9 / 29
9.
しおりを挟む
今日はダンスの練習だ。
姿勢をキープする事やドレス、靴にも慣れてやっとゆっくり踊れるようになった。
一度、ユーリーと踊った方が良いとダンスの講師に言われ、ユーリーが今日都合をつけてくれたのだ。
「……。」
部屋の入り口でユーリーが口許を手で覆い固まっている。
「どうしました?中へ入っては?」
ユーリーに部屋へ入るよう促す。
「初めてドレス姿を見たので……。」ユーリーが顔を背けたままボソボソ話す。
本番と同じような格好で踊ることに慣れるため、今日はドレスを着用している。
「ワルクーレー公爵様、照れていてはいけません。褒めてください。」
ダンス講師であるチャモスキーの指摘にユーリーは張り付けた笑みを浮かべた。
「今日の貴女は何て素敵なんでしょう。この輝きには冬の夜空の星達も霞んでしまいます。」
ユーリーに差し出された手を取りホールドを取る。
ぎこちない微笑みを浮かべるユーリー。
「その微笑みは正直慣れないの。普通には出来ない?」
瞬間、彼の微笑みが崩れ火が出そうな程顔を紅潮させ、そのまま固まって動かなくなった。
「もしかして……作り笑顔を保っていないと動けないの?」
真っ赤な顔のまま頷く。
「それでは貴族用の微笑みをお願い。」
再び彼は張り付けた笑顔を浮かべ踊り出した。彼のリードは力強く正確で、正直講師より上手いのでは?と思うレベルだった。
近い距離で彼の息づかいや体温まで感じると、私も鼓動が跳ね上がるのが分かる。
ダンスが終わり身体を離すと彼の微笑みがスッと消え、また目を反らされた。
目を反らしたままで
「ダンスは今までで一番楽しかった。上手く踊れていたと…思う。」
そう言う彼の耳は真っ赤に染まっていた。
チャモスキー先生は意味ありげに微笑み「公爵様に春が来た、と皆が騒ぐ筈ですね。公爵様は照れさえなければダンスの名手です。お二人で練習してください。」
そう言ってさっさと部屋を後にした。
ダンスの練習の時間はまだある。どうするの?という思いを込めてユーリーを見ると、苦々しい顔で
「チャモスキーめっ。二人でどうすれば……。」ぶつぶつ文句を言っている。
「ユーリー、苦手なターンを練習したいの?いい?」
そう尋ねるとユーリーはニッコリ微笑み「喜んで。」と手を差し出してくれた。
長い期間彼と共に過ごすなら、貴族仕様以外の彼にも慣れて貰いたいので
「ユーリー、誰もいないからその貴族仕様の微笑みは止めて素の貴方で接して欲しいわ。」とお願いしてみた。
ユーリーは顔を背け「君が不快でないなら。」と了承してくれた。
無言のまま二人でターンの練習を繰り返し行う。ダンスの間ついぞ目を合わせる事の無かった彼に問う。
「私ってそんなに見るに耐えない?」
「い、いや、逆と言うか……。美…しいと思う…。」
そうしてユーリーは少し考えた後
「後で話がある。」と言った。
姿勢をキープする事やドレス、靴にも慣れてやっとゆっくり踊れるようになった。
一度、ユーリーと踊った方が良いとダンスの講師に言われ、ユーリーが今日都合をつけてくれたのだ。
「……。」
部屋の入り口でユーリーが口許を手で覆い固まっている。
「どうしました?中へ入っては?」
ユーリーに部屋へ入るよう促す。
「初めてドレス姿を見たので……。」ユーリーが顔を背けたままボソボソ話す。
本番と同じような格好で踊ることに慣れるため、今日はドレスを着用している。
「ワルクーレー公爵様、照れていてはいけません。褒めてください。」
ダンス講師であるチャモスキーの指摘にユーリーは張り付けた笑みを浮かべた。
「今日の貴女は何て素敵なんでしょう。この輝きには冬の夜空の星達も霞んでしまいます。」
ユーリーに差し出された手を取りホールドを取る。
ぎこちない微笑みを浮かべるユーリー。
「その微笑みは正直慣れないの。普通には出来ない?」
瞬間、彼の微笑みが崩れ火が出そうな程顔を紅潮させ、そのまま固まって動かなくなった。
「もしかして……作り笑顔を保っていないと動けないの?」
真っ赤な顔のまま頷く。
「それでは貴族用の微笑みをお願い。」
再び彼は張り付けた笑顔を浮かべ踊り出した。彼のリードは力強く正確で、正直講師より上手いのでは?と思うレベルだった。
近い距離で彼の息づかいや体温まで感じると、私も鼓動が跳ね上がるのが分かる。
ダンスが終わり身体を離すと彼の微笑みがスッと消え、また目を反らされた。
目を反らしたままで
「ダンスは今までで一番楽しかった。上手く踊れていたと…思う。」
そう言う彼の耳は真っ赤に染まっていた。
チャモスキー先生は意味ありげに微笑み「公爵様に春が来た、と皆が騒ぐ筈ですね。公爵様は照れさえなければダンスの名手です。お二人で練習してください。」
そう言ってさっさと部屋を後にした。
ダンスの練習の時間はまだある。どうするの?という思いを込めてユーリーを見ると、苦々しい顔で
「チャモスキーめっ。二人でどうすれば……。」ぶつぶつ文句を言っている。
「ユーリー、苦手なターンを練習したいの?いい?」
そう尋ねるとユーリーはニッコリ微笑み「喜んで。」と手を差し出してくれた。
長い期間彼と共に過ごすなら、貴族仕様以外の彼にも慣れて貰いたいので
「ユーリー、誰もいないからその貴族仕様の微笑みは止めて素の貴方で接して欲しいわ。」とお願いしてみた。
ユーリーは顔を背け「君が不快でないなら。」と了承してくれた。
無言のまま二人でターンの練習を繰り返し行う。ダンスの間ついぞ目を合わせる事の無かった彼に問う。
「私ってそんなに見るに耐えない?」
「い、いや、逆と言うか……。美…しいと思う…。」
そうしてユーリーは少し考えた後
「後で話がある。」と言った。
54
お気に入りに追加
5,296
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる