病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

文字の大きさ
上 下
1 / 19

1.私の婚約者

しおりを挟む

 今日は社交のシーズンの始まりを告げる王宮舞踏会。

 私は今日のために新しく仕立てたドレスに袖を通した。何となくキリアンの色である水色は選べなくて、ドレスはスミレ色にしてもらった。

 もしかして、セレニティーが水色を選ぶかも……、そう思った。

 婚約者のキリアンからはエスコート出来ないと連絡があり、代わりにお兄様がエスコートしてくれていた。

 私のファーストダンスもお兄様。もう慣れたものだ。

 私の婚約者であるキリアンはセレニティーとダンスを踊っていた。ダンスフロアで、人々の注目を浴びながら踊る美男美女。お互い、熱の籠った目で見つめ合い、二人だけの世界に入り込む。まるで世界には自分たちしか存在しないみたいに。

 私にキリアンを咎めるつもりは無い。キリアンは本当はセレニティーが好きなのだ。勿論セレニティーも……。

 婚約者を放っておいて他の令嬢をエスコートするなんて、悪い噂が立ちそうだけどそんなことは無かった。寧ろ私が悪役みたい。セレニティーとキリアンは悲劇の恋人同士として、他の令嬢たちの憧れだった。

 セレニティーは身体が弱くてキリアンと婚約出来なかったのだ。だから婚約者には健康な私が選ばれた。

お父様からは
「婚約者はお前だ。いずれは結婚するのだから、ローレラ伯爵家の名を貶めるような振る舞いはするな。くれぐれも嫉妬などしないように。」
と言われていたし、お母様からは
「少し遊んできた殿方の方が余裕があって良いものよ。」
と慰められた。

お兄様は
「結婚したら侯爵にバーネラ港の使用料を安くするようにお願いしてくれ。」と言うだけで、私の事には興味が無いみたい。

 貴族同士の結婚なんて、そんなものかもしれない。
 理解はしている。耐えられないことでも無い。

 なのに、夜会へ来て想い合う恋人同士を見るたび、そこはかとない悲しい気持ちに襲われる。

 私はずっとセレニティーの次のなのだと……。
しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

貴方でなくても良いのです。

豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

愛せないですか。それなら別れましょう

黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」  婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。  バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。  そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。  王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。 「愛せないですか。それなら別れましょう」  この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

この声は届かない

豆狸
恋愛
虐げられていた侯爵令嬢は、婚約者である王太子のことが感知できなくなってしまった。 なろう様でも公開中です。 ※1/11タイトルから『。』を外しました。

処理中です...