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春の吉報
しおりを挟む「うーん。何だかやけに眠いわ。それに熱っぽいのよね。」
「昨夜、眠れなかったのですか?」
「そんなこと無いのだけど……。エヴァン様は心配するような魔獣では無いって言ってから……。ちゃんと眠れるように香を焚いたもの。」
エヴァン様は大型の魔獣が農村部を荒らしたと報告を受けて討伐に出ている。以前私が心配で眠れずにいたら、エリーゼが気持ちの安らぐ香を用意してくれるようになった。
むしろエヴァン様が不在の日の方が眠れるぐらい。
エヴァンさまは夜が長い。体力超人だと思う。
「他にどこかおつらいところは?」
「……怠いかな?」
「月のものも遅れてますし、念のため横になられては?無理はいけません。」
ええ?
忘れてた。さすがエリーゼ。私の周期も把握してるのね?
もし、妊娠してたとしても寝ている必要はない。なのに私が大袈裟だと言っても誰も聞いてくれない。
直ぐに
「キオネ様は無理をしがちですから……。」
と言われてしまう。
初夜の後一週間抱き潰されても文句を言わなかったことが影響しているみたい。
あれよあれよという間に侍医を呼ばれ診察してもらい、重病人のような扱いになった。
「……おめでとうございます。ご懐妊ですね。今、2ヶ月目の終わりですよ。」
侍医が診察を終えて、笑顔でそう教えてくれた。
「キオネさま!!おめでとうございます!!」
エリーゼもアンリも大喜び。
アンリはレベックさんに知らせに廊下に勢いよく飛び出していった。
領主邸は一気にお祝いムード。
あまりの狂喜乱舞に私がちょっと怖じ気づくぐらい……。
廊下の至るところに祝いの花が飾られ、食事は一段と豪華になった。
「ど、どうしよう……。みんなが浮き足立っちゃってる。止められない……。」
そこで主治医のコモンさんが立ち上がった。
領主邸に働く人たちを集めて妊婦についての講義を開催。
妊婦の心理
妊婦の栄養
妊婦の運動
助かる。コモン先生は本当に妊婦の気持ちが分かってらっしゃる。
そして全3回の講義が終わった頃、エヴァンさまが帰ってきた。
「キオネ!おめでとう。懐妊との連絡があったぞ。体調はどうだ?」
エヴァンさまはそうっと抱き上げ頬に口づけしてくれた。
いつもより大切そうに触ってくれる。蕩けるような眼差しが、何だかムズムズ擽ったい。
使用人の皆様も私たちを取り囲み生温かい視線を向けてくれる。
恥ずかしい……
まぁ、慣れたけど。
「はい。大丈夫です。みんな親切だし妊娠についての勉強もしてくれました。」
「ん?勉強……?まぁいい夕飯を食べながら話を聞こう。」
そう言ってエヴァンさまが歩きだすと、使用人の皆様が一斉に突っ込んだ。
「閣下、あまり大切にし過ぎると運動不足になりキオネ様の体力が落ちて、出産が大変になるそうです。激しい運動は駄目ですが、邸内を歩く程度の運動は必要ですよ。」
エヴァンさまは目を丸くして驚いた後、とても、とても残念そうに私を床に下ろしてくれた。
そんなしょんぼりしなくても……。
エヴァンさまの方がワンコみたい……。
「手を繋いで行きましょう。」
私たちは手を繋いで食堂へと歩いていった。
「閣下、膝抱っこは良いですが、キオネ様はこれからバランス良く適切な量を食べていただきます。今までのように、キオネ様の好物ばかりを口に入れてはいけませんよ!」
エリーゼにはコモン先生が乗り移ったみたい……。
エヴァンさまは私を膝に乗せると、今までより色んな種類の食べ物を口に入れてくれた。
もちろん元気な子を産めるかな?なんてプレッシャーもあるけど、みんなが喜んでくれて大切にしてくれるのが嬉しい。
私、もしかして婚約破棄されてから人生好転したのかも。
王宮ではきっとこんな風に過ごせなかっただろうな、なんて思う。
~~~~~
「キオネ、こっちへおいで。」
暫く夜の行為は禁止されたけど、エヴァンさまはニコニコして、私の隣で腕枕をしてくれた。
「ほら、背中を向けて。」
「ん、こうですか?」
エヴァンさまに腕枕されたまま背中を向けると、エヴァンさまの手がお腹の方に回された。
お腹に当たる大きな手のひらからじんわりと体温が伝わり、心まで温めてくれるよう……。
「ここに俺とキオネの子がいるのか……何だか不思議な気分だ……。」
私だってまだ実感がない。少し眠くて怠いだけで悪阻もないし……。エヴァンさまが不思議な気分になるのは当然だと思う。
「エヴァンさまは男の子か女の子かどちらが良いですか?」
「どちらでも楽しみだ。」
背後から聞こえるエヴァンさまの低い声は、穏やかで心を落ち着けてくれる。
とっても大好きな声。
「キオネ、妊娠は女性にとっては大変なプレッシャーだと聞く。……俺は男だから上手く気が遣えん。………だが……健康な子を産まなきゃとか性別だとかは気にしなくていいから、………どうか…健やかに毎日を過ごして欲しい。キオネが笑ってるのが……好きだ……。」
ポツリ、ポツリと聞こえるエヴァンさまの声。
何だか嬉しいことを言ってくれてるみたい……。
でも……エヴァンさまの匂いと体温が気持ち良くて……。
私はそのまま心地よい眠りの中に意識を沈めた。
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