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6,側室達のワケ

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ミレーゼ視点
私はウェルダン侯爵家に生まれた。
幼い頃より私の美しさは社交界一と評され、魅了出来ない男性なんて居なかった。
私は美しい物が大好き。
初めて殿下に会った時、その美しさに心奪われた。しかも将来は皇帝陛下だ。この極上の男性こそ私に相応しい、そう思った。

それなのに、肝心の殿下は私に見向きもしない。皇太子時代から、婚約者との仲の良さは有名だった。

婚約者のケイト様は大人しい顔立ち。いつも薄く笑っていて気持ち悪い。感情があるのかしら?
あんな地味な女のどこが良いのかと思う。あんな女に負けているのかと思うと腹が立って仕方がなかった。

あんな地味な女に后妃なんて務まるものか!
皇后の称号は国一番の女性に与えられるべきだわ。あんな女が皇后の位についているのが我慢ならない。


そんな時、父から後宮に側室として上がるよう話があった。
後宮に入れば、もっと高価なドレスや宝石を買って美しく自分を飾る事が出来る。
ケイト様から陛下を堂々と奪える。

「ミレーゼ様ほどの美しさなら、陛下もご寵愛なさるに違いありませんわ。」
「そうね。ケイト様はさほど美しくないもの。」
私も侍女たちも、私がケイト様から陛下を奪うのは時間の問題だと考えていた。

「ミレーゼ、必ず陛下の一番の寵愛を受けるのだ。お前が引き立てられれば、我が家は勿論、派閥全体が強い影響力を持つことになる。」

「勿論ですわ。」

お父様にそう命じられ、後宮に入った。

けれど、陛下は私との閨房を避けた。
「私は失礼する。ミレーゼは此処で朝まで休むと良い。」
そう言い残し陛下は奥の部屋に消えていった。
ご丁寧に着替えも用意されている。

「ミレーゼ様、お疲れでしょう?今日はゆっくり休んでくださいませ。」

侍女達は私が陛下と閨を共にしたと疑いもしない。

「そう?ありがとう。休ませて貰うわね。」
本当のことなど言えない。

私のプライドは粉々だ。陛下は不能なのだろうか?

他の側室達と腹の探り合いをする日々。

この調子だと、ケイト様も陛下に抱かれていないに違いない。だから懐妊しないのだろう。

そう結論付けた私は、他の側室とは美しさで差を付けるため、自分を着飾る事に必死になった。

「ミレーゼ様、後宮の予算は限られています。女官長達が困っておりますわ。」

ケイト様に苦言を呈され頭に血が昇る。

「地味な物を好むケイト様と違って、私たちは陛下に喜んでいただけるよう、日々美しさを磨いておりますのよ。陛下だって美しい妃の方が良いに決まってますもの。」
ケイト様は私の嫌みにも表情を崩したりはしない。
「皇帝陛下は慈悲深く全ての妃に平等に寵愛を授けます。房事の日は順番に決まっているではありませんか。」
は?この女は陛下に抱かれているの?
この言い方では毎回抱かれているみたいだ。
そして、全員の側室が同じように抱かれていると信じているかのような口調。

悔しくて思わず唇を噛む。
血の味がした。

セリーヌ視点

私は幼い頃からテオパルド殿下が好きだった。
幼い頃から既にその美貌は飛び抜けていて、性格も優しく、文句の付けようのない完璧な王子様。

私は殿下に愛されたかった。 

私も婚約者の候補に上がっていたが、婚約者はケイト様に決まってしまった。
ケイト様に何かあれば、私が婚約者になれる。

そう思って、男を雇ったり、薬を盛ったりした。
私が依頼した組織は証拠を残さない事を最優先としており、失敗はしても捕まることはなかった。

殿下があまりに周囲を警戒するので、私の計画は成功することはない。
けれど、ケイト様の殿下に対する人形のような態度が腹立だしく、私はお父様の力を使ってケイト様を狙い続けた。

「ケイト、身の回りを充分警戒してくれ。」
陛下が心配そうに声を掛ける。
ケイト様はいつもの作り笑顔のまま。
「大丈夫ですわ。」
この人、どれだけ陛下に守られているのか全然気付いてもいない。
自分の幸運にも・・・
幼い頃から陛下に焦がれていた私には分かる。
陛下がケイト様に向ける表情は特別だ。
なのにそんな事にすら気付かない鈍さが憎くて仕方がなかった。

きっと陛下はケイト様以外とは閨を共にしていない。
他の側室は気付いているのだろうか?
ミレーゼ様が探りを入れてくるけどはぐらかしておく。

陛下の腕に抱かれたかった………。
殺したいほどのどす黒い感情が私を侵食する。

レイダ視点

私には好きな人がいた。
同じ伯爵家の子息のパトリックだ。
パトリックとは幼なじみで、婚約こそしていないがいずれ結婚するものだと思っていた。

しかし、父の友人のサムウェル公爵が事故で亡くなり、貴族の勢力図が大きく変わった。 
サムウェル公爵はケイト様の父親だ。

「すまない、レイダ。陛下の側室へ上がってくれないか?」
父の話によると、今陛下は批判的な貴族から上がった側室に囲まれて大変だそうだ。
父に言わせれば「あんな貴族に力を持たせたら財政が傾く」らしい。

皇后になると離縁出来ないが、側室は離縁出来るというし、元々私は貴族の娘だ。
政略結婚も心のどこかで覚悟していた。

「はい。お受けいたします。」
「本当に?」

自分から提案しておいて、情けない顔をする父に、私はにっこり微笑んだ。

「お父様、心配しないで。」

しかし、いざ後宮に入ると、その魔窟たるや凄まじい。

二人の側室は敵意を隠そうともしないし、ケイト様はいつもうっすら微笑んでいて何を考えているのか分からない。

房事の時に陛下が奥の部屋を使ってくれるのが有り難かった。
陛下は私が側室になることを望んでいないことを知っているのかもしれない。

いつかパトリックの元へ返してくれるかも。

そんなの叶わないかもしれないのに。

そんな思いで今日も過ごしている。



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