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13.私の気持ち
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婚約発表以降、私たちは揃って夜会に招待される事が増えた。
私の未来はこのまま彼との結婚するのが既定路線になってしまっている。『逃がさない』と言うルーファスと彼の両親に掴まってしまった。
「はぁー。」
今日は天気が良くて、気分転換にスタンリー侯爵家の庭園でお茶を飲んでいた。
澄んだ春風にそよぐ草木を見ていたら、ふとどうしようもない不安に襲われた。
「このまま、流されてもいいのかしら……。」
遠い空の下、祖国の人たちはどうしているんだろう。
私はこのままここでスタンリー侯爵家に守られて生きていって良いのだろうか?
「ん?どうした?」
ぼーっと空を眺めていたら、いつの間にかルーファスが隣の椅子に座っていた。余程気を抜いていたのだろう。
「私、貴方と結婚するのよね。」
「なんだよ?不満なのか?」
「そうじゃないけど……。ルーファスってモテるじゃない。何も私なんか拾わなくても良かったんじゃないの?私と結婚して本当にいいの?」
一緒に夜会に参加すると、彼の人気をまざまざと見せつけられる。大勢の令嬢が彼に懸想していて、私は値踏みするような視線に晒される。まだ、彼の隣に堂々と立つほどの勇気も自信もない。
「きっと後で後悔するわ……。」
頬杖をつきながらチラリと彼の方を見たら、見たことないぐらい怒った表情。どうしてそんなに怒っているのか分からなくて……。驚いて固まってしまった。
「お前、俺のことをそんな風に思っていたのかよ。」
「だ、だって……。」
思わず漏れた本音。
「だって、突然、この国に連れて来られて、結婚って言われて……。貴方は帝国で一番力のある魔術師で皇族とも親しくて……。どうして私っ?て思うよ。自信なんてないよ。」
「ティア……。」
「助けてくれたことには感謝してるの。ルーファスの気持ちも嬉しいの。」
涙がぽろぽろと溢れた。こんな後ろ向きな自分が情けなくて……。
「いいから俺のそばにいろよ。」
ルーファスはドンッと自分の胸に私の顔を押し当てた。
「いいの?」
「俺が連れて来たんだ。」
ドクドク聞こえる彼の鼓動は力強くて思ったより早い。
「ふふっ。」
「なんだよ。」
「いつも余裕たっぷりなのに、ドキドキしてる。」
「悪いかよ。」
「ううん。好きな人が私と同じように鼓動が早くなってるのが嬉しいの。」
見上げると、真っ赤になったルーファスが口元を手で覆っていた。
「ねぇ、ルーファス。好きって気持ちだけで一緒にいていいのかな?」
「ああ。」
「……。」
おかしい……。今の流れなら今度はルーファスが好きって言う番だ。なのに、彼はそんな気配を見せない。
「ルーファスは「好き」って言葉はくれないつもり?」
ルーファスはニヤリと笑う。自信家らしいその笑顔。
「お前が言葉なんて要らないって思うぐらい大切にしてやっから、俺から離れんなよ。」
ああ、この自信家で偉そうな彼に振り回されて生きていくのも良いかもしれない……。時には腹を立てて、喧嘩して……。
「うん。」
家族や、キリアンやセレニティーには見せることが出来なかった自分も晒けだす事が出来る。彼は私のどんな感情も受け止めてくれるだろう。
彼に全てを預けるように身体の力を抜いた。
触れた所からじんわりと温もりが伝わってきて、ささくれ立った心が凪いでいく。
「なぁ、俺のものになる覚悟は出来たか?」
自信家で偉そうで……。
そんな彼が不敵に微笑む。
私だけに向けられるその執着。
「本当はお前を疑ってたんだ。」
「私を?」
「内偵で潜入した夜会で、お前が婚約者と親友のダンスを呆けた顔で眺めてたのを見て、随分間抜けでお人好しな奴だと思ったよ。」
「ま、間抜けで悪かったわねっ!」
「まぁ、そう怒るなよ。お前の事が気になって任務そっちのけで、お前の事を見てた。気に入ったから連れて帰って来たんだ。」
話だけ聞いてるとまるで誘拐だわ。
まぁ、助けてもらったんだけど……。
「俺は余所見はしない。だからお前も、するなよ?」
「余所見って?」
「他の男を見んなってこと。」
彼は私の頭を軽く小突いて緩く口角を上げた。柔らかい笑顔。
そして、ふっと真顔に戻った。
じっと見つめられ、身体か強ばって彼から目を反らせない。
キス……されるの……かな?
ぎゅうっと目を閉じる。
……身体が震える……。
すると、柔らかい感触が額に落ちて、直ぐに離れていった。
あっおでこにチューされた。唇じゃなかった。
真っ赤になって額に両手を当てると、彼は目を細めて喉の奥で笑う。
「そんな怖がんなよ。可愛いキス顔だったぜ。」
揶揄うように言われて顔を伏せた。
キス顔って言われた……恥ずかし過ぎる……。
完全にキャパオーバー!顔が熱くてヤバい。湯気が出そう!
「ティア、好きだ。」
恥ずかしくって俯いていると、そう耳打ちされかばっと顔を上げる。
彼は既に背を向けて、向こうへと歩いてく途中だった。
幻聴……だったのかな?
そう思いながら、彼の背中を見送る。
けど、彼の耳が赤く染まっているのが見えて、声を上げて笑ってしまった。
どんな顔で『好きだ』って言ったのかしら?
