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救出
しおりを挟む結局、馬車は見つからず俺は騎士団に戻ってきていた。ジェンナは責任を感じて激しく落ち込んでいる。
「ララを乗せた馬車が国境を通過したらしい。男はニセの身分証を持っていたそうだ」
オズウェル殿下が肩で息をしながら、たった今届いた報告の内容を教えてくれた。自慢の金髪は汗で濡れ、乱れたまま。
殿下がこのような姿を人前で晒すことはまずない。
それだけ、ララの事を心配しているのだろう。
「すまない。他国との余計な諍いを起こす恐れがあると、父上からは国境を超えて騎士を捜査に向かわせることには反対された」
「いえ、ありがとうございます。場所さえ分かれば俺一人で充分です」
「そうか……。気をつけてくれ」
「ですが、まだ奴がどこを目指しているのか分からないと……」
今闇雲に動いてもララを助け出すことは出来ないだろう。奴の目的を知らないまま動けば遠回りすることになる。
幸いララが行方不明だと分かりオズウェル殿下や陛下が直ぐに動いてくれた。
お蔭でララを誘拐した黒い馬車は早い段階で特定され、早々に国境兵からの情報が得られた。
ムカつく奴だが、少し感謝しようと思う。
俺はオズウェル殿下から紙の束を渡された
「僕は詳しくは知らないけど、父上からお前に、だ」
どうやら諜報部からの報告書らしい。ショーン・ライゼンの情報が詳細に書いてあった。
ショーンは師匠の前の魔法師団長。
師匠が魔法師団長に就任して直ぐに、不正を告発されていた。備品の予算を横領し不正に蓄財したため、財産は没収。数年間拘禁された後、妻には離縁され家を追い出されたらしい。
その後、王都の路地裏で占い稼業をして細々と暮らしていたと書いてある。
魔法師団長まで務めていた人物だが、人に取り入るのが上手かっただけで魔法の実力はそれほど高く無いらしい。中には彼の得意としていた魔法の詳細もある。
「クライヴっ!ショーンの友人ゼンと接触出来たわ」
「アリス、それで奴の目的地は分かったか?」
「ゼンの話では、ショーンがザナ国の奴隷市場に興味を示していて会場を調べていたそうよ。ザナ国では赤い眼は神格化されているの。ララをそこに連れていく可能性が高いわ」
「奴隷っ!?」
「ええ、ゼンが言うには彼は相当アダムに恨みを募らせていて、アダムの愛娘をなるべく長く苦しめる方々を探していたようよ」
ザナ国なら馬車の向かった方向とも合致する。ショーンの目的地の目星は付いた。
「ザナ国では女性を王族や貴族への献上品として差し出すこともあるそうだ。クライヴ急いだ方がいい。僕がララを助けに行きたいけど、今回は君に頼むしかないようだ」
「オズウェル殿下は足手まといです。おとなしくここで待ちましょう?」
さり気なくアリスにディスられたことにも気づかず、殿下は俺を送り出した。俺も今殿下の相手をしている暇はない。
どうか無事でーー
ララーー
☆
アリスのくれた地図にあったオークション会場に辿り着いた。客のふりをして中に入る。
警備は手薄のようだ。
「ここかーー」
ドアを開けると、騒々しい観客の声。
オークションの真っ最中だった。
ここでは奴隷だけでは無く、盗品も売買されているらしく様々な品物がオークションにかけられていた。
「さあ!本日の目玉。スカーレットレッドの瞳を持つ少女」
「っ!!」
ステージ中央に、大きな鳥籠に入れられた白銀の髪の女性が現れた……。
鳥籠は客席から見えるように高く吊るされていて……。
ララーー
「もっと顔を見せろっ!それじゃ値がつけられんっ!」
「女を籠から出せっ」
「若い女なら脱がせろっ!!」
オークション会場に響く男たちの怒号。
ララは俯いていてその表情はよく見えない。
「本当に瞳は赤いのかっ!?」
「皆様、只今商品の顔を見せますので、もう少しお待ちをっ!」
オークションを取り仕切る仮面を着けた男が客席に向かってそう呼び掛けると、ガラガラと音がして鎖で吊るされていた鳥籠がステージ上へと下ろされた。
ララの肩が震えている。おそらく泣いているのだろう。早くララの所にいって抱きしめたいけど、会場は客で溢れていて前に進めない。
あまり騒ぎを大きくしたくなかったが、しょうがない。全員一気に倒すか……。
俺が考えている間に、仮面の男がララに近づく。
ーーその時、ピキッという音とともに空気が一変した。
「何だっ!?」
「ギャーーっ熱いっ!!」
仮面の男が首を押さえてのたうち回る。
会場の温度が急に上がった。
「何だ?」
「喉がっ!」
熱風が吹き荒れ、空気が火傷しそうなほど熱い。
「ど……どうしたんだ?火事か?」
いや、違う。ララの魔法だ……。
よく見るとララの胸元から、あの魔封じのペンダントが消えていた。
ララ、いけない。
彼女は火属性の魔力が強い。魔力が暴走すれば建物全体が炎に包まれる。彼女自身は炎に焼かれることは無いが煙は別。
何よりも、彼女は魔法を制御など出来ない。
「この女っ!何をしたっ!!」
会場にいた私兵たちがララに襲い掛かる。
剣を持って走ってもララの所までは間に合わないっ!俺は懐に忍ばせてあった短剣を、ララを掴まえようとしている男に向かって投げた。
「ぎゃああああーーっ!!」
俺の投げた短剣は男の手の甲を貫いた。
男は手を押さえながら蹲る。
今だっ!
腰に下げてあった剣を抜き、自分の足元に風魔法を掛けてララの所まで大きく跳んだ。
「何者だっ!!」
剣を持った私兵たちが俺を追い掛けてくる。
が、遅い。
俺が魔力を解き放つと、会場の全ての人間が床に這いつくばった。
「に、兄さま??」
倒れている男のポケットを探り、鍵を取ると、ララの手足に嵌められた枷を外した。
「ララ、遅くなってごめん。もう大丈夫だ」
「兄さま、もう会えないかと……」
ララがボロボロと涙を溢す。俺はその小さな身体を包み込むように抱きしめた。
「ち、ちくしょーっ!!」
ステージの袖から、スーツを着た男が姿を表した。ララを誘拐した犯人と特徴が一致する。
奴がショーンかーー
「私の計画を、邪魔するなぁぁーーーくらえっ!」
男が炎の魔法を俺達に目掛けて放つ。
俺が咄嗟にバリアを張ると、男の出した炎はバリアを跳ね返り、男の元へと一直線に向かっていった。
「うがッッ」
槍のようになった炎に胸を貫かれ、男は崩れ落ちるように膝を着いた。
「ぢ、ぢぐしょーーっ。お、おれ゙はアダムに復讐するん゙だーーっ!!」
俺達に向かって手を伸ばし苦悶の表情を浮かべたまま男は床に突っ伏し……絶命した。
ララの顔を自分の胸に押し付け彼女の視界を塞ぐ。そして俺は用意していた転移魔法を展開した。
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