上 下
7 / 20

道中記・ケンディの街

しおりを挟む
殿下から手紙が届いた。

ケンディの街に着いたらしい。
小説通りに物語が進んでいく。
ここでは孤児院に立ち寄って、優しく子供達の相手をするライルに殿下が関心して興味を持つのよね。そして宿で旅の安全を祈願しながら皆でお酒を酌み交わすの。今考えると護衛が全員酒を飲むなんて危ないわね。
そして殿下はこの国の子供達の未来を憂うライルの優しい心に胸を打たれるのよ。でもこの時点ではライルの事は男だと思っているはず。
今頃殿下はライルと仲良くなって、一緒に世間話でもしているのだろうか?

物語は着実に進行している。私も婚約解消に向けてまずは人脈作り。

私は王宮で始めたサークル活動の準備を始めた。まずは今学んでいるヒュンダ国出身の人を探した。
ヒュンダ国は我が国と交流が盛んで、王宮の図書館に勤める史書がヒュンダ国出身だと分かり、サークルに招待する。
王妃様がサークルの参加者を募ってくれたけど、当初の目的の堅物既婚文官では無くて、独身貴族令息が集まってしまった。家庭教師の依頼先が……。
目論見が外れ、計画は修正を余儀なくされた。 


殿下視点


ケンディの街に着いた。この街は大きいが貧富の差が激しく孤児も多い。そのため近年は孤児院の建設と子供の教育に力を入れてきた。今日はその孤児院の視察だ。
補助金の収支もきちんと管理されており、衛生的にも問題無さそうだ。
視察を終えると、護衛騎士のライルが子供を集めて遊んでいる。
あんなに目立って…視察がお忍びだと理解しているのか?
私が見ている事に気付いたライルは首を傾げると華々しい笑顔を見せた。その笑い方に違和感がある。こいつ本当に男か?


その後宿泊した宿で酒を酌み交わす。しかし、やたらとライルが私に触ってくる。撓垂れ掛かるように触れてくるその様は鍛えているようには思えない。
私はブルトにライルの正体を探るよう命じた。

私は無性にティシアリュルに会いたくなり、早めに切り上げて部屋で手紙を書くことを思い付いた。
幼少の頃の私の態度のせいだろうが、ティシアリュルは私に対して硬い態度を崩していない。それでも嫌われてはいないと思う。
昔は好意を向けられる事を当然のように思っていたが、ティシアリュルの態度が変化してからは、私も随分と臆病になってしまった。
昔の私なら強引に口説くこともあり得ただろうが……。
それでも、私が誠実であれば彼女の心は離れていかないだろう。

手紙には勉強熱心なティシアリュルの為に街の様子を細かく書き連ねる。
ライルの様子が怪しい事は伝えないでおこう。余計な心配をかけたくない。
ティシアリュルの事を想いながら眠りに付く。これはもう何年も前からの習慣だ。
いつかあの小さな身体を抱く日が来るのだろうか?儚くて消えてしまいそうな彼女を閉じ込めてしまいたい。
彼女が再び私を想ってくれる日を願って眠りについた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

もう一度だけ。

しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。 最期に、うまく笑えたかな。 **タグご注意下さい。 ***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。 ****ありきたりなお話です。 *****小説家になろう様にても掲載しています。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

処理中です...