戦略的過保護のち溺愛

文字の大きさ
上 下
29 / 29

お母さんは心配です

しおりを挟む
「母さん、荷物を持って庭を歩いちゃ駄目って行ったよね?」
私は今、9歳の次男に叱られている。
この次男、お父さんを含めた我が家で一番のしっかり者だ。
私は現在妊娠6ヶ月。次男アイルの出産が思いの外大変で、次男出産以降は避妊薬を飲んできた。 
しかーし、あの赤ちゃんのスベスベプリプリふにゃふにゃが忘れられず、もう一度出産したいとユーリーに懇願すること数年、現在の妊娠にたどり着いた。
「アイル、荷物って言っても小さなバスケット一つよ。」
「駄目だよ。転んだときに咄嗟に手を付いて身体を庇えないのが問題なんだ。」
「アイル、お母さんそんなに転ばないよ?」
「母さんは危なっかしいんだよ。」
私からバスケットを奪うともう片方の手で彼なりのエスコートをしてくれる。
「僕のリズがいるんだ。気を付けてね。」
この次男はもう既にお腹の子の愛称を決めてしまった。女の子と確信しているらしい。

庭でサンドイッチを食べてお茶を飲んでゆっくり過ごそうと思っていたのに、
「お腹が冷えないうちに家に戻ろう。」
口煩い次男はさっさと片付けてしまった。
14歳になるレックは騎士団の練習場で稽古をしてもらうと出掛けている。レックはお父さんが大好きだ。
私が心配だとここに残っている次男の過保護は、ユーリーやレックを凌ぐレベルだ。
私が妊娠を告げた翌日には侍医を講師として、妊婦生活の心得を聞いてきた。
ふと心配になり次男に釘を刺す。
「お腹の子が女の子でもアイルはお兄ちゃんだから結婚出来ないよ。」
「母さん、そんな事分かってるよ。」
「妹の結婚の邪魔しちゃ駄目よ。」
「分かってるって。僕も好きな人がいるからね。」
「えっ?好きな人いるの?」
「当然だよ。今度紹介できるかなぁ?待っててね。今囲い込みを図ってるんだっ!」
そんな明るく言われても。今囲い込みって言葉使ったわよね?
「囲い込み?」
「うん?周りの人に協力してもらおうと思って。大事だよね?外堀を埋めるの。僕その子が居ないとどうにかなっちゃいそうで。」
うちの子ヤンデレ?ヤンデレなの?
でもまだ9歳だし、友人の協力とか可愛い意味かしら?
「逃げ道を塞いでおいた方が安心でしょ?」
ユーリー、帰って来てお願い。うちの子怖い。

★☆★

夜ユーリーに昼間のアイルとの会話を相談した。
「大丈夫だよ。年頃の男の子には良くあることさ。私の所にはレックが相談に来たこともあるよ。」
えー我が家でヤンデレって標準装備なの?
「その子が居ないとどうにかなっちゃいそうって大丈夫かな?」
「ははは、サラは心配性だなぁ。」
ユーリーは私の肩に顔を埋めると短く溜め息を吐く。
「私もサラが居ないと狂ってしまいそうだ。」
「そうなの?」
「そうだよ。だからね、アイルには私から話を聞いておくよ。逃げられ無いようにした方が安心だからね。」
私の心配はユーリーには伝わらなかったらしい。
「アイルは賢い子だから、大丈夫だよ。」
だから、その賢さも心配なんですって!あんまり話が通じないので話題を変える。
「私、アイルに軽い運動するよう言われたの。」
「へぇ?危なく無いかい?」
「アイルが付き添ってくれる時間帯に庭で歩く計画らしいの。アイルの出産の時に難産だったのは私の運動不足が原因で体力が無かったんですって。」
「凄いね。そんな事も勉強したんだ。でもアイルの付き添いだけじゃ、転んだときに支えきれないな。」
いえ、転ばないですから。
「走ると転ぶからね。走っちゃ駄目だよ。そういえば、思い出した。浴室って滑るから心配だったんだ。今日から毎日一緒にお風呂に入るよ。」
えっ?恥ずかしいんですけど。
「恥ずかしいし、嫌よ。」
「駄目だよ。サラとリズの安全の為にも、ねっ。」
私はこうして毎日一緒にお風呂に入ることに同意させられた。

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...