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1,毒を盛られました

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「うっっ………。」

ぽと……ぽと…ぽと…
白い床に深紅の滴りが落ちて水玉模様をつくる。
……?何?
ストン………幕が降りたかのように急に目の前が暗くなった。
ドタン!!

「ケイト様?」
「……。」

「キャーーーー!!ケイト様!!!誰かーーー。」

バタバタバタ…

「どうした!!」
「ケイト様が……これを飲んだ途端苦しみ出して…あっ!」
「毒だ!!!この場にいる全員を確保しろ!!」

侍女や護衛達の騒ぐ音を聞きながら、私は床に倒れて、意識を失った。

・・・・・

私は夢の中にいた。
夢の中の私は、ここよりずーっと発展した国に住んでいた。
見たこともない服を着て、よく分からない道具を持って歩いている。
・・・確か・・・スマホ??
一人で街の中を歩き、自分でお金を払って必要な物を買う、そんな暮らしをしているようだった。
一言で言えば、質素…そして自由。

命の危険の少ない世界で、私は好きな場所に行って、好きな物を購入して食べている。
値段を気にして…それでも自分の欲しい物を懸命に選んでいる。
小さな部屋に一人で住んで、少しだらしない姿勢で食べ物を食べて…。周囲に人はいない。それでも寂しくなんてなかった。

仕事に行くのは少し嫌そう。
でも職場に行けば周囲の人たちと楽しそうに談笑している。そこには駆け引きなんて無く、少し下品な笑い声を上げている私が居た。

・・・ああ、ここは私が以前住んでいた世界。

懐かしさで胸の奥がもぞもぞするような擽ったさを感じる。
涙が出る前みたいに少しツンとする。

これは郷愁だ。決して戻れない日々…。

そんな事を考えたり、前世の細かな事を思い出したり、ふわふわして時間の感覚も無く、夢の世界を彷徨っていた。


どれくらい時間が経ったのだろう?

ふと周囲の声が耳に入った。

「もう、熱も下がりました。あとは、意識を取り戻すのを待つしか……。」
よく知る侍医の声。

重い目蓋を開くと、霞んだような朧気な景色が目に入った。
そこには、心配そうに私を覗き込む陛下の顔が………。

「…陛下…?」
少し目を開けただけで、目蓋が重い。
「大丈夫だ。よく休んでくれ。」
優しい表情で、私を安心させるように微笑む。
目の周りが赤い?
「心配かけて申し訳あ…り…ません。」
私は再び深い眠りについた。

★☆★

再び目を覚ました時には、喉が張り付いたように痛み、頭痛と吐き気があって酷く気分が悪かった。

少しずつ食べれる物を口にしながら、侍医の診察を受け、体調が完全に回復したのは20日程経ってからだ。

毎日、見舞いで様子を見に来ていた陛下から、毒を盛った犯人について詳細を聞いた。

「犯人は最近入ったタマラという侍女だった。タマラは実家への援助と引き換えに犯行に及んだそうだ。しかし、裏で誰が糸を引いていたのかまでは判明していない。タマラに指示を出したのがゲッペン伯爵というところまでは判明したのだが……。既に犯行に関わった者の処分は終わっている。すまぬ、まだ安心は出来ない。身の回りは精到に警戒してくれ。」

 陛下は私の髪を梳きながら固かった表情をほんの少し緩めた。
その表情は、私と二人だけの時に見せる表情。

「良かった。ケイトが無事でいてくれて。生きた心地がしなかった。」

幼い頃から婚約者として沢山の時間を共に過ごしてきた。
本当に心配してくれていたのだろう。眉が下がった表情は、彼が皇帝陛下だと忘れてしまいそうな程頼りなげだ。
情はあるのだと思う。

例え、私だけに向けた愛ではなくても………。

彼は部屋を出ていく時に
「私の護衛騎士と信頼出来る侍女を派遣する。何かあったら私を頼りなさい。何度も言っているが、些細な事でも相談して欲しい。一人で解決しようとしないこと。」

そう念を押して去っていった。

タマラは私が独断で入れた侍女だ。
確かにゲッペン伯爵から紹介された。
「タマラは家が困窮しておりまして、30も年上の田舎の子爵に嫁ぐよう、親に強制され、困っているんです。どうか、ケイト様のお側に。匿っていただけませんか?」

「陛下は心優しいお人柄。慈悲は全ての人に向けられます。きっと窮状を理解してくれますわ。」

そんな風に軽く考え、侍女に迎えてしまった。

「私の落ち度で陛下にご負担をかけてしまったわ。」

前世の記憶を取り戻してみると、今まで私はなんて危なっかしい生活をしていたんだと愕然とする。
襲われそうになったり、拐われそうになったり、刺されそうになったり……。
全て、陛下の護衛が踏み込んで助けてくれた。
だいたい、ゲッペン伯爵なんて信用出来るような人柄じゃない。
いつも口髭を撫で厭らしい笑みを浮かべる貧相な伯爵を思い浮かべた。
私、どうして信用したのだろう?

「今までも狙われてきたよね?どうして気づかなかったのかな?」

箱入り娘っていっても無防備すぎない?
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