戦略的過保護のち溺愛

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お茶会には8人の有力貴族のご婦人が招かれていた。

「皆様、今話題のワルクーレ公爵様の想い人のサラルーリー・インヒィア様ですわ。今酷い噂が拡がっていて、お可哀想で…。まるで陛下が無理やり婚約させるような事を仰る方も居るんですのよ。」
リリィは瞳を悲しげに伏せる。その瞳を縁取る睫が揺れて美しい。
「私の義姉となる方です。とても親しみやすくてわたくし大好きになりましたの。」
皇妃にそう紹介され、ご婦人方の視線が好意的なものになる。

お茶会では、多くの婦人と交流を深めた。特にフリンジ侯爵婦人、ケップラー伯爵婦人のご主人は宰相、魔導師団長で夫同士の仲が良いそうだ。

社交界での友人が出来てじわりじわりと安心感が広がるのが分かる。

知らない地で社交界に出るのが怖かったのだと今更ながら思う。女同士の会話が楽しい。


お茶会でも各々の会話が弾んで来た頃、入り口でガヤガヤと声がした。

「アリ!」
「ジル!」
「クルー!」
庭園の入り口を見ると4人の男性がこちらに歩いて来る。なんだか揉めているようだ。
「サラルーリー嬢、こいつが君の事が心配でお茶会に顔を出すって聞かないんだ。」
皇帝陛下の突然の登場に場内は騒然としている。
ユーリーは気まずそうに顔を背けている。シュンと垂れた耳が見えるような気がする。
「ユーリー、ありがとう。心配してくれて嬉しいわ。」
「そっそうか。サラはこういう場は慣れないと思って…。」
ユーリーは安心したように僅かに口許を緩める。
「まぁ、ワルクーレ公爵様お久しぶりでございます。」
一人のご婦人がユーリーの元に近づいてくる。ユーリーはご婦人と距離を取るように一、二歩下がり繕った笑顔を浮かべる。
「ボロビッチ伯爵婦人お久しぶりでございます。」
ボロビッチ伯爵婦人は四十台位の落ち着いた婦人だ。
「まだ、女性嫌いは健在ですのね。」
「この男の無粋な振る舞いはご容赦ください。」
アリセント皇帝陛下が割って入る。
「ワルクーレ公爵様の女性嫌いは有名ですもの。気にしませんわ。それよりも、サラルーリー様は大丈夫ですのね?どうしてかしら?」
いたずらっぽい口調でボロビッチ伯爵婦人が微笑む。
「えー、はじめて会った時からでしたから、理由までは…」
ユーリーが言葉を濁すと見ていたご婦人から
「一目惚れですのねー」
「あらまあ、ご馳走さま。」
「運命かしら。」
「まあー素敵ね。」
ほうっと溜め息と共に憧憬の声が聞こえる。
ユーリーも羞恥を感じたのが顔が紅潮し、貴族の仮面が剥がれている。
ユーリーの側に駆け寄り耳元に顔を寄せて
「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。皆様とても親切よ。」と伝えると
口を手で覆い顔を背けて「そうか。」
と言って男性陣を連れて退出していった。
「ワルクーレ公爵のあんなお顔初めてみましたわ。」
「とても純情な方で意外にお可愛らしいのね。」
「こんな所まで来るなんて……噂と違って溺愛してらっしゃるのね。」
「見ました?サラルーリー様に耳打ちされた時真っ赤になっていましたわ。」
ご婦人達はユーリーの態度を思い出し、感想を話して盛り上がっている。
それを聞いている私も恥ずかしくなり俯いていると、「まぁ、うふふ、なんて初々しいお二人なのかしら……。ついつい応援したくなっちゃうわね。」
フリンジ侯爵婦人が他のご婦人方に同意を求める。
皆様「そうね。」と仰りながら私に生温かい視線を向けている。恥ずかしい…
居心地悪くなりながらも必死で皆様のアドバイスを耳を傾けていた。
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