戦略的過保護のち溺愛

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☆★☆ユーリード視点☆★☆

どんどんサラの要求はエスカレートしていった。といっても、ドレスや宝石等ではない。
庭園でガーデニングをしたい、孤児院を慰問に回りたいといった要求だ。
ガーデニングは虫や怪我に注意すれば良いが、慰問には大量の護衛が必要になる。
私はアリセントに相談して騎士団員を何人か借りた。
孤児院の慰問に回るに当たり、私はサラに公爵領の孤児院全てを平等に扱うよう注文をつけたがその辺は彼女も心得ていたのだろう、快諾してくれた。勉強を始めたばかりなのに聡い娘だと思う。
私の休日にも孤児院の慰問に行くと言うので護衛も兼ねて一緒に来ることになった。

サラは朝から大量のサンドイッチを準備していた。
「はーい。みんな、宿題をここに出してからサンドイッチ受け取ってね。」
そうサラが声を掛けると、皆心得たように順番に並び列を作り、ノートを机に置くとサンドイッチを受け取り、自分の席に着く。
ノートには文字の練習と簡単な計算問題が書かれていた。
皆にサンドイッチを配り終わるとサラがみんなに聞こえるように大きな声で話をはじめる。
「みんな、今日のサンドイッチも、いつもの差し入れもワルクーレ公爵様に買って頂いた物なの。きちんとお礼を言いましょう。」
急に子供達に注目され、咄嗟に貴族仕様の微笑みを浮かべる。
隣でふっと笑う気配がする。サラは慈愛の籠った笑みを向ける。
「 ユーリー、そんな張り付けた笑みはいらないわ。貴方が領民の為に何をしているか皆知ってる。子供達は意外とよく見ているのよ。」
そう言われ、子供達の顔を見渡す。子供達の目には尊敬と親しみが宿っている。
そうか、ここも取り繕わなくて良い場所なのか、ほっと息をつく。
子供達と話していると自然に笑い声が出ていた。子供達はのびのびしていて、面白い動きや冗談を言い合い私を笑わせてくれる。サラと護衛達が私の笑い声を聞いて驚いている。自分でも驚いたのだから当然だ。

思いがけず楽しい時間を過ごし帰りの準備を始めると、子供達は名残惜しそうに見送ってくれた。
帰りの馬車の中でサラが何かを見付けた。
「馬車を止めてください。」
馬車が止まると同時にサラが飛び降りる。
そして路地の隅に踞る男の子の背に手を置いて男の子の顔を覗き込むようにして声を掛けた。
「どうしたの?大丈夫?」
「お腹が空いて…気持ち悪い。」
「お家は何処かしら?」
男の子は無言で路地の奥を指差した。
「家に帰っても食べ物は無いの?」
「お母さんが病気なんだ。」
「そっか。お医者様に見てもらえるよう頼んでみるね。」
そうしてサラは私の方を見たので私は頷き返す。
私は一緒にいた騎士に医者の手配を頼んだ。
サラは喧嘩にならないように隠した一つだけ余ったサンドイッチを少年に渡した。

再び馬車に乗ると馬車はガタゴト走り出す。
「あの男の子のお母さん重い病気じゃないといいね。」
「そうだな。」
「いつもあんなことをしていてはキリが無いぞ?それこそ、公爵家の馬車を民が援助が欲しくて囲み込むようになってしまう。私達は領主だ。皆に平等に施しを与えないと。」
私がそう言うと、サラはムッとする。
「権力者っていつもそう言うけど、目の前の困っている人を真剣に助けたいと思わない人が、そんな多くの民を幸せに導ける?」
そして、私の表情に気づくと焦って取り繕った。
「見境いなくこのようなことはしないわ。ごめんなさい。」
「いや。サラの言う通りだ。」
サラの言葉が胸にストンと落ちた。
私はこれを父に言いたかったんだ。父に何度も言われた言葉。
「大局を見るんだ。目の前の貧しい民ばかりに目を奪われるな。」
貴族らしく振る舞うのが嫌だった。
サラの前では貴族らしくいる必要はない、そう感じた。
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