5 / 19
5.セレニティが倒れた
しおりを挟む帰宅すると、両親と兄が少し険しい表情で私を待っていた。
「フィオナ、夜会で他の殿方と何曲も連続で踊ったそうね。駄目よ。貴女の婚約者はキリアン様。侯爵夫人になることが貴女の幸せなのよ。」
「よりによってあんな目立つ場所で踊るなんて……。ライアット侯爵が顔を顰めてたぞ。折角の婚約の話が流れたらどうするんだ。」
キリアン以外の男性と仲良くダンスしているのをライアット侯爵に見られていたらしい。不貞などを疑われると、婚約破棄される可能性がある。両親はその事を心配していた。
「はい。気を付けます。」
そう言って謝ったが、今後は異性との交流をなるべく控えるように釘を刺されてしまった。
「あんな金の無さそうな男は利用価値なんて無さそうだ。あんまり相手にするなよ。」
兄からもそう言われてしまった。
兄はダンスが苦手だから、あんまりダンスを踊ってくれないくせに……。
☆☆☆
数週間後、セレニティーが高熱を出して、寝込んでいると連絡を受けた。
最近は体調が良くて、夜会への出席が続いていた。きっと無理してたんだわ。
数日間は面会も出来なかったが、漸く熱が下がったと連絡を受けて、お見舞いに行くことにした。
☆
「もうっ。びっくりしたわ。無理しないでね。」
「ごめんなさい、心配かけて。でも、今回は良いお医者様が見つかって今までよりずっと体調が良いのよ。もう少しお薬を続ければ、高熱を出すことも無くなるって。」
セレニティーは病み上がりとは思えないほどすっきりした表情。顔色もいつもより良くて頬もほんのりピンクに色づいていた。
本人の言う通り名医なのだろう。
「本当っ……。良かったわっ!!」
久しぶりのセレニティーの明るい笑顔が嬉しい。私はベッドに駆け寄り細い身体を抱きしめた。
「うふふ。ありがとう、心配してくれて。新しい先生のお蔭で長年ずっと取れなかった怠さもスッキリ無くなったの。」
「凄いのね。そのお医者様。」
「ええ、他国の有名なお医者様らしいの。王族に連なる方を診察されることも有るぐらいの名医らしいわ。実はね、王太子殿下がお父様に紹介してくださったの。」
確かにセレニティーは元気そう。ここ数年、調子は良くてもここまで顔色が良いことなんてなかった。このままセレニティーが回復すればいいのに……。
「ご面会中、失礼します。セレニティーお嬢様、お医者様が往診に来られました。」
「ありがとう。入っていただいて。」
「じゃあ、私は帰るね。」
診察の邪魔にならないように急いで帰り支度を整えて屋敷を出ようとしたら、玄関ロビーで医師らしき人に話し掛けられた。白い髭をたくわえた、いかにもお医者様らしい風貌。
「君はセレニティー嬢の友人かい?」
「は、はい。」
「君から見て、今日のセレニティー嬢はどうだった?」
「顔色も良くて元気そうでした。先生のお蔭です。ありがとうございましたっ。」
「そうか、良かった。彼女が長年苦しんできた病気は治るかもしれない。原因が分かったんだ。」
「えっ、そうなんですか?先生、お願いします。レニィを助けてください。」
「ああ、必ず。約束しよう。」
眼鏡を掛けているが、その茶色い瞳は力強く私を見据えていた。何だかその瞳に既視感を覚える。
「私、先生とお会いしたこと無かったですか?」
思わず、不躾なことを聞いてしまった私に、先生は鷹揚に笑って首を振った。
「はっはっはっ。こんな可愛いお嬢さんの知り合いは居ないな。もう少し若かったら口説いていたんだが……。」
他国のお医者様になんて知り合いはいないもの。きっと気のせいだろう。
セレニティーが本当に健康になったら、婚約の話はどうなるんだろう?
そんなことを考えながら、帰路についた。
417
お気に入りに追加
5,709
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
貴方でなくても良いのです。
豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】どうかその想いが実りますように
おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。
学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。
いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。
貴方のその想いが実りますように……
もう私には願う事しかできないから。
※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗
お読みいただく際ご注意くださいませ。
※完結保証。全10話+番外編1話です。
※番外編2話追加しました。
※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる