戦略的過保護のち溺愛

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今日はダンスの練習だ。
姿勢をキープする事やドレス、靴にも慣れてやっとゆっくり踊れるようになった。

一度、ユーリーと踊った方が良いとダンスの講師に言われ、ユーリーが今日都合をつけてくれたのだ。

「……。」
部屋の入り口でユーリーが口許を手で覆い固まっている。
「どうしました?中へ入っては?」
ユーリーに部屋へ入るよう促す。
「初めてドレス姿を見たので……。」ユーリーが顔を背けたままボソボソ話す。
本番と同じような格好で踊ることに慣れるため、今日はドレスを着用している。

「ワルクーレー公爵様、照れていてはいけません。褒めてください。」
ダンス講師であるチャモスキーの指摘にユーリーは張り付けた笑みを浮かべた。
「今日の貴女は何て素敵なんでしょう。この輝きには冬の夜空の星達も霞んでしまいます。」

ユーリーに差し出された手を取りホールドを取る。
ぎこちない微笑みを浮かべるユーリー。
「その微笑みは正直慣れないの。普通には出来ない?」
瞬間、彼の微笑みが崩れ火が出そうな程顔を紅潮させ、そのまま固まって動かなくなった。
「もしかして……作り笑顔を保っていないと動けないの?」
真っ赤な顔のまま頷く。
「それでは貴族用の微笑みをお願い。」

再び彼は張り付けた笑顔を浮かべ踊り出した。彼のリードは力強く正確で、正直講師より上手いのでは?と思うレベルだった。
近い距離で彼の息づかいや体温まで感じると、私も鼓動が跳ね上がるのが分かる。

ダンスが終わり身体を離すと彼の微笑みがスッと消え、また目を反らされた。

目を反らしたままで
「ダンスは今までで一番楽しかった。上手く踊れていたと…思う。」
そう言う彼の耳は真っ赤に染まっていた。

チャモスキー先生は意味ありげに微笑み「公爵様に春が来た、と皆が騒ぐ筈ですね。公爵様は照れさえなければダンスの名手です。お二人で練習してください。」
そう言ってさっさと部屋を後にした。

ダンスの練習の時間はまだある。どうするの?という思いを込めてユーリーを見ると、苦々しい顔で
「チャモスキーめっ。二人でどうすれば……。」ぶつぶつ文句を言っている。

「ユーリー、苦手なターンを練習したいの?いい?」
そう尋ねるとユーリーはニッコリ微笑み「喜んで。」と手を差し出してくれた。
長い期間彼と共に過ごすなら、貴族仕様以外の彼にも慣れて貰いたいので
「ユーリー、誰もいないからその貴族仕様の微笑みは止めて素の貴方で接して欲しいわ。」とお願いしてみた。
ユーリーは顔を背け「君が不快でないなら。」と了承してくれた。
無言のまま二人でターンの練習を繰り返し行う。ダンスの間ついぞ目を合わせる事の無かった彼に問う。
「私ってそんなに見るに耐えない?」
「い、いや、逆と言うか……。美…しいと思う…。」
そうしてユーリーは少し考えた後
「後で話がある。」と言った。
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