5 / 29
5.
しおりを挟む
私と公爵様はあの後色々な取り決めをした。
1、仲の良い婚約者を演じる事
2、私の身の安全の保証
3、私はキメ王国の者とは一切関わらない
私は公爵家に身を寄せてから、貴族令嬢としての基本的な教育を受けていた。一年間の教育を経て婚約発表、そして婚約から結婚式までの一年間で公爵婦人としての教養を身に付ける予定だ。
ユーリードとはお互いに愛称で呼び合うことにした。
私は公爵家内では自由に振る舞う事が許されている。
今は料理やガーデニングにも参加させてもらっている。
そして公爵領の孤児院や教会への慰問も許して貰った。何だか必要以上の護衛が居て、恐縮してしまう。
これらの行動を取るたびに、皆の神経が擦り減っていくのが分かる。
☆★☆
「サラにドレスを買います。不自由ない程度に買い揃えておいてください。」
ユーリーはレイルとココットに向かってそう命じた。
「あと、サラが怪我をしないよう細心の注意を払ってください。少しの怪我でも私に報告してください。早馬を使っても構いません。」
そんな大袈裟な、とは思うがユーリーにもこの国の騎士として何か戦略的意図をもっての行動だろう、私は大人しく従った。
そんな中私の生活は退屈を極めた。ドレスやお飾りなんて何の興味もない。動きにくいし、重量のあるアクセサリーは着けているだけで苦痛だ。特にネックレスは浮き出た鎖骨に当たって痛い。貴族令嬢としての生活は苦行だ。
前世の記憶を頼りにどうしても料理がしたくなりルカルドに許可を貰いに行く。
「ルカルド、どうしても料理がしたいの。お願い。」
「旦那様に聞いてみないと…。確認致しましょう。」
何とルカルドは早馬を出してユーリーに許可を求めてくれた。本当に申し訳ない。
それに対するユーリーの返事は、調理中に怪我や火傷をした時にはすぐさま王宮魔導師に治癒を依頼する事、だった。
料理する時には厨房中の注目が集まり緊張感で包丁を持つ手が震える。
ふと、料理長とルカルドを見ると顔色が悪いを通り越して蒼白だ。
私の手が震えているからですね、分かります。自分でも怖い。
皆様、すみません。それでも前世の好物の鶏肉のトマト煮を作りたいのです。
トントントン、カチャカチャ、グツグツ、異様な緊張感の中、何とか完成した料理はとても懐かしく、食べた途端に前世の自分の価値観や、性格までが甦ってくるようだ。いつの間にか封じていた自分の人格を取り戻したようで私の心を元気にしてくれた。
朝の支度はレイルの仕事だ。彼女は嬉々として今日の装いを選んでいる。
「サラルーリー様、今日はこの水色のワンピースなど如何ですか?そして靴はこの藍色の靴を……サラルーリー様!靴擦れがっ。」
「大丈夫よーこれぐらい。」
「いけません。旦那様に報告しないと。」
「大袈裟よー。」
レイルはバタバタとルカルドに報告に行く。直ぐにユーリーが来てくれ靴擦れで赤くなった所を見ると
「この程度なら私の治癒魔法でも大丈夫か。」
そう言って治癒魔法を掛けてくれた。
その日には靴の専門家が来てくれ、私の足を細かく採寸していった。
そして、靴が出来るまで屋敷内での移動は最小限に、ユーリーが在宅時には抱っこで移動する事になった。
こんなに面倒な次期婚約者を屋敷の皆は嫌がっていないのだろうか?
けれども、ルカルドもココットもレイルも親切で真綿にくるむように大切にしてくれる。
庭園を散策しても庭師のおじいさんも好意的だし、料理人達も優しく教えてくれる。
この待遇に納得のいかない部分もあるが、私に特に出来ることも無いので穏やかに日々を過ごしていた。
1、仲の良い婚約者を演じる事
2、私の身の安全の保証
3、私はキメ王国の者とは一切関わらない
私は公爵家に身を寄せてから、貴族令嬢としての基本的な教育を受けていた。一年間の教育を経て婚約発表、そして婚約から結婚式までの一年間で公爵婦人としての教養を身に付ける予定だ。
ユーリードとはお互いに愛称で呼び合うことにした。
私は公爵家内では自由に振る舞う事が許されている。
今は料理やガーデニングにも参加させてもらっている。
そして公爵領の孤児院や教会への慰問も許して貰った。何だか必要以上の護衛が居て、恐縮してしまう。
これらの行動を取るたびに、皆の神経が擦り減っていくのが分かる。
☆★☆
「サラにドレスを買います。不自由ない程度に買い揃えておいてください。」
ユーリーはレイルとココットに向かってそう命じた。
「あと、サラが怪我をしないよう細心の注意を払ってください。少しの怪我でも私に報告してください。早馬を使っても構いません。」
そんな大袈裟な、とは思うがユーリーにもこの国の騎士として何か戦略的意図をもっての行動だろう、私は大人しく従った。
そんな中私の生活は退屈を極めた。ドレスやお飾りなんて何の興味もない。動きにくいし、重量のあるアクセサリーは着けているだけで苦痛だ。特にネックレスは浮き出た鎖骨に当たって痛い。貴族令嬢としての生活は苦行だ。
前世の記憶を頼りにどうしても料理がしたくなりルカルドに許可を貰いに行く。
「ルカルド、どうしても料理がしたいの。お願い。」
「旦那様に聞いてみないと…。確認致しましょう。」
何とルカルドは早馬を出してユーリーに許可を求めてくれた。本当に申し訳ない。
それに対するユーリーの返事は、調理中に怪我や火傷をした時にはすぐさま王宮魔導師に治癒を依頼する事、だった。
料理する時には厨房中の注目が集まり緊張感で包丁を持つ手が震える。
ふと、料理長とルカルドを見ると顔色が悪いを通り越して蒼白だ。
私の手が震えているからですね、分かります。自分でも怖い。
皆様、すみません。それでも前世の好物の鶏肉のトマト煮を作りたいのです。
トントントン、カチャカチャ、グツグツ、異様な緊張感の中、何とか完成した料理はとても懐かしく、食べた途端に前世の自分の価値観や、性格までが甦ってくるようだ。いつの間にか封じていた自分の人格を取り戻したようで私の心を元気にしてくれた。
朝の支度はレイルの仕事だ。彼女は嬉々として今日の装いを選んでいる。
「サラルーリー様、今日はこの水色のワンピースなど如何ですか?そして靴はこの藍色の靴を……サラルーリー様!靴擦れがっ。」
「大丈夫よーこれぐらい。」
「いけません。旦那様に報告しないと。」
「大袈裟よー。」
レイルはバタバタとルカルドに報告に行く。直ぐにユーリーが来てくれ靴擦れで赤くなった所を見ると
「この程度なら私の治癒魔法でも大丈夫か。」
そう言って治癒魔法を掛けてくれた。
その日には靴の専門家が来てくれ、私の足を細かく採寸していった。
そして、靴が出来るまで屋敷内での移動は最小限に、ユーリーが在宅時には抱っこで移動する事になった。
こんなに面倒な次期婚約者を屋敷の皆は嫌がっていないのだろうか?
けれども、ルカルドもココットもレイルも親切で真綿にくるむように大切にしてくれる。
庭園を散策しても庭師のおじいさんも好意的だし、料理人達も優しく教えてくれる。
この待遇に納得のいかない部分もあるが、私に特に出来ることも無いので穏やかに日々を過ごしていた。
42
お気に入りに追加
5,296
あなたにおすすめの小説

