魔力なしの私と魔術師を目指した少年

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私は再びリックさんの食堂で働いていた。
 
「ディナの本当の名前はディアナだったのか。」

イーリスさんとリックさんは私が訳アリだと薄々気付いていたらしい。
隠す必要も無くなり
髪の染色も止めた。いずれピンクの髪に戻るだろう。

リックさんのお店は英雄バルドルの婚約者の料理が食べられると評判になってしまった。
お蔭で毎日大忙し。

新しく働いてくれる人も見つかった。
同じ年齢の彼女はレナといって三つ編みに眼鏡の働き者だ。
レナが慣れるまでの2ヶ月間は今まで通り働いて、その後はウェイザ子爵邸に引っ越してマナーやダンスの教育を受けることになっている。

ハムちゃんは、私が王城から戻った朝、既に居なくなっていた。
リックさんによると頬袋にいっぱいキャベツの芯を詰め込んで旅に出たらしい。
「ありゃー旅だな。旅立つおとこの顔をしていたぜ。」
旅立つおとこの顔が分からないけど、イーリスさんもスキップするように浮かれた足取りだったと言っていた。
ハムちゃんが無事に戻ってくるのを祈るばかりだ。

「おーい、ディアナ。ウェイザ卿が来たぞ。」
「はーい。」

バルドルは殆ど毎日お店に来ている。 
私もバルドルが来た時には卵料理以外のものも作っている。

「リックさんにこの後ディアナを連れ出す許可を貰ったんだ。一緒に来て?」

バルドルは食事が終わった後、私を外へと連れ出した。
一緒に来たのは、あの花畑の場所。
今では大きな農場になっている。

「花畑無くなっちゃったね。」
「ああ、しょうがないさ。8年も経ったんだ。」

今日は雲ひとつない青空。空が高くて、遠くの景色まで見渡せそうなほど空気が澄んでいた。
息を大きく吸い込むと草の青臭い匂いがする。

「どうしてもここで渡したくて。」

バルドルは私に小さなピンクの石が付いた指輪を嵌めてくれた。
指輪に並べられたピンクの石はあの日の花ような形をしている。

指輪をじっと見ていたら、直ぐ上から彼の声が降ってきた。

「ディアナ、好きだよ、愛してる。……きっと幸せにするから傍にいて。……ディアナが笑顔でいられるように頑張るから……。」

見上げると、彼の真摯な視線に捉えられる。
彼の少し不器用で照れ屋なところが好きだ。仲間思いの底抜けに優しいところも。
討伐の話をしても、彼はずっと仲間の素晴らしさを話す。
彼は変わらない。
孤児院で、皆の心配をするあの頃のまま……。

「バルドル、……私もバルドルの事、ずっと好きだったよ。迎えに来てくれてありがとう。………変わらないでいてくれてありがとう。」

私はバルドルの腰に手を回して抱きついた。

「髪の色、早く戻るといいな。」

彼の胸に頬を当てていると、彼の指が私の髪を掬っているのを感じた。
指が優しく髪を通る。さらさらと肩に落ちる髪が擽ったい。

少し身体を離して彼を見上げた。
彼は少し屈んで、
私は少し背伸びして、
二人で初めてのキスをした。

少し鼻を押し付けるように触れた唇。

二回目のキスは僅かに顔を傾けた。
柔らかく触れ、直ぐに離れる。

三回目のキスは顎を掬われ、唇を食べるようにキスをされた。

顔が熱い。私はもうされるがままだ。


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