戦略的過保護のち溺愛

8.

公爵家に来て半年。栄養状態が改善された私は一気に背が伸び体つきもふっくらしてきた。そして時々しか無かった月のものも定期的に来るようになった。

「旦那様、サラルーリー様の体型が随分変わられたので、新しいワンピースを仕立てては如何ですか？」
レイルとココットが朝の旦那様の見送りの時にそう進言した。
旦那様が振り返ってしみじみとした様子で私を眺め、そして私と目が合うとさっと反らせた。
「そうだな。」顔をココットに向けて私の事は見ずにユーリーは答えた。
「ユーリー、まだ体型が変わるから、勿体ないしもう少し大丈夫よ。」
「いや。サイズの合わない服で体調を崩したら大変だ。レイル、ココット頼むよ。それから、アクセサリーも揃えて。あまり大きな石の付いたものは重くて肌が擦れて赤くなる。小さくて可愛いデザインがいいな。」
そう言い残してユーリーは仕事に向かった。
「旦那様はサラ様の事をよく見ていますね。びっくりですわ。」
ココットが生暖かい目で見てくる。
「サラルーリー様はどんどん美しくなられるので、私楽しみで…」
レイルはわきわきして張り切っている。
レイルはお洒落が好きで私を飾り付けるのを楽しんでいる。
私は申し訳なく思いながらも彼女達に従った。

☆★☆

今日は庭園の一角に私用の花壇を作って貰う為に好みの花の苗を運んでいた。
「あっ！」
ガッ…ズササー
「イタタ。」
小石に躓いて転んでしまった。膝を摩ったような？
「あーあ、血が出てるわ。」
「きゃー、サラルーリー様！」
「ルカルド！サラルーリー様がっ。」
私ののんびりした声の後にレイルとココットの悲鳴が響く。
その場が騒然として直ぐにルカルドが駆けつける。怪我の状況を確認すると宮廷魔導師を呼ぶよう指示を出している。
そこへ今日はお休みのユーリーも駆けつけてきた。
「ルカルド！怪我の具合は？」
「ダットコイン位の大きさで表皮が捲れています。」
ユーリーは私とルカルドを見ると硬直し、
「ルカルド、脚を触らないように離れてくれ、あと脚を隠す布を。」
と指示を出した。
ルカルドは怪我の状態を確認していたのよ？
触らないと確認出来ないわよね？
ユーリーの無茶な要求にルカルドは笑顔で「失礼しました。今大きめの布をお持ちします。」と素早く私から離れた。
届いた布に脚をくるまれ、横抱きにされてユーリーに屋敷まで運ばれた。

宮廷魔導師団長がわざわざ来てくれ私の怪我を治癒魔法で治してくれた。
「ありがとうございます。」
「いいよー。ユーリーにもアリセントにも頼まれてるからね。ところで、」
宮廷魔導師団長は30半ば位のちょっと濃い目の美形だ。
ユーリーは嫌そうに「ジルクロー魔導師団長です。」と紹介してくれた。
ユーリーの様子を気にも留めずジルクロー魔導師団長は私の手を取り守りの指輪を眺めた。
「これって外せるの？」
「外せますが直ぐに指に戻ってきます。」
試しに外して見せてユーリーに指輪を渡す。ユーリーに手を握ってもらい再度手を広げて貰うと、手の中にあった筈の指輪は消えて私の指に嵌まっていた。
「なるほど。奪うことは不可能と…」
「奪おうとしたのですか？」
「或いはね。」
なんてことないように言う。
「でもサラルーリー嬢はユーリーに安らぎを与えてくれた。それは感謝してるよ。」
そう言うとジルクロー様は帰っていった。
ジルクロー様が去った後、手や足の触られた所をせっせと拭き清められた。

ユーリーによると、守りの指輪の保持者である私がこの国で幸せに過ごす限り、他国の侵略からの守りになり得るが、キメ王国の残党に唆されて守りの指輪を盾に王国の復活を企てられると厄介だということで保護対象であると共に監視対象だったそうだ。

そして私は荷物を持って庭を歩かないことを約束させられた。