呪われた皇帝の執着或いは溺愛

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2.皇宮に来ました

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「赤宮のメイドとして来られた方は此方にお集まりください。」

皇宮に着くと直ぐに広間に案内された。
案内してくれたのは髪をきちんと纏め上げた、姿勢の美しい年配の女性。

(この人が上司なのかしら?侍女頭って感じね。)

もっと雑に扱われると思っていたので、思いがけず丁寧な対応をして貰えたことに驚いた。 

そこには各教会から集められた女性が20人集まっていた。
一回の召集で20人、それがここ数年繰り返されている。
暇を出されて帰る者も多いそうだ。

平民である彼女達は皆広間の豪奢な装飾に圧倒され、強張った表情で周囲を伺っていた。

「ここでお並びになってお待ちください。」

指定された場所に立ち天井を見上げる。 

(凄い絵。何だか別世界みたい。)

空想上の生物だろうか?
羽や牙のある虎のような模様の生物が、威嚇するように鋭い視線を向けている。

絵にまで脅かされたようで、身を縮めるようにそこに立っていた。

彼女たちが雰囲気に呑まれてしまうのも理解できる。
皆平民で教会から来たのだろう。
身なりも似たり寄ったりだ。

(あっ、あの子はまだ幼いんじゃ無いかしら?震えてる……可哀想に……。)

私の斜め前に立っている少女は真っ青な顔で今にも倒れそうだ。 

(大丈夫かな?)

「皇帝陛下が今からお出ましになる。皆頭を下げよ。」

そう言われて頭を下げると皇帝陛下が部屋に入って来た気配がした。

僅かに聞こえる衣擦れの音。
部屋の温度が下がったように空気がひんやりとした。

「顔を上げよ。」

威圧感のある声がして頭を上げると、壇上には皇帝陛下が玉座に腰掛けて此方を見ていた。

真っ黒な目と髪。
冷たく射抜くような視線。
視線が鋭すぎて顔をまともに見ることも出来ず、直ぐに目を伏せた。
案外若いのかも……。
でも、恐ろしくて顔が見れない。
部屋全体の空気がピリピリして、肌がざらつく。

まさか皇帝陛下が態々時間を取って、自ら平民のメイドに会うなんて思わなかった……。

皇帝陛下はゆっくりと一人一人のメイド候補を見て、明らかに顔色の悪いメイド候補には部屋から出るよう命じた。

(あ、震えてたあの子は部屋から出されたわ。どういう事かしら?)

そして、残った女性は10人。
何が基準かは分からないが皇帝陛下は半分のメイド候補を部屋から出した。
顔色の悪い女性だけでなく、場馴れした有能そうなメイド候補も部屋から出していた。

(何を基準で選んでいるのかしら?部屋を出されたらどうなるの?)

何も説明されない状況に不安が募る。
そして、陛下に出るよう命じられた女性が全員部屋を出て扉がしまると、再び静寂が訪れた。

「残った者たちに赤宮で働くことを許可する。女官達とは基本的に話をするな。他の宮の者たちは警戒せよ。」

冷たい口調でそれだけ言うと、皇帝陛下は去っていってしまった。

(部屋を出された子は此処で働かなくていいのね。)

残った私たちは赤宮メイドとして合格したようだ。
けれど、この場に残された事を喜ぶものなど居なかった。
皆が皇帝陛下に威圧され、震えはしないものの表情は硬い。

私も例外では無かった。

一瞬目を見ただけで怖くて目を伏せた。
鋭い視線ーー。
それだけでも怖いのに、やけに長く見られていたように感じた。

(噂通り怖いわ。私…大丈夫かしら?)

そして陛下は気になる事を言っていた。

(女官と話をするなってどういう事??)
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