私の未来はこのまま彼との結婚するのが既定路線になってしまっている。『逃がさない』と言うルーファスと彼の両親に掴まってしまった。
「はぁー。」
今日は天気が良くて、気分転換にスタンリー侯爵家の庭園でお茶を飲んでいた。
澄んだ春風にそよぐ草木を見ていたら、ふとどうしようもない不安に襲われた。
「このまま、流されてもいいのかしら……。」
遠い空の下、祖国の人たちはどうしているんだろう。
私はこのままここでスタンリー侯爵家に守られて生きていって良いのだろうか?
「ん?どうした?」
ぼーっと空を眺めていたら、いつの間にかルーファスが隣の椅子に座っていた。余程気を抜いていたのだろう。
「私、貴方と結婚するのよね。」
「なんだよ?不満なのか?」
「そうじゃないけど……。ルーファスってモテるじゃない。何も私なんか拾わなくても良かったんじゃないの?私と結婚して本当にいいの?」
一緒に夜会に参加すると、彼の人気をまざまざと見せつけられる。大勢の令嬢が彼に懸想していて、私は値踏みするような視線に晒される。まだ、彼の隣に堂々と立つほどの勇気も自信もない。
「きっと後で後悔するわ……。」
頬杖をつきながらチラリと彼の方を見たら、見たことないぐらい怒った表情。どうしてそんなに怒っているのか分からなくて……。驚いて固まってしまった。
「お前、俺のことをそんな風に思っていたのかよ。」
「だ、だって……。」
思わず漏れた本音。
「だって、突然、この国に連れて来られて、結婚って言われて……。貴方は帝国で一番力のある魔術師で皇族とも親しくて……。どうして私っ?て思うよ。自信なんてないよ。」
「ティア……。」
「助けてくれたことには感謝してるの。ルーファスの気持ちも嬉しいの。」
涙がぽろぽろと溢れた。こんな後ろ向きな自分が情けなくて……。
「いいから俺のそばにいろよ。」
ルーファスはドンッと自分の胸に私の顔を押し当てた。
「いいの?」
「俺が連れて来たんだ。」
ドクドク聞こえる彼の鼓動は力強くて思ったより早い。
「ふふっ。」
「なんだよ。」
「いつも余裕たっぷりなのに、ドキドキしてる。」
「悪いかよ。」
「ううん。好きな人が私と同じように鼓動が早くなってるのが嬉しいの。」
見上げると、真っ赤になったルーファスが口元を手で覆っていた。
「ねぇ、ルーファス。好きって気持ちだけで一緒にいていいのかな?」
「ああ。」
「……。」
おかしい……。今の流れなら今度はルーファスが好きって言う番だ。なのに、彼はそんな気配を見せない。
「ルーファスは「好き」って言葉はくれないつもり?」
ルーファスはニヤリと笑う。自信家らしいその笑顔。
「お前が言葉なんて要らないって思うぐらい大切にしてやっから、俺から離れんなよ。」
ああ、この自信家で偉そうな彼に振り回されて生きていくのも良いかもしれない……。時には腹を立てて、喧嘩して……。
「うん。」
家族や、キリアンやセレニティーには見せることが出来なかった自分も晒けだす事が出来る。彼は私のどんな感情も受け止めてくれるだろう。
彼に全てを預けるように身体の力を抜いた。
触れた所からじんわりと温もりが伝わってきて、ささくれ立った心が凪いでいく。
「なぁ、俺のものになる覚悟は出来たか?」
自信家で偉そうで……。
そんな彼が不敵に微笑む。
私だけに向けられるその執着。
「本当はお前を疑ってたんだ。」
「私を?」
「内偵で潜入した夜会で、お前が婚約者と親友のダンスを呆けた顔で眺めてたのを見て、随分間抜けでお人好しな奴だと思ったよ。」
「ま、間抜けで悪かったわねっ!」
「まぁ、そう怒るなよ。お前の事が気になって任務そっちのけで、お前の事を見てた。気に入ったから連れて帰って来たんだ。」
話だけ聞いてるとまるで誘拐だわ。
まぁ、助けてもらったんだけど……。
「俺は余所見はしない。だからお前も、するなよ?」
「余所見って?」
「他の男を見んなってこと。」
彼は私の頭を軽く小突いて緩く口角を上げた。柔らかい笑顔。
そして、ふっと真顔に戻った。
じっと見つめられ、身体か強ばって彼から目を反らせない。
キス……されるの……かな?
ぎゅうっと目を閉じる。
……身体が震える……。
すると、柔らかい感触が額に落ちて、直ぐに離れていった。
あっおでこにチューされた。唇じゃなかった。
真っ赤になって額に両手を当てると、彼は目を細めて喉の奥で笑う。
「そんな怖がんなよ。可愛いキス顔だったぜ。」
揶揄うように言われて顔を伏せた。
キス顔って言われた……恥ずかし過ぎる……。
完全にキャパオーバー!顔が熱くてヤバい。湯気が出そう!
「ティア、好きだ。」
恥ずかしくって俯いていると、そう耳打ちされかばっと顔を上げる。
彼は既に背を向けて、向こうへと歩いてく途中だった。
幻聴……だったのかな?
そう思いながら、彼の背中を見送る。
けど、彼の耳が赤く染まっているのが見えて、声を上げて笑ってしまった。
どんな顔で『好きだ』って言ったのかしら?
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