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9,思い出した恋心
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離宮での生活は穏やかなものだった。
前世の記憶を取り戻した私には、古いこの離宮は興味深くて貴重なものが沢山あった。
今まで何の気なしに見ていた 柱の装飾にしても、全て職人の手作業だと思うとその価値に唖然とする。
「はぁ、この壁も素敵。細かい所までこんなに作り込んであるわ……。」
こんな素敵な装飾は文化財並だ。
離宮にある家具も凝ったデザインが多い。
長い間に何回も内装や配置換えをしたのか、折角の装飾が勿体ないことになっている。
前世でインテリア関係の仕事をしていた私は好きなように模様替えをして楽しんでいた。
イメージ通りの部屋が出来た時のこの快感。
久しぶりの達成感はなんとも爽快。
その他の時間は本を読んだり、勉強しながらのんびりとした日々を送っていた。
陛下も時々やって来ては、お茶を飲んで他愛ない話をして帰る。
王宮では相変わらず、ウェルダン侯爵失脚の後始末で忙しく過ごしているようだった。
「辺境に行くのはもう少し後になるよ。此処ではもう少し気楽な会話を楽しみたいんだ。」
陛下はそう言って今まであまり話した事の無いような話題を選んでいた。
「陛下から頂いた本を読みましたわ。今市井では料理も出来る男性がモテますのね。」
「あはは、私は出来ないから駄目だな。」
「私も王宮暮らしで何も出来ませんけど、本に出て来たフルーツのファンケーキは作ってみたくなりました。」
「そうか、食べてみたいな。」
「是非。」
好きな人にお菓子を作るのは楽しいだろう。
そう思って返事をする。
離宮で陛下と話すのは、帝都で流行しているファッションや売れている本、人気の歌劇など、何の政治的思惑もないことについて。
王宮で会う陛下とは違い、感情を隠す事無く愉しげに話す陛下を見ると、幼い頃に一緒に過ごした時間を思い出す。
あの頃は一緒に居るだけで幸せだった。
陛下と過ごした時間は思い出の中でも色鮮やかだ。
二人でいる時はいつも笑っていた。
もう何が面白かったのか覚えていない。
二人で見る景色は輝いて見えた。雨さえも楽しくて。
「お母さま、テオ様と一緒に花が咲いたら見る約束をしているの。お外に出てもいいかしら?」
「殿下が良いって仰るならいいわよ。気を付けてね。」
「はい。」
殿下の訪問日、雨なのに咲いた薔薇を一緒に見たくて、二人で手を繋いで庭に出た。
水溜まりを音を鳴らして歩く。水溜まりに雨がポタポタ落ちて波紋が広がる。その模様も、雨に濡れた土の匂いも、今でも鮮明に覚えている。
芝生の中、何が面白いのか二人で笑い転げた。
服や髪に芝生が付いても構うことなんてなかった。
小さな陛下は髪に絡まった草を取るのに苦労して困ったように笑う。
記憶の中の小さな陛下はいつも満面の笑み。
いつも小さな手を繋いで歩いていた。子供特有のその柔らかな温もり。
子供のクセに必ずエスコートしてくれる。その気取った仕草。
毎日が楽しく終わり、次の日に起きるのも楽しみで……。
失ってしまった夢の日々。
……いつからだろう。陛下と過ごす時間までが色褪せたのは……
私が感情の色を失くしたのは。
いつからか陛下との記憶を思い出すことさえ無かった。
どうして忘れてしまっていたのだろう。
思い出すのは柔らかな記憶と恋心。
房事の時とは違い、甘い睦言は無い。
なのに、この楽しい時間を共有する出来ることが、私に穏やかな幸福感をもたらす。
「ケイト、好きだよ。君だけだ。君だけを愛してる。」
幾夜も重ねられたこの言葉。
陛下の瞳は蕩けるように甘くて、与えてくれる快感は甘美で溺れてしまいそうになる。
いつも 必死で信じないように心を閉じてきた。
まるで人形のように……
あなたの妻であるために……
溺れてはならなかった……
だから、いつも、…辛くて…
今、離宮で過ごす時間はお日様のように暖かくて心地いい。
まるでゆっくり凍った心を溶かしてくれるよう…。
前世の記憶を取り戻した私には、古いこの離宮は興味深くて貴重なものが沢山あった。
今まで何の気なしに見ていた 柱の装飾にしても、全て職人の手作業だと思うとその価値に唖然とする。
「はぁ、この壁も素敵。細かい所までこんなに作り込んであるわ……。」
こんな素敵な装飾は文化財並だ。
離宮にある家具も凝ったデザインが多い。
長い間に何回も内装や配置換えをしたのか、折角の装飾が勿体ないことになっている。
前世でインテリア関係の仕事をしていた私は好きなように模様替えをして楽しんでいた。
イメージ通りの部屋が出来た時のこの快感。
久しぶりの達成感はなんとも爽快。
その他の時間は本を読んだり、勉強しながらのんびりとした日々を送っていた。
陛下も時々やって来ては、お茶を飲んで他愛ない話をして帰る。
王宮では相変わらず、ウェルダン侯爵失脚の後始末で忙しく過ごしているようだった。
「辺境に行くのはもう少し後になるよ。此処ではもう少し気楽な会話を楽しみたいんだ。」
陛下はそう言って今まであまり話した事の無いような話題を選んでいた。
「陛下から頂いた本を読みましたわ。今市井では料理も出来る男性がモテますのね。」
「あはは、私は出来ないから駄目だな。」
「私も王宮暮らしで何も出来ませんけど、本に出て来たフルーツのファンケーキは作ってみたくなりました。」
「そうか、食べてみたいな。」
「是非。」
好きな人にお菓子を作るのは楽しいだろう。
そう思って返事をする。
離宮で陛下と話すのは、帝都で流行しているファッションや売れている本、人気の歌劇など、何の政治的思惑もないことについて。
王宮で会う陛下とは違い、感情を隠す事無く愉しげに話す陛下を見ると、幼い頃に一緒に過ごした時間を思い出す。
あの頃は一緒に居るだけで幸せだった。
陛下と過ごした時間は思い出の中でも色鮮やかだ。
二人でいる時はいつも笑っていた。
もう何が面白かったのか覚えていない。
二人で見る景色は輝いて見えた。雨さえも楽しくて。
「お母さま、テオ様と一緒に花が咲いたら見る約束をしているの。お外に出てもいいかしら?」
「殿下が良いって仰るならいいわよ。気を付けてね。」
「はい。」
殿下の訪問日、雨なのに咲いた薔薇を一緒に見たくて、二人で手を繋いで庭に出た。
水溜まりを音を鳴らして歩く。水溜まりに雨がポタポタ落ちて波紋が広がる。その模様も、雨に濡れた土の匂いも、今でも鮮明に覚えている。
芝生の中、何が面白いのか二人で笑い転げた。
服や髪に芝生が付いても構うことなんてなかった。
小さな陛下は髪に絡まった草を取るのに苦労して困ったように笑う。
記憶の中の小さな陛下はいつも満面の笑み。
いつも小さな手を繋いで歩いていた。子供特有のその柔らかな温もり。
子供のクセに必ずエスコートしてくれる。その気取った仕草。
毎日が楽しく終わり、次の日に起きるのも楽しみで……。
失ってしまった夢の日々。
……いつからだろう。陛下と過ごす時間までが色褪せたのは……
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溺れてはならなかった……
だから、いつも、…辛くて…
今、離宮で過ごす時間はお日様のように暖かくて心地いい。
まるでゆっくり凍った心を溶かしてくれるよう…。
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