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7.セレニティー視点
しおりを挟むフィオナが攫われた。侯爵家主催の夜会の警備は当然甘くは無い。
皆が噂していた。
誘拐された貴族令嬢の末路は売られるか、殺されるか……。
私とフィオナは幼馴染。
二才年上の私が先にキリアンに恋をした。
「私ね、キリアンが好きなの。」
そう報告した時、恋を知らないうぶな彼女は目を丸くして祝福してくれた。
何だかお祭りみたいに楽しそうな笑顔で「二人とも大好きだから、二人が夫婦になってくれたらいいな。」なんて、言ってた。
恋の苦さも辛さも知らないフィオナ。
けれど、私は頻繁に高熱を出して寝込むことが原因で、キリアンとは婚約出来なかった。
身体が健康で、身分も申し分ないフィオナはきっとキリアンの婚約者に選ばれる。私の心の奥底に醜い嫉妬の炎が灯った。
その頃の私は体調が悪くて痩せ細っていた。
長くは生きられないだろうとお医者様からも聞いていた。お母様も似た症状の病で亡くなっている。私ももうすぐだ……。
ショックだった。
自分の未来だけが続いていかない。……彼と同じ時を刻んでいけない……。
「フィオにお願いがあるの。」
「なあに?セレニティーのお願いなんて珍しいわね。」
「私ね、キリアンとは婚約出来ないの。」
「え?」
「やっぱり、私の身体が弱いから彼の両親は私との結婚は了承出来ないって……。」
「……そんな……。」
「キリアンの婚約者にはフィオが決まりそうなの。」
「私が?……辞退するわ。」
フィオナは純粋に私とキリアンの恋を応援してくれていた。
この言葉も本心からのものだろう。
「ローレラ伯爵も乗り気らしいし、きっと断れないわ。結婚は家同士の事だもの。それよりも、フィオ。……私の代わりにキリアンと幸せになってね。」
「私……が……?」
私はフィオナみたいに綺麗な心ではいられない。心の中は醜い嫉妬心でいっぱいだった。
「私が出来ない分フィオがキリアンを幸せにしてあげて欲しいの……。私じゃ子供も産んであげられない。きっとずっとそばにはいてあげられないから……。おねがい……フィオ……。」
最後の方は涙声になってしまった……。
悔しくて、悔しくて……。
「レニィ……。」
「フィオ……ごめんなさい……フィオ……。」
どうして、未来のキリアンの隣に立つのが私じゃないんだろう……。
「分かった、レニィ。任せてね。ただし、元気な間はキリアンの隣に居てね。」
フィオナは私を励ますようにニカッと笑うと胸の前でぎゅっと握り拳を作った。
「……ありがとう、フィオ。」
そして……ごめんなさい。
狡い私はフィオナを利用した。きっと私が死んでしまっても、キリアンはフィオナを見るたびに私を思い出すだろう。彼の呪縛となってずっと心に棲みついて居たかった。
キリアンよりフィオナにお似合いの男性はきっと別にいる。今の彼女はキリアンに少し憧れているだけだ。実の兄は年が離れていて彼女とはほとんど話をしないようだった。だから、彼女はキリアンに優しい兄の姿を重ねている。
キリアンはそれほど完璧な男性では無い。
穏やかだけど、臆病で少し狡い。私と似ている。だけど、そんな彼が好きだった。独占欲だけかもしれない……。
純粋で真っ直ぐなフィオナには、しっかりしていて、ぐいぐい引っ張ってくれるような力強い男性の方が相応しいと思う。
(フィオ、ごめんね。ごめんなさい、フィオ。)
心の中で何度も謝った。
キリアンとフィオナの婚約が整ったその日、胸がざわついた。その頃は私はほとんど夜会に出席出来なかった。
自分の心が醜く染まる。いつかキリアンと結婚出来るフィオに嫉妬した。
体調が安定した頃、キリアンに自分を刻みつけるために抱いてもらった。絶対に忘れ去られるなんて嫌だった。
☆
新しいお医者様に『貴女の病気は治りますよ。』そう言われた時、私は浮かれていた。
幸せな気分でキリアンとダンスを踊っていた。こんなに、身体が自由に動くのは久しぶりで嬉しかった。
だから、フィオナがどんな気持ちで私たちを見ていたかなんて知らなかった。
夢の中のように浮かれてはしゃぐ私の直ぐ横をすり抜けて……。
ーーフィオナは攫われてしまった。
そして三日後、国境警備隊がフィオナの遺体を発見したとの知らせが入ってきた。遺体の損傷が激しくて家族すら面会を許されなかったそうだ。そして彼女の葬儀がひっそりと行われた。
☆
フィオナ亡き後、私たちは白い目で見られ、社交界に居場所は無くなった。
お茶会へも夜会へも、招待状は一切届かない。
「キリアンとは別れてくれ。悪評が付き纏う今の状況では、一緒にいるとお互いのためにはならないだろう。」
ライアット侯爵にそう言われて、私とキリアンは別れさせられた。
今の私たちは
「浮気をしていて婚約者を守れなかった愚かな男」と「親友の婚約者を寝取った女」だ。
時が経っても、私たちに縁談が届くはずも無くて……。
一年後、私たちは正式に婚約を結んだ。
お互い、相手が見つからず仕方の無い婚約だった。
そして、誰に祝われることも無いまま私たちは結婚した。
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