戦略的過保護のち溺愛

文字の大きさ
上 下
13 / 29

13.

しおりを挟む
お茶会には8人の有力貴族のご婦人が招かれていた。

「皆様、今話題のワルクーレ公爵様の想い人のサラルーリー・インヒィア様ですわ。今酷い噂が拡がっていて、お可哀想で…。まるで陛下が無理やり婚約させるような事を仰る方も居るんですのよ。」
リリィは瞳を悲しげに伏せる。その瞳を縁取る睫が揺れて美しい。
「私の義姉となる方です。とても親しみやすくてわたくし大好きになりましたの。」
皇妃にそう紹介され、ご婦人方の視線が好意的なものになる。

お茶会では、多くの婦人と交流を深めた。特にフリンジ侯爵婦人、ケップラー伯爵婦人のご主人は宰相、魔導師団長で夫同士の仲が良いそうだ。

社交界での友人が出来てじわりじわりと安心感が広がるのが分かる。

知らない地で社交界に出るのが怖かったのだと今更ながら思う。女同士の会話が楽しい。


お茶会でも各々の会話が弾んで来た頃、入り口でガヤガヤと声がした。

「アリ!」
「ジル!」
「クルー!」
庭園の入り口を見ると4人の男性がこちらに歩いて来る。なんだか揉めているようだ。
「サラルーリー嬢、こいつが君の事が心配でお茶会に顔を出すって聞かないんだ。」
皇帝陛下の突然の登場に場内は騒然としている。
ユーリーは気まずそうに顔を背けている。シュンと垂れた耳が見えるような気がする。
「ユーリー、ありがとう。心配してくれて嬉しいわ。」
「そっそうか。サラはこういう場は慣れないと思って…。」
ユーリーは安心したように僅かに口許を緩める。
「まぁ、ワルクーレ公爵様お久しぶりでございます。」
一人のご婦人がユーリーの元に近づいてくる。ユーリーはご婦人と距離を取るように一、二歩下がり繕った笑顔を浮かべる。
「ボロビッチ伯爵婦人お久しぶりでございます。」
ボロビッチ伯爵婦人は四十台位の落ち着いた婦人だ。
「まだ、女性嫌いは健在ですのね。」
「この男の無粋な振る舞いはご容赦ください。」
アリセント皇帝陛下が割って入る。
「ワルクーレ公爵様の女性嫌いは有名ですもの。気にしませんわ。それよりも、サラルーリー様は大丈夫ですのね?どうしてかしら?」
いたずらっぽい口調でボロビッチ伯爵婦人が微笑む。
「えー、はじめて会った時からでしたから、理由までは…」
ユーリーが言葉を濁すと見ていたご婦人から
「一目惚れですのねー」
「あらまあ、ご馳走さま。」
「運命かしら。」
「まあー素敵ね。」
ほうっと溜め息と共に憧憬の声が聞こえる。
ユーリーも羞恥を感じたのが顔が紅潮し、貴族の仮面が剥がれている。
ユーリーの側に駆け寄り耳元に顔を寄せて
「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。皆様とても親切よ。」と伝えると
口を手で覆い顔を背けて「そうか。」
と言って男性陣を連れて退出していった。
「ワルクーレ公爵のあんなお顔初めてみましたわ。」
「とても純情な方で意外にお可愛らしいのね。」
「こんな所まで来るなんて……噂と違って溺愛してらっしゃるのね。」
「見ました?サラルーリー様に耳打ちされた時真っ赤になっていましたわ。」
ご婦人達はユーリーの態度を思い出し、感想を話して盛り上がっている。
それを聞いている私も恥ずかしくなり俯いていると、「まぁ、うふふ、なんて初々しいお二人なのかしら……。ついつい応援したくなっちゃうわね。」
フリンジ侯爵婦人が他のご婦人方に同意を求める。
皆様「そうね。」と仰りながら私に生温かい視線を向けている。恥ずかしい…
居心地悪くなりながらも必死で皆様のアドバイスを耳を傾けていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

処理中です...