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さん
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「土壌改良に関する本を探しているんですが……」
「はい」
最近良く来る茶色いツンツン髪の男性。彼は色々なジャンルの本を借りにくる勉強熱心な人。きちんとした身なりをしていて、人当たりの良い雰囲気の人だ。
「土壌改良の本ですね。案内します」
王国で二番目に歴史のある王立図書館。だけど、建物の中は古くて、とにかく埃が多い。
長く勤めている年配の司書さんが奥に座っているけど、置物のようになって動かない。何十年もここに勤めているそうだから若い頃はきっとそれなり働いたのだろう。
だけど、今は高い場所には登れそうもないし、重い本も運べない。私がここにくるまでは、本がきちんと並んでいなかったり、破れたものがそのままになっていたりしていた。
私は、本を探しやすいように少しずつ並べ替えたり、古い本を補修したりしている。
今でも、その作業の真っ最中。
「あっ……、この本」
案内していると、彼は何かに気付いたのか、一冊の古びた本を取り出した。
「これ……先週借りたときには破れてたのに……」
「ああ、これ。返却いただいた時に破れていたことに気が付きましたので修理しておきました」
「そっか……。それに少し本の場所が変わったんですね」
「はい。少しずつですが、場所を移動しています。探しやすくなるようにと思いまして……」
「へぇ、そうか。だから最近は本の場所がよく変わってるのか……。いえね、僕は子供の頃からここを利用してまして……。ずっと本の場所なんてバラバラで埃だらけで、王立図書館だからこんなもんかって、探しにくくても諦めていたんです」
「そうだったんですね。私はここに勤めて日が浅いのでまだまだ分からないことだらけです」
私は化粧もせずに大きな眼鏡を掛けていて、髪は後ろで一つにして束ねていた。
「この図書館は古いですが、蔵書の数は国内一と聞きました。大変そうですね」
「そうですね。覚えることが多くて大変ですが、本は好きなので……」
高い本棚に囲まれた細い通路。彼は話をしながら私の後ろをついてくる。人見知りな私でも、目を合わせないで話が出来るこの態勢はとても楽だった。
王立図書館は塔のような円錐形の建物で、真ん中に大きな螺旋階段がある。その階段から放射状に細い廊下が伸びている創りで、私は毎回利用者を目的の本のある場所まで案内しなければならない。
「この辺りが土壌についての本ですわ。刊行した日が古い物が奥から順に並んでいます」
「ああ、ありがとう」
「では、借りる本が決まりましたらカウンターまでお持ちください」
「はい」
その後も、茶色い髪の男性は2~3日おきに本を借りに来た。
学生でも、研究者でもなさそうだけど、色んな種類の本を借りていく不思議な人。
案内する度に少し言葉を交わすから、彼とだけは気軽に話せるようになった。
彼の口調もどんどん砕けたものになっていく。彼は気さくな人柄で話題も豊富。私は、後ろから聞こえる彼の低い声がちょっと好きになっていった。
「はい」
最近良く来る茶色いツンツン髪の男性。彼は色々なジャンルの本を借りにくる勉強熱心な人。きちんとした身なりをしていて、人当たりの良い雰囲気の人だ。
「土壌改良の本ですね。案内します」
王国で二番目に歴史のある王立図書館。だけど、建物の中は古くて、とにかく埃が多い。
長く勤めている年配の司書さんが奥に座っているけど、置物のようになって動かない。何十年もここに勤めているそうだから若い頃はきっとそれなり働いたのだろう。
だけど、今は高い場所には登れそうもないし、重い本も運べない。私がここにくるまでは、本がきちんと並んでいなかったり、破れたものがそのままになっていたりしていた。
私は、本を探しやすいように少しずつ並べ替えたり、古い本を補修したりしている。
今でも、その作業の真っ最中。
「あっ……、この本」
案内していると、彼は何かに気付いたのか、一冊の古びた本を取り出した。
「これ……先週借りたときには破れてたのに……」
「ああ、これ。返却いただいた時に破れていたことに気が付きましたので修理しておきました」
「そっか……。それに少し本の場所が変わったんですね」
「はい。少しずつですが、場所を移動しています。探しやすくなるようにと思いまして……」
「へぇ、そうか。だから最近は本の場所がよく変わってるのか……。いえね、僕は子供の頃からここを利用してまして……。ずっと本の場所なんてバラバラで埃だらけで、王立図書館だからこんなもんかって、探しにくくても諦めていたんです」
「そうだったんですね。私はここに勤めて日が浅いのでまだまだ分からないことだらけです」
私は化粧もせずに大きな眼鏡を掛けていて、髪は後ろで一つにして束ねていた。
「この図書館は古いですが、蔵書の数は国内一と聞きました。大変そうですね」
「そうですね。覚えることが多くて大変ですが、本は好きなので……」
高い本棚に囲まれた細い通路。彼は話をしながら私の後ろをついてくる。人見知りな私でも、目を合わせないで話が出来るこの態勢はとても楽だった。
王立図書館は塔のような円錐形の建物で、真ん中に大きな螺旋階段がある。その階段から放射状に細い廊下が伸びている創りで、私は毎回利用者を目的の本のある場所まで案内しなければならない。
「この辺りが土壌についての本ですわ。刊行した日が古い物が奥から順に並んでいます」
「ああ、ありがとう」
「では、借りる本が決まりましたらカウンターまでお持ちください」
「はい」
その後も、茶色い髪の男性は2~3日おきに本を借りに来た。
学生でも、研究者でもなさそうだけど、色んな種類の本を借りていく不思議な人。
案内する度に少し言葉を交わすから、彼とだけは気軽に話せるようになった。
彼の口調もどんどん砕けたものになっていく。彼は気さくな人柄で話題も豊富。私は、後ろから聞こえる彼の低い声がちょっと好きになっていった。
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