私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

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はち

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リリィ視点


 モルス伯爵の件もあり、母の行動を不審に思った父がお姉ちゃんにクビにされた使用人たちに連絡を取り、母の嘘が判明した。

 お姉ちゃんが気に入らないとクビにした家庭教師も使用人たちもお姉ちゃんに直接暴言を吐かれた事実は無く……。
 当人たちは母に解雇されたと言っていたそうだ。

 お姉ちゃんが人付き合いをしなかったのもお洒落をしなかったのも全て母のせい。お姉ちゃんは偏屈者でも怠惰でもなく、ただ母に嫌われていただけ。
 
 私達は母の「お姉ちゃんは偏屈者」と言う言葉をただ鵜呑みにしていたのだ。

 父は激怒し母を責めた。
  
「エライザ、君は長い間、俺を、家族を騙していたのかっ?気付かなかった俺も悪いが……君がこんなことをする人間だとは思わなかった」

「……ごめんなさい」

「何故だ!何故、こんな……」

 母は泣きながら理由を話し始めた。
 お姉ちゃんだけ差別していた理由は、前妻への嫉妬。

 お母さんはアウァールス男爵家に嫁いだ当初、前妻のソフィーさんと比べられてとても辛い思いをしたそうだ。
 父や祖父母は比べるようなことは言わず気遣ってくれたが、周囲の心無い人たちは違う。
 
 前妻のソフィーさんは美しく儚かない雰囲気。それに比べ、母は派手な顔立ちで健康的な体型で……。お茶会やパーティーで、高位のご夫人たちから嫌味を言われ、母は心を病んでしまった。

「娘が二人とも社交界に出てしまえば、リリィはソフィーさんの娘であるレオナと比べられるわ。私にはそれが我慢出来なかった」

「それでも、レオナを蔑ろにしていい理由にはならないだろ?」

「ええ……。そんな事は分かってた。でも、あの子を憎むことを止められないの」

 涙声で話す母は、いつもの明るい母とはまるで別人のようだった。

「君は変わらなくては。死んでしまったソフィーと争ってなんになるんだ」

 父はもう怒らなかった。
 ただ、力なく項垂れた母を痛ましそうな目で見つめていた。










「ねぇ、ジュード、お母さんがお姉ちゃんについて言っていた事って全部嘘だったんだね」

「そうみたいだな。俺はちょっとにわかには信じられない。けど、親父が調べたんならそうだよな」

「私達、お母さんの言う事鵜呑みにし過ぎてたのかなぁ?確かにお姉ちゃんが誰かに意地悪してるのなんて見た事無かったものね」

 ジュードと二人になった後、私達は今までのお姉ちゃんの行動を振り返っていた。
 お姉ちゃんはお母さんに偏屈者と決めつけられ、私達もその事を信じてしまっていた。
 充分な淑女教育も受けられず、家庭教師や使用人が辞めた原因も全て自分のせいにされて……。

「きっと辛かっただろうな、お姉ちゃん。どうして本当の事言わなかったんだろ?ちゃんと本当の事を話せばお父さんだって分かってくれたと思うのに……」

「言えなかったんじゃないかな。分からないけど……俺が逆の立場でも言えなかったと思う」

「……そう?」

 お姉ちゃんはお母さんを恨んでいるのかな?
 もう、この家に戻ってくるつもりは無いのかな?

「ねぇ、ジュード、私達、お姉ちゃんに謝った方が良いんじゃないかな?お母さんも。私達でちゃんとお母さんを反省させて、謝りに行かせよう?仲直りしないと、ずっと家族がバラバラのままだよ?」

「そうだな。俺も一度謝りたいよ」

 お姉ちゃんに会って目を見て話をして謝ろう。
 身勝手だけど、母なりの理由があったことも説明すれば、お姉ちゃんだって許してくれるかもしれない。

「お母さんも辛かったんだもの。前妻のソフィーさんと比べられてたなんて知らなかった。そりゃあ、何も知らないお姉ちゃんを差別しても良いってことにはならないけど……。それでも、お母さんが心の底から反省して謝れば、お姉ちゃんは許してくれるんじゃないのかな?」

 アウァールス男爵家は貧しくなってしまったから、今更社交界デビューも淑女教育も出来ないけど。それでも、お姉ちゃんが時々帰ってこれる実家にはなってあげたい。

 私も……。
 今まで何も知らなかったから、お姉ちゃんにひどい事を言っちゃった。

 
 
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