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3.フィーネ登場
しおりを挟む「オースティンさまっ!!」
部屋に入って来たのはフィーネ。
丸くて少し垂れた目に涙をいっぱい浮かべている。
今までの俺なら、『こんなにも心配して……。なんてフィーネは愛らしいんだっ!!』なんて思っていただろう。
でも今は違う。
エヴェリーナを押し退けてフィーネが先に入ってくるなんて……。
序列を無視してるのか?
「誰の許可を得てこの部屋へ?」
思ったよりも冷ややかな声が出た。
前世の俺ならこんな言い方は出来なかっただろう。
けれど、王族として長年暮らしてきた今の俺には尊大な物言いが染み付いていた。
「えっ?あ……オースティンさま?」
俺の反応が理解出来ないのか、フィーネは戸惑った表情で首をコテンと傾げた。
「フィーネ、すまないが後宮には後宮の仕来たりがある。見舞いには正室から順に訪れることになっているはずだ。」
「え……。」
「来たばかりだから分からない事も多いだろう。きちんとエヴェリーナに教えて貰うといい。彼女が後宮の主だ。」
「え?私が後宮を仕切っていいって……。」
「ああ、すまない。その話は忘れてくれ。俺が間違っていた。正室であるエヴェリーナが後宮の主だ。彼女の指示に従って、くれぐれも順序を間違えることのないように。弁えた行動をしてくれ……。」
「は、はあい。」
彼女は全然納得していないような表情。俺への見舞いの言葉も言わず、首を捻りながら部屋を出ていった。
愛妾として後宮に上がる前から、フィーネはエヴェリーナの目の前で見せつけるように俺を誘惑してきた。
その行為が、どんなに正室であるエヴェリーナを侮辱していたか、……今なら分かる。
きっとエヴェリーナに対しても挑発的な態度なのだろう。
「ジュールっ!!。」
俺はベルを鳴らし、部屋の外に控えているであろう侍従を呼び寄せた。
「はい。お呼びですか?」
「ああ、今エヴェリーナを差し置いてフィーネが部屋へと入ってきた。本来なら見舞いには正室から訪れるべきであろう?これからは正室であるエヴェリーナを蔑ろにしないよう頼む。
今まで俺は間違っていた。隣国から嫁いできてくれたエヴェリーナをあんな風に扱うべきでは無かった。これからは俺も気を付けるがお前も配慮してくれ。」
「はぇー」
ジュールは口をあんぐり開けて、間抜けな顔で俺を見る。
ナニ、その態度?
揶揄っているのかな?
幼馴染でもあるジュールは俺に対して昔からの気安い態度が抜けない。
「なんだ?」
「やっと目が覚めてくれましたね。……いやあー良かったですよ。女に入れあげて国を滅ぼす勢いでしたからね。」
「おま……。分かってたんなら注意してくれよ。」
「何度も言いましたよ。聞く耳持たなかったのは陛下じゃないですか。国王の重圧とか何とか言って、後宮に側室やら愛妾やら……何人入れるのかと思いましたもん。」
「す、すまない。……俺は心を入れ替える。これからはエヴェリーナと心を通わせるよう努力する。お前も手伝ってくれるか?」
「えーー。難しいんじゃないですかねー。王妃様も陛下に冷たいじゃないですか。」
「い、いや。そんな事はないと………思う。
色々気を遣ってくれてるし………。」
「そうですか……?蛆虫を見るような目で陛下のことを見てますよ。」
う、蛆虫?
そんな酷い目で俺を見てたの?
「そ、そうか。蛆虫か…………。なあ、間に合うと思うか?」
「何がですか?」
「今さらだが、エヴェリーナと仲良し夫婦になりたいんだ。」
「もう手遅れじゃないですかね。陛下の態度は酷かったですもん。」
「……そうだよな。」
「まあ、頑張ってくださいよ。国の将来も掛かっていますしね。協力はしますよ。蛆虫からペットぐらいにはなれるといいですね。」
ペット……。
まあ、蛆虫よりはマシか……。
こいつ、不敬だよな?
「ああ、ありがとう。」
「では、早速、王妃様を呼んで来ますね。さっき王妃様がこの部屋へ入ろうとしたらフィーネさまが『私がお見舞いした方が陛下はお喜びになるわ。』って言って強引に割り込んだんですよ。」
フィーネならあり得る話だ。
彼女は正室であるエヴェリーナより高価なドレスや宝飾品を身に付けたがり、彼女の目の前でわざとらしく俺に身体を擦り寄せる。
彼女の本質は欲深くプライドが高い。
「フィーネは図々しいな。そんなことをしたのか……。これからはエヴェリーナを優先してくれ。彼女に対する側近たちの態度も改めてもらわないと……。ここにエヴェリーナを呼んでくれないか。少し話をしたい。」
「御意。」
ジュールはわざとらしく大袈裟に頭を下げて部屋を出ていった
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