皇妃は寵愛を求めるのを止めて離宮に引き篭ることにしました。

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13,審判の儀

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テオパルド視点

皇妃であるセリーヌが護衛と睦み合っているところを発見され、王宮は大騒ぎになっていた。
セリーヌの持っていた媚薬は淫魔の秘薬と言われる薬物で我が国では厳重に取り締まられていた。
私はその薬を通常使用量の倍量飲ませていたようで、二人は王宮の衛兵が踏み込んでも離れようとせず、既にドロドロになっていたのを数人がかりで引き離したと聞いている。
二人はお互いの名前を呼び合い離れようとせず、相当暴れたようだ。

人が集まってしまったため、素っ裸のセリーヌを隠そうと、侍女が布を掛けても直ぐに払い落とし、ムンにすり寄るので大変だったと、女官長が疲れた顔で報告に来た。

淫魔の秘薬は我が国では使用も売買も死罪だ。

七代前の皇帝ランドルフはサリーヒ皇后の凶行に胸を痛め、側室達に使用された淫魔の秘薬の売買と使用を死罪とする法令を制定した。

既に売買の証拠も揃っている。

★☆★

審判の儀

淫魔の秘薬は依存性が高く、侍医の指導の下で別の媚薬が連日投与され、少しずつ減量されていった。
そうしないと、離脱症状で精神に異常をきたし、生涯人として尊厳ある生活は望めなくなる。

大勢の貴族の前にも関わらず、セリーヌは頬を上気させ、目は潤み身体を忙しなく揺らしていた。

静かな審判の間で、セリーヌの息づかいだけが、響いていた。
この場にはセリーヌと両親のアッポオウ伯爵夫妻がいる。
アッポオウ夫妻は娘であるセリーヌの様子を何とも言えない表情で見詰めている。

「セリーヌ・アッポオウ、そなたにケイト皇后への毒殺未遂及び誘拐未遂、ケイト皇后の両親であるサムウェル公爵夫妻の殺害、陛下への薬物強要、禁止薬物の売買の容疑が掛かっている。」

査問官の無機質な問いにセリーヌは途切れながらも、素直に答えた。
「……はい。私が…計画しました。…お父様に頼んで、…ビロット街のシセ通りにある武器屋の地下に………暗殺を請け負う…ノニと言う組織との連絡役が住んで……。そこで…暗殺を依頼しました。」

媚薬に侵された彼女は何の抵抗も無く、スラスラと共犯者の名前を口にした。

「誰の暗殺を依頼した?」

「サムウェル公爵夫妻と、ケイト様の毒殺。毒殺が失敗したので誘拐して娼館に売るように。」 

娼館という言葉を聞いて、議場がざわざわとする。

ざわめきが広がる前に直ぐに声を上げる。

「誘拐は失敗したようだ。娼館の女将も証言に来ている。女将をここへ。」

娼館の女将が入ってくる。

「はい。ケイト様のような女性は見たことがありません。あの日は客以外誰も来ていません。」

セリーヌは誘拐の成否を知らない。

「…あの男。失敗したのね。売られれば良かったのに……。」

セリーヌ様の呟きを聞いて、皆が誘拐は失敗したと思っているようだった。

私は心の中でほっと息を吐いた。
ケイトは皇后としてのいつもの表情でセリーヌを見下ろしていた。
感情の読めない冷たい表情。

「ケイト皇后への誘拐、毒殺。その他にも色々しているな。どうして執拗に狙った?」

セリーヌがケイトの方をキッと睨む。
その表情は先ほどまでのどこか夢見心地な様子とはガラリと変わっていた。

 「あの女が!陛下の寵愛を一身に浴びるあの女が憎かった!」

ケイトに向かって憎しみをぶつけるように言葉を吐く。
減量しているとはいえ、媚薬が身体に残っているセリーヌは興奮しやすい。怒りで興奮した彼女の言葉は先ほどまでの様子とは打って変わって滑らだ。
感情を取り繕うこと無く、ケイトに向ける。

「それでは、陛下への薬物強要について。どうして行った?」 
「…父の周辺を陛下が調べていたので。もう後宮に居れないと思って、最後に抱いて貰おうと。」

「淫魔の秘薬は我が国では売買すると死罪だ。知っておるな。」

セリーヌは驚いたように査問官を見る。

「…いいえ?」
「そうか。何故そんな強い薬を?」
「だって、陛下が抱いてくださらないから。」

セリーヌは再びケイトを睨み付ける。

「どうしてあなたばっかりが陛下に愛されるの!あなたなんて陛下のことたいして好きじゃ無いくせに!いつも仮面のように笑って。私の方がずっと好きだわ!あなたなんて死ねばいいのよ!」

我を忘れたように怒鳴り散らす。

「今まで沢山あなたを狙ったわ!なのにいつも陛下に助けられて。知らないんでしょう?陛下がどんなに苦労して守っているか!!あなたなんて陛下に相応しくない!!」

薬のせいで、感情が高ぶり易くなっている。

ケイトはセリーヌを痛ましげに眺めていた。

嫉妬という感情はこんなにも判断力を喪わせてしまう物なのか………。
ケイトがお妃教育で教えられたと言っていた。

「げに賎しきは嫉妬なり」

この言葉を思い出す。サリーヒ皇后もセリーヌも嫉妬で全てを失った。大勢の人を巻き込んで。

此処に彼女の護衛だったムンはいない。正気を取り戻した時に衛兵の一瞬の隙を付き、自害してしまったのだ。

今、彼女からはムンを巻き込んだ事への謝罪や後悔は聞かれない。

セリーヌの口から出てくる王宮に潜む共犯者の名前。彼女は自分の欲望の為にどれだけの人を巻き込んだのか。

「陛下、私陛下に愛されたかった!ケイト様になりたかった!どうして作り笑いばかりのケイト様ですの?私じゃ駄目だったんですの?どうして、どうして、」
セリーヌは髪を振り乱し号泣しながら、衛兵に連れられていった。

セリーヌの自供により、王宮内の敵対勢力は一掃され、セリーヌとアッポオウ伯爵は死罪を言い渡された。
夫人は犯罪との関わりは薄く、生涯を修道院で過ごす事になった。


    
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