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道中記・キヌエルの村

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殿下からの手紙が届いた。 

キヌエルの村を無事に越えたらしい。
キヌエルの村で殿下は襲われる予定だった。小説ではヒロインが庇って怪我をするが、ヒロインが怪我をするのも可哀想だし、もし万が一、殿下が殺されては大変だ。
私は念のためこの村に着く前に、殿下に手紙を書いた。
手紙にはキヌエルの村の宿泊所の主人が、義勇連合と通じていることを記した。

そのお礼としてリボンが同封されていた。
「ねぇ、ヨシュン、このリボンを殿下に贈られたのだけれど。」
「うーん、可愛い過ぎですね。」
「ええ、でも使わないのも失礼よね?」
「髪と一緒に編み込んでみましょう。見せ方次第かもしれませんよ。」 
「そう。お願いね。」

あまりに可愛いデザインに困惑する。殿下の心の中の私は今も子供らしい。

私のサークル活動は思わぬ方向で人気が拡がった。独身貴族令息が集まるということは令嬢も集まることになる。

何だか男女の出逢いの場になってきている。
プラスに捉えるなら、他国との文化交流に興味がある貴族が増えたことだが……。
そんな私は外交に積極的な王太子の婚約者として、益々評判を高めてしまった。


殿下視点

キヌエル村に着く少し前に早馬でティシアリュルからの手紙が届いた。初めての手紙だ。とても嬉しい。
内容には色気は無く、寂しいとの記述もない。
只、私の身を案じてくれたことは嬉しく思った。こんな内容は調べないと分からないだろう。彼女がきっと自分を心配してくれて調べたのだと思うと胸が温かくなった。

ティシアリュルの手紙と同時に母からも手紙が届いた。ティシアリュルが王宮でサークルを立ち上げたそうだが、私の留守の間にティシアリュルに近づこうと企む貴族令息がサークルに押し寄せているらしい。
早く帰って来いとあるが、視察の行程はまだ半分だ。

この村の宿泊所の主人はやはり義勇連合と通じていた。ティシアリュルの手紙に書いてあった通りだ。義勇連合は王政に反対する過激派集団だ。
この人数で義勇連合との衝突はまずい。私たちはこの村を通り過ぎて、後から騎士団の中隊を派遣して貰うことにした。

護衛三人にもこの村での視察を取り止めた事を伝える。
「この村はこのまま通り抜け、次の町で宿泊する。」
「えっ?視察は中止ですか?」
「中止だ。明るいうちにテレトの町に着きたい。」
「…、僕この間捻った足が痛くて、この村の宿に…。」

ライルは慌てた様子で、宿での宿泊を薦めてきた。
こいつも義勇連合と通じているのか?
同じ事を感じたのだろう。ブルドとズッブュルの気配が鋭くなる。
「いえ、いいです。次の町まで頑張ります。」
私たちの気配をライルは感じたようだ。

なんとか、日が沈む前にテレトの町に着いた。
元々立ち寄る予定の無かった町だが、宿の女将にこの町は織物で有名だとの話を聞いた。
明日危険を知らせてくれたお礼としてティシアリュルへリボンを買って送ろう。
いつかティシアリュルのシルバーブロンドの髪に結ばれたリボンを私の手でほどく日が来るといいが……。

★☆★

深夜ブルドとズッブュルと三人でライルについて話し合った。
「どう思う?」
「隠す気がないのか…男の振りをするにしてもバレバレですし…。」
「刺客か?」
「だとしても弱すぎます。背格好で選んだとはいえ、なぜ選ばれたのか…。」
「義勇連合の仲間か?」
「油断するように狙っている可能性はありますね。」
「背後関係を調査するよう、使いを出せ。」
「はい。」
「目的が分からない以上、近くに置いて監視した方が良いだろう。暫くこのまま泳がせる。」
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