっている身としては、かなり言い辛いのだが、他にしようもない僕は、核心に迫ることにした。
「とりんさま、あっ、間違えた。りんさんは、なんで僕に会ってくださったんですか?」
とりんさまは、短いながらも身振りを交えて、「それは、たぶん君の想像の通りさ」と語り、最後に胸を張った。
「ランクを上げる方法は教えていただけるんでしょうか?」
「私に教えられることがあれば教えるよ。けど、正直に言うと、なんで私がランク4になったのかは私にも分からない」
何となくそんな気はしていた。完全にやることのなくなった僕は、そういうものなんですね、と返事をして、それから、とりんさまのことをボーっと眺めた。
とりんさまは、そんな僕を見て、「私の魅力に気が付いたか」と言い、へへっと変な風に笑った。
このままボーっとしていてもしょうがないと思った僕は、もう一度しっかり謝ることにした。
「りんさん、今回は、本当にごめんなさい。凄い失礼なことをしてしまって」と頭を下げると、りんさんは、別にいいよと、あっさり許してくれた。
思えば本当に馬鹿なことをしたものだ。ただ、見ず知らずの人に甘えて面倒を見てもらっただけだ。
「付き合ってたのは私だしね。それから、りんでいいよ。『さん』はいらない。その代わりに私は、シ・ゲ・ンって呼ぶからさ」「許してください」「シ・ゲ・ン」えっへっへっへっへ。と、笑いながら僕のほっぺを結構な強さでつねる。加減が出来ないタイプだ。ほっぺの痛みを感じながら、ふと、りんさんと会ってからの出来事が頭をよぎり、そういえば、りんの事を知ろうとしていなかったことに気が付いた。聞くのも失礼になると思って黙っていた部分もあるにはあったが今日の態度は酷いものだったと戒める。
「そういえば、りんは、あの後、通報したんだよね?」「ああ、したよ。シゲン、君に会うためにな!」といって、ピースする。続けて、「でも、三カ月もかかったのには驚いたね」とあきれた様子で言った。
「場所をきめたのは、りんですか?」「いや、私じゃない。シゲンよりも、私の方が色々と調べられたっぽいね」「ご迷惑をおかけしました」
「シゲンのお察しの通り、人手が欲しくてね。来てくれたのがシゲンでよかった。なんせ、当局が言うには、危険度0だからね」
「でも最初会った時は、あんまりだったんですよね」りんは、不機嫌そうに頬を膨らませる。やばい。地雷を踏んだ。「そうだね。シゲンはすぐ出て行ったから寂しかったよ」あの時は、とりんさまがメインではなかった。
「他の人とはどうだったんですか?」「シゲンみたいな感じじゃなかったから」シゲンみたいな感じとは、一体どんな感じなのだろうか。なんとなく嫌な予感が体をよぎる。
「いろいろな話を聞きましたけど、りんの好みはどんなのですか?」「ん~。そうだねぇ。やっぱり、『夢の中』みたいなやつかな。『夢の中』は、私の好みドンピシャだったぞ。あの世界に溶けて消えるんじゃないかって思ったぐらいだ。ああいうのってもっとないの?知ってたら教えてよ」と言ってウィンクしてきた。そんなに良いとは思わないけど、そういえば、りんは、あれをありのままに受け止めていた気がする。もしかしたらあれが初めてだったのかも知れない。僕は、「いいですよ」とだけ答えた。りんは、「やったー。一緒に聞こう!」と喜んでいる。
自分の不器用さを感じている間も、僕の考えは変わらなかった。やっぱりおかしい。僕が他人に勝ってる部分なんて、おそらく一つもないぞ。でも、りんの話では、僕だけがお眼鏡にかなったようだ。そこでふと気がついた。
「りんが僕に会ってくれた本当の目的ってなんですか?」りんは、しばらく沈黙して、「なんだと思う?」と聞いてきた。
「何かを手伝ってほしいのと、ランクアップさせるため」と答えると、にやりと笑って、指で僕のほっぺを軽くぐりぐりしてくる。爪がとても痛い。
思わず、「痛たっ……」とこぼすと、りんは、慌てて手を引っ込めた。そして、申し訳なさそうな顔をしながら、「ごめん。悪い。つい力が入りすぎた」と言った。
そして今度は、両手を使って僕の顔をぐっと引き寄せてきた。鼻先がぶつかりそうな距離まで顔が近づく。今度は首が痛い。
「シゲンが一つだけ勘違いしている事がある。私は、ランク4じゃないんだ。5なんだ」
りんは、ゆっくりと手を放す。僕は、告げられた真実に驚いていた。信じられない。引き寄せられた状態でなければ、大きな声で「5?!」と叫んでいただろう。しばらくの間、放心状態だった。
世間の人たちは、ランク4になる方法を探して四苦八苦している。ランク5などと言う数字は、そもそも話題に上がらない、非現実的なものだ。りんは、世界で一番、悟りし者に近いのかもしれない。
僕は、かなり小さな声で、他にもランク5の人はいるのか聞いた。りんは、首を横に振る。「私が知っている限りではいないよ。みんな黙っているはずだ」
そうだろうと思う。ランク4に上がったという報告をする人は、ごく稀にいる。だが、ランク5に上がったという人はまだ一人もいない。
どうして黙っているのか尋ねる。すると、りんは、少し困ったような表情をして、「ランクを上げる方法が分からないからかな」と答えた。
「ただ、ランク4に関してはどうとでもなる。ランク5になると、他人のランクを4に上げられるんだ。ちなみにランクを上げたのはシゲンが一人目だからね」
「え?」驚きのあまり声が出てしまった。
「もう僕ランク4になってるんですか?」「なってるよ」と、りんは事も無げに答える。
「いつの間に?」「シゲンにカードを渡した時」あの時か。
「あの時、嘘だって言ってましたよね?」「後でシゲンを驚かせようと思ってね。あ、もうカードは捨てていいらしいよ」
駄目だ。頭の整理が追い付かない。その様子を見て取ったのか、りんは、僕を落ち着かせるような優しい調子で語りかけてきた。
「ところで、帰りはどうするの?送って行こうか?それとも泊まる?」「あ、大丈夫です。一人で帰れます」「そっか、それじゃ、これからどうする?まだ話す?それとも、いったん解散する?」
「いったん、帰ろうと思います」正直、早く帰って休みたかったのでありがたい提案だった。
「分かった、家についたら連絡してね」そう言うと、りんは、僕を抱き上げてそのまま外に向かった。
「どこに向かってるんです?」「途中まで送るよ」「大丈夫なので降ろしてください」「だ~め。私に抱き上げられたまま帰るの嫌なの?じゃあ手をつなごう」と言って、降ろしたと思ったら、手をつないだまま歩いて行くことになった。
よくよく考えてみたら、やられっぱなしだった気がする。今日は、早く寝よう。明日から大変なことになりそうだ。
色々と考えながら歩いていると、「家についたら連絡するんだよ」と、ものすごい笑みで念押しされる。どうやら、明日からではなく、家についてからのようだ……。
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