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なな
しおりを挟むリリィ視点
「レオナは帰って来るの嫌だってまだ言ってるの?」
「うん。もうお姉ちゃんが戻ってくることは無いんじゃないかしら。そんな無理に連れて帰ってもきっとまたすぐ出ていっちゃうわ」
母はまだ諦めていないみたいだけど、私はお姉ちゃんは家に帰らないと思っていた。お姉ちゃんの目は真剣だったから。
例えば無理やり家に連れ戻したって、牢屋みたいな場所に閉じ込めておけるわけでもない。
本人にその気がないのに無理強いなんて出来ない。
「そんな悠長な事も言ってられないわ。良い縁談が来たのよ。モルス伯爵がね、うちの窮地を知って援助を申し出てくれたの。条件は、どちらかの娘が嫁ぐ事。だからレオナに嫁いで貰おうかと思って……」
「ええ!凄い!しかも伯爵?伯爵家に嫁ぐの?」
「そうよ、伯爵家。だからレオナには戻ってきてもらって、それからモルス伯爵に嫁いで欲しいのよ」
「でもお姉ちゃん貴族は嫌だって。その縁談、私でも良い?」
「だめよ。モルス伯爵は39歳よ。レオナの方がまだ年も近いし、あんな我儘な子は包容力のある年上が良いと思うの」
「39歳かぁ。流石に年上過ぎない?」
「そんな事はないわ。貴族同士の結婚なら年齢差なんてあたり前よ。特に高位貴族ならばね」
「へぇ、そうなんだ。まあ、貧乏するよりは良いよね」
年齢差にはちょっと引っかかるけど、それでもお姉ちゃんは幸せになれるってお母さんは力説してるし、まあ良いか。
モルス伯爵はダンディーで顔もそんなに老けてないそうだ。それに何より高位貴族になると王宮舞踏会にも招待され、贅沢な暮らしが待ってる。
家では到底買えない豪華なドレスや宝石。
そんな生活、ちょっと憧れるなぁ。
だけど、お姉ちゃんはモルス伯爵との縁談を断った。
お姉ちゃんには付き合っている人が居るらしい。私も会った。茶色い短髪のちょっと地味顔の男性。顔はあまり好みじゃ無いけど、誠実そうな人。
あのお姉ちゃんに恋人……。
私はお姉ちゃんの幸せを素直に喜ぶことが出来た。
政略結婚は私がすれば良いもの。
嫌がるお姉ちゃんより、私の方が適任よね?
「お母さん、お姉ちゃんには恋人が居るんだってっ!だから、モルス伯爵に嫁ぐのは私でいいわよね?」
お姉ちゃんと話をした後、私は早速自分がモルス伯爵と結婚したいのだと母に伝えた。
すると、母は酷く動揺してしまった。
「あ、貴女とは年齢が離れ過ぎているわよ。駄目だわ」
「ええ、どうしてよ?お母さんがこれぐらい年上の人の方が落ち着いていて包容力もあっていいって言ってたじゃない?伯爵ってダンディで素敵なんでしょ?私楽しみだわ」
お姉ちゃんは淑女教育をちゃんと受けていないし、伯爵夫人ならきっと私の方が相応しい。お姉ちゃんはあの人と結婚して平民として暮らした方が良さそうだ。
「やめなさいリリィ。それよりも、レオナと付き合っているっていう人、その男性はどんな人?家に資金援助出来るような家柄なの?」
「うーん。身なりはまあまあ。でも、貴族では無いって。お姉ちゃんも貴族には戻りたくないって言ってたよ。お母さん、考えてもみてよ。あれだけ人嫌いで家庭教師も辞めさせて我儘だったお姉ちゃんが、一人で幸せになろうとしてるんだよ?それでいいじゃない。政略結婚は私がするよ?」
「駄目よ、駄目。貴女は駄目」
母は取り乱してしまい一方的に反対するばかり。
そんな会話の途中、父が慌ただしい様子で帰って来た。
「あら、あなた、おかえりなさい」
「……」
父は険しい表情をしたまま返事をしない。
いつもはどんなに忙しくても挨拶は返してくれる父が、無言のまま母に近づいた。
「エライザっ。お前、勝手にモルス伯爵と娘との縁談を進めようとしたそうだな。どういう事だ?モルス伯爵は黒い噂の絶えない人物。そんな人間に娘を嫁がせようなどと、正気か?」
父が母に対してこんなにも怒っているのを見るのは初めて。母はひどく狼狽えて、真っ青な顔で父を見上げた。
「あ、あ、あの……」
「娘を不幸にするつもりか?」
父の話によると、モルス伯爵は10年前、未成年の少女を手篭めにしたと噂があったそうだ。
何人もの少女が被害を訴えていたけれど、やがて一人、二人と被害を訴える少女の数は減ってしまい、世間ではモルス伯爵が大金を渡して口止めしたと言われているそうだ。
このことは当時の社交界では相当噂になった。母も当然知っているはず。
モルス伯爵はこの件以来、表舞台にはほとんど出ずにひっそりと生活していたみたいだけど……。
「お母さん、そんな人にお姉ちゃんを嫁がせようとしたの?」
父は事業の失敗以来、金策に走り回り、ほとんど家に居なかった。
だからって父に内緒でこんな縁談を進めるなんて……。
「だって……伯爵領には鉱山もあるし、お金に困ることはないわ。だから、良いと思ったのよ?あの子に幸せになってもらいたいのは本当。伯爵もお年だし、もうそんなに無茶をすることは無いと思うわ」
「駄目だ!娘をそんな家には嫁がせん」
父は力強く言ってくれた。
貧しくなっても、倹約して生活していこうと。
私は母が私達を騙していた事がショックだった。
あんなに優しいお母さん。
いつも、私達のことを一番に考えてくれていた。
なのに、どうして……。
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