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】夢見たものは…
伽羅
恋愛
公爵令嬢であるリリアーナは王太子アロイスが好きだったが、彼は恋愛関係にあった伯爵令嬢ルイーズを選んだ。
アロイスを諦めきれないまま、家の為に何処かに嫁がされるのを覚悟していたが、何故か父親はそれをしなかった。
そんな父親を訝しく思っていたが、アロイスの結婚から三年後、父親がある行動に出た。
「みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る」で出てきたガヴェニャック王国の国王の側妃リリアーナの話を掘り下げてみました。
ハッピーエンドではありません。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

悪役令嬢はゲームのシナリオに貢献できない
みつき怜
恋愛
気がつくと見知らぬ男たちに囲まれていた。
王子様と婚約解消...?はい、是非。
記憶を失くした悪役令嬢と攻略対象のお話です。
2022/9/18 HOT女性向けランキング1位に載せていただきました。ありがとうございます。

溺愛されるのは幸せなこと
ましろ
恋愛
リュディガー伯爵夫妻は仲睦まじいと有名だ。
もともとは政略結婚のはずが、夫であるケヴィンがイレーネに一目惚れしたのだ。
結婚してから5年がたった今も、その溺愛は続いている。
子供にも恵まれ順風満帆だと思われていたのに──
突然の夫人からの離婚の申し出。一体彼女に何が起きたのか?
✽設定はゆるゆるです。箸休め程度にお楽しみ頂けると幸いです。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる