8 / 10
クリスマスパーティ
しおりを挟むーー最初の場面に戻りますーー
私は準備してあった離婚届を持って再び玄関へと向かった。
「はい。これは貴女に。全部、ぜーんぶ、宜しくね」
私はローズさんを家族全員が揃うリビングに案内した。
宅配便が来たのだと思っていたテオドールは、自らの愛人の登場に固まってワインをちょっと溢す。
「ど、どうしてローズがここへ?」
「テオがなかなか離婚してくれないから、奥さんに直談判に来たの。……でも、え?テオのお父さんとお母さんも一緒に暮らしているの?」
「ええ、そうよ。同居することになったの」
真っ青なテオドールとローズさんの顔を見て、胸のつっかえがスッと取れていく。
浮気のことを知らなかった義両親はポカンと驚いていた。
「テオドール?どういうこと?」
「あ、あの、その……」
狼狽えている父親を見るシャルの冷たい目。シャルはその場で一人、おおよそ全てを察し落ち着いていた。
「お義父様、お義母様、この方はローズさん。主人の恋人だそうです。彼女にテオドールと別れて欲しいと頼まれましたので、私は主人と別れることにしました。この家のことは全て彼女にお願いすることにしますね。離婚届も彼女に預けてあります」
「ローズっ!!どうしてここに来たんだっ!ルール違反じゃないか!」
激昂したテオドールが、今にも殴りかかりそうな顔でローズさんに怒鳴った。でも、ローズさんだって負けていない。キッとテオドールを睨み返す。
「テオこそ、いつまで私を待たせるつもり?私だってもう若く無いわ。そろそろ結婚したいのっ。奥さんと別れるって言ってたじゃない!」
主人は頭を抱えてその場に崩れ落ちた。
「テオドールっ!!これはどういう事なの?」
「テオ、早く、これにサインしてよ!」
「ま、待って、落ち着いてくれ」
「今までずっと待ったのよ!もう待てないわ!」
「テオドール!早くどういう事か説明しなさいっ!!」
やっと状況を把握した義両親と早く離婚届を書いてもらいたいローズさん。双方に責められて、とうとうテオドールは手を付いた。
「あなた、別れてください。私はもうあなたの妻ではいられないわ」
私は屈んでテオドールと視線を合わせた。
「ミリー、ま、待ってくれ。謝るっ、謝るから……」
テオドールは縋るように私に手を伸ばした。
情けない男……。昔は素敵に見えていた。
「いくら謝ってもらっても無理。私は出て行くわね。心配無いわよ。私の代わりにローズさんが居るじゃない。この家に私の代わりにローズさんが住むだけ。何も変わらないわ」
私はテオドールに向かってニッコリと微笑む。
「ねえ、早くここにサインしてよ!私が奥さんになってあげるから。出て行きたい人には出てって貰えばいいのよ!」
ローズさんが畳み掛ける。
「そうよ。テオドール早く早く!サインしてローズさんを安心させてあげなくちゃ。あなたがサインしなくても私は出て行くから、もうあなたに選択肢は無いわよ。離婚して戸籍を綺麗にしたあとでローズさんを迎えてね」
私も畳み掛ける。
「「早く書いてっ!!」」
私とローズさんの迫力に押し切られ、テオドールは混乱した状態のまま離婚届にサインをした。
書きながらチラチラと私の顔を見るけど、私はもう知らない。
そんな顛末を義両親は呆気に取られたまま見ていた。
「……あ、あのミリーさん、あなた、本当に出て行くの?」
「ええ」
「私達は?」
「これからはローズさんが居ますわ。この家の『嫁』です」
私は清々した気持ちで、建ったばかりの家を出て行った。
176
お気に入りに追加
1,084
あなたにおすすめの小説
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。
婚約者の初恋を応援するために婚約解消を受け入れました
よーこ
恋愛
侯爵令嬢のアレクシアは婚約者の王太子から婚約の解消を頼まれてしまう。
理由は初恋の相手である男爵令嬢と添い遂げたいから。
それを聞いたアレクシアは、王太子の恋を応援することに。
さて、王太子の初恋は実るのかどうなのか。
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!
青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。
図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです?
全5話。ゆるふわ。
〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。
藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。
但し、条件付きで。
「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」
彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。
だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全7話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる