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クリスマスパーティ

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 ーー最初の場面に戻りますーー


 私は準備してあった離婚届を持って再び玄関へと向かった。

「はい。これは貴女に。全部、ぜーんぶ、宜しくね」

 私はローズさんを家族全員が揃うリビングに案内した。  
 宅配便が来たのだと思っていたテオドールは、自らの愛人の登場に固まってワインをちょっと溢す。

「ど、どうしてローズがここへ?」
「テオがなかなか離婚してくれないから、奥さんに直談判に来たの。……でも、え?テオのお父さんとお母さんも一緒に暮らしているの?」
「ええ、そうよ。同居することになったの」

 真っ青なテオドールとローズさんの顔を見て、胸のつっかえがスッと取れていく。
 浮気のことを知らなかった義両親はポカンと驚いていた。

「テオドール?どういうこと?」
「あ、あの、その……」

 狼狽えている父親を見るシャルの冷たい目。シャルはその場で一人、おおよそ全てを察し落ち着いていた。

「お義父様、お義母様、この方はローズさん。主人の恋人だそうです。彼女にテオドールと別れて欲しいと頼まれましたので、私は主人と別れることにしました。この家のことは全て彼女にお願いすることにしますね。離婚届も彼女に預けてあります」

「ローズっ!!どうしてここに来たんだっ!ルール違反じゃないか!」

 激昂したテオドールが、今にも殴りかかりそうな顔でローズさんに怒鳴った。でも、ローズさんだって負けていない。キッとテオドールを睨み返す。

「テオこそ、いつまで私を待たせるつもり?私だってもう若く無いわ。そろそろ結婚したいのっ。奥さんと別れるって言ってたじゃない!」

 主人は頭を抱えてその場に崩れ落ちた。 
 
「テオドールっ!!これはどういう事なの?」
「テオ、早く、これにサインしてよ!」
「ま、待って、落ち着いてくれ」
「今までずっと待ったのよ!もう待てないわ!」
「テオドール!早くどういう事か説明しなさいっ!!」

 やっと状況を把握した義両親と早く離婚届を書いてもらいたいローズさん。双方に責められて、とうとうテオドールは手を付いた。

「あなた、別れてください。私はもうあなたの妻ではいられないわ」

 私は屈んでテオドールと視線を合わせた。

「ミリー、ま、待ってくれ。謝るっ、謝るから……」

 テオドールは縋るように私に手を伸ばした。
 情けない男……。昔は素敵に見えていた。

「いくら謝ってもらっても無理。私は出て行くわね。心配無いわよ。私の代わりにローズさんが居るじゃない。この家に私の代わりにローズさんが住むだけ。何も変わらないわ」

 私はテオドールに向かってニッコリと微笑む。

「ねえ、早くここにサインしてよ!私が奥さんになってあげるから。出て行きたい人には出てって貰えばいいのよ!」

 ローズさんが畳み掛ける。

「そうよ。テオドール早く早く!サインしてローズさんを安心させてあげなくちゃ。あなたがサインしなくても私は出て行くから、もうあなたに選択肢は無いわよ。離婚して戸籍を綺麗にしたあとでローズさんを迎えてね」

 私も畳み掛ける。

「「早く書いてっ!!」」

 私とローズさんの迫力に押し切られ、テオドールは混乱した状態のまま離婚届にサインをした。

 書きながらチラチラと私の顔を見るけど、私はもう知らない。

 そんな顛末を義両親は呆気に取られたまま見ていた。

「……あ、あのミリーさん、あなた、本当に出て行くの?」

「ええ」

「私達は?」

「これからはローズさんが居ますわ。この家の『嫁』です」

 私は清々した気持ちで、建ったばかりの家を出て行った。
 